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5・アウトレット
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アウトレットの駐車場に入ると、かなりの車が停まっていた。
「すげえな、こんなに客来るんだ」
慧が驚いていると姉に鼻で笑われた。
「慧は近くのモールでも驚くもんね」
「姉ちゃん!余計なこと言うなよな」
むううと慧が膨れると、姉が笑い出した。
「ごめんって。ほら、純粋っていいことじゃん」
純粋?と慧は首を傾げた。まあ何も知らないと言われるよりましだろう。そろそろ店も開店し始めたらしい。慧たちも車から降りた。
「うっわ、涼しい」
はじめが自分の体を抱きしめる。
「はじめ、ここで何か上着でも買えば良いんじゃないか?」
「え、慧ちゃんが俺の服、選んでくれるの?」
「え」
はじめの言葉に慧は戸惑った。誰かのコーディネートなど今までしたことがない。
「良いじゃん、慧。見てあげたら?俺もファッションの勉強になるし」
保までこんなことを言い始めた。
「予算は?」
渋々はじめに尋ねると、はじめの表情が明るくなる。
「ええ、それって全身コーデってことだよね?」
「ま、まあこれだけ服屋があればそれくらい出来るだろ」
はじめが喜んでいるのに慧は困って、保を見上げた。
「大丈夫、俺もいるから」
保がそう言うなら大丈夫かと慧はほっとした。置いていかれたら悲しくてアウトレットどころではなかった。姉たちは先に限定のアイスクリームを食べるからと途中で別れた。
「うーん、予算は全身で三万くらい?」
はじめが首を傾げながら言う。
「それならこっちの店でいいと思う」
「わわ、慧ちゃんの本気を見られる!」
慧たちが来たのは慧お得意のプチプラの店だった。アウターや靴も合わせればそれくらいかかると見込んでのものだ。
「はじめは普段から格好がチャラ男なんだよな」
うーんと慧は腕を組んだ。もう少しカチッとした服を着せるとどうなるんだろうと言う好奇心が湧く。慧は気になった所から見ていくことにした。今のはじめはシャツに赤いパーカー、デニム、赤いスニーカーというカジュアルな格好をしている。
「これはもしかしたらチャラ男返上出来るんじゃないか?」
慧は選んだ商品をはじめに見せた。グレーのジャケット、インナーに紺色のシャツを合わせる。下もカチッとした細身のグレーのパンツだ。足元は茶色の革靴。ブランド物ではないのだがそれなりにお洒落に見えるものだ。
「へええ、6000円くらいでこんなにお洒落な靴あるんだ」
はじめがしげしげと慧の選んだ靴を眺めながら言っている。
「いやいや、今はこれくらいが当たり前だぞ」
慧が突っ込むとそうなの?と驚かれた。
「そりゃ金持ちの坊っちゃんには安いよな」
ふんと慧が腕を組みながら言うと、はじめが「ひどい」と泣き顔で言う。
「でも、ちゃんと予算内で抑えてあるし、良い感じじゃないかな。土橋くんが真面目な青年にかっちりハマったよ」
保がスマートフォンで値段を計算をしてくれていたらしい。スマートフォンの画面を慧たちに言いながら見せてくる。現時点で20500と表示されていた。
「あとはアウターだな。カッチリしたコートのほうが絶対にいい。はじめは顔がいいんだからチャラ男で居続けるのは勿体ないぞ」
「それ、褒めてるの?貶してるの?」
はじめが子犬のような顔で見つめてきたので、慧は一応褒めてると返した。
「もうすぐ夏だから冬物のアウターは安くなってるはずなんだ」
慧の予感は的中した。アウトレットならではの価格でアウターのコーナーがあったのだ。
「わ、50%オフだって。やっす」
「はじめはこれだ」
慧が取り出したのは黒のロングコートだった。
「え、さすがにクール過ぎない?」
「間違いなく女の子にモテる、冬限定だけど」
まじか!とはじめはコートを眺めた。
「慧ちゃんのお陰で着たことない服着られて新鮮だったよ、ありがとう」
はじめに両手を握られてブンブン振られた。悪い気はしない。保を見上げると、彼が笑いかけてきた。それにドキッとしてしまう。
