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①電子世界
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「今日はこのお店で一万円分、爆食してみますっ!」
「イベントに備えて新しいネイルにしました!」
「推し活に二桁万円使っちゃいました!」
この時代、スマートフォンという小さな箱に色々な人の感情が詰まっている。僕は画面をスワイプしてため息をついた。正直、見ていてキリがない。皆、自分が幸せであるとアピールしたがるのは何でなんだろう。だからといって僕が不幸なわけじゃない。両親は僕を気にかけてくれるし、こうしてスマートフォンを自由に弄ることも出来る。それなのに何故だか寂しい。
僕の名前は暮 碧羽という。少しネットの世界に強い女子中学生だ。最近2年生に進級したけど、僕は今、学校に通っていない。所謂、不登校というやつだ。
いじめられたからだって周りの大人は思っている。それは間違いではないんだろう。学校に行こうと思うと心が拒絶する。スマートフォンを傍らに置いた瞬間、通知が鳴った。僕は即座にスマートフォンを手に取る。
「アスハ、またゲームのベータ版テスト手伝えよ」
画面に並ぶ文字に僕はワクワクしてきた。
「新作?」
僕がそう返信するとすぐに既読が付く。
「そうだよ。異世界モノだ!お前たち【ラピスラズリ】に頼みたい!今回は一味違うぞ!」
「任せてよ。皆にもすぐ報せる」
「おう!データ、後で送るな!」
僕はお母さんに気取られないようにそっと2階にある自室に戻った。僕の部屋にはノートパソコンがある。一見普通のノートパソコンだけど中身はかなり性能を上げている。僕が中をこっそり弄ったのだ。小さな頃から当たり前のように電子機器と付き合ってきた僕にこれくらいのことは造作もないことだった。僕はマイク付きのヘッドホンを着けて話しかけた。お母さんには友達と話したいからと誕生日に性能のいいものを買ってもらった。
「皆、いる?」
僕の問いに仲間たちが応えてくれる。画面越しの彼らに僕は言った。
「仕事だよ。ザグから連絡があったんだ」
「おっ、新作のゲームか?」
「そう、デバッグ手伝って欲しいって」
「あーちゃんの頼みなら聞かないわけにはいかないよねえ。」
「あしゅ、今日も可愛いね」
通常運転の仲間たちに僕はホッとした。皆、僕と同じワケありの子たちだ。そのせいか一緒にいて居心地がいい。
「皆は何してたの?」
「ゲーム」
「同じくっ!」
「ポイントサイトでアンケート答えてた」
「なんか欲しいもんでもあんの?」
「秘密」
集まるとこうしてワイワイするのもいつもと同じだ。ラピスラズリはこういうチームだ。
ちょっとワケあり、だけど優秀な面々が揃っている。
「アスハ、今回のはどんなゲームなんだ?」
僕はパソコンのキーボードを近くに引き寄せた。カタタと叩く。ノートパソコンのキーボードよりこっちの方が叩き心地がいい。ブラインドタッチ、遊んでいるうちにすぐに出来るようになった。
「今、データを解凍してる。ザグによれば異世界モノなんだって」
「あぁ、またかぁ。ザ・定番だよねぇ」
「ザグ、自信満々だったし面白いんじゃない?」
僕は言いながら解凍したデータのソースコードを確認して皆のパソコンに送った。
「遊びながらバグを探してくれる?」
分かったと皆から返事が返ってきた。僕はホッとしてパソコンを閉じた。僕も今夜から仕事を始めよう。階下に戻るとお母さんが何かを作っている。夕飯までもうすぐだ。
「碧羽ー、お米研いでくれるー?」
「はーい」
お母さんのお手伝いは必須任務だ。僕は台所に向かった。
*
夜になっている。夕飯も食べたしお風呂にも入ったし、僕はもう寝るだけだ。つまり業務開始ということになる。
パソコンの電源を点けると、部屋の暗闇を煌々と照らしていた。ゲームデータをロードする。
「よし、起動!」
その瞬間、僕に浮遊感が襲いかかってきた。叫ぶ間もなく僕は下に落ちている。このままじゃ死ぬ!
