上 下
13 / 16

13・回転木馬②

しおりを挟む
「わああ、どの子も可愛いな」

慧と保は回転木馬に乗るための列に並んでいる。どの馬にしようかと保と話し合っていたのだ。

「あの白い子がいいけどお子様優先だよな」

「慧は優しいねえ」

保がほんわか言う。

「あの水色の子でもいいぜ」」

「慧、あれは」

保が急に青ざめた。どうしたのだろうと思いながら慧は水色の馬に近付き理由を悟った。

「で、でかいな」

「うん、二人乗りだからこれ」

「じゃあ保と乗れるのか」

「慧、そのワンピースで跨るのはちょっと」

「確かにな」

保がひょいと先に乗り、慧が乗るのを手伝ってくれた。慧は跨るのではなく、横向きに座る。
保が慧が落ちないよう支えてくれる。まるで王子様みたいだと慧はドキドキしていた。

「写真撮っていい?」

保が写真を撮ることはなかなかない。

「俺が映っていていいのか?」

「慧との思い出フォルダが増えるから、むしろ映ってもらわないと」

「なんだそれ」

保がヒミツと笑った。
回転木馬が動く合図のブザーが鳴る。ゆるゆると木馬たちが上下を始めた。

「わ、結構速いな」

怖くなって、ぎゅうっと手すりを掴むと、後ろの保が腰を支えてくれた。

「大丈夫、俺が支えてるから」

さすが保である。慧はそんな保に体を預けた。
回転木馬の動きが少しずつ緩やかになっていく。楽しい時は一瞬だ。

「もう終わりか」

「帰りにもう一度乗ろう。それに、これでジンクス達成でしょ」

「そうだな!」

馬から降りる際も保の手を借りた。保が力持ちで有難い。

「保が恋人でよかったぜ」

「そう言ってもらえるなら何よりだなあ」

二人はそれからジェットコースターに乗り、大きく横揺れする体験型のアトラクションに乗った。

「怖かった。なんだあれ」

「そこで休憩しよう」

すぐそばにベンチがあったので慧はよろよろしながらそれに座る。

「慧には刺激が強かったんだねえ」

体験型のアトラクションというものを慧は未経験だった。どうやら新しいアトラクションだったらしい。慧が大学受験のために燃え始めた頃に出来たのだと保は言った。

「脱出するまで体験するの怖すぎる。俺は一般人なんだぞ」

「慧、大丈夫。もう脱出したから」

涙目で訴えるとよしよしと頭を撫でられた。

「疲れた」

「ずっと並んでいたもんね。少し天気も悪くなってきたしそろそろ回転木馬に乗ろうか」

「わあ、そうだな」

「慧は本当に回転木馬好きだねえ」

「ああ、保とずっと乗ってるからな」

「ジンクスも達成したし」

ふふと保が笑っている。二人は再び回転木馬の列に並んでいる。空を見上げると雲が多くなっている。
なんとか持ってほしいと慧は祈った。

いよいよ回転木馬に乗れる番が回って来る。今回は普通の白い馬に乗ることが出来た。保も隣の馬に乗っている。

「慧、こっち見て」

保がスマートフォンを構えている。
慧はそれに向かってピースをした。今はハートのポーズが流行っているが恥ずかしくてなかなか出来ない。
回転木馬が走り出す。今日も一日楽しかった。慧は満足していた。『可愛い』とは言ってもらえなかったがまあいいかと思っている。

土産を見繕って二人は帰ることにした。

「ありがとうな保」

「こっちこそ」

慧の家の前まで保が送ってくれた。

きゅと保に腕を掴まれる。

「キスしていい?」

「ああ」

慧がどきどきしながら目を閉じると保が唇を重ねて来る。

「愛しているよ、慧」

「俺も」

やはりプロポーズみたいだ。保は真剣な表情で慧の頭を撫でて来る。

「合コンなんだけど、俺も一緒にプラン考えていい?」

「え、その方が助かるけど」

「どうも慧狙いで男が来そうだなあって不安になってる」

「はあ?」

慧が怪訝そうな顔をするが保は気に留めない。慧をぎゅっと抱き寄せた。

「ずっと俺のでいてくれる?」

「当たり前だろ。俺が信じられないのか?」

「ううん。慧じゃなくて俺がしっかりしなきゃって話」

「保・・・」

しばらく二人は抱き合っていた。

「保はしっかりしてるから大丈夫だよ」

「ありがとう。じゃあまた」

「明日な」

慧は保に手を振った。

***
夕飯を食べて風呂に入った慧は、のんびりオンスターにあげる写真を加工している。
加工とはいっても全て食べ物の写真だ。人影を消すくらいである。

「これ美味かったなあ」

チュロスの味を思い出しながらふふと笑っていると、スマートフォンが鳴り始めた。保だ。

「保?」

「慧、ピヨッタ見られる?大変なことになってる」

「はあ?急にどうした?イケメン俳優でも結婚したのか?」

「は・や・く!」

なんだよと言いながら慧はPCでピヨッタを検索した。
自分は登録していないので、毎回検索する必要がある。

「検索した?トレンド見て」

「へいへい」

トレンドを見ると七瀬慧という名前がトレンド入りしている。

「はあ?俺はピヨッタやってねえぞ」

「知ってる。今日会った人が呟いたみたいで。神対応だったって」

慧は恐る恐るオンスターの方も起動してみた。フォロワーが10万から20万に増えている。

「あの、保さん。オンスターが」

慧が縋る様に言うとああと向こうから嘆息が聞こえて来た。

「倍になってるよね。やっぱり俺の見間違いじゃなかった」

「とりあえず明日考えるか」

「そうだね。とりあえず慧はいつも通りに過ごしてね。コメントも沢山来るだろうけど気にしないようにね」

「保ありがとうな」

「ううん。慧はただ遊園地で遊んだだけなんだから委縮する必要ないよ」

さすが保は社会の流れを良く知っている。

「ありがとう。おやすみ」

「おやすみ」

慧はいつもの通りオンスターに写真を上げた。コメントも付け加える。
すぐにグッドが付いて嬉しい。
アンチが来ることもあるが慧はあまり気にしない。
いちいち神経を摩耗している場合ではない。一度きりの人生なのだから。

「とりあえず寝よう」

慧はベッドに寝ころんだ。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【男装歴10年】異世界で冒険者パーティやってみた【好きな人がいます】

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:1,464

漫才の小説

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:9,400pt お気に入り:1

【完結】カエルレア探偵事務所《上》 〜始まりの花〜

ミステリー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

私、去年から祈ってる

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:1

天才劇

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

【連載版】婚約破棄ならお早めに

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:106,251pt お気に入り:2,976

処理中です...