「慧も欲しい物があるんだもんね」
行こうかと保が手を握ってきたので、慧は縋るように保の手に抱き着いた。保の頭の中にはアウトレットの地図がすべて入っているらしい。慧が着てみたかったブランドを扱うショップに入っていた。可愛らしいデザインが売りのブランドである。慧はずっとここのワンピースが欲しかった。
トルソーに近付くとワンピースの様子がよく分かる。シンプルなデザインながらリボンやフリルが随所にあしらわれている。
「かーわいー!絶対慧ちゃんに似合うね」
はじめが、先程購入した商品を手に言う。慧はワンピースを一着手に取った。サイズも問題ない。色はピンクと、淡い黄色の2色だ。値段も三割引きになっている。
「試着してみる」
二人にそう言うと行ってらっしゃいと送り出された。こうしてブランドものの服が手に取れる機会など滅多にない。そして安く買えるのだから、アウトレットすげーと慧は一人喜々としていた。
化粧がつかないように服を脱ぎ、慎重にワンピースを着てみる。ボタンは脇にあった。それを留める。どうだろう、と慧は鏡を見つめた。
「慧ちゃん、着れたー?」
試着室の外から声がしたので、慧はそろそろカーテンを開けた。
「どう…かな?」
「慧ちゃん可愛いー!似合うよ!ね!山川くん!」
「うん、慧はさすがモデルさんだよね」
やはり保は「可愛い」とは言わないが、褒めてくれているのは間違いない。
「慧、それ可愛いじゃん」
姉たちもやって来て、このワンピースは姉が買ってくれることになった。
「そろそろお昼にしないー?」
姉の一声に皆が頷く。
「お腹空いてる?」
保がふんわり聞いてくれて、慧は少しと返した。本当は物凄く腹が減っている。食欲に負けないよう日々戦っているが、やはりたまに負けてしまいドカ食いしてしまう日もある。やはり、ダイエットは難しい。アウトレットには色々な店舗が立ち並ぶフードコートがある。すでに混んでいて空いている席を探すのが大変だった。
「慧はそこで荷物見てて」
姉にそう厳命された慧は任せろと頷いた。
皆何を食べるのだろう、とボーっとしていると急に腕を掴まれた。
「可愛いね、一人?もしかしてお友達に置いてかれちゃった?」
慧がそちらを見ると若い男だった。こういう手合いのものは無視するに限る。
「腕、離せ」
「離すわけ無いじゃん」
男にそのまま抱き寄せられてしまい慧は焦った。
「っ!やめろ!」
怖くなって泣きそうになる。
「何やってるんですか?この子は、俺の連れなんですが?」
「たもつ…」
「なんだ、彼氏いるのかよ」
男が舌打ちして去っていく。
「慧、大丈夫?」
慧はぎゅっと保に抱き着いていた。よしよしと頭を撫でられる。
「なんで俺ばっかり」
ぐすぐすと鼻をすすると、保はそうだね、と頷いた。保はなんだかんだ毎度助けてくれる。
「大丈夫、俺が必ず守るよ」
「え?」
慧にはよく聞き取れなかったが、大丈夫と保に背中を撫でられてまあいいかと思った。
「慧はサンドイッチ。食べられそう?」
保が持って来てくれたトレイにはたっぷりの野菜が挟まったサンドイッチが載っていた。美味しそうと一気にお腹が空いて来る。
「鶏ささみが入ってるから筋肉にもいいよ」
「ありがとう、保」
ちゃんと筋トレのことも覚えていてくれたのだと慧は嬉しくなった。保はカレーライスにしたらしい。厚めのカツがどかっと載っている。まさに男飯という感じである。
「保は太らなくていいよなあ。俺がそういうの食うとすぐに体重が増えるんだ」
慧がアイスティーを飲みながら言うと保が笑った。
「慧は食べなさ過ぎなんだよ。まあ筋肉も慧よりはあるしね」
「筋肉マウントはんたーい」
ははと保が爽やかに笑っている。その笑顔にドキドキしている自分がいる。なんで自分が好きなんだろうと思ったが、慧も保が好きだ。理由はと言われると困るかもしれない。
「とりあえず食ってみるか」
慧は男らしくサンドイッチにかぶりついた。たっぷりの野菜が入っているのが分かる。もむもむとゆっくり噛んでごくんと飲み込んだ。
「うっわ、美味い」
