引きこもり不憫聖女でしたが、逆ハーレム状態になっていました!

はやしかわともえ

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「わああ!!」

次の日の昼間、ソータは港にやって来た巨大な船に歓声を上げた。海を見るのも初めてだったので、ソータはこの時が楽しみだった。

「あれに乗るのですか?」

「エンジ、あんな派手な船で行くの?聖女様のお忍び任務に…」

レントがジト目でエンジに聞く。エンジがチケットと船を見比べて青い顔をしている。どうやら思っていたのと違ったらしい。

「今日発つ一番速い船を頼んだんだ」

「そりゃ、あの船は速いと思うよ」

50メートルは軽々と超える豪華客船、「プリンセスマーメイド号」は歴史ある船である。今まで沢山の人を乗せ、楽しい安全な旅行を約束してきた船だ。この船で世界一周旅行を楽しむ客も多い。エンジたちはあくまでセキヒに行くだけなので、一番最後に乗り込んだ。セキヒまでは三日間の船旅だ。ソータは船の中を見回して、目を輝かせる。

「全部キラキラなのです!」

船とは思えないほど内装は凝っている。足元にはふかふかした赤い絨毯が敷かれ、まるでホテルのようだ。ソータはホテルには泊まったことがないので、レントからの受け売りの知識だが、それだけでも感激している。

「あの階段、金色です!」

ソータたちは船の中を探索していた。どうやらここはダンスホールらしい。広間の真ん中にある金色の螺旋階段から着飾った客が降りてくる。明らかに冒険者といういでたちのソータたちは浮いていた。

「ドレス…」

「ソーちゃんがドレス着たら可愛いだろうね」

「ぼ、僕は男なのでドレスは着ないのです」

ふい、と顔を背けるとレントが笑う。

「でも、ドレス貸してくれるみたいだよ」

「僕はいいのです!」

本当はきらびやかなドレスに物凄く興味を惹かれていた。だが、自分は遊びに来たのではない。アオナのリーダーを探しに来た。そう、国を背負う最重要任務である。

「僕は任務に来たんです!」

「ソーちゃん、着たくなったらいつでも言ってね」

「とりあえず船室に行こう。俺とレントは同室。ソータはこれだ」

エンジに渡されたのはカードキーだった。

「これ、どうしたら?」

「やり方教えるから行こう」

三人は三等船室に向かった。この船で一番安い船室になる。

「ドアノブの上に翳すんだ。カードキーはちゃんと持って出ろよ?この部屋、オートロックだからな」

「気を付けるのです」

それぞれの部屋に入り、荷物を置いた。2つベッドが並んで置いてある。

「ドレス…綺麗だった」

ぽそり、と呟いてソータはぶんぶん首を振った。

「僕は任務に来たんだから」

コンコンと部屋をノックされる。

「ソータ、飯を食いに行こう」

エンジが呼んでいる。ソータは忘れずカードキーと貴重品を持ち、部屋を後にした。

船内のレストランに入ると、厨房で何人もの料理人が腕を振るっている。その動きには一切の無駄がない。出来た料理を給仕係がテキパキと、かつ優雅に運んでいる。ソータたちが席に着くとオーダー票を持った給仕係がやってきた。

