引きこもり不憫聖女でしたが、逆ハーレム状態になっていました!

はやしかわともえ

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「ふぁ…呪符が…」

ソータが目を覚ますと、ふかふかのマットの上にいた。もこもこしたタオルケットが体にかけられている。ヤム島の朝は涼しい。ソータは慌てて飛び起きた。眠っている場合ではない。

「ソータ、おはよう」

「ソータさん、間もなく呪符が修復出来ますよ」

「ソーちゃん、起こそうと思ってたけど必要なかったね」

ソータは驚いてしまった。三人共、ソータが寝る前と同じ場所にいたからだ。

「皆さん、あれから眠ってないのですか?」

「ん?あぁ」

「徹夜には慣れてますよ」

「ん、俺もー」

「さすがアオナのリーダーに相応しい方々なのです!リーダーはタフでないとなれませんから」

ソータが意気込んで言うと、男性陣はこう返してきた。

「アオナのリーダーになるかどうかはもう少し様子を見たいと言うか…」

とエンジ。

「私は研究さえ出来れば」

シオウは乗り気である。

「うーん、アオナの女の子は可愛いけど、話相手がおっさんじゃなあ」

レントは少し嫌そうに言った。彼なりに迷い始めているらしい。ソータはそれらを見て、諦めないと更に意気込んだのだった。なんでも粘ってみるのが大事だと先代の聖女から教えを受けている。

「あ、呪符から、かすかにですが魔力を感じます!」

ソータは駆け寄り、呪符に手をかざした。自分の魔力を流し込み、封じられている神の助けにするためだ。

「ねえソータさん、この神様ってなんで封じられていたんだろうね?」

「力が有り過ぎたから、だと思います。そういう神は自らを律することが多いですよ。多分、この方は自分から封印されたかと」

「神に力があるのは当然じゃないか?」

エンジが首を傾げる。ソータはそれに頷いた。

「はい、神々には強大な力を持つ者が多数います。ヤシャ様もそうですが、あの方は戦いを好まないタイプなので」

「ちょ、ちょっと待ってよ。ソーちゃん?じゃあこの神様、すごい好戦的なんじゃ?」

「呼んだかー?」

彼は空中で胡座をかいていた。だるそうに欠伸をしている。褐色の肌に艷やかな黒い短髪。そして端正な顔立ちをしている。一言で言ってかなりの男前だ。

「おい、ソータ。お前、いつの間にかすごく可愛い女になったな。抱かせろ。可愛がるぜ?」

「断固拒否をする!!」

「お前なんかに絶対にソーちゃんをやるもんか!」

エンジとレントが向かっていくが彼は動じない。むしろ更にだらけた様子だ。

「獅子様、どうか過激な発言はおよしください」

「そりゃあ悪かったな。にしてもソータ。俺を呪符から引きずり出してどうするつもりだ?」

ソータは笑った。

「獅子様、改めて、ヤム島の守り神をしてみませんか?今までだってちょこちょこ村の方たちに手を貸してあげられていたんでしょう?贄の儀式だってそれがきっかけだったはずです」

