引きこもり不憫聖女でしたが、逆ハーレム状態になっていました!

はやしかわともえ

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爆発から逃げるためにソータたちは全力で走っていた。気が付くと、いつの間にか、地下の開けた部分に来ている。ここは天体望遠鏡のデータを管理するブースらしい。そこに一人、女性が立っている。彼女はくるりと振り向いた。

「あらあら、よかったわ。キメル様。また会えて」

「リーナ姫?!」

キメル以外の者は彼女の姿に驚いた。

「リーナ姫様は確かに私の保存庫内にいます」

パぺがすかさず言う。

「じゃあ誰だよ」

「あら、私がリーナよ。ほら、美しいでしょう?」

にっこりとリーナの姿をした誰かが笑いながら言った。

「あ!あの首飾り!」

ロニが指をさす。確かに彼女の首にはリーナが着けていた首飾りがあった。ソータは魔力で探る。おそらく彼女は姉ではないはずだ。

「いいでしょう?これ。リーナにダミアンを殺すって言ったらくれたのよ。簡単よね。なんでも言う事を聞いてくれたわ。それどころかこの女」

チッと女が舌打ちをする。瞬間的に女の表情が醜くなる。ソータはこの女が急に恐ろしくなった。姉がこのような表情をすることはまずないからだ。

「今やめれば神々に許してもらえるからもうやめろなんて言うのよ。馬鹿な子。あたしが欲しいのは力なのよ!」

女が両腕を開く。

「今なら世界を掌握できる」

ソータは確信した。この女はリーナではない。誰かがリーナになりすましているのだ。

「一人で悦に浸っている所申し訳ないが、その首飾りを返してくれないか」

エンジの冷静な物言いがカンに触ったらしい。女が激情する。

「なによ、あんた!あたしに指図しないで!そうだ、あたしの部下にならない?美味しい思いが出来るわよ」

ふふ、と女が笑って見せる。

「いや、遠慮しとく」

エンジが引き気味に言う。それがますます女の神経を逆なでしたようだった。

「なんなのよ!あたしがリーナなのに何も上手くいかないじゃない!!!」

だんっ、だんっ、と女が地団駄を踏む。その姿はあまりにも醜い。ソータは前に進み出た。

「キメルに乱暴を働いたのは貴女で間違いないですか?」

「なによ、チビガキ。あんた、キメル様のなんなのよ?」

ソータは仮面を外した。瞳に光はない。

「キメルを傷付けたのは貴女で間違いないようですね」

「な…なによ、気味の悪い子!だからなんだって言うのよ!」

ソータから凄まじい殺気が迸っている。周りの皆もそれに動けなかった。

「キメルがやられた分は全て私が貴女にお返しいたします」

「きゃ、な、なにすんのよ!!」

ソータは女を魔力で浮かせた。ソータにはそれくらいのこと、造作もない。す、とソータが杖を振ろうとした瞬間、キメルがソータの袖を口で掴み、止めた。

「キメル?」

「駄目だ、ソータ。こいつにやられた分は俺が自分でやり返す。お前が手を汚す必要はないんだ」

「キメル…私」

ソータはだんだん悲しくなってきた。キメルは優しい。

「泣くな、ソータ。今だけでいいから」

「はい」

キメルが浮いている女の周りを歩く。

「おい、あんた一体誰なんだ?リーナの力をもらった割にはくそ弱いし、使えねえのは分かるけど」

「なんですって!!」

「事実だろう?」

キメルが角から魔力を放出する。バリバリと顔の皮が破れていく。中からは髭面の男が現れた。

「お前、男だったのか」

「く、くそ!」

男がなんとかしようと空中でもがいている。だが無駄だった。キメルが詠唱を始めている。

「頼む!!勘弁してくれ!俺が死んじまったらあんたも犯罪者だぞ!」

キメルが口の端を持ち上げた。

「俺がそんな迂闊なこと、するかよ」

「にゃああああ!!!」

バリバリバリと雷が男の体を直撃する。えいや、とキメルは後ろ足で男を蹴り飛ばした。

「ぐあああ」

「エンジ、この馬鹿を拘束しろ」

「だから俺は拘束係じゃないんだよ」

と言いつつもエンジがしっかり男を拘束している。

「これは返してもらうからな」

首飾りをエンジが触ると、男は身体を気持ち悪くくねらせた。

「お願い、見逃して」

「いや、無理だから」

はあああとエンジが溜息を吐き、男の首から飾りを奪い取った。

「で、こいつ連れてかなきゃいけないのか?」

エンジの言葉に皆嫌そうな顔をする。パぺだけが手を挙げた。

「私の保存庫で保管しましょう」

「大丈夫なのか?」

パぺが男の額に銃口を当てる。

「な、なにするのよお」

「バン」

「ひ」

男は気絶した。思っていたより小心者だったらしい。パぺが男を保存庫にしまう。ウーと突然サイレンが鳴りだした。

「今度はなんだ?」

「おそらく、ここの防犯システムが動いたようですね」

小さな機械たちが赤いパトランプを光らせながらやって来る。

「ここから元の時代に飛べそうです!」

「危ない!」

機械たちが放ってきた銃弾がロニの左胸に当たる。

「ロニ!」

ソータたちは元の時代へ跳んだ。
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