怖くなって目を閉じたらふんわりと何かに包まれていた。
「アスハ…」
女の人の声が響く。僕はなんとか起き上がった。目の前に大きな女の人がいる。50メートルくらい?僕はその人の手のひらの上だ。驚いた僕は後ろに尻餅をついた。この人、誰?女の人が語り掛けてくる。
「アスハ…私はシュラ。この世界を支える者。あなたにお願いがあるのです」
「お願い?僕に?」
「この世界を」
ザザザとシュラさんの姿が乱れる。
「おいおい、まさか転生者かぁ?」
ガラの悪そうな男たちが僕らを取り囲む。男たちが乗っているのは空でホバリング出来る小型の飛行物体だ、あれ、いいな。
「なかなか可愛いお嬢さんじゃねえか!」
げへへと笑われて僕は背筋が凍った。僕はスマートフォンを手に持った。良かった。この子がいれば僕は戦える。僕のスマートフォンは僕のノートパソコンよろしく改造済みだ。キャリアには改造がバレないようにするというのがミソだ。このスマホにはパソコン並みの性能を持たせている。
僕は画面を叩いて、スマートフォンのロックを解除した。
「おじさんたち、それいい乗り物だね」
「ははっ、嬢ちゃんにも分かるか!」
「えいっ!」
僕はスマートフォンから飛行機たちのプログラムに僕が組んだコードを割り込ませた。機械で出来ているものはこうすれば大体壊れる。
「わわっ!なんだ?!急に降下してくぞ?!」
くるくる回っていたプロペラの速度が落ちていく。
おじさんたちは背負っていたパラシュートを開いて落ちていった。さ、気を取り直して。
「シュラさん、僕に何を頼みたいの?」
「あなたに世界を救って欲しいのです。この世界は壊れていっています」
僕はびっくりした。世界を救う?僕が?しかも世界が壊れている?
「そんなの絶対に無理。他の人じゃ駄目なの?」
「アスハ、あなただから頼んでいるのです」
話している間もシュラさんの姿は消えかけている。
なんだか断れない雰囲気。
「分かった。僕、出来るだけやってみるね」
「アスハ、ありがとう。近くの街まで送りましょう。お金もその端末に入れておきますね」
有難い。シュラさんは僕を下方に見えていた街に転移させてくれた。
「皆もこの世界に来ているのかな?」
「そこのお嬢さん、1人?」
急に声を掛けられて僕は顔を上げた。
「転生者みたいだけど大丈夫?日も暮れかけてるしうちの宿に泊まらない?」
さて、ついて行ってもいいものか。僕は決めかねた。1人ってすごく心細い。
「大丈夫。宿には俺の母さんがいるし。あそこの宿なんだ」
それなら、と僕はついて行くことにした。一応警戒はしていたけどね。案内してもらった宿は2階建てだ。木造らしい。
「母さん、お客さんだよ」
「おや、可愛い子だね。うちの娘になって欲しいくらいだよ」
「母さんは女の子が欲しかったんだ」
子供の産み分けは出来ないものね。
「母さん、なにか、飯を食べさせてやってよ」
「あいよ」
テーブルに着くと、僕をここまで案内してくれたお兄さんが対面に座った。
「俺はラッド。シュラ様が顕現したのを初めて見たよ」
「シュラ様って?」
「この世界の創造神さ」
あの女の人、神様だったの?