「こちらメニューになります。ご注文が決まりましたらお呼びください」

メニューを見ると値段が書かれていなかった。ソータは焦る。

「え、エンジ様?メニューに値段が書かれてないのです」

「本当だ…」

エンジの顔色も青い。

「あー、それね、船の乗車賃に含まれてんの。エンジ、チケット高いって言ってたじゃん」

レントが涼し気に言う。エンジはハッとしたように言った。

「確かに、定価の三倍は取られたな」

「こりゃセキヒでもバイトだね」

なかなかのジリ貧旅である。

「わ、私に付き合ったせいで…」

「ソータ/ソーちゃんは悪くない」

二人はまたハモって嫌そうな顔をした。ソータが思わず笑うと、二人も笑う。

「とりあえず、何か頼もうか」

「はい!」

✢✢✢

食事を摂り終えて、三人は更に船内を見て回っていた。

「本当に綺麗な船ですね」

「デッキに出てみようか」

レントの一言で三人はデッキに出た。空は青く澄み渡っている。船がグイグイ進んでいるのが分かった。

「わぁ、カモメ」

ソータが腕を伸ばすとカモメが留まる。ソータはカモメの頭を撫でている。

「いい子」

ソータから離れたエンジとレントは声を潜めた。

「なぁレント」

「うん、分かってる。誰かお偉い人が乗ってるみたいだね」

「ちょっと分かり易すぎないか?」

「いかにも警備してますって感じがねぇ。それが逆に敵さんを煽ってるような気もするけど」

「だろう?」

「僕の気の所為ではなかったのですね」

「ソータ/ソーちゃん」

「何かあってからでは遅いのです」

ソータが船内を見回りに行こうと二人に提案していると、急に発砲音がする。この近くだ。三人は走った。現場は特等階のある給湯室だ。

「た、助けてくれ!!金ならいくらでも出す!」

背広を着た恰幅の良い男がサングラスの男に銃口を向けられ、命乞いをしている。今にも引き金は引かれそうだ。

「先生!!」

白髪の青年が後ろからサングラスの男を突き飛ばす。弾みで引き金が引かれたのか銃声が響き渡る。エンジはサングラスの男に飛び掛かり拘束した。

「おいおい。使えないなら銃なんて物騒なもんは持つなよな」

レントがその銃を拾い上げて、確認している。

「ふーん」

そして銃をある方向に向けて撃った。キュンっと弾が空気を切り裂きながら飛ぶ。

「っ…ひぃ…!」

もう一人、サングラスの男が現れる。物陰に隠れていたが、今ので完全に腰が抜けたらしい。

「はい、そこ動かないでね。エンジー」

「俺は拘束係じゃないぞ」

なんだかんだ言いながらエンジが手早く拘束する。
それを先生と呼ばれた男と白髪の青年がポカンと見つめている。

「お怪我はないですか?」

ソータが声を掛けると、二人はようやく我に返ったらしい。頷いた。

「僕はソータといいます」

「俺がレントで、そこの赤毛がエンジ」

レントがウインクしながら言う。

「先生を助けてくださりありがとうございます!」

白髪の青年がそう言って深々と頭を下げる。

「私はシオウ。社会科学者です。本当に助かりました。先生、大丈夫ですか?」

シオウは男が立ち上がるのを手伝っている。体が大きいので苦労していた。

「一体なんだって言うんだ。警備はしっかりしているんだろうな?シオウくん!セキヒに行くだけでこれでは!」

「申し訳ありません。更に警備を厳重にします」

「ええい!君にはもう任せられん!そこの、金ならいくらでも出す!私を守るんだ!」

「それは構わないですけど、具体的においくらほど頂けますか?」

エンジがさっと交渉を始めている。

「言い値で払ってやる!」

「分かりました。では金貨で250万頂きます」

「あぁ。好きにしろ。シオウくん!」

「はい」

シオウが懐から取り出したのは小切手のようだ。そこに男が金額とサインを書いてエンジに渡す。

「確かに。セキヒまで確実にお守りいたします」

「あぁ、気分が悪い。私はもう部屋に戻る」

エンジとレントが隙なく男に付いていく。ソータとシオウはその場に残される形となった。

「君は?お兄さんたちと行かないのかい?」

シオウが屈んでソータに問い掛けてくる。

「僕がいなくてもお二人なら大丈夫なのです。シオウ様?」

ソータは気になっていたことをズバリ聞いた。

「何故先程、本気を出されなかったのですか?」

シオウはそれに目を丸くする。

「私は戦闘がそんなに…得意じゃなくて」

「シオウ様は僕から見るに、とても強そうに思うのです。人が嘘を吐くのは理由があるからだと聞いたことがあります。シオウ様にも何か理由があるのですか?」

「君は一体…」

シオウはソータに驚いているようだ。一方でソータも彼はアオナのリーダーに相応しいと考えていた。シオウが笑う。

「私は先生を恨んでいるからね」

「成る程」

「驚かないのかい?」

ソータは彼を見上げた。

「シオウ様の怒りは、なんとなく感じていました」

「君には隠し事が出来ないようだね」

シオウは疲れたのか、壁にもたれかかった。ソータはすかさず彼に真実を伝える。

「シオウ様、私はアオナの聖女です。あなたにはアオナのリーダーとして働いて頂きたい。考えて頂けませんか?」

「アオナのリーダー?!」

シオウは本気で驚いている。

「私がリーダーだなんてそんな大役…」

「シオウ様お一人ではありません。先程のエンジ様とレント様にもお願いをしています」

「成る程、確かに組織には複数のリーダーが必要かもしれないね。ちょっと考えさせてくれないか?」

「もちろんなのです!」

ソータはシオウに頭を下げ、エンジたちと合流した。
エンジが部屋の外、レントが部屋の中にいるらしい。 
特等の部屋はかなり大きいようだ。

「ソータ、あの人は中央都市の議員でレイモンドというらしい。不祥事を起こして辞任を求められているそうだ」

「不祥事?」

「女性との不倫だってさ。でもなかなか議員を辞めないから命を狙われてるんだって」

「不倫は良くないですが、普通、そこまでするものなのですか?」

「そうなんだよな」

エンジも疑問に思っていたらしい。

「ソータ、君は部屋で休んでいるといいよ。ここは俺とレントがやっておく」

「お願いします」

ソータは部屋に戻ることにした。

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