「慧、久しぶりにちゃんと食べたんじゃないの?」
保には何もかもお見通しらしい。ううと慧が言葉を返せずにいると他の皆も頼んだものを手に戻って来た。
「慧、食べてる?あとでアイス行けばいいのに」
姉に言われて慧は困った。アイスだって本当は大好きなのだ。
「食べたいけど・・・」
慧が言葉を濁しているとはじめがはいはいと手を挙げた。
「俺と山川君と慧ちゃんでアイスをシェアすればいいかと」
確かにそれだけで摂取カロリーは一気に減る。
「せっかく限定のアイスがあるなら俺もオンスターに写真上げたいー」
どうやらはじめはSNSをやっているようだ。
「慧ちゃん、SNSやってる?」
「オンスターならやってるけど、お前には見せたくない」
「ええ、なんでよ?」
はじめが泣きそうな顔をする。保が笑った。彼には唯一相互フォローを許している。
「慧のオンスターは女子そのものだから」
「そう言うことだと思った。じゃあフォローだけしたいからさ」
ね、いいでしょ?とはじめに迫られれば慧は嫌だとは言えなくなってしまう。
「これ」
読み込み専用のコードを出したスマートフォンの画面をはじめに見せる。
「やったあ、慧ちゃんのキラキラした日常見たかった」
「期待するなよな」
「大丈夫、そこらの女の子よりキラキラしてるよ」
保がそう言って笑う。
「保はそういう人をフォローしてるのか?」
慧がむすっして尋ねると保が困ったように笑った。
「ゼミの子にめちゃくちゃ写真見せつけられた。フォローしてって。断ったけど」
優しい保のことだ。載せている写真を見ることを断り切れなかったのかもしれない。
「山川くん、オンスターの女の子の写真はほぼ加工って知ってる?」
「さすがにそれくらいは」
ふふと保が笑った。
「よし、これでフォロー完了と。って慧ちゃん、ほとんど食べたものの写真!」
はじめの突っ込みに保が噴き出す。
「慧は食いしん坊の女の子っていう設定だから」
「ああ、もっとモデルっぽい写真を期待してってフォロワ数10万超えてる!」
「慧の文章が面白いって、ファンが多いんだよね」
「慧ちゃんすっご!」
慧はもう無視してサンドイッチを食べ始めた。
「すげえな、こんなに客来るんだ」
慧が驚いていると姉に鼻で笑われた。
「慧は近くのモールでも驚くもんね」
「姉ちゃん!余計なこと言うなよな」
むううと慧が膨れると、姉が笑い出した。
「ごめんって。ほら、純粋っていいことじゃん」
純粋?と慧は首を傾げた。まあ何も知らないと言われるよりましだろう。そろそろ店も開店し始めたらしい。慧たちも車から降りた。
「うっわ、涼しい」
はじめが自分の体を抱きしめる。
「はじめ、ここで何か上着でも買えば良いんじゃないか?」
「え、慧ちゃんが俺の服、選んでくれるの?」
「え」
はじめの言葉に慧は戸惑った。誰かのコーディネートなど今までしたことがない。
「良いじゃん、慧。見てあげたら?俺もファッションの勉強になるし」
保までこんなことを言い始めた。
「予算は?」
渋々はじめに尋ねると、はじめの表情が明るくなる。
「ええ、それって全身コーデってことだよね?」
「ま、まあこれだけ服屋があればそれくらい出来るだろ」
はじめが喜んでいるのに慧は困って、保を見上げた。
「大丈夫、俺もいるから」
保がそう言うなら大丈夫かと慧はほっとした。置いていかれたら悲しくてアウトレットどころではなかった。姉たちは先に限定のアイスクリームを食べるからと途中で別れた。
「うーん、予算は全身で三万くらい?」
はじめが首を傾げながら言う。
「それならこっちの店でいいと思う」
「わわ、慧ちゃんの本気を見られる!」
慧たちが来たのは慧お得意のプチプラの店だった。アウターや靴も合わせればそれくらいかかると見込んでのものだ。
「はじめは普段から格好がチャラ男なんだよな」
うーんと慧は腕を組んだ。もう少しカチッとした服を着せるとどうなるんだろうと言う好奇心が湧く。慧は気になった所から見ていくことにした。今のはじめはシャツに赤いパーカー、デニム、赤いスニーカーというカジュアルな格好をしている。