「にしても、あのスパイク団をあんなにあっさり倒しちまうなんてな」
「スパイク団?」
なんかダサい名前だな。
「さっき君に絡んできた奴らだよ。普段から好き勝手して暴れてるんだ」
いい大人なのに…と僕は呆れてしまった。
「そういえば君の名前を聞いてなかったね?」
「僕は碧羽。転生ってなんのこと?」
「君は違う次元からここに来たんだ。シュラ様が招待したんだよ」
「はい、ご飯だよ。ラッド、急にあれこれ言って混乱させるんじゃないよ」
ラッドさんのお母さんがどん、と大きなお皿を置く。わぁ、大盛りのカレーライスだ。
「あぁ、ごめんね。アスハ」
「ううん、今の状況が分かってよかった…です。あの…いただきます」
僕はとにかくお腹が空いていた。スプーンを持ってカレーライスを掬う。口に運ぶとスパイシーな味が広がった。
「美味しい!」
「良かったよ、アスハちゃん。おかわりもあるからね」
僕は文字通りモリモリ食べた。
*
その日はそのままその宿に泊まった。代金は要らないと言われたので、代わりに僕は宿のお手伝いをすることにした。
併設されているレストランのお皿洗いやお掃除だ。普段からお母さんのお手伝いで慣れている。
「アスハちゃん、ありがとうね」
「いえ」
ラッドは近くの工場に勤めているらしい。お弁当を持っていってほしいとラッドのお母さんに頼まれて、僕は言われた場所に向かった。
「ここかな?」
工場は思ったより大きかった。中に入ると受付がある。
「あの、ラッドさんにお弁当を持ってきました」
受付のお姉さんにそう告げると、作業着姿のラッドがやってくる。
「大変だ!!次元が壊れていっている!!」
「ラッド?どういうこと?」
「アスハ!早く逃げるぞ!!」
ラッドにそう言われたけど僕のスマートフォンがさっきから振動している。
「ラッド!僕、何とかできるかもしれない!」
「本当か?なら俺も行く!」
「案内してくれる?」
「もちろんだ!」
僕たちは工場内に突入した。ラッドに示されるまま走る。次元が壊れているというのは本当だった。その先が暗闇になっているのだ。パラパラとシュレッダーにかけられていくように世界が崩れていく。バグが発生しているの?僕はスマートフォンを取り出した。データが欠損していくなら壊れた部分をコードで補完してあげればいい。スマートフォンの画面には世界のエラーコードが羅列されている。こんなに壊れているの?僕はスマートフォンをタップして修正コードを打ち込んだ。スマートフォンが熱を持ち始めている。お願い、止まって!
だんだん次元崩壊が収まっていく。
「止まった…のか?」
「でも完全には世界を修正できてないよ」
「いや、アスハ。君はすごいよ!シュラ様が見込んだだけのことはある!」
「もしかして、世界中でこんなことが起きているの?」
「あぁ。あちこち壊れていっている。皆どうしようも出来なくてな」
それはそうだろう。
「おい!大丈夫か?」
後ろから男の人たちが走ってくる。皆、ゲームのキャラクターみたいだ。カッコいい。
「クリスさん!来てくれたんですね!」
この人たち、ラッドの知り合いかな?
「崩壊が止まっているな。君が食い止めたのか?」
クリスさん、と呼ばれた男の人が僕の前で屈む。
「はい。これで」
僕はスマートフォンを見せた。
「なんだこの機械は?君、もしかして転生者か?」
「はい。僕は碧羽っていいます」
「アスハ、俺たちは世界の崩壊を止めようとしている。一緒に来てくれないか?その機械を使って」
「え?」
急な話に僕は戸惑った。
「クリスさん、アスハはまだ子供ですよ、危険なんじゃ?」
「アスハの身は俺が命に代えても守る。シュラ様が呼んだ子なんだろう?」
ラッドは考えているようだった。埒が明かないと思ったのか、クリスが僕を見る。
「アスハ、君はどうしたい?」
「ここにいても僕は元の世界には帰れないよね?」
「確かにそうだな」
「クリス、僕も行く。ラッド、僕なら大丈夫だよ。安心して」
「アスハ…君がそう言うなら」
「決まりだな、よろしく。アスハ」
僕は差し出されたクリスの大きな手を握った。
*
クリスたち、【イマジンキーパー】は普段、飛空艇で移動しているようだ。飛空艇はすごく速いし静かだ。
「あのね、クリス」
