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ソータが自室に戻るとフクロウがいた。この間、サラに送る手紙を持たせた個体である。ソータの魔力を持たせているので部屋が閉まっていても中に入れたのだろう。
「お帰り」
「ホー」
フクロウがソータの腕にちょん、と留まる。彼の足には手紙が括り付けられていた。ソータはそれを慎重に外す。これを運ぶためにここまで飛んできてくれたらしい。紙を広げると整った文字が書かれていた。サラの筆跡だと分かる。
『さようならじゃない、また会おうだろ!旅、気を付けろよ。サラ』
サラの言葉がソータは嬉しかった。ぎゅっと手紙を抱きしめる。
「サラ先輩、ありがとうなのです。僕には僕の出来ることをするのです」
ソータはレイモンドのことを探ってみることにした。本来であれば人のプライバシーを侵害することにあたるが、今回の場合、彼は命の危機に陥っている。それが何故なのか、ソータは知りたかった。そして、シオウの怒りについても。
こつ、と杖で床を優しく突くとソータの周りに魔法陣が現れる。
「我は願わん。彼の過去を見せ給え」
ソータは空を飛んでいた。過去の世界に無事にダイヴ出来たらしい。この力はかなりの魔力を要するので、滅多に使わない。ソータはレイモンドを見つけて耳を澄ませた。シオウも共にいる。暴れるレイモンドをシオウが押さえ付けている。レイモンドは、酒を飲み暴れていたようだ。あちこちに酒瓶が転がっている。レイモンドは酒癖が悪いようだとソータは悟った。
「なんだ!あの女は!!私が目をかけてやったからあいつは議員になれたのに!」
「先生!落ち着いてください!!不倫をしたことを認めて、奥様と市民に謝ってください!」
「私は悪くない!そうだ!全てお前が悪い!!そういうことにしよう!」
レイモンドはニィィといやらしく笑う。それにシオウは呆れたような表情をした。
「何だ!その顔は!!お前まで私を馬鹿にするのか!!どいつもこいつも、恩を仇で返しおって!」
「ひどい…」
正直に言って、ソータはもう見ていられなかった。ここまで人間は落ちぶれられるものなのかと。
「ホー」
「お前も来てくれたんだ」
肩にフクロウが乗ってきたので柔らかな頭を撫でた。ビジョンはまた違うものを見せてくる。
「不倫報道だと?そんなものいくらでも金でもみ消せ!あ?シオウのスキャンダルのことで詳しく話を聞きたい?私には関係ない!下らない話を私の前でするな!」
「このヒト、さすがに酷すぎる。シオウ様が怒るのも分かるなぁ」
ソータは現実世界に戻ってきていた。正直に言って、見ているだけで胸糞悪い。
「とりあえず、もうすぐ夜だしエンジ様たちに差し入れを持っていくのです!」
「ホー」
フクロウはソータに付き合ってくれるつもりらしい。ソータはレストランでテイクアウトのサンドイッチを4つお願いした。
「レイモンド様はお腹が空いているからイライラしているのかも」
ソータはあくまでも前向きだ。もし先程のような恫喝紛いのようなことをされてもソータは気にしないし怖がらない。そういうヒト程、弱く不安定な人間だと理解しているからである。
テイクアウトしたサンドイッチの入った箱は紙袋に入れてもらった。ソータは早足でレイモンドのいる部屋を目指す。
「エンジ様!」
「ソータ?」
「異常は?」
「いや、ないな。それ、どうしたんだ?」
「お夕飯です。エンジ様とレント様の分とレイモンド様の分」
「うわあ、助かる。ちょうど腹減ってたんだ。レントにも直接渡してやってくれよ。レイモンド氏は食べるか分からないけど…」
「中に入っても大丈夫なのですか?」
「あぁ」
エンジがドアをノックすると、レントが顔を覗かせる。
「なにー?」
