いちゃらぶ②(日常パート)

はやしかわともえ

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真司×千晶

千晶はお皿が欲しい

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最近、千晶が俺の分しか弁当を作らなくなった。昼休みも外出していて、どこに行くのか聞いても教えてもらえない。
千晶のことだから、やましいことではないんだろうけど。

俺と千晶は今日会議で、そのまま直帰することが決まっていた。千晶がふと最寄り駅の近くにあるコンビニの前で立ち止まる。あ、いつもの新作スイーツのチェックか。千晶は本当に甘い物が好きだよな。あと可愛い物も。

「千晶、入らないのか?」

千晶がなかなか店に入ろうとしないので、焦れて尋ねたら、千晶は思いの外真剣な顔でこちらを見つめてきた。
なにかあったのかと、こちらも驚いてしまう。

「真司さん、怒らないで聞いてくれますか?」

千晶の声は頼りない。本当にどうしたんだ?

「千晶、何かあったのか?」

千晶がスマートフォンを弄りだす。たたた、とそのスピードは速い。
千晶が見せてきたのは青色と赤色の猫の顔の形をした皿の画像だった。
ポイントでもれなくプレゼント、ただし数量限定とある。
もしかして。

「これのポイントを貯めていたのか?」

そう尋ねたら千晶は頷いた。

「昼もポイントの対象になるものを食べてたんですが、もう少しで届きそうになくて」

しょぼーん、とした顔で千晶が言うので、俺は思わず噴き出してしまった。
千晶にむん、と睨まれてしまう。

「悪かったって。俺も協力するから」

「本当ですか?」

ぱああと千晶が顔を輝かせている。単純だな。
そう言えば最近の千晶のブログ、更新が止まっていた。こっちのポイントを貯める為に他の物を買い控えていたんだろう。
千晶は健康に気を遣ってるし、太りたくないみたいだな。
俺からするとちょっとがりがり過ぎやしないかと思うんだけど。

「いいよ。どういうのがあるか教えてくれ」

「真司さんにもっと早く話してれば…」

「まだ間に合うんだろ?」

千晶と店に入って商品を物色する。聞いたことがあるメーカーだなと思っていたら、やっぱり大手の老舗ブランドだった。
千晶がニコニコしながら菓子パンをカゴに入れている。千晶は数字に強い、計算に狂いはないだろう。

「千晶、秋の新作スイーツは買わないのか?ブログを楽しみにしてくれてる人もいるんだし」

俺はスイーツのコーナーを指差した。この時期になるとかぼちゃやさつまいも、栗なんかの商品が沢山出るのだと前に千晶から聞いた。

「真司さん、俺の記事、読んでくれますか?」

「もちろんだよ。ブクマでもいいねでも任せろ」

千晶はスイーツをカゴに入れている。千晶はやっぱりこうじゃなきゃな。

「俺、最近アンパンとクリームパンを30個ずつは食べていて」

それに俺はびっくりしてしまった。サイズが小さめとはいえ、それはちょっとした苦行だ。千晶が諦めかけるのも分かる。
千晶がスマートフォンに何かを打ち込んでいる。どうやら今買った分でポイントが足りたらしい。でもすごい量だな。安易に手伝うなんて言ったけど大丈夫か?

千晶がエコバッグに商品を詰めていく。

「わぁ、久しぶりにあんことカスタードとカレー以外の味が食べられます!」

千晶は本当に頑張ったんだな。

「その皿可愛いもんな」

「はい!このブランド、前からこういう企画をやっているんですが、設定が鬼畜って言われまくっていて」

うん、俺もそれには同意する。

「このブランド好きだし一度やってみたかったんです」

千晶にはいっぱいチャレンジしたいことがあるんだな。そういう所が可愛い。

「真司さんは嫌じゃなかったですか?」

千晶が上目遣いで見つめてくる。可愛い。

「嫌も何も美味しいお菓子とパンが食べられていいんじゃないか?」

「真司さん、流石です!」

千晶のそばにいれば自然とそうなるような。そう思うと、俺は千晶の影響を受けまくってるんだよな。
色々なことを知って、チャレンジしたり失敗したりしている。
それは全部千晶がいてくれたお陰だ。
もし千晶がいなかったら今の俺はいない。乱暴に聞こえるかもしれないけれど、それは間違いなく損失だろう。
俺は千晶の持っていた荷物を持った。

「千晶、今日のブログ楽しみにしてるからな」

「はい!」

千晶がこうしてニコニコしている世界を俺は守りたい。

おわり






※おまけ

その日の夜、ふと思ってスマートフォンで千晶のブログを検索してみた。うん、ちゃんと更新されてるな。
秋の新作スイーツ紹介というタイトルで、千晶による星評価と考察が書かれている。
千晶の考察は、読んでいてなるほどなってものばかりだ。今日もさぞかしいいねの数がすごいんだろうなと思ってスクロールしたら、それはあった。

【某ブランドのお皿、無理かと思っていたけど彼氏さんが手伝ってくれて無事ゲット出来ました!】

おいおい、千晶。
千晶はこのブログでは「姫」って呼ばれてる。
みんな千晶が大好きで、みんなの千晶だ。
えーと、コメント欄、またマックスになってますけど。
俺は怖くなってスマートフォンを手放した。
千晶、頼むから読者さんを煽らないでくれ。
まぁそういうとこも可愛いんだけどな。
でもな千晶…。

俺は悶々と夜を過ごしたのだった。


おわり

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