引きこもり不憫聖女でしたが、逆ハーレム状態になっていました!

はやしかわともえ

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キメルたちはラシータが封印されたという大神殿に向かっている。だが皆、気が乗らないという表情をしていた。大神殿は渓谷を抜けた先にある。キメル以外は借りたラクダに乗っていた。ラクダの歩はゆっくりだ。しっかり一歩ずつ踏みしめるような確かな強い歩みである。このあたりは気温が50℃をゆうに超えるらしい。まだカラッとした気候なので暑くてもなんとか耐えられるが、日差しが強いので体の露出は避けなければならない。
そのため、キメル以外はしっかり着込んでいる。

「暑いし、やっぱりソータがいないとつまらないなぁ」

「それは僕も同じだよ!」

鬼の言葉にハ・デスも全力で同意した。

「それは俺の台詞だ」

キメルも同調する。フレンも唸った。彼も同じ気持ちだったのだろう。ソータの存在は彼らにとってとても大きい。彼女の可愛らしさは癒しだ。

「まぁリヒの組分けは的確だった…んじゃないか?」

フレンが場を切り替えるように言おうとして失敗した。リヒという名前がその原因であるのは間違いない。今頃リヒは…と思わずキメルたちは思い浮かべてしまう。

「…あの大馬鹿野郎の頭に、絶対噛み付いてやる!砕いてやる!」

もはやライオンかという程のキメルの唸りに、周りは苦笑を隠し切れない。キメルなら本当にやりかねないと思ったのだろう。

「もうすぐ大神殿だな、ラシータ様が無事だと良いが…」

今は昼過ぎだ。ソータたちもパーティーへ行く支度を始めている頃合いだろう。キメルたちは明け方に中央都市を車で出発し、この地、サテナに来ている。サテナ渓谷といえば観光スポットとしておすすめされる場所である。この渓谷を歩くだけで神々のご利益が得られるというパワースポットのような扱いをされているのだ。それが本当かどうか聞くのは野暮だろう。

「暑い…」

何度目か分からないこの単語を呟くと、誰かがため息を吐いた。ふと顔を上げると、大神殿の建物が見えてくる。

「あれだ」

フレンが呟き、皆がそれを見つめる。ようやく着いたのだ。ラクダを綱で繋ぎ、一行は中に入った。大神殿の中は外とは違い、ひんやりとしている。フレンが台座の前で、跪き祈った。ラシータが現れるが、彼女は眠ったように反応がない。太い頑丈そうな鎖が体に巻き付いている。
やはり封印されてしまっているようだ。
キメルはあの鎖に見覚えがあった。自分が捕らえられた時に使われたものと同じだ。

「我願う、神、ラシータを封印の鎖より解き放て。彼の力を取り戻せ」

フレンが詠唱を続ける。その間に、バキバキと鎖が割れてくる。そして封印が解けた。ラシータを纏ったのは黒い光だった。

「く、やっぱりここも闇神か」

フレンがぎり、と歯を食いしばる。

「ラシータの意識を取り戻す!力ずくでも!」

「承知したよ」

キメルの言葉に鬼が首肯した。ハ・デスも力を貯め始める。戦闘が始まった。ラシータが手のひらから光の弾をいくつも放って来る。それを避けながら、なんとか応戦する。この弾に当たるだけで恐ろしい程の破壊力があることを皆承知している。フレンがラシータに取り憑いた穢れを浄化するため詠唱している。なかなか難しそうだ。高位の神に取り憑く闇神だ。この間相手をした闇神とは格が違う。

「く、ラシータ!頼む!!意識を取り戻せ!!」

「闇神なんかに負けるなよな!」

じりじりとだが、こちらが押されつつある。ラシータはそれだけ強い神だ。それでもキメルたちはなんとか持ち堪えている。即席で組んだパーティだったが、それが上手く機能していた。

「ラシータ、めちゃくちゃ強いじゃないか」

「ヤシャ!感心してる場合か!」

「私は…なにを…」

ラシータが目を開ける。彼女の意識が戻りつつあるらしい。だが、闇神は攻撃の手を緩めるどころか更に激しく攻撃してくる。

「ラシータ!頼む!!元に戻ってくれ!」

「うう…」

ラシータは苦しんでいる。彼女なりに必死に闇神に抵抗しているようだ。

「頑張れ!ラシータ!!」

「私は光の守護者ラシータ。少しでも力がある限り、闇に負けるわけにはいきません」

ラシータから光が湧く。キメルたちはその光に目を開けていられなかった。キラキラと辺りが輝いている。
キメルたちがようやく眩しさに慣れ目を開けると、柔和な微笑みを浮かべたラシータがいた。

「ありがとう、ようやく封印が解けました」

「ラシータ、ここの穢れは?」

キメルの言葉にラシータが頷く。

「ここは私の力で浄化しておきます。他の神々も無事です。それと、聖女様は…ソータナレア様はここにはおられないのですか?」

ラシータがキメルを見つめながら困惑気味に尋ねてきた。きょろきょろしている。彼女もまたソータが大好きな神々の一人である。フレンを一瞥してああ、違ったと首を横に振った。

「ラシータ様、そんなに俺を毛嫌いしなくても」

「フレン、私はあなたには頻繁に会っているのです。ああ、小さくて可愛らしいソータナレア様に会いたい…」

フレンがその言葉に固まる。ぽん、と鬼が彼の肩を叩いた。

「ラシータ、期待に添えなくて済まないがソータは今ここにいないんだ。だがソータもあんたを思っているのは知っているだろう?」

ラシータがキメルの言葉に微笑む。

「ソータナレア様の思いは私にも届いていますよ。どうか遊びに出かけてくださいとお伝え下さいね。約束ですよ?」

「あぁ、伝えておこう」

「皆、ソータ好きすぎないか?俺も好きだけどさあ」

しょんぼりしながらフレンが呟く。

「とりあえず中央都市に戻るか。俺は先に行く、じゃあな」

キメルは空を駆け上がる。全速力だ。

「あいつは本当に集団行動の出来ないやつだな」

ハ・デスがプンスカしながら言う。

「まあまあ。僕たちも帰ろうか」

フレンたちも中央都市へ引き返す。
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