3 / 11
三話・喫茶モンスターついに開店?!サリアのお手伝い
しおりを挟む
1・もう次の日になっている。あたしたちはウインディルムの湖社に招待されていた。昨日の夜、急に社長秘書を名乗る女性から電話が来たのだ。お店の開店前に、あたしたちに見せたいものがあるのだと彼女は言った。お姉ちゃんはのほほんと簡単に了承していたけど、本当に大丈夫かな?店まで迎えに行くと言われて待っていたら、高そうな車で迎えに来られた。これ、もしかしてヴァンツじゃない?と思わず呟いたら、たかしが頷いていた。そんな車が目立たないわけがない。町のみんながポカンとした顔でこちらを見ていて、ちょっと恥ずかしかった。絶対に噂になる。いや、既に噂にはなってるけどね。新しい喫茶店はモンスターの素材を使った料理を出す変わった店だって。いい意味でも悪い意味でも噂は広まるものだ。しょうがない。湖社は思っていたより小規模な建物だった。いや、正しく言うとしたら、会社の建物は小さいけど、持っている土地はめちゃくちゃ広い。
湖の周りのほとんど全てが、湖社が所有する土地なのだそうだ。そんな広い土地で何をしているか。そう、それは競馬場だ。競馬というのは馬獣を走らせて順位を当てる大人のゲームだ。お金を賭けるという部分が面白い部分らしい。正直に言って、あたしにはその面白さがよく分からない。出迎えてくれた社長秘書さんはパンツスーツで決めた綺麗なお姉さんだった。眼鏡がより知的さをアピールしている。
「社長、お客様をお連れいたしました」
湖社の最上階に社長室はあった。こんなところ、滅多に入れない。椅子に座っていたのはこの間のおじいちゃんだった。以下、社長さんと呼ぶことにする。隣にある応接間にあたしたちは案内された。
「よく来てくれたね」
「この度はお招き頂いてありがとうございます」
お姉ちゃんが頭を下げたので、あたしたちも倣う。
秘書さんが冷たいお茶をあたしたちの前に置いてくれた。喉が乾いていたから嬉しい。あまりぐびぐび飲むのもどうかと思って、一口だけにした。スッキリして美味しい。
「君たちの店はキッチンカーでの出店を考えていないのかね?」
どうやらズバリ本題らしい。お姉ちゃんは少し考えて答えた。
「そうですね、お店もまだ開店前ですし、キッチンカーを購入する予算もなくて」
「試しに一度ここで出してみないかね?」
「え?」
本当にえ?だよね。あたしもびっくりしてしまった。社長さんが言うにはキッチンカーを貸してくれるとのことだった。しかも出店料も無料にしてくれると。
「ですが、そこまでして頂く理由が…」
あのお姉ちゃんが慌てている。社長さんが笑った。
「老人の気まぐれだと思ってくれたらいい。
シチューとコーヒー、とても美味かった」
お姉ちゃんは社長さんの胃袋をがっちり掴んだようだ。
「もし、キッチンカーを出すなら出店はいつになりますか?」
「明日だ」
ひえ、明日?準