「ソータが中に入りたいって」
「ソーちゃん!来てくれたんだ!」
ソータは促されるまま中に入った。タバコの匂いがする。おそらく、レイモンドが吸うのだろう。甘い香りがした。
「これ、レント様のサンドイッチです」
「マジ?夕ご飯をソーちゃんから提供してもらえるなんて!」
レイモンドを見ると座ったままいびきをかいている。
「ずっと寝てんの。年取るとああなるのかね」
ソータはレイモンドに近寄り、トントンと肩を叩いた。レイモンドがしばらくして気が付く。
「な、なんだ?!」
「レイモンド様、お夕飯をお持ちしたのです」
にっこり笑いながらソータが言うと、レイモンドはモゴモゴ言いながら受け取った。レイモンドだって好意を受ければ嬉しいのだと分かり、ソータはホッとする。お辞儀をしてサッと部屋を出た。どうもタバコの匂いは慣れない。
「あと一つは?」
そうエンジに尋ねられる。
サンドイッチには分厚いローストビーフが挟まっているので、ソータは食べられない。
「ふふ、シオウ様の分です」
「あいつ、疲れたような顔してたもんな。ちゃんと食べた方がいいと思うし、きっと喜ぶよ」
「行ってくるのです!」
「ソータも何か食べるんだぞ?」
「承知致しました!」
ソータはシオウの気配を辿った。彼の部屋も特等階にあるらしい。部屋を見つけて、ソータは深呼吸した。
コンコン、とノックすると、ドアが開く。
「君は、ソータさんだったかな?」
シオウはベッドで休んでいたのか髪の毛が乱れていた。ソータは心配になる。
「シオウ様、どこか、具合が悪いのですか?」
「あ、いや、違うよ。論文の締切が迫っていてね。最近徹夜続きだったから」
「私、シオウ様にお夕飯を持ってきたのです。お腹が空いていればでいいので無理せず」
では、と部屋を出ようとしたら腕を掴まれた。
「シオウ様?」
「君は、聖女なんだろう?」
「はい、そうなのです」
「懺悔がしたい」
ソータは驚いたが、すぐ頷いた。神との対話はヒトを安心にさせる。ソータは呪文を唱えて、部屋に帳を下ろした。
「シオウ様、準備が整いました」
ソータは部屋の隅で跪いた。両手を組んで祈る。シオウもまた膝を折る。そしてぽつりぽつりと話し始めた。
「私は愚かです。先生とちゃんと向き合ってこなかった。ずっと先生の為と思って動いていたつもりだった。でもそれが先生を追い詰めたんだ」
ソータは目を開けなかった。シオウの声は掠れて震えている。きっと泣いている。
「私は先生とちゃんと話します。先生や私の罪がそれで消えるわけじゃない。でも区切りを付けなくちゃ始まらないんだ」
シオウが祈っていることはソータにも分かった。彼に必要だったのは心の平穏だったのかもしれない。彼はしばらく祈っていたようだ。彼が立ち上がる気配がある。
「ソータさん、ありがとう」
ソータが目を開けると、シオウがすっきりしたような顔をしていた。
「私で良ければ、いつでも頼ってくださいね」
「ソータさんは不思議な子だね」
「?」
ソータが首を傾げるとシオウが笑う。
「君になら弱い部分を見せてもいいって思えるんだ。男としては最低なのかもしれないけど」
ソータはぶんぶん首を横に振った。
「感情に性別は関係ないのです。人間は支え合いながら生きています」
「ソータさん、君をセキヒにある私の家に誘っていい?もちろんエンジさんとレントさんもね」
「シオウ様、いいのですか?」
「ソータさんはとびきり可愛いから楽しみだな」
ソータはシオウの表情に顔が熱くなった。真剣な瞳にどぎまぎしてしまう。彼に腕を掴まれて抱き寄せられていた。ソータは彼の胸を小さな手で優しく押し返した。
「い、いけません。こんな」
「君は聖女だものね。そんな君が戒律を破るはずがない。気を付けたほうがいい、君はとても魅力的だから」