「これはもしかしたらチャラ男返上出来るんじゃないか?」
慧は選んだ商品をはじめに見せた。グレーのジャケット、インナーに紺色のシャツを合わせる。下もカチッとした細身のグレーのパンツだ。足元は茶色の革靴。ブランド物ではないのだがそれなりにお洒落に見えるものだ。
「へええ、6000円くらいでこんなにお洒落な靴あるんだ」
はじめがしげしげと慧の選んだ靴を眺めながら言っている。
「いやいや、今はこれくらいが当たり前だぞ」
慧が突っ込むとそうなの?と驚かれた。
「そりゃ金持ちの坊っちゃんには安いよな」
ふんと慧が腕を組みながら言うと、はじめが「ひどい」と泣き顔で言う。
「でも、ちゃんと予算内で抑えてあるし、良い感じじゃないかな。土橋くんが真面目な青年にかっちりハマったよ」
保がスマートフォンで値段を計算をしてくれていたらしい。スマートフォンの画面を慧たちに言いながら見せてくる。現時点で20500と表示されていた。
「あとはアウターだな。カッチリしたコートのほうが絶対にいい。はじめは顔がいいんだからチャラ男で居続けるのは勿体ないぞ」
「それ、褒めてるの?貶してるの?」
はじめが子犬のような顔で見つめてきたので、慧は一応褒めてると返した。
「もうすぐ夏だから冬物のアウターは安くなってるはずなんだ」
慧の予感は的中した。アウトレットならではの価格でアウターのコーナーがあったのだ。
「わ、50%オフだって。やっす」
「はじめはこれだ」
慧が取り出したのは黒のロングコートだった。
「え、さすがにクール過ぎない?」
「間違いなく女の子にモテる、冬限定だけど」
まじか!とはじめはコートを眺めた。
「慧ちゃんのお陰で着たことない服着られて新鮮だったよ、ありがとう」
はじめに両手を握られてブンブン振られた。悪い気はしない。保を見上げると、彼が笑いかけてきた。それにドキッとしてしまう。
「慧も欲しい物があるんだもんね」
行こうかと保が手を握ってきたので、慧は縋るように保の手に抱き着いた。保の頭の中にはアウトレットの地図がすべて入っているらしい。慧が着てみたかったブランドを扱うショップに入っていた。可愛らしいデザインが売りのブランドである。慧はずっとここのワンピースが欲しかった。
トルソーに近付くとワンピースの様子がよく分かる。シンプルなデザインながらリボンやフリルが随所にあしらわれている。
「かーわいー!絶対慧ちゃんに似合うね」
はじめが、先程購入した商品を手に言う。慧はワンピースを一着手に取った。サイズも問題ない。色はピンクと、淡い黄色の2色だ。値段も三割引きになっている。
「試着してみる」
二人にそう言うと行ってらっしゃいと送り出された。こうしてブランドものの服が手に取れる機会など滅多にない。そして安く買えるのだから、アウトレットすげーと慧は一人喜々としていた。
化粧がつかないように服を脱ぎ、慎重にワンピースを着てみる。ボタンは脇にあった。それを留める。どうだろう、と慧は鏡を見つめた。
「慧ちゃん、着れたー?」
試着室の外から声がしたので、慧はそろそろカーテンを開けた。
「どう…かな?」
「慧ちゃん可愛いー!似合うよ!ね!山川くん!」
「うん、慧はさすがモデルさんだよね」
やはり保は「可愛い」とは言わないが、褒めてくれているのは間違いない。
「慧、それ可愛いじゃん」
姉たちもやって来て、このワンピースは姉が買ってくれることになった。
「そろそろお昼にしないー?」
姉の一声に皆が頷く。
「お腹空いてる?」
保がふんわり聞いてくれて、慧は少しと返した。本当は物凄く腹が減っている。食欲に負けないよう日々戦っているが、やはりたまに負けてしまいドカ食いしてしまう日もある。やはり、ダイエットは難しい。アウトレットには色々な店舗が立ち並ぶフードコートがある。すでに混んでいて空いている席を探すのが大変だった。
「慧はそこで荷物見てて」
姉にそう厳命された慧は任せろと頷いた。
皆何を食べるのだろう、とボーっとしていると急に腕を掴まれた。
「可愛いね、一人?もしかしてお友達に置いてかれちゃった?」
