47 / 52
SS②
龍牙と夕夏のはじめてのおつかい②
しおりを挟む
私達は途中の駅で、違う路線に乗り換えていた。ウル様は基本的に家で仕事をしている。
でも、今日みたいに本当に時々、出社する日もある。
ウル様の会社、ビルフォード社はルビシアの都心にある。
高層ビルがひしめくように建ち並んだそこは、まさに大都会と呼ぶのにふさわしいのだった。
「あの建物、みんな人間だらけだな」
龍牙が車窓から外を見ながら小声で言う。
「建物の中が見えるの?」
驚いて聞いたら龍牙が笑った。
「俺は目がいいんだ。
いや、兄貴や親父のほうがもっと…」
そう言って難しい顔をして龍牙は黙り込んでしまう。龍牙はお父さんとお兄さんを同時に亡くしている。
あの時、龍牙が怒って暴走した理由はそれが原因の一つだった。
「龍牙、あの時は大変だったよね」
そう言ったら龍牙に優しく頭を撫でられた。
「夕夏、そんな顔をするな。
君は俺の主人なんだからな」
「龍牙…」
「ほら、夕夏。早くビルフォードへ行くぞ」
そう言って龍牙が手を差し出してくれる。
私は嬉しくなって彼の手を握った。
✣✣✣
「夕夏、あれはなんだ?」
龍牙が指を差す。それは長い行列だった。私は背伸びをして見てみる。
何かのお店であることはわかるけど。
「二人共」
「わあっ!」
後ろから声を掛けられて私は飛び上がった。どうやら龍牙は既に気が付いていたようだ。教えてくれればいいのに。
振り向くとウル様が紙袋を両手に提げて立っていた。
「二人共、忘れ物を届けに来てくれたんだね」
「ウル様、どうしてここに?」
「うん、私はこれからお昼でね。ちょうど買ってきたところなんだ」
やっぱりウル様は忙しいんだな。
「二人で何を見ていたんだい?」
「あの行列がなにかなぁって言ってたの」
私はウル様にも分かるようにお店に指を差した。
「あぁ。あそこは抹茶の専門店だよ。オープンしたてだからね。毎日大人気さ」
「抹茶?なんだそりゃ?」
龍牙が首を傾げる。
そっかあ。ドラゴンは抹茶を食べないんだなぁ。
「そうだね、今日帰りに何か買ってこよう。
とりあえず二人共、会社においで」
私達はビルフォード社を目指した。
さっきから思っていたけれど沢山人が歩いている。
みんなスーツ姿だ。いつの間にか私達はオフィス街にいるらしい。
「ビルフォードにようこそ」
ウル様が建物を示す。大きいなぁ。
驚いているとウル様が笑う。
「このビル全部がビルフォードじゃないんだ。一部を借りているんだよ」
それでもすごい。きっとここは地価が高いんだろうな。
建物の中にはゲートがある。
どうやら関係者でなければ中に入れないようだ。ここに来る前にウル様に会えてよかった。
「二人共、お茶を飲んで休憩していきなさい。
お菓子なら沢山あるから」
私と龍牙はお言葉に甘えることにしたのだった。
✣✣✣
ビルフォードの応接間は広くて、ゆったりした大きな革張りのソファが向かい合わせに置いてある。
私達はそこでお茶とお菓子(大福からスナックまでいろいろあった)をご馳走になっていた。龍牙は初めて見たお菓子をおそるおそる口に運んでいる。
「夕夏、龍牙。実は二人に頼みたいことがあるんだ」
対面に座っているウル様が言う。
一体なんだろう?