「私が?」
ソータが目を白黒させていると、シオウが笑う。
「僕は君を好ましく思っているよ」
「し、失礼するのです!」
ソータは逃げ出した。
「お帰り」
「ホー」
フクロウがソータの腕にちょん、と留まる。彼の足には手紙が括り付けられていた。ソータはそれを慎重に外す。これを運ぶためにここまで飛んできてくれたらしい。紙を広げると整った文字が書かれていた。サラの筆跡だと分かる。
『さようならじゃない、また会おうだろ!旅、気を付けろよ。サラ』
サラの言葉がソータは嬉しかった。ぎゅっと手紙を抱きしめる。
「サラ先輩、ありがとうなのです。僕には僕の出来ることをするのです」
ソータはレイモンドのことを探ってみることにした。本来であれば人のプライバシーを侵害することにあたるが、今回の場合、彼は命の危機に陥っている。それが何故なのか、ソータは知りたかった。そして、シオウの怒りについても。
こつ、と杖で床を優しく突くとソータの周りに魔法陣が現れる。
「我は願わん。彼の過去を見せ給え」
ソータは空を飛んでいた。過去の世界に無事にダイヴ出来たらしい。この力はかなりの魔力を要するので、滅多に使わない。ソータはレイモンドを見つけて耳を澄ませた。シオウも共にいる。暴れるレイモンドをシオウが押さえ付けている。レイモンドは、酒を飲み暴れていたようだ。あちこちに酒瓶が転がっている。レイモンドは酒癖が悪いようだとソータは悟った。
「なんだ!あの女は!!私が目をかけてやったからあいつは議員になれたのに!」
「先生!落ち着いてください!!不倫をしたことを認めて、奥様と市民に謝ってください!」
「私は悪くない!そうだ!全てお前が悪い!!そういうことにしよう!」
レイモンドはニィィといやらしく笑う。それにシオウは呆れたような表情をした。
「何だ!その顔は!!お前まで私を馬鹿にするのか!!どいつもこいつも、恩を仇で返しおって!」
「ひどい…」
正直に言って、ソータはもう見ていられなかった。ここまで人間は落ちぶれられるものなのかと。
「ホー」
「お前も来てくれたんだ」
肩にフクロウが乗ってきたので柔らかな頭を撫でた。ビジョンはまた違うものを見せてくる。
「不倫報道だと?そんなものいくらでも金でもみ消せ!あ?シオウのスキャンダルのことで詳しく話を聞きたい?私には関係ない!下らない話を私の前でするな!」
「このヒト、さすがに酷すぎる。シオウ様が怒るのも分かるなぁ」
ソータは現実世界に戻ってきていた。正直に言って、見ているだけで胸糞悪い。
「とりあえず、もうすぐ夜だしエンジ様たちに差し入れを持っていくのです!」
「ホー」
フクロウはソータに付き合ってくれるつもりらしい。ソータはレストランでテイクアウトのサンドイッチを4つお願いした。
「レイモンド様はお腹が空いているからイライラしているのかも」
ソータはあくまでも前向きだ。もし先程のような恫喝紛いのようなことをされてもソータは気にしないし怖がらない。そういうヒト程、弱く不安定な人間だと理解しているからである。
テイクアウトしたサンドイッチの入った箱は紙袋に入れてもらった。ソータは早足でレイモンドのいる部屋を目指す。
「エンジ様!」
「ソータ?」
「異常は?」
「いや、ないな。それ、どうしたんだ?」
「お夕飯です。エンジ様とレント様の分とレイモンド様の分」
「うわあ、助かる。ちょうど腹減ってたんだ。レントにも直接渡してやってくれよ。レイモンド氏は食べるか分からないけど…」
「中に入っても大丈夫なのですか?」
「あぁ」
エンジがドアをノックすると、レントが顔を覗かせる。
「なにー?」
「ソータが中に入りたいって」
「ソーちゃん!来てくれたんだ!」
ソータは促されるまま中に入った。タバコの匂いがする。おそらく、レイモンドが吸うのだろう。甘い香りがした。