慧がそちらを見ると若い男だった。こういう手合いのものは無視するに限る。
「腕、離せ」
「離すわけ無いじゃん」
男にそのまま抱き寄せられてしまい慧は焦った。
「っ!やめろ!」
怖くなって泣きそうになる。
「何やってるんですか?この子は、俺の連れなんですが?」
「たもつ…」
「なんだ、彼氏いるのかよ」
男が舌打ちして去っていく。
「慧、大丈夫?」
慧はぎゅっと保に抱き着いていた。よしよしと頭を撫でられる。
「なんで俺ばっかり」
ぐすぐすと鼻をすすると、保はそうだね、と頷いた。保はなんだかんだ毎度助けてくれる。
「大丈夫、俺が必ず守るよ」
「え?」
慧にはよく聞き取れなかったが、大丈夫と保に背中を撫でられてまあいいかと思った。
「慧はサンドイッチ。食べられそう?」
保が持って来てくれたトレイにはたっぷりの野菜が挟まったサンドイッチが載っていた。美味しそうと一気にお腹が空いて来る。
「鶏ささみが入ってるから筋肉にもいいよ」
「ありがとう、保」
ちゃんと筋トレのことも覚えていてくれたのだと慧は嬉しくなった。保はカレーライスにしたらしい。厚めのカツがどかっと載っている。まさに男飯という感じである。
「保は太らなくていいよなあ。俺がそういうの食うとすぐに体重が増えるんだ」
慧がアイスティーを飲みながら言うと保が笑った。
「慧は食べなさ過ぎなんだよ。まあ筋肉も慧よりはあるしね」
「筋肉マウントはんたーい」
ははと保が爽やかに笑っている。その笑顔にドキドキしている自分がいる。なんで自分が好きなんだろうと思ったが、慧も保が好きだ。理由はと言われると困るかもしれない。
「とりあえず食ってみるか」
慧は男らしくサンドイッチにかぶりついた。たっぷりの野菜が入っているのが分かる。もむもむとゆっくり噛んでごくんと飲み込んだ。
「うっわ、美味い」
「慧、久しぶりにちゃんと食べたんじゃないの?」
保には何もかもお見通しらしい。ううと慧が言葉を返せずにいると他の皆も頼んだものを手に戻って来た。
「慧、食べてる?あとでアイス行けばいいのに」
姉に言われて慧は困った。アイスだって本当は大好きなのだ。
「食べたいけど・・・」
慧が言葉を濁しているとはじめがはいはいと手を挙げた。
「俺と山川君と慧ちゃんでアイスをシェアすればいいかと」
確かにそれだけで摂取カロリーは一気に減る。
「せっかく限定のアイスがあるなら俺もオンスターに写真上げたいー」
どうやらはじめはSNSをやっているようだ。
「慧ちゃん、SNSやってる?」
「オンスターならやってるけど、お前には見せたくない」
「ええ、なんでよ?」
はじめが泣きそうな顔をする。保が笑った。彼には唯一相互フォローを許している。
「慧のオンスターは女子そのものだから」
「そう言うことだと思った。じゃあフォローだけしたいからさ」
ね、いいでしょ?とはじめに迫られれば慧は嫌だとは言えなくなってしまう。
「これ」
読み込み専用のコードを出したスマートフォンの画面をはじめに見せる。
「やったあ、慧ちゃんのキラキラした日常見たかった」
「期待するなよな」
「大丈夫、そこらの女の子よりキラキラしてるよ」
保がそう言って笑う。
「保はそういう人をフォローしてるのか?」
慧がむすっして尋ねると保が困ったように笑った。
「ゼミの子にめちゃくちゃ写真見せつけられた。フォローしてって。断ったけど」
優しい保のことだ。載せている写真を見ることを断り切れなかったのかもしれない。
「山川くん、オンスターの女の子の写真はほぼ加工って知ってる?」
「さすがにそれくらいは」
ふふと保が笑った。
「よし、これでフォロー完了と。って慧ちゃん、ほとんど食べたものの写真!」
はじめの突っ込みに保が噴き出す。
「慧は食いしん坊の女の子っていう設定だから」
「ああ、もっとモデルっぽい写真を期待してってフォロワ数10万超えてる!」
「慧の文章が面白いって、ファンが多いんだよね」
「慧ちゃんすっご!」
慧はもう無視してサンドイッチを食べ始めた。
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