僕にはずっと気になっていたことがあった。クリスはどうした?と屈んで僕の視線に合わせてくれた。優しい人だなと思う。
「もしかしたら、僕の仲間がこの世界に来ているかも」
「アスハの仲間…つまり、転生者ってことか?」
「そう。3人いるんだけど」
「分かった、探してみよう」
急にサイレンが鳴り出す。船がぐらりと揺れた。僕のスマートフォンが振動を始める。取り出して見るとエラーコードが表示されていた。
「世界崩壊が近くで始まっている!!行くぞ!」
飛空艇が方向を変える。絶対に、崩壊を止めなくちゃ。
「イベントに備えて新しいネイルにしました!」
「推し活に二桁万円使っちゃいました!」
この時代、スマートフォンという小さな箱に色々な人の感情が詰まっている。僕は画面をスワイプしてため息をついた。正直、見ていてキリがない。皆、自分が幸せであるとアピールしたがるのは何でなんだろう。だからといって僕が不幸なわけじゃない。両親は僕を気にかけてくれるし、こうしてスマートフォンを自由に弄ることも出来る。それなのに何故だか寂しい。
僕の名前は暮 碧羽という。少しネットの世界に強い女子中学生だ。最近2年生に進級したけど、僕は今、学校に通っていない。所謂、不登校というやつだ。
いじめられたからだって周りの大人は思っている。それは間違いではないんだろう。学校に行こうと思うと心が拒絶する。スマートフォンを傍らに置いた瞬間、通知が鳴った。僕は即座にスマートフォンを手に取る。
「アスハ、またゲームのベータ版テスト手伝えよ」
画面に並ぶ文字に僕はワクワクしてきた。
「新作?」
僕がそう返信するとすぐに既読が付く。
「そうだよ。異世界モノだ!お前たち【ラピスラズリ】に頼みたい!今回は一味違うぞ!」
「任せてよ。皆にもすぐ報せる」
「おう!データ、後で送るな!」
僕はお母さんに気取られないようにそっと2階にある自室に戻った。僕の部屋にはノートパソコンがある。一見普通のノートパソコンだけど中身はかなり性能を上げている。僕が中をこっそり弄ったのだ。小さな頃から当たり前のように電子機器と付き合ってきた僕にこれくらいのことは造作もないことだった。僕はマイク付きのヘッドホンを着けて話しかけた。お母さんには友達と話したいからと誕生日に性能のいいものを買ってもらった。
「皆、いる?」
僕の問いに仲間たちが応えてくれる。画面越しの彼らに僕は言った。
「仕事だよ。ザグから連絡があったんだ」
「おっ、新作のゲームか?」
「そう、デバッグ手伝って欲しいって」
「あーちゃんの頼みなら聞かないわけにはいかないよねえ。」
「あしゅ、今日も可愛いね」
通常運転の仲間たちに僕はホッとした。皆、僕と同じワケありの子たちだ。そのせいか一緒にいて居心地がいい。
「皆は何してたの?」
「ゲーム」
「同じくっ!」
「ポイントサイトでアンケート答えてた」
「なんか欲しいもんでもあんの?」
「秘密」
集まるとこうしてワイワイするのもいつもと同じだ。ラピスラズリはこういうチームだ。
ちょっとワケあり、だけど優秀な面々が揃っている。
「アスハ、今回のはどんなゲームなんだ?」
僕はパソコンのキーボードを近くに引き寄せた。カタタと叩く。ノートパソコンのキーボードよりこっちの方が叩き心地がいい。ブラインドタッチ、遊んでいるうちにすぐに出来るようになった。
「今、データを解凍してる。ザグによれば異世界モノなんだって」
「あぁ、またかぁ。ザ・定番だよねぇ」
「ザグ、自信満々だったし面白いんじゃない?」
僕は言いながら解凍したデータのソースコードを確認して皆のパソコンに送った。
「遊びながらバグを探してくれる?」
分かったと皆から返事が返ってきた。僕はホッとしてパソコンを閉じた。僕も今夜から仕事を始めよう。階下に戻るとお母さんが何かを作っている。夕飯までもうすぐだ。
「碧羽ー、お米研いでくれるー?」
「はーい」
お母さんのお手伝いは必須任務だ。僕は台所に向かった。
*
夜になっている。夕飯も食べたしお風呂にも入ったし、僕はもう寝るだけだ。つまり業務開始ということになる。
パソコンの電源を点けると、部屋の暗闇を煌々と照らしていた。ゲームデータをロードする。
「よし、起動!」
その瞬間、僕に浮遊感が襲いかかってきた。叫ぶ間もなく僕は下に落ちている。このままじゃ死ぬ!