うーんと彼は腕を伸ばして、伸びをする。

「あー、守り神ね。ま、構わないけど一つ取引しないか?」

「取引…ですか?」

ソータが首を傾げる。獅子はにぃと笑った。

「ソータを24時間貸し切りだ」

「え!」

「ソーちゃん!こんなの聞かなくていいからな!絶対に変なことされるよ!」

「変なこと?!」

「ソータ、俺からもあいつはよくないと忠告する」

「ソータさん、早まらないで!」

エンジとシオウもソータを止めた。ソータが腕を組む。

「でも、獅子様はずっと優しい方ですし」

「俺はソータが小さい頃からの知り合いなんだよ、ガキ共、分かったか。お前たちとは歴史が違うんだ、歴史が」

それに何も言い返せないエンジたちである。

「分かりました。獅子様の言う通りに致します!」

「さすがソータ、話が早いな」

獅子は牙を剥き出しにして笑った。

✢✢✢

「ソータ、本当にあいつと一日いるのか?」

「ご心配感謝です!僕は自分の身は自分で守れるのです!」

「まぁソーちゃん、くっそ強いしなー」

「ソータさん、これを」

「?」

シオウがヒトガタの紙を手渡してくる。

「式神だよ。私の得意な呪いの一つ。君を守ってくれるように」

「シオウ様、ありがとうございます。神が目覚めたことで島のパワーバランスも変わってきています。皆さんも用心なさってくださいね!
では行ってくるのです!」

「行ってらっしゃい」

残されたエンジ、レント、シオウの間に沈黙が佇む。

「ねえ、様子をこっそり見守らない?あのいかにも狼ってやつにソーちゃん預けるなんてさ」

レントの提案に二人は頷いた。ソータは一人待ち合わせの場所に向かう。既に彼はいた。その様も優雅である。

「ソータ、今日も可愛いな」

「獅子様はそうやって女性を口説くのですね。生憎ですが、僕は男なのです」

「へー、だから髪の毛切ったのか。その髪型も似合うけどよ」

「…獅子様といるとペースが崩れるのです」

「そりゃあよかった。ほら、おいで」

ソータの手を彼は優しく握った。

「はは、ソータの手は小さいな。守ってやりたくなる」

「僕は強いですよ?」

「知ってる。だけどこれは気持ちの問題だ」

ソータはしばらく考えて、分からなかった。頭から煙が出そうになる。完全にオーバーヒート状態である。

「ソータ、ヤシャと会ったのか?あいつも暇だなぁ」

「はい。僕を追いかけてきたと」

「他の神々もそういうやついるぞ、きっと」

「そんな…」

「ソータが可愛いってのは神々の間でも共通認識だからなぁ。キメルが聞いたら多分キレるぞ」

「え?!」

故郷にいる友人の名前を出されて、ソータは慌てた。キメルが怒ったところなど、今まで一度も見たことがない。彼はいつもソータを一番に考えてくれる優しい友人だ。

「き、キメルが何故怒るのですか?」

「そりゃあソータがモテるからだろう。あいつはお前が大好きだからな。さすがにそれには気が付いてると思ってたぜ」

気が付いていなかった、とソータは青くなった。

「ま、こうして俺とデートしてくれるんだからな。楽しませてやる」

獅子に手を引かれ、ソータは歩き出した。向かっているのはヤム島の奥地にある森の方だ。

「向こうに小さいが湖があるんだ。釣りでもして遊ぼう。俺の親父もたまに来る」

「獅子様のお父様?!」

ソータの頭はもうパニックである。獅子の長老はかなり高名の神だ。獅子とこうして一緒にいるだけでもかなり奇跡であるというのにその上の事が起きてしまうとは。鬼といい、獅子といい、奇跡レベルの出来事がこうも重なると、ソータは困ってしまう。こうなるだけでも世界がざわつくからだ。

「言ってるだろ?ソータは俺たち神々にとって特別なんだ。お前みたいな純粋な人間、なかなかいないぜ」

「獅子様…僕はどうしたら?」

「正解なんかねえよ。ソータがこうしたいって思うことをしてみろ。慌てなくていいんだ。ほら、釣り竿」

「ありがとうなのです」

ソータは座り、釣り竿を湖に垂らしてみた。獅子も隣で水面を見つめている。

「なあソータ。俺の嫁になれって言ったらどうする?」

「よ…?!」

ソータは瞬間的に顔が熱くなるのを感じた。

「な、何を言ってるのですか!私は聖女で男性とはその…」

ソータが言葉を詰まらせると、獅子が頷く。

「分かってる。もちろんプラトニックな関係ってやつだ。でもそうなるとライバルしかいないよな」

「…ライバル…」

ソータは糸が引いていることに気付いた。慌てて釣り竿を引き寄せると魚がビチビチ跳ねている。

「お、今日の昼飯だな」

「僕は皆と仲良くしたいのです」

そうソータが呟くと、隣の獅子に頭をわしわし撫でられた。

「そういうとこが本当に可愛いよ。お、俺のも引いてる」

✢✢✢

パチパチと火が爆ぜる音がする。焚き火をしているのだ。木の枝には腸を取った魚が刺さっている。

「ソータの分も食べるから安心しろ。お前にはこれだ」

パチリと獅子が指を鳴らすと真っ赤に熟れた果物が現れる。甘い香りがする。

「わぁ」

「お前らも出てこいよ」

「エンジ様たちも一緒に食べましょう」

「やっぱバレてたか」

エンジ、レント、シオウががさりと草の茂みから現れる。

「お前ら、人間にしては気配を消すのが上手いな」

「神様に褒められた!」

「ソーちゃんにバレてる時点であんま意味ないんじゃない?」

喜んでいるシオウにレントが突っ込む。

「魚、久しぶりだな」

いち早くエンジがソータの隣に腰掛ける。

「ちょ、エンジ!そこ俺の場所!!」

「早い者勝ちだからなあ」

ソータはキメルに会いたくてたまらなかった。会ってちゃんと話がしたい。だが、まだ帰るわけにはいかない。自分には任務がある。いただきますをしてみんなで食事を楽しんだ。

「お、親父だ」

獅子に言われてソータも湖の方を見つめた。静かに彼は佇んでいる。

「獅子神様…」

ソータは手を組んで祈った。祈りは必ず届く。ソータは祈りの力を疑わない。

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