カラスの月夜

はやしかわともえ

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青鬼の策略

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青鬼は文字通り地上を駆けずり回っていた。
自分はあまり、戦うことは得意ではない。
だからこそ、今できることをしておこう。
そう考えたのだ。

(悪鬼の足を止めるために、罠を張る!)

青鬼は結界を張り、それを繋いで罠を作った。
単純な罠だが、単純な悪鬼にはそれで十分だ。

「おう、青鬼!」

声をかけられて、青鬼はそちらを見た。
河童屋のおやじだ。
何故彼がここにいるのだろう?と青鬼は不思議に思いながら彼に近付いた。

「久しぶりだな!おめえ!ずっとこっちにいたのか?」

おやじにバシバシ背中を叩かれて、咳き込みながら青鬼は尋ねた。

「おやじこそ、どうしてここに?」

おやじがニタリと笑う。
禿げた頭もピカリ、と光ったように思えた。

「俺様はな、新しい商売を始めたのよ。
河童屋地上二号店だ」

「はあ」

おやじは多少酔っぱらっているようだった。
彼から強烈な酒の匂いがする。
うまく話を合わせて先を急ごうと思ったが、じろりとおやじに睨まれた。

「で、おめえ。いつまで一人で頑張るつもりだ?」

「おやじ」

「お前が何をしようとしているのか俺たちが知らなかったとでも?」

おやじの周りにはいつの間にか沢山の精霊や神が集まっていた。

「みんな」

「確かに俺たちは下級のもんだ。でもお前の足手まといにはならねえぜ」

「ありがとう」


(月夜、早く力を取り戻せ。俺たちはそのためにいる)





「月夜、最後だよ」

俺は茉莉也と最後の戦いをしていた。
式神は前と同じ12体だったが、攻撃の精度ははるかに上で強い。

茉莉也の霊力は底なしなのか?いや、そんなはずはない。

(力の配分がうまいんだ。だから最低限の霊力で戦えている)

茉莉也から学ぶべきはあまりにも多い。
でも、今はそれを練習する時間はない。
俺は渾身の一撃を奮った。

「よし、いいぞ」

茉莉也が崩れ落ちた俺に駆け寄る。

「月夜。頑張ったね」

茉莉也の顔を見上げると笑っていた。

いつの間にか雨が降り出している。

「月夜。休んでられない。行こう」

茉莉也が俺に霊力を分けてくれた。
こんなことができるのも茉莉也が上級の神である証拠だ。
俺は立ち上がる。体は軽かった。

「月夜!」

向こうから見知った声がする。
青鬼だ。
昔からの相棒を忘れてしまうなんて俺としたことが。

「青鬼!」

「罠はできる限り張った!どれだけ持ちこたえられるかわからないが」

「ああ、ありがとう」

「青鬼、ありがとうね」

茉莉也の言葉に青鬼は照れたように笑う。

「月夜、行くよ」

茉莉也が霊力を解き放つ。
それはすさまじいものだった。
綺麗な羽衣で茉莉也は飛んでいる。
初めて会ったときの記憶が蘇った。

俺も力を背中に集めた。鴉の翼が生えてくる。
この力を大事に使わなくてはいけない。

「頼んだぞ、月夜」

青鬼に頷いて俺たちは空を目指した。
雲の上は当然雨は降ってない。
月が見えた。大きな月。

「茉莉也、悪鬼は?」

「うん、悪鬼なら青鬼の仕掛けてくれた罠で足止めされてるね」

「急ごう」

「うん」
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