引きこもり不憫聖女でしたが、逆ハーレム状態になっていました!

はやしかわともえ

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「ふっ!」

ガンっと木の枝に吊るされた金属板が衝撃で鳴り響く。

「あら、毎日熱心ねぇ」

「シヴァ様…」

ソータはここのところ毎日、一人で魔法の特訓をしている。あの時、トタン鉱山で自分は何も出来なかった。それが悔しくてたまらない。自分の不甲斐なさや至らなさに今更目が向き、ソータは自分が恥ずかしくなった。自分は強くなどない。無力なただの女だ。

「ソータ、何かあったのね」

話してみなさいとシヴァに諭され、ソータはトタン鉱山での出来事を話した。

「…それは」

「何か知ってるのですか?」

シヴァが頷く。

「まだ推測の域を出ないけれど、多分それはタイタンという組織のものよ。中央都市の王族から金を巻き上げたやつら。不景気だったでしょう、ずっと」

「え?」

ソータは驚いて、シヴァの美貌をただ見つめた。

「ハ・デスが闇神を集めて中央都市を壊したからそのことは有耶無耶になったけど、もし今でもそいつらが活動していたら、今頃経済は混乱して世界中で大戦争が起きていたかもしれない」

「!…そんな…」

ソータは震えた。戦争が起きれば沢山の命が失われる。子供たちの未来さえも。

「ある意味、ハ・デスはそれを防いでくれたのよね。あの子のことだから多分、たまたまだったろうけどね」

ふふ、とシヴァが笑う。座って、とシヴァに隣を示されてソータは座った。

「ねえ、ソータ。あんたはこれからどうなりたいの?」

「え?」

「また聖域に引きこもる、なんてもう許されないって分かったでしょう?あんたの力を必要としてるヒトが沢山いるのよ?」

「で、でも…でも…」

ソータは自分の瞳から流れてくるものを止められなかった。拳で拭ったがとても間に合わない。

「わ、私は弱いし、何も出来なかった」

「あのねぇ…」

シヴァに肩を抱き寄せられる。

「あんたは十分強いわよ。ただね、あいつらには妙な力があるっていう話を聞いたことがあるわ」

ソータは首を傾げた。それに対抗するためにはどうすればいいのか見当もつかない。

「とりあえずそろそろ休みなさい。キメルにバレたら怒られるわよ」

「わぁ!キメルには内緒にしといてください!」

シヴァが意地悪く笑う。妖艶な彼には普通の男性が持たない彼だけの色気がある。

「明日、一緒にアイスクリームを食べに行かない?そしたら黙ってられるかもね」

「アイスクリーム…大好きです」

「ソータは甘いもの好きだものね。じゃ、明日の10時にここで。おやすみ」

「おやすみなさい」

本当はもっと特訓をしていたかった。だが、キメルに心配を掛けるのは本意ではない。ソータは自室に戻った。

「妙な力…」

着替えてベッドに寝転びながらシヴァの話を思い出す。

「あの扇子がどうも怪しい…」

ソータはいつの間にか眠りに落ちていた。

✢✢✢

「ソータ、どれにする?」

次の日、シヴァと待ち合わせをしていた場所で合流し、アイスクリーム屋のワゴンの前に来ている。3種の好きなアイスクリームを紙のカップに盛り付けてくれるらしい。ソータはどのフレーバーにしようか迷った。アイスクリームが好きだからこそである。

「あたしはね、やっぱり王道のバニラとラムレーズン、あとはグリーンティーね」

シヴァがさくさくと注文していたので、ソータは自分も早く決めなくてはとメニューを見ながら焦った。

「ええと、ええと」

ソータはしばらく考えてやっと決めた。

「チョコとストロベリー、あとキャラメルをください」

「あいよ」

店主が紙のカップにこれでもかとアイスを盛り付けてくれた。

「綺麗なお嬢さんたちにはサービスしないとね!」

へへっと店主が笑う。

「あら。ありがと!」

シヴァの笑みに店主は赤くなっていた。ソータも頭を下げてお礼を言う。そばにあるベンチに座り、木のスプーンでアイスを掬い口に放ると優しい甘みが広がった。

「ふぁ、うまうま」

「うん、やっぱりここのワゴンのアイスが一番ね」

こうして街を見ると、少しずつだが人々に活気が戻ってきていることに気が付く。人は弱い、そして脆いものだ。だが、そんな人々はお互いを助け、支え合い、自分たちを奮い立たせている。こうして街が壊れても、日常を取り戻そうとする。

「人間は強いのですね…知らなかったのです」

「あら、あんたがそんなこと言うなんて意外」

「私は人間を舐めていたようです」

「ソータ」

よしよし、とシヴァに頭を撫でられる。二人はしばらく黙ってアイスクリームを食べた。

「いい?ソータ。タイタンのことはまだ分からない。あたしなりに調べてみるわ」

「お任せしてよろしいのですか?」

シヴァがウインクする。

「任せなさい!」

✢✢✢

シヴァと別れ、ソータは街を見ていた。親子連れと思しき男性と少年が仲よさげに話しながら歩いている。

「私は驕っていました…なんて恥ずかしい…」

「ソータ?」

「サラ先生?」

向こうからサラが近寄って来た。

「どした?この世の終わりみたいな顔して」

サラが笑いながら言う。彼なりのユーモアなのだと分かったが、ソータはその言葉に泣き出してしまった。悲しいわけではない、ただただ苦しかった。タイタンという組織の存在が恐ろしい。

「わわ、ソータ?どうしたよ?」

「この世が終わるなんて…っふ、う…い、嫌なのです」

しゃくりあげていると、サラに抱き寄せられる。

「ソータ、そんなに泣くな。確かにトタン鉱山のことは大変だったけど、なんともなかったんだしもう大丈夫だから」

「…はい」

いつまでもクヨクヨしていてはいけない、とソータにも分かっている。サラに手を引かれてソータは歩いていた。

「サラ先生、私は人を侮っていました」

正直に言うと、サラが首を傾げる。

「そうか?」

「はい」

「じゃあどうする?」

サラが笑う。

「お前は生きてるんだ。間違うこともあるし、選択を変えることだって出来るだろ?」

ソータはそれにハッとなった。

「ま、間違ってもいいのですか?」

「人間誰しも間違うって」

ソータはホッとしていた。間違っていた、とずっと自分を責めていたからだ。

「大丈夫だよ、ソータ」

サラに頭を撫でられる。

「髪の毛、伸びてきたな」

「切ったほうがいいですか?」

「ソータはどうしたい?」

サラはいつも聞いてくれる。

「私は…」
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