引きこもり不憫聖女でしたが、逆ハーレム状態になっていました!

はやしかわともえ

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杖を取り出したソータは子供たちの様子を窺うことにした。自分は今、風下にいる。だからこそソータは、はっきり子供たちの気配を捉えていた。彼等には気配を消す術がないらしい。強い風で校庭の砂が舞いソータの姿を上手く隠す。この風はソータが故意に巻き起こしているものだ。子供たちはおそらく、それにも気が付いていないだろう。

「おいチビ!俺の炎魔法を食らえー!」

ゴウ!と勢いよく噴煙が湧くがソータがいる場所とは全然違う場所だ。パワーはあるが、まだ気配の読みが甘いようである。

「あれ、当たってない?」

「何やってんのよ!次はあたし!」

女の子が呪文を詠唱している。どうやら召喚術士のようだ。

「現れて!アクリアス!」

ソータは彼女の詠唱を風魔法で起こしたノイズで邪魔していた。詠唱が出来なければ魔法などおそるるに足らないのである。

「なんで!なんでよ!!お願い!来て!アクリアス!!」

女の子はダンダンと足で地面を踏み鳴らしている。

「魔法が駄目なら直接攻撃…わああ!!」

ソータの起こした竜巻に巻き込まれ、とばされていく少年を見て、もう一人の女の子がソータに攻撃するのを躊躇っているようだ。

「ソータ、ストップ。そこまでだ」

サラに止められ、ソータは杖を下ろした。風が止む。

「な…なんだよ。めちゃくちゃつえー!」

「あたしの召喚術も効かないなんて」

「いいか、お前ら。見た目で判断するなっていつも言ってるだろ!ソータは小さくてもれっきとした聖女なんだぞ」

サラの叱咤に子どもたちが小さくなる。

「ソータにした非礼、ちゃんと謝れるよな?」

「ごめんなさい」

泣き出してしまった子も中にはいる。ソータはどうすればいいか分からず、おろおろした。こういう時、引きこもりの年月がまずい方に響いてくる。

「ほら、泣いてる時間がもったいないぞ。早く教室戻れー」

「はーい」

サラの声掛けに子供たちが教室に向かって駆け出していく。

「サラ先輩!お久しぶりなのです!」

「あー、なんか子どもたちがごめんな?」

「どうしてサラ先輩が謝るのですか?」

いや、とサラに両肩を掴まれる。気が付いたらぎゅっと抱き締められていた。久しぶりの感触にソータは慌てた。

「あー、すげー、会いたかった。なんか今日めちゃくちゃ可愛いし」

「サラ先輩はリヒ兄様と同じ寂しがりなのですか?」

「ソータナレア様。それは違うかと」

パペが困ったように言う。ソータはサラの顔を見上げた。至近距離にサラの顔が見える。

「キスしていいか?」

どっと鈍い音がする。キメルが頑強な足でサラの足を払ったのだった。サラは当然横に転ぶ。

「いってえ!」

「ソータに近付くな人間。さっきからソータにべたべた触りやがって」

「あ、ライバルは相変わらず多いのね」

サラもやっと気が付いたようだ。

「サラ先輩は先生なのですか?」

ソータの問にサラが頷く。

「まだ教育実習生ってやつだけど、そのうち先生になる…かな」

「すごいのです!ならサラ先生と呼ばなくてはいけませんね」

「え?あー、そうね」

「サラ先生、私たちは子供たちの指導を頼まれています。校内の案内をしてくださると助かるのですが」

パペが言うと、サラも状況を把握したらしい。

「分かった、中に行こう」

サラが歩き出したのでその後を追う。

「中央都市が急にこんなことになっててびっくりしたろ?」

サラに問われて、ソータたちは一斉にあらぬ方を見た。
まさか自分たちがその渦中にいたとは言いにくい。だが、そこは聡いサラである。

「え?まさかこの件にお前たちも関わっていたのか?」

「はい」

ソータは渋々だが頷いた。隠し通せるような空気じゃない。

「ソータの周りでは、いつもすごいことが起きるな」

サラは笑っていたが、これから起こることを思うと、ソータは心の中で謝ることしか出来なかった。校内に入ると色々な教室があることを知った。ソータは学校の中に初めて入ったのでそんな教室が珍しくて、キョロキョロした。人体模型には流石に驚いてキメルの後ろに隠れると、サラは笑った。

「やっぱ可愛いわ、ソータ」

「サラ先生のようにソータナレア様に好意を抱いている男性は少なくとも10人はいます」

パペの言葉に、サラは負けられないと拳を握る。
ソータはそのやり取りを聞いていなかった。

「ピアノがあるのです!」

どうやら音楽室という部屋らしい。ソータは喜んでピアノの鍵盤をそっと押した。ポンと軽い音がする。

「わぁ、綺麗な音」

ソータがうっとりしていると、パペがピアノの前に座って流れるように曲を弾き出した。ゆったりした曲調になんだか癒やされる。

「パペ、すごい」

「シヴァ様に手解きをして頂きました。これくらいこなせなければ一人前ではないと」

むむ、とキメルとサラに力が籠もる。

「あ、そういえばソータに制服が届いていたな」

「制服…ですか?」

「ちょっと着て見せてくれよ」

ソータがサラに手を握られて引っ張られている。

「あの方、なかなか侮れませんね」

「気に入らないやつだ」

パペとキメルは停戦することにした。サラからソータを守ろうという協定を結んだのだ。
サラは優しく、今時流行りのアイドルのような見た目をしている。ソータはアイドルなど知らないだろうが、万が一のことがある。

「抜け駆けは禁止ですよ」

「俺を誰だと思っている」

パペとキメルはお互いをじっと見つめ合った。
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