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プラモデル
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「二人共、いらっしゃいませ」
「いらっしゃい」
7月に入って一番最初の週末、千尋と加那太は千晶の家に遊びに来ている。千晶のパートナーである真司も出迎えてくれた。
この二人に出会ったきっかけは千晶のブログからだ。加那太が千晶のブログにコメントをしたことから始まった出会いだった。四人はもう何度も一緒に遊んだり食事をしている。お互いに同性のパートナーがいることも四人を結び付けていた。
そして、この家にもナキという雌猫がいる。
真司を彼女に独り占めにされると千晶が愚痴るのは毎度のことだ。今日もナキは真司の足下に可愛らしくちょこん、と座っている。そこから動く気は毛頭ないらしい。この家のお姫様だ。千晶が加那太達に冷たいお茶を出してくれた。
「いただきます」
お茶を一口飲むと一気に暑さが吹き飛ぶようだ。加那太は美味しくて思わずお代わりをしてしまった。
あれから加那太がプラフェスタに行くことをメッセージで千晶に告げると、ぜひ家に遊びに来て欲しいと言われたのだ。一緒に渡したいものもあるからと。
今日はそれでここに来ている。
千晶の家にこうして来るのも久しぶりである。キャットタワーが新しくなっていた。千晶に聞くと、どうやらセールをしていたらしい。思い切って購入することにしたということだ。ナキはおとなしい猫だ。だがキャットタワーで遊ぶと、まるで山賊みたいになるらしい。豪快な遊び方に真司は、はじめ驚いたようだ。
「かなさん、俺の分のプラモ、本当に頼んでもいいんですか?」
千晶が目をキラキラさせながら言う。どうやら手に入らないと諦めていたらしい。
「うん。なんとか買えるように動くね」
初めて行く会場でしかも詳しい状況が分からないので、確実な約束は出来ないが、加那太は出来る限り頑張ろうと決めた。
千尋も一緒に頷いてくれるのが心強い。
「わあ、俺めちゃくちゃ楽しみです。あの、かなさんは後半で欲しいものあります?」
千晶は後半の期間にプラフェスタに行く予定になっている。真司もそれを楽しみにしているようだ。
「えっとね、この、ヴァルキリーソード」
加那太はスマートフォンの写真を見せた。これもどちらかと言えば地味な機体だ。だが装備が細かくかつ本格的に作られており、かっこいいのである。ボディはシルバー一色で派手とは言い難い。だが加那太はパッと見ただけでこの機体が好きになってしまった。
「わ、それ俺もいいなって思ってました」
やはり千晶に加那太の好みが伝染してきている。元々千晶はアニメで出てくる好きなキャラクターが乗る機体が好きだった。だが、加那太と出会ってからは機体自体に魅力を感じるようになったらしい。
人というものは少しずつ変化していく。
「へえ、こんなロボットがいるんだなあ」
真司が画面を見ながらのんびり言う。千尋もそれに頷いている。
二人は加那太や千晶の話を聞いて一緒に体験してくれる。
嫌そうな顔をしないところが嬉しいと加那太と千晶はよく話す。
千尋も真司もとにかく優しいのだ。いい彼氏たちである。
「あ、そうそう」
千晶が急に立ち上がってなにやら大きな箱を持ってきた。
「かなさんに作ってもらいたいって、俺の知り合いのブロガーさんが送ってくれたんです」
大きさの割に重量はないのか、千晶が大きな箱をそっと置く。加那太が箱を開けると、大量のプラモデルが入っていた。加那太はその中から一つを手に取る。
「これ、懐かしい!!」
それは、加那太が幼い頃、放映されていたロボットアニメのプラモデルだった。
今では探してもなかなか手に入らない。加那太は箱の中身を確認した。パーツも全部揃っている。部品の劣化もないようだった。
「すごーい。これ、組んじゃっていいの?」
「はい。その人、かなさんが組んだプラモを見たって言ってて」
「え?」
確かに加那太は少し前まで商店街のおもちゃ屋のディスプレイ用にプラモデルを組んでいた。
だがそこも最近店を閉じてしまっている。
賑わいのない商店街程、寂しいものはない。
「どこでそれを?」
「ホームページに写真が貼ってあったみたいです」
「ええ?」
意外な展開に加那太は驚いた。自分が趣味でやってることがこんなに広まっているとは思わなかった。
「組んだらまた送って欲しいって言われてます。もちろん、かなさんがいやなら断っても」
「やる」
加那太は即答した。千晶がそれに笑顔になる。待ってましたとばかりだ。
「やった。俺、加那さんが組んだプラモ、生で見たかったんです」
確かに千晶には見せたことがなかった。写真だけでは細かい部分が見づらいのもある。
「頑張って組むよ。あきくん本当にありがとう」
「いいえ。あ、今日はご飯を食べて行ってくださいね。
俺、角煮を作ってみたんです」
「わあ、すごい」
「このいい匂いはそれか」
千尋も腹が減って来ていたらしい。彼は緩くだが糖質制限をしている。菓子などはあまり口にしないようにしているようだ。
「加那、よかったな。プラモデルいっぱい」
「うん。やることが出来て嬉しいな」
どこでなにがどう繋がるか、人生はわからない。それもまた面白い。
千晶の作った角煮はほろほろと柔らかくてとても美味しかった。
プラフェスタが楽しみだ。
「いらっしゃい」
7月に入って一番最初の週末、千尋と加那太は千晶の家に遊びに来ている。千晶のパートナーである真司も出迎えてくれた。
この二人に出会ったきっかけは千晶のブログからだ。加那太が千晶のブログにコメントをしたことから始まった出会いだった。四人はもう何度も一緒に遊んだり食事をしている。お互いに同性のパートナーがいることも四人を結び付けていた。
そして、この家にもナキという雌猫がいる。
真司を彼女に独り占めにされると千晶が愚痴るのは毎度のことだ。今日もナキは真司の足下に可愛らしくちょこん、と座っている。そこから動く気は毛頭ないらしい。この家のお姫様だ。千晶が加那太達に冷たいお茶を出してくれた。
「いただきます」
お茶を一口飲むと一気に暑さが吹き飛ぶようだ。加那太は美味しくて思わずお代わりをしてしまった。
あれから加那太がプラフェスタに行くことをメッセージで千晶に告げると、ぜひ家に遊びに来て欲しいと言われたのだ。一緒に渡したいものもあるからと。
今日はそれでここに来ている。
千晶の家にこうして来るのも久しぶりである。キャットタワーが新しくなっていた。千晶に聞くと、どうやらセールをしていたらしい。思い切って購入することにしたということだ。ナキはおとなしい猫だ。だがキャットタワーで遊ぶと、まるで山賊みたいになるらしい。豪快な遊び方に真司は、はじめ驚いたようだ。
「かなさん、俺の分のプラモ、本当に頼んでもいいんですか?」
千晶が目をキラキラさせながら言う。どうやら手に入らないと諦めていたらしい。
「うん。なんとか買えるように動くね」
初めて行く会場でしかも詳しい状況が分からないので、確実な約束は出来ないが、加那太は出来る限り頑張ろうと決めた。
千尋も一緒に頷いてくれるのが心強い。
「わあ、俺めちゃくちゃ楽しみです。あの、かなさんは後半で欲しいものあります?」
千晶は後半の期間にプラフェスタに行く予定になっている。真司もそれを楽しみにしているようだ。
「えっとね、この、ヴァルキリーソード」
加那太はスマートフォンの写真を見せた。これもどちらかと言えば地味な機体だ。だが装備が細かくかつ本格的に作られており、かっこいいのである。ボディはシルバー一色で派手とは言い難い。だが加那太はパッと見ただけでこの機体が好きになってしまった。
「わ、それ俺もいいなって思ってました」
やはり千晶に加那太の好みが伝染してきている。元々千晶はアニメで出てくる好きなキャラクターが乗る機体が好きだった。だが、加那太と出会ってからは機体自体に魅力を感じるようになったらしい。
人というものは少しずつ変化していく。
「へえ、こんなロボットがいるんだなあ」
真司が画面を見ながらのんびり言う。千尋もそれに頷いている。
二人は加那太や千晶の話を聞いて一緒に体験してくれる。
嫌そうな顔をしないところが嬉しいと加那太と千晶はよく話す。
千尋も真司もとにかく優しいのだ。いい彼氏たちである。
「あ、そうそう」
千晶が急に立ち上がってなにやら大きな箱を持ってきた。
「かなさんに作ってもらいたいって、俺の知り合いのブロガーさんが送ってくれたんです」
大きさの割に重量はないのか、千晶が大きな箱をそっと置く。加那太が箱を開けると、大量のプラモデルが入っていた。加那太はその中から一つを手に取る。
「これ、懐かしい!!」
それは、加那太が幼い頃、放映されていたロボットアニメのプラモデルだった。
今では探してもなかなか手に入らない。加那太は箱の中身を確認した。パーツも全部揃っている。部品の劣化もないようだった。
「すごーい。これ、組んじゃっていいの?」
「はい。その人、かなさんが組んだプラモを見たって言ってて」
「え?」
確かに加那太は少し前まで商店街のおもちゃ屋のディスプレイ用にプラモデルを組んでいた。
だがそこも最近店を閉じてしまっている。
賑わいのない商店街程、寂しいものはない。
「どこでそれを?」
「ホームページに写真が貼ってあったみたいです」
「ええ?」
意外な展開に加那太は驚いた。自分が趣味でやってることがこんなに広まっているとは思わなかった。
「組んだらまた送って欲しいって言われてます。もちろん、かなさんがいやなら断っても」
「やる」
加那太は即答した。千晶がそれに笑顔になる。待ってましたとばかりだ。
「やった。俺、加那さんが組んだプラモ、生で見たかったんです」
確かに千晶には見せたことがなかった。写真だけでは細かい部分が見づらいのもある。
「頑張って組むよ。あきくん本当にありがとう」
「いいえ。あ、今日はご飯を食べて行ってくださいね。
俺、角煮を作ってみたんです」
「わあ、すごい」
「このいい匂いはそれか」
千尋も腹が減って来ていたらしい。彼は緩くだが糖質制限をしている。菓子などはあまり口にしないようにしているようだ。
「加那、よかったな。プラモデルいっぱい」
「うん。やることが出来て嬉しいな」
どこでなにがどう繋がるか、人生はわからない。それもまた面白い。
千晶の作った角煮はほろほろと柔らかくてとても美味しかった。
プラフェスタが楽しみだ。
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