カラスの月夜

はやしかわともえ

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悪鬼の行進

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俺と茉莉也は北へ飛んだ。ひたすら北へ。
だんだん寒くなってきた。

「月夜、ここは北海道だよ」

「ここが・・・」

茉莉也の家にいる間に何回テレビで素敵な旅特集を見たことか。
美味しい海鮮に広々とした土地。
もちろんお肉も美味しいわけで。

「月夜、お腹空いたの?」

なにも言ってないのに鋭いな。

「もう、今度一緒にいこっか」

「ああ」

茉莉也が大人になってから楽しみがある。
それっていいな。
そんなことをのんびり思っていたら咆哮が聞こえてきた。
これは。

「悪鬼がいる。行こう」

雲を抜けて下降する。
そこには足をもつれさせて転んでいる悪鬼がいた。
青鬼の罠は本当によく効いてくれたらしい。
立ち上がろうと悪鬼がもがくと、結界の紐がより体に絡みつく仕組みのようだ。

(よくできている)

「青鬼はやっぱり器用だね。うまく作れている」

茉莉也も褒めている。あとで青鬼に言ったらすごく喜ぶんだろうな。
悪鬼はもがく。そのたびに空気すら振動させるようなうめき声をあげている。
ばたばたと足を動かすたびに地面に割れ目ができている。

「これってすごく大変じゃないか?」

「うん。人間にとっては災害っていう形で認知されるけどね」

「へえ」

どちらにせよ大変なことに変わりはない。
でも悪鬼があんなに大きいなんて。

「大きいよね」

茉莉也の声に焦りが混じっている。
俺の記憶でも悪鬼はもう少し小さかった。
でもこいつを倒さない限り、なにも解決しない。

「月夜、俺が一撃を加えてみる。君はそこからこいつの気配を読んで。今こいつがどうなってるか探ろう」

「わかった」

茉莉也のことだ。何かを考えている。

茉莉也が鋭い大きな槍を具現化して、悪鬼に向けて勢いよく放った。
悪鬼の腹にそれが突き刺さる。
悪鬼の腹からどろりとなにかが流れてきた。
俺はそれを読み取る。これがこいつの力か。
ただ風船のように体を膨らませているだけだ。大して強くない。

ん?

「月夜、どう?」

俺は困ったことに気が付いた。

「茉莉也、気配が二つあるぞ。もう一つは南に向かってる」

「やっぱり」

「どういうことなんだ?」

茉莉也は言う。

「悪鬼は分裂したみたいだね。こいつの動きが単純すぎると思った」

「そうか。なら俺が追いかけよう」

「俺もこいつを仕留めたらすぐ追いかけるからね」

「ああ」

俺は一人で気配を追いかけた。
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