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千晶の過去
お兄さんのこと
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「千晶、大丈夫か?お前、顔色悪いぞ」
朝食を作っていたら、起きてきた真司さんにこう言われた。毎年そうだから、慣れてきていたつもりだったけど、まだ駄目かって少し悲しくなった。真司さんが朝食作りを一緒に手伝ってくれて二人でいただきますをした。
今日は日曜だから、二人で家でゆっくりしようっていう話をした。
真司さんはいつも美味しそうにご飯を食べてくれる。兄さんもそうだった。毎年、年が明けてしばらくすると俺はすごく追い詰められた気持ちになる。
兄さんを失った夏がまた近付いてきているって思うからだ。
兄さんを失ってもう10年以上経過しているのに、俺は未だにその事実を受け入れられない。
兄さんは死んでいる。もう声も聞けないし、優しく頭を撫でてもらう事もできない。毎年、命日には家族で集まって兄さんを思い出す。父さんや母さんは兄さんは優しい子だったっていつも言う。その日は母さんが揚げてくれた野菜の天ぷらを食べたり、よく冷えたそうめんを啜る。具合が悪くて今まではとても食べられなかったけど、去年は普通に食べられた。その日は、真司さんも一緒に実家に来てくれて、俺の母さんが作った天ぷらが美味いなって優しく手を握られた。
握られた手がすごく温かくて、俺はホッとしたんだ。ずっと孤独だった俺を変えてくれた。真司さんはとても優しい人だ。兄さんと同じくらい。
真司さんには何度も何度も兄さんの話を繰り返し聞いてもらった。
弱音も沢山吐いた。どうして俺が生きていて兄さんは死ななきゃいけなかったんだって。全部俺のせいなのにって。真司さんはそんな時、何も言わない。ただ頷いて頭を撫でてくれる。辛かったなって心で伝えてくれる。
なんでこの人は、こんなに弱い俺を受け入れてくれるんだろうって最初は思っていた。
でも、真司さんに本当に愛されてるって最近は思えるようになった。真司さんにはすごく感謝している。俺は兄さんを亡くして、自分を愛せなくなって、周りとも壁を作った。友達はいたけれど、あまり深くは付き合わないように気を付けていた。俺がいるせいで、みんなを不幸にするんだって思いたくなかったから。
俺は自分を守るのに専念することしか出来なくて、周りのことなんてこれっぽっちも考えなかった。
そんな俺を真司さんは愛してくれた。俺もずっと真司さんが優しい人だと知っていた。
入社した時から、なにかと気に掛けてくれる優しい先輩。それがだんだん恋に変わっていくことを俺は止められなかった。
幸せになっちゃいけない、ずっとそう思っていた。
真司さんとお付き合いを始めてからはますますそう思うようになった。俺のせいで、兄さんは死んだ。俺はのうのうと生き永らえて、彼氏を作っている。そんなの許されない、そう思った。
でも真司さんは変わらず俺を愛してくれる。もう裏切ったらいけない。ずっと大切にするって誓った。
今年もまた夏が来る。
兄さんを亡くした日が来る。
怖いと毎年思う。具合だって悪くなる。
でも俺はもう独りじゃないから。仲のいい大好きな人たちもできた。
そして、その人たちの協力で兄さんの気持ちに触れることが奇跡的にできた。
だから今年は兄さんに改めてそのことを話そうって思う。
兄さんはきっと笑ってくれる。
よかったなって、これからも頑張れよって。
「千晶、よかった。顔色良くなってきたな」
しばらくしたら、真司さんにそう言われた。ずっと気に掛けてくれていたのだと今更気が付く。俺は笑った。真司さんに不要な心配は掛けたくなかったから。兄さんだってきっと俺のことを心配してくれている。
「真司さん、新作のアイス食べませんか?濃厚イチゴってやつなんですけど」
「お、冬バージョンか」
「あの、できるだけ詳しい感想をください。ブログにするので」
「いつもの千晶に戻ってきたな」
真司さん、困ってる。それがなんだか嬉しい。真司さんを独り占めにしてる感があるから。真司さんにアイスの袋を手渡す。
「兄さんのこと、考えてました」
正直に話すと真司さんが頷く。
「俺、多分これからも兄さんを亡くした衝撃を忘れないと思うんです。でも兄さんにずっと心配掛けてちゃいけないって」
「千晶は前に進んでるよ。なんなら俺なんか後退してる時あるし」
「真司さんも前に進んでます!」
二人で笑いあった。好きだな、この人が。こうやって兄さんともよくじゃれ合っていた。そんな優しい記憶を思い出した。どうしてずっと忘れていたんだろう。大切な記憶のはずなのに。俺は兄さんといるのが大好きだった。いつも一緒にいて、笑ったり泣いたりしていた。当たり前だと思っていた。でもそれは違う。人がいなくなる時は一瞬だから。俺はそれをよく知っている。
「真司さん、これからも俺と一緒に居てください。俺から離れないでください」
真司さんに抱き着いたらぎゅってされて頭を撫でられた。大好きだ。これからもずっと。真司さんがいるから俺は生きていられる。重たいって我ながら思うけど、真司さんはそれを受け入れてくれる。
ねえ、兄さん。俺は兄さんをずっと忘れないよ。いつか兄さんのところに俺もいくから。そこで待っていて。約束だよ。
おわり
朝食を作っていたら、起きてきた真司さんにこう言われた。毎年そうだから、慣れてきていたつもりだったけど、まだ駄目かって少し悲しくなった。真司さんが朝食作りを一緒に手伝ってくれて二人でいただきますをした。
今日は日曜だから、二人で家でゆっくりしようっていう話をした。
真司さんはいつも美味しそうにご飯を食べてくれる。兄さんもそうだった。毎年、年が明けてしばらくすると俺はすごく追い詰められた気持ちになる。
兄さんを失った夏がまた近付いてきているって思うからだ。
兄さんを失ってもう10年以上経過しているのに、俺は未だにその事実を受け入れられない。
兄さんは死んでいる。もう声も聞けないし、優しく頭を撫でてもらう事もできない。毎年、命日には家族で集まって兄さんを思い出す。父さんや母さんは兄さんは優しい子だったっていつも言う。その日は母さんが揚げてくれた野菜の天ぷらを食べたり、よく冷えたそうめんを啜る。具合が悪くて今まではとても食べられなかったけど、去年は普通に食べられた。その日は、真司さんも一緒に実家に来てくれて、俺の母さんが作った天ぷらが美味いなって優しく手を握られた。
握られた手がすごく温かくて、俺はホッとしたんだ。ずっと孤独だった俺を変えてくれた。真司さんはとても優しい人だ。兄さんと同じくらい。
真司さんには何度も何度も兄さんの話を繰り返し聞いてもらった。
弱音も沢山吐いた。どうして俺が生きていて兄さんは死ななきゃいけなかったんだって。全部俺のせいなのにって。真司さんはそんな時、何も言わない。ただ頷いて頭を撫でてくれる。辛かったなって心で伝えてくれる。
なんでこの人は、こんなに弱い俺を受け入れてくれるんだろうって最初は思っていた。
でも、真司さんに本当に愛されてるって最近は思えるようになった。真司さんにはすごく感謝している。俺は兄さんを亡くして、自分を愛せなくなって、周りとも壁を作った。友達はいたけれど、あまり深くは付き合わないように気を付けていた。俺がいるせいで、みんなを不幸にするんだって思いたくなかったから。
俺は自分を守るのに専念することしか出来なくて、周りのことなんてこれっぽっちも考えなかった。
そんな俺を真司さんは愛してくれた。俺もずっと真司さんが優しい人だと知っていた。
入社した時から、なにかと気に掛けてくれる優しい先輩。それがだんだん恋に変わっていくことを俺は止められなかった。
幸せになっちゃいけない、ずっとそう思っていた。
真司さんとお付き合いを始めてからはますますそう思うようになった。俺のせいで、兄さんは死んだ。俺はのうのうと生き永らえて、彼氏を作っている。そんなの許されない、そう思った。
でも真司さんは変わらず俺を愛してくれる。もう裏切ったらいけない。ずっと大切にするって誓った。
今年もまた夏が来る。
兄さんを亡くした日が来る。
怖いと毎年思う。具合だって悪くなる。
でも俺はもう独りじゃないから。仲のいい大好きな人たちもできた。
そして、その人たちの協力で兄さんの気持ちに触れることが奇跡的にできた。
だから今年は兄さんに改めてそのことを話そうって思う。
兄さんはきっと笑ってくれる。
よかったなって、これからも頑張れよって。
「千晶、よかった。顔色良くなってきたな」
しばらくしたら、真司さんにそう言われた。ずっと気に掛けてくれていたのだと今更気が付く。俺は笑った。真司さんに不要な心配は掛けたくなかったから。兄さんだってきっと俺のことを心配してくれている。
「真司さん、新作のアイス食べませんか?濃厚イチゴってやつなんですけど」
「お、冬バージョンか」
「あの、できるだけ詳しい感想をください。ブログにするので」
「いつもの千晶に戻ってきたな」
真司さん、困ってる。それがなんだか嬉しい。真司さんを独り占めにしてる感があるから。真司さんにアイスの袋を手渡す。
「兄さんのこと、考えてました」
正直に話すと真司さんが頷く。
「俺、多分これからも兄さんを亡くした衝撃を忘れないと思うんです。でも兄さんにずっと心配掛けてちゃいけないって」
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二人で笑いあった。好きだな、この人が。こうやって兄さんともよくじゃれ合っていた。そんな優しい記憶を思い出した。どうしてずっと忘れていたんだろう。大切な記憶のはずなのに。俺は兄さんといるのが大好きだった。いつも一緒にいて、笑ったり泣いたりしていた。当たり前だと思っていた。でもそれは違う。人がいなくなる時は一瞬だから。俺はそれをよく知っている。
「真司さん、これからも俺と一緒に居てください。俺から離れないでください」
真司さんに抱き着いたらぎゅってされて頭を撫でられた。大好きだ。これからもずっと。真司さんがいるから俺は生きていられる。重たいって我ながら思うけど、真司さんはそれを受け入れてくれる。
ねえ、兄さん。俺は兄さんをずっと忘れないよ。いつか兄さんのところに俺もいくから。そこで待っていて。約束だよ。
おわり
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