怖くなって目を閉じたらふんわりと何かに包まれていた。
「アスハ…」
女の人の声が響く。僕はなんとか起き上がった。目の前に大きな女の人がいる。50メートルくらい?僕はその人の手のひらの上だ。驚いた僕は後ろに尻餅をついた。この人、誰?女の人が語り掛けてくる。
「アスハ…私はシュラ。この世界を支える者。あなたにお願いがあるのです」
「お願い?僕に?」
「この世界を」
ザザザとシュラさんの姿が乱れる。
「おいおい、まさか転生者かぁ?」
ガラの悪そうな男たちが僕らを取り囲む。男たちが乗っているのは空でホバリング出来る小型の飛行物体だ、あれ、いいな。
「なかなか可愛いお嬢さんじゃねえか!」
げへへと笑われて僕は背筋が凍った。僕はスマートフォンを手に持った。良かった。この子がいれば僕は戦える。僕のスマートフォンは僕のノートパソコンよろしく改造済みだ。キャリアには改造がバレないようにするというのがミソだ。このスマホにはパソコン並みの性能を持たせている。
僕は画面を叩いて、スマートフォンのロックを解除した。
「おじさんたち、それいい乗り物だね」
「ははっ、嬢ちゃんにも分かるか!」
「えいっ!」
僕はスマートフォンから飛行機たちのプログラムに僕が組んだコードを割り込ませた。機械で出来ているものはこうすれば大体壊れる。
「わわっ!なんだ?!急に降下してくぞ?!」
くるくる回っていたプロペラの速度が落ちていく。
おじさんたちは背負っていたパラシュートを開いて落ちていった。さ、気を取り直して。
「シュラさん、僕に何を頼みたいの?」
「あなたに世界を救って欲しいのです。この世界は壊れていっています」
僕はびっくりした。世界を救う?僕が?しかも世界が壊れている?
「そんなの絶対に無理。他の人じゃ駄目なの?」
「アスハ、あなただから頼んでいるのです」
話している間もシュラさんの姿は消えかけている。
なんだか断れない雰囲気。
「分かった。僕、出来るだけやってみるね」
「アスハ、ありがとう。近くの街まで送りましょう。お金もその端末に入れておきますね」
有難い。シュラさんは僕を下方に見えていた街に転移させてくれた。
「皆もこの世界に来ているのかな?」
「そこのお嬢さん、1人?」
急に声を掛けられて僕は顔を上げた。
「転生者みたいだけど大丈夫?日も暮れかけてるしうちの宿に泊まらない?」
さて、ついて行ってもいいものか。僕は決めかねた。1人ってすごく心細い。
「大丈夫。宿には俺の母さんがいるし。あそこの宿なんだ」
それなら、と僕はついて行くことにした。一応警戒はしていたけどね。案内してもらった宿は2階建てだ。木造らしい。
「母さん、お客さんだよ」
「おや、可愛い子だね。うちの娘になって欲しいくらいだよ」
「母さんは女の子が欲しかったんだ」
子供の産み分けは出来ないものね。
「母さん、なにか、飯を食べさせてやってよ」
「あいよ」
テーブルに着くと、僕をここまで案内してくれたお兄さんが対面に座った。
「俺はラッド。シュラ様が顕現したのを初めて見たよ」
「シュラ様って?」
「この世界の創造神さ」
あの女の人、神様だったの?