「これ、レント様のサンドイッチです」
「マジ?夕ご飯をソーちゃんから提供してもらえるなんて!」
レイモンドを見ると座ったままいびきをかいている。
「ずっと寝てんの。年取るとああなるのかね」
ソータはレイモンドに近寄り、トントンと肩を叩いた。レイモンドがしばらくして気が付く。
「な、なんだ?!」
「レイモンド様、お夕飯をお持ちしたのです」
にっこり笑いながらソータが言うと、レイモンドはモゴモゴ言いながら受け取った。レイモンドだって好意を受ければ嬉しいのだと分かり、ソータはホッとする。お辞儀をしてサッと部屋を出た。どうもタバコの匂いは慣れない。
「あと一つは?」
そうエンジに尋ねられる。
サンドイッチには分厚いローストビーフが挟まっているので、ソータは食べられない。
「ふふ、シオウ様の分です」
「あいつ、疲れたような顔してたもんな。ちゃんと食べた方がいいと思うし、きっと喜ぶよ」
「行ってくるのです!」
「ソータも何か食べるんだぞ?」
「承知致しました!」
ソータはシオウの気配を辿った。彼の部屋も特等階にあるらしい。部屋を見つけて、ソータは深呼吸した。
コンコン、とノックすると、ドアが開く。
「君は、ソータさんだったかな?」
シオウはベッドで休んでいたのか髪の毛が乱れていた。ソータは心配になる。
「シオウ様、どこか、具合が悪いのですか?」
「あ、いや、違うよ。論文の締切が迫っていてね。最近徹夜続きだったから」
「私、シオウ様にお夕飯を持ってきたのです。お腹が空いていればでいいので無理せず」
では、と部屋を出ようとしたら腕を掴まれた。
「シオウ様?」
「君は、聖女なんだろう?」
「はい、そうなのです」
「懺悔がしたい」
ソータは驚いたが、すぐ頷いた。神との対話はヒトを安心にさせる。ソータは呪文を唱えて、部屋に帳を下ろした。
「シオウ様、準備が整いました」
ソータは部屋の隅で跪いた。両手を組んで祈る。シオウもまた膝を折る。そしてぽつりぽつりと話し始めた。
「私は愚かです。先生とちゃんと向き合ってこなかった。ずっと先生の為と思って動いていたつもりだった。でもそれが先生を追い詰めたんだ」
ソータは目を開けなかった。シオウの声は掠れて震えている。きっと泣いている。
「私は先生とちゃんと話します。先生や私の罪がそれで消えるわけじゃない。でも区切りを付けなくちゃ始まらないんだ」
シオウが祈っていることはソータにも分かった。彼に必要だったのは心の平穏だったのかもしれない。彼はしばらく祈っていたようだ。彼が立ち上がる気配がある。
「ソータさん、ありがとう」
ソータが目を開けると、シオウがすっきりしたような顔をしていた。
「私で良ければ、いつでも頼ってくださいね」
「ソータさんは不思議な子だね」
「?」
ソータが首を傾げるとシオウが笑う。
「君になら弱い部分を見せてもいいって思えるんだ。男としては最低なのかもしれないけど」
ソータはぶんぶん首を横に振った。
「感情に性別は関係ないのです。人間は支え合いながら生きています」
「ソータさん、君をセキヒにある私の家に誘っていい?もちろんエンジさんとレントさんもね」
「シオウ様、いいのですか?」
「ソータさんはとびきり可愛いから楽しみだな」
ソータはシオウの表情に顔が熱くなった。真剣な瞳にどぎまぎしてしまう。彼に腕を掴まれて抱き寄せられていた。ソータは彼の胸を小さな手で優しく押し返した。
「い、いけません。こんな」
「君は聖女だものね。そんな君が戒律を破るはずがない。気を付けたほうがいい、君はとても魅力的だから」
「私が?」
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