引きこもり不憫聖女でしたが、逆ハーレム状態になっていました!

はやしかわともえ

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ソータたちは個室内をパペによる魔法で覗き見している。あまり褒められたことではないが、どうしても知りたい。ソータはじっと画面を見つめた。

「リーナ、ここまで来ちゃったのね」

「だって…」

リーナ姫が言葉を詰まらせる。ソータは自分の母親の顔をまじまじと見つめた。優しそうな人だ。

「リーナはもう知っていると思うけれど、この子は聖域に行くの。聖女になれるように修行するのよ」

「お願いがあるの!」

リーナ姫が叫ぶ。

「一度でいいから、あたしに妹を抱っこさせて!絶対に気を付けるから」

リーナ姫の熱意に母親は笑って頷いた。

「リーナ、こっちにおいで」

靴を脱ぎベッドに上がるリーナの腕に母親が赤ん坊を乗せる。

「わ、重たい」

「まだ産まれたばかりよ。ふにゃふにゃよね。調べたら、この子の魔力は本当に強いみたいなの。リーナもとても優秀だし、お母さん嬉しいわ」

「お母様、この子にくまちゃんをあげちゃだめ?」

母親が目を細めた。その表情は優しい。

「くまちゃんは、リーナの一番のお友達じゃなかった?」

「だから赤ちゃんにあげたいの。あたしの代わりにくまちゃんが守ってくれるよ」

「分かったわ。リーナ。ありがとう」

母親にぎゅっと抱き締められる。
リーナも抱きしめ返していた。

「めちゃくちゃ優しいじゃん、ソーちゃんの家族」

「いいお母さんとお姉さんだな」

ソータは過去を思い出していた。くまちゃんの存在と共に。パペが画面をしまい病院から出ようとした時だった。

「ねえ、なんであたしの後つけてたの?」

振り返るとリーナが仁王立ちで立っていた。その表情からして面白がっているという言葉がピッタリハマる。

「お兄ちゃんたち、この世界の人じゃないでしょう?なんだか気配も違うし。困ってるならあたしが助けてあげる」

六歳の女の子に助けてもらうのはなんだか情けないが、エンジは笑って屈んだ。

「勝手に君をつけたのは悪かったよ。聞きたいんだけど、ザギヤで月といえばどこ?」

「月?あたしの秘密基地かな?」

リーナが首を傾げる。

「君の秘密基地はどこにあるの?」

エンジの言葉に、リーナはにいっと笑った。

「あたしが地図を描いてあげる!他の人には、秘密だからね!」

✢✢✢

「くっ、もうちょっとなんだがな」

キメルは一人、枷を壁にぶつけている。勢いよく手も一緒に打ち付けているので、青痣が出来ているが、今はそんなことを気にかけている場合ではない。

「くそ、あのアマ。後でぶっ飛ばしてやる!」

物騒な言葉を吐きながらキメルはガンガンと手枷を壁に打ち続けた。手枷はなかなか壊れない。

「ソータ、どうしてるかな」

ふとソータの顔が頭に過った。自分のせいで泣かせていたら、謝っても謝りきれない。

「くそ…」

キメルは更に強く手枷をぶつけた。

「キメル様、自分の体は大事にしてくださらないと」

悠然とやってきたのはリーナだ。キメルが唸ると、彼女は楽しそうに笑った。

「あらあら、怒ってらっしゃるの?そんなに私が嫌?」

「うるせえ、とっととこれを外せ!今なら後ろ足で蹴るだけで勘弁してやる!」

「怖いことを言うのね。それなら私にだって考えがあるわ」

リーナが手を挙げると、屈強な男が二人現れた。手には鞭を持っている。

「躾をして。私に二度と逆らえないように」

「は」

キメルに男たちが近寄ってくる。

「は、やれるもんならやってみやがれ」

男たちが鞭を振り上げた。

✢✢✢

「こっちー!」

リーナ姫に呼ばれて向かった先は思い切り城だった。幸いなことに門には誰も立っていない。

「え、俺たち中に入れんの?」

レントがキョロキョロしながら言う。

「大丈夫。あたしに任せて。誰かに見つからなければいいんでしょ?」

「いや、えーと、まあ」

静かに城の裏に回るようにリーナに言われ、一行は裏に回った。ここにも誰もいない。ソータは姉の力に驚いていた。神々が関わっているのは間違いない。

「これで上れるー?」

スルスルと下りてきたのはしっかり結ばれたシーツだった。

「柱にしっかり縛ったよ!でも危ないから一人ずつ上ってきてね」

「とんだお転婆だな、リーナ姫は」

「まるで、誰かさんみたいですね」

チラッとパペに見られながら言われて、ソータは恥ずかしくなった。つい本音がこぼれてしまう。

「お姉様…可愛いのです」

「早くー!」

リーナ姫が上で呼んでいる。ソータたちは一人ずつシーツを掴んで上った。

「わああああ!あたしの部屋に誰かが遊びに来てくれたの初めて!」

リーナ姫が嬉しそうにぴょんと跳んだ。

「待ってて、今お茶を淹れるから」

パチリとリーナ姫が指を鳴らすと向こうから茶器が飛んでくる。

「リーナ姫様、その力は?」

シヴァの傍にいたパペすら驚いている。

「あぁ。あたし、神の生まれ変わり?なんだって。普通の人間なのに、皆あたしに近付くのは恐れ多いとか言っちゃってさ」

むうとリーナ姫が唇を尖らせる。

「あたしには人間のお友達が一人もいないの」

リーナ姫はおかしいよね、と笑った。だが目元には涙が溜まっている。力を持っている以外は、普通の女の子なのだ。ソータは彼女を抱き締めていた。

「大丈夫です。私たちで良ければお友達になります!」

「本当に?」

リーナ姫が目を丸くする。

「離れていてもあたしのこと、忘れないでいてくれる?」

「はい」

ソータたちの返事にリーナ姫がにっこり笑う。地図を描くね、と彼女はクレヨンと画用紙を取り出した。

「皆はお茶を飲んでいて!」

リーナ姫は城で女王になるための勉強をしていることを話してくれた。地図はすいすいと描かれていく。

「あたし、こうやってお友達と遊ぶの憧れだったの!」

「お姫様って大変なんだね」

ロニが気遣うように言うとリーナが笑った。

「お兄ちゃんならあたしの代わりにお姫様になれそうだけど」

「またお姫様って言われた…」

ロニが真面目にショックを受けていて、皆で笑った。

「皆、そろそろ行ったほうがいいよ。なにか大変なことが起きそうなの」

「リーナ姫様、本当にありがとうございます」

ソータはたった一人の姉を抱きしめた。

「ソータ、あなた、私の妹よね?あたし、ずっとずーっと覚えているからね!」

「はい、お姉様」

別れは寂しかったが一行は城を後にした。

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