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第二話

力の返還

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加那太は千尋が去り際に握ってくれた、彼の手の感触を思い出していた。
自分をいつも愛してくれる優しい手だ。
それに変わりはなかった。
改めて千尋の気持ちが嬉しい。

(千尋はまた僕に力をくれた。僕をずっと想ってくれている)

「加那太、大丈夫か?」

レオが心配そうに尋ねてくれる。

「僕は大丈夫。それより神様が」

ウンディーネは倒れていた。
命のぎりぎりまで体力を削られてしまったらしい。千尋の力は相変わらず凄まじいようだ。
だが、今回はなんとか止めることができた。

「大丈夫ですか?」

加那太が尋ねると、ウンディーネは目を開けた。

「まさか妾が人間に助けられるとはな」

ウンディーネが自嘲気味に言う。

「貴様たちは何故ここに?」

ウンディーネの疑問は最もだった。
レオがぎゅっと拳を握る。

「加那太の中にあるハルカの力を元に戻したいんだ!頼む、儀式をして欲しい!」

「ハルカ…あの概念化した小娘か。
だが、やつは妾を殺そうとしたんだぞ」

「それは…そうかもしれないけれど、あれはハルカじゃないっていうか」

レオがすっかり困ってしまっている。

「ハルカさんは今、自分を見失っています」

加那太のはっきりした物言いにウンディーネは頷いた。

「よろしい。だが、また何かあるようであれば、次は容赦しない。いいな?」

「分かりました」

「ならばそこに立って祈れ」

ウンディーネに言われるがまま加那太は紋章の描かれたパネルに乗った。
力をハルカに少し返すために。

「加那太、本当によかったの?」

心の中でハルカにそう問われる。

「君は人間に戻らなきゃいけない。
レオがあんなに心配しているんだから」

「うん」

ハルカは照れくさそうに笑った。
加那太は願う。ハルカが早く自分を取り戻してくれることを。
加那太の中にいるハルカは、優しい。
だが千尋の中にいるハルカは全く逆だ。
残忍で冷酷である。

(何が彼女をそうさせたんだろう?)


加那太は思いを巡らせるのであった。


✢✢✢

加那太たちがゴルド寺院を出ようとすると、向こうに人影が見えた。ヨリだろうか?

「加那」

声を聞いて、加那太にはそれが誰だかすぐ分かった。

「千尋なの?」

「すまない…」

千尋は手刀で加那太の意識をあっさり奪う。倒れる加那太を千尋は優しく抱き止めた。

「なにするんだよ!!」

レオが剣を手に身構えている。千尋は首を振った。自分には彼と戦う意志はない。

「加那のために一緒に来てくれ」

「え?」

レオがぽかんとしている。

「ハルカは加那を傷付けようとしている。俺はそれだけは絶対にしたくない」

「あんた、記憶が?」

「あぁ、大分戻ってきている。
だがハルカに悟られるわけにはいかない。
俺はしばらくあそこから動けないんだ」

「よし、それなら協力する!
俺達は何をすればいい?」

レオの真っ直ぐな意志が嬉しい。

「何もしなくていい。
ただ閉じ込められていてくれ」

「えぇ?!」

「ハルカは俺が止めるから」

千尋の言葉にレオは首を振った。

「そんなの無理だ。
ハルカは今おかしくなっちまってる。
あんたが強いのは知ってるけど!」

「レオ…」

ピンク色の光が浮かんできた。

「千尋、私もハルカの一部。私が私を食い止めてみせます」

「ハルカが二人?」

千尋の驚きは最もだった。

「加那太が言うには、ハルカの論文の中にいたハルカなんだってさ。難しいことはよくわかんねーけど、こっちのハルカも強いぜ!」

千尋は彼女に手を差し伸べた。

「俺と来てくれるのか?」

「もちろんです。私はこれ以上過ちを繰り返したくない」

「わかった。頼む。
加那とお前には少し大人しくしておいてもらう。これを」

千尋がレオに託したのは鍵だった。
なんの鍵かは言わずとも分かる。
今、ハルカは千尋から離れている。
だからこそできる芸当だった。

「あんた、本当に抜け目ないな」

「もう大人だからな。時間があまりない。行くぞ」

千尋に連れられて行った先には高い壁で囲まれた牢があった。

「こんなのがあるなんて…」

「ハルカが作ったんだ」

「俺たちが相当目障りだったんだな」

レオの言葉に千尋は笑った。
感情も少しずつ取り戻してきているようだ。

「中に入ってくれ。加那は眠っているだけだ。俺はもう行かなきゃいけない」

「わかった、上手くやれよ」

「もちろんだ」

加那太とレオを牢に入れて鍵をかける。
そして千尋は疾走っていた。
ハルカと共に。

「私は次の寺院に向かうんでしょうね」

「あぁ。今、雷電の改良をしているようだ。
次の神は火の神らしい」

「イフリートですか」

「何故神を殺す?神を殺しても概念になるだけだろう?」

「私は一番になりたかった…。誰からも認められたかったの」

「くだらねえな」

千尋は吐き捨てた。

「本当にその通りですね」

ハルカの声が虚しく響いた。
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