「にしても、あのスパイク団をあんなにあっさり倒しちまうなんてな」
「スパイク団?」
なんかダサい名前だな。
「さっき君に絡んできた奴らだよ。普段から好き勝手して暴れてるんだ」
いい大人なのに…と僕は呆れてしまった。
「そういえば君の名前を聞いてなかったね?」
「僕は碧羽。転生ってなんのこと?」
「君は違う次元からここに来たんだ。シュラ様が招待したんだよ」
「はい、ご飯だよ。ラッド、急にあれこれ言って混乱させるんじゃないよ」
ラッドさんのお母さんがどん、と大きなお皿を置く。わぁ、大盛りのカレーライスだ。
「あぁ、ごめんね。アスハ」
「ううん、今の状況が分かってよかった…です。あの…いただきます」
僕はとにかくお腹が空いていた。スプーンを持ってカレーライスを掬う。口に運ぶとスパイシーな味が広がった。
「美味しい!」
「良かったよ、アスハちゃん。おかわりもあるからね」
僕は文字通りモリモリ食べた。
*
その日はそのままその宿に泊まった。代金は要らないと言われたので、代わりに僕は宿のお手伝いをすることにした。
併設されているレストランのお皿洗いやお掃除だ。普段からお母さんのお手伝いで慣れている。
「アスハちゃん、ありがとうね」
「いえ」
ラッドは近くの工場に勤めているらしい。お弁当を持っていってほしいとラッドのお母さんに頼まれて、僕は言われた場所に向かった。
「ここかな?」
工場は思ったより大きかった。中に入ると受付がある。
「あの、ラッドさんにお弁当を持ってきました」
受付のお姉さんにそう告げると、作業着姿のラッドがやってくる。
「大変だ!!次元が壊れていっている!!」
「ラッド?どういうこと?」
「アスハ!早く逃げるぞ!!」
ラッドにそう言われたけど僕のスマートフォンがさっきから振動している。
「ラッド!僕、何とかできるかもしれない!」
「本当か?なら俺も行く!」
「案内してくれる?」
「もちろんだ!」
僕たちは工場内に突入した。ラッドに示されるまま走る。次元が壊れているというのは本当だった。その先が暗闇になっているのだ。パラパラとシュレッダーにかけられていくように世界が崩れていく。バグが発生しているの?僕はスマートフォンを取り出した。データが欠損していくなら壊れた部分をコードで補完してあげればいい。スマートフォンの画面には世界のエラーコードが羅列されている。こんなに壊れているの?僕はスマートフォンをタップして修正コードを打ち込んだ。スマートフォンが熱を持ち始めている。お願い、止まって!
だんだん次元崩壊が収まっていく。
「止まった…のか?」
「でも完全には世界を修正できてないよ」
「いや、アスハ。君はすごいよ!シュラ様が見込んだだけのことはある!」
「もしかして、世界中でこんなことが起きているの?」
「あぁ。あちこち壊れていっている。皆どうしようも出来なくてな」
それはそうだろう。
「おい!大丈夫か?」
後ろから男の人たちが走ってくる。皆、ゲームのキャラクターみたいだ。カッコいい。
「クリスさん!来てくれたんですね!」
この人たち、ラッドの知り合いかな?
「崩壊が止まっているな。君が食い止めたのか?」
クリスさん、と呼ばれた男の人が僕の前で屈む。
「はい。これで」
僕はスマートフォンを見せた。
「なんだこの機械は?君、もしかして転生者か?」
「はい。僕は碧羽っていいます」
「アスハ、俺たちは世界の崩壊を止めようとしている。一緒に来てくれないか?その機械を使って」
「え?」
急な話に僕は戸惑った。
「クリスさん、アスハはまだ子供ですよ、危険なんじゃ?」
「アスハの身は俺が命に代えても守る。シュラ様が呼んだ子なんだろう?」
ラッドは考えているようだった。埒が明かないと思ったのか、クリスが僕を見る。
「アスハ、君はどうしたい?」
「ここにいても僕は元の世界には帰れないよね?」
「確かにそうだな」
「クリス、僕も行く。ラッド、僕なら大丈夫だよ。安心して」
「アスハ…君がそう言うなら」
「決まりだな、よろしく。アスハ」
僕は差し出されたクリスの大きな手を握った。
*
クリスたち、【イマジンキーパー】は普段、飛空艇で移動しているようだ。飛空艇はすごく速いし静かだ。
「あのね、クリス」
僕にはずっと気になっていたことがあった。クリスはどうした?と屈んで僕の視線に合わせてくれた。優しい人だなと思う。
「もしかしたら、僕の仲間がこの世界に来ているかも」
「アスハの仲間…つまり、転生者ってことか?」
「そう。3人いるんだけど」
「分かった、探してみよう」
急にサイレンが鳴り出す。船がぐらりと揺れた。僕のスマートフォンが振動を始める。取り出して見るとエラーコードが表示されていた。
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