「二人にうちの広報を手伝ってもらいたい」
「えぇ?」
龍牙もポカン、としている。無理もない。
「ビルフォードは貿易を主として展開しているが、今度からリゾート業なんかにも挑戦しようと思っていてね。ルビシアには大きな港があるし、うまくいくんじゃないかなと思っているんだ。今は特に観光客が多いだろう」
「すごい…」
私が思わず呟くとウル様が笑った。
「もうすぐホテルが完成する。
その宣伝を二人にはして欲しい。二人は兄妹のように見えるしね、みんな優しい気持ちになれるんじゃないかな」
それってなんだかすごく重要な案件だ。
「私達で大丈夫かな?」
不安になって尋ねたらウル様は笑った。
「二人が楽しそうにしていれば大丈夫だよ。龍牙はどうかな?」
龍牙はしばらく黙って、大きく息をついた。
「夕夏を守るのが俺の役目だ。
なんでもこい!」
「決まりだね」
ウル様はやっぱり大人だなぁ。
そうゆうところが好きなんだけれど。
「おや、雪だ。冷えるわけだね」
ウル様が呟く。
「遅くならないうちに帰ることにしようか。ミカエルを呼ぼう」
その日、私達はミカエルさんが運転する車に乗ってお家に帰ったのだった。
③へ
でも、今日みたいに本当に時々、出社する日もある。
ウル様の会社、ビルフォード社はルビシアの都心にある。
高層ビルがひしめくように建ち並んだそこは、まさに大都会と呼ぶのにふさわしいのだった。
「あの建物、みんな人間だらけだな」
龍牙が車窓から外を見ながら小声で言う。
「建物の中が見えるの?」
驚いて聞いたら龍牙が笑った。
「俺は目がいいんだ。
いや、兄貴や親父のほうがもっと…」
そう言って難しい顔をして龍牙は黙り込んでしまう。龍牙はお父さんとお兄さんを同時に亡くしている。
あの時、龍牙が怒って暴走した理由はそれが原因の一つだった。
「龍牙、あの時は大変だったよね」
そう言ったら龍牙に優しく頭を撫でられた。
「夕夏、そんな顔をするな。
君は俺の主人なんだからな」
「龍牙…」
「ほら、夕夏。早くビルフォードへ行くぞ」
そう言って龍牙が手を差し出してくれる。
私は嬉しくなって彼の手を握った。
✣✣✣
「夕夏、あれはなんだ?」
龍牙が指を差す。それは長い行列だった。私は背伸びをして見てみる。
何かのお店であることはわかるけど。
「二人共」
「わあっ!」
後ろから声を掛けられて私は飛び上がった。どうやら龍牙は既に気が付いていたようだ。教えてくれればいいのに。
振り向くとウル様が紙袋を両手に提げて立っていた。
「二人共、忘れ物を届けに来てくれたんだね」
「ウル様、どうしてここに?」
「うん、私はこれからお昼でね。ちょうど買ってきたところなんだ」
やっぱりウル様は忙しいんだな。
「二人で何を見ていたんだい?」
「あの行列がなにかなぁって言ってたの」
私はウル様にも分かるようにお店に指を差した。
「あぁ。あそこは抹茶の専門店だよ。オープンしたてだからね。毎日大人気さ」
「抹茶?なんだそりゃ?」
龍牙が首を傾げる。
そっかあ。ドラゴンは抹茶を食べないんだなぁ。
「そうだね、今日帰りに何か買ってこよう。
とりあえず二人共、会社においで」
私達はビルフォード社を目指した。
さっきから思っていたけれど沢山人が歩いている。
みんなスーツ姿だ。いつの間にか私達はオフィス街にいるらしい。
「ビルフォードにようこそ」
ウル様が建物を示す。大きいなぁ。
驚いているとウル様が笑う。
「このビル全部がビルフォードじゃないんだ。一部を借りているんだよ」
それでもすごい。きっとここは地価が高いんだろうな。
建物の中にはゲートがある。
どうやら関係者でなければ中に入れないようだ。ここに来る前にウル様に会えてよかった。
「二人共、お茶を飲んで休憩していきなさい。
お菓子なら沢山あるから」
私と龍牙はお言葉に甘えることにしたのだった。
✣✣✣
ビルフォードの応接間は広くて、ゆったりした大きな革張りのソファが向かい合わせに置いてある。
私達はそこでお茶とお菓子(大福からスナックまでいろいろあった)をご馳走になっていた。龍牙は初めて見たお菓子をおそるおそる口に運んでいる。
「夕夏、龍牙。実は二人に頼みたいことがあるんだ」
対面に座っているウル様が言う。
一体なんだろう?
「二人にうちの広報を手伝ってもらいたい」
「えぇ?」
龍牙もポカン、としている。無理もない。
「ビルフォードは貿易を主として展開しているが、今度からリゾート業なんかにも挑戦しようと思っていてね。ルビシアには大きな港があるし、うまくいくんじゃないかなと思っているんだ。今は特に観光客が多いだろう」
「すごい…」
私が思わず呟くとウル様が笑った。
「もうすぐホテルが完成する。
その宣伝を二人にはして欲しい。二人は兄妹のように見えるしね、みんな優しい気持ちになれるんじゃないかな」
それってなんだかすごく重要な案件だ。
「私達で大丈夫かな?」
不安になって尋ねたらウル様は笑った。
「二人が楽しそうにしていれば大丈夫だよ。龍牙はどうかな?」
龍牙はしばらく黙って、大きく息をついた。
「夕夏を守るのが俺の役目だ。
なんでもこい!」
「決まりだね」
ウル様はやっぱり大人だなぁ。
そうゆうところが好きなんだけれど。
「おや、雪だ。冷えるわけだね」
ウル様が呟く。
「遅くならないうちに帰ることにしようか。ミカエルを呼ぼう」
その日、私達はミカエルさんが運転する車に乗ってお家に帰ったのだった。
③へ
0
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。
櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。
ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。
気付けば豪華な広間。
着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。
どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。
え?この状況って、シュール過ぎない?
戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。
現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。
そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!?
実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。
完結しました。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる