俺様系女装男子は幼馴染に可愛いって言われたい!

はやしかわともえ

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2・提案

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大学が始まり、既に10日あまりが経過している。学内で保と会うことはほぼない。学部が違うというのはそういうことだ。早く友達を作らなくてはと慧は焦ったが皆、既に誰かといる。完全にタイミングを見誤った。

「あれ?慧ちゃん一人?」

慧は声の主を無視してくるりと踵を返そうとして失敗した。その主にしっかり腕を掴まれていたからである。ひょいと抱えられてしまえばもう逃げられなかった。

「ばか!離せっ!!」

流石に怖くなって喚くと、その主はすぐに下ろしてくれた。

「慧ちゃんに俺は今日だけで八回声を掛けてますけど」

「だ、だから何だよ?」

ちょっと気まずさを覚えたが、俺様でぶいぶい生きてきた慧は人より心臓が強い。腕を組むことで落ち着きを取り戻した。

「だからね、俺と一緒にご飯食べようよ。農学部でボッチなの俺たちだけだよ?」

確かにその通りだ。授業中もこの男と余り物同士ペアになることが多い。

「たしか、お前、はじめだっけ?」

「そう、土橋はじめ。急に名前で呼んでくれるなんてもしかして脈アリ?」

「何が脈アリなんだ?はじめははじめだろ?」

慧が首を傾げると、あ、そこからなのね、と悟ったような表情で頷かれた。

「えーと、あの山川くんは友達?」

「あぁ、俺の親友な!」

「親友くん、めちゃくちゃ頭いいよね。優性と劣性についてすごく分かりやすく説明してくれてさ」

「保が話したのか?お前みたいなチャラ男と?」

「いや、チャラ男は酷くない?」

はじめが笑う。

「なんか保くん、農学の勉強もしてるんだってよ」

「え?自分の勉強だって大変なのに?」

「聞いてなかったんだ」

はじめが申し訳無さそうな顔をする。

「保に後で聞いてみる」

なんだか力が抜けてしまい、慧は傍にあったベンチに座った。今日は淡いピンク色のマキシワンピースを着ている。姉から借りたものだ。

「慧ちゃん、モデルさんやってるんだってね。なんで農業やりたいの?」

はじめの言葉を捉えかねて、慧はしばらく考えた。よく考えてみれば自分は保以外とこんなに深い話をしたことはなかったかもしれない。

「モデルも農業も踏ん張るのは一緒だからよ」

「そうなの?モデルさんなんてTHE・華やかーって感じじゃん!」

「モデルは体幹とか、ちゃんと体鍛えてないと、できねえんだぞ。筋肉ないとポージングが定まらないし。俺みたいななんちゃってモデルでそうなんだから、本業はやばい」

「へえ、皆軽々やってるのにね」

はじめは本当に驚いているようだ。

「俺が農家やりたいのはじーちゃんとばーちゃんの手伝いがしたいからで」

ふむふむ、とはじめが頷いている。

「跡を継げるかは分からないけど挑戦したいんだ」

「慧ちゃん、カッコいい」

「え?カッコいいのか?ただの夢だぞ?」

「夢なのは分かってるけどさ、ちゃんと実現したいって動いてるし、おしゃれもしっかり楽しんでるのがカッコいいなって」

はじめの言葉に慧はどぎまぎした。可愛いはともかく、カッコいいと言われたのは2回目だ。1回目は保が言ってくれたのだと思い出し、目頭がじんわり熱くなった。そう言えば自分は腹が減っていた。

「とりあえず飯くお」

「慧ちゃん、マイペース!」

はじめに突っ込まれながらも、慧は弁当箱を広げた。今朝、玉子焼きを焼いていたらテレビの占いに気を取られて少し焦がしてしまった。

「慧ちゃんのお弁当美味しそうだね」

「ん?適当におかず作って詰めてるだけだぞ」

「え?自作なの?」

はじめがまた驚いている。

「俺が料理しちゃ悪いのか?」

「いやいや、本当可愛いなって」

可愛いと言ってもらいたいのはお前じゃないと一蹴したい気持ちにも駆られたが、さすがの慧もそこまでは言わなかった。

「うーん、急に聞くけど慧ちゃんってゲイ?」

「そうだな」

「好きな人は?」

「保」

敵わないとはじめが歯ぎしりしている。慧は首を傾げた。

「保は幼馴染だぞ?嫌いなわけないだろ?」

「あ…そういう…」

はじめが察したように頷く。

「じゃあ恋人とかどう?」

「恋人ー?めんどくねえ?だって記念日気にしたりとかするんだろう?」

「そりゃ気にするよ!好きな人と何かするって幸せじゃん」

そういうものか、と慧は目から鱗だった。保にならすぐ可愛い恋人が出来るのだろう。そう思うと妙に焦る自分がいる。それが何なのかは慧には分からなかった。

「とりあえず連絡先交換しない?デートとかしよ」

「デートはしない」

「そうなのね」

きっぱり言う慧にはじめが明らかにしょぼくれていたが、慧が連絡先を渡す頃には復活していた。

「よし、慧ちゃんを口説くまで俺、頑張るからね!」

「なんだそりゃ」

二人で今日出た課題について話しながら昼飯を食べた。慧は午後の講義を取っていたので、時間になるまで図書室で勉強することにする。

「慧」

資料を探していると小声で呼ばれる。保だ。同じ学校なのだから会ってもおかしくないのだが、慧はものすごく嬉しかった。

「レポート?」

「うん、資料借りて家でやろうかと思って」

「あ、じゃあ、後で一緒にやる?」

保と二人きりの勉強会が嬉しくないはずがない。慧は頷いていた。

「なら家でやろうぜ。お母さんが朝、ケーキ焼いてた」

「慧の家には美味しいものがいっぱいあるんだねえ」

「農家だからな」

それ関係ある?と保が噴き出している。

「じゃあ後で」

「おう」

図書室での勉強はかなり捗った。

✢✢✢

「お邪魔しまーす」

保を自室に招き入れると、保がソワソワしているのがよく分かる。慧の部屋はピンク色の家具でまとめられている。可愛いを前面に押し出しているのだ。

「慧の部屋って普通の女の子の部屋より女の子だよね?」

「他の女の部屋に入ったのか?」

思わずムスッとしてしまったが、違うと首を振られた。

「慧のお姉さんの部屋。スタイリッシュではあったけど」

慧もその時一緒にいたのを覚えている。姉が海外へ旅行に行って保にお土産を渡したいと言っていたのだ。随分前なのによく覚えているなぁと感心した。

「慧、今日は英語やるの?」

「あぁ、このテキストの感想文、英語で書かなきゃいけなくて」

「へえ。大変だな。俺も課題やろう」

しばらく二人は黙々と課題に取り掛かっていた。

「なぁ、保。彼女出来たか?」

ぶは、と保が噴き出す。

「出来ないよ。どうして?」

「だって、可愛い子があんなに周りにいるのに」

保はしばらく黙っていた。どうしたのだろう?と慧が待っていると、保が真剣な表情で言う。

「俺、ずっと好きな人がいるから」

ガンとレンガで頭を叩かれたような衝撃が走る。
だがそれを出さないように気を付けながら慧は笑った。

「ずっと気付かないなんてそいつ、相当鈍いな」

「そこも好きなんだよ」

「さすが保。余裕がある」

「すごく俺のこと褒めてくれるしね」

「へー。もう告っちゃえば?」

「うん、ただ自信ないんだよね」

保が自信を持てない相手。高嶺の花のような女性なのだろうか。

「保はイケメンだし、きっと落とせるよ!」

そう言いながらもそんなの嫌だと思っている自分に気が付く。この気持ちはザラザラしていて苦しい。

「慧は好きな人いないの?」

「保」

「それ、友達としてだろ?」

「違うよ、親友として!」

保が慧の腕を引いた。突然のことに慧は目を閉じる。目を開けると保に床に押し倒されている。

「保?俺、プロレスは急に出来ないけど」

ちゅ、と優しく口付けられている。慧は驚いてしまった。

「保?」

「俺、慧のことが好きなんだ」

保の視線が熱い。慧は急に顔が熱くなった。保のキスが思いの外、気持ちよかったせいもある。

「でも俺、男だよ?赤ちゃん産めないよ?」

「慧だから好きなんだ」

ぶわわと顔がますます熱くなった。慧だからという言葉がものすごく嬉しい。

「慧は?」

「よく分かんない。キスとか初めてだったし、あ、でも保のことは好きだと思うよ。キスだって嫌じゃなかったし」

「そっか。それなら友達以上になってみる?」

その提案に慧はごくり、と喉を鳴らしてしまった。友達以上ってなんだろう?と考えてみたが分からない。

「何がどう変わるの?」

「うーん、基本は変わらないけどもっと触ったり?」

「触るんだ?」

うん、と保が笑って頷いた。

「あと、慧にはもっと危機感を持ってほしいんだけど」

「キキカン?なんで?」

「んー、だって今こうして俺に押し倒されてるじゃない」

「それは保だからでしょ」

「それでも危ないなって思ってほしいの」

ふーん、と慧は考えた。保を相手に危機感を持つのはなかなか難しそうだ。

「分かった、危機感持つ」

「ちょっとでもやだなって思ったら俺を殴って良いんだからね」

「え!」

殴るのはちょっと…と思ったが、保はあくまで真面目だ。

「分かった。やだって思ったらね」

「俺も気を付ける、いや、押し倒してる俺が言うなって話だけど」

保が笑う。そっと大事なものを撫でるように頬を撫でられた。

「ふ…」

きゅ、と目を閉じると、頭をよしよしと撫でられる。

「好きだよ、慧」

それでもこの男は「可愛い」とは言ってくれないのか、と慧は思ったが、保を久しぶりに独り占めできたのでまあいいかと思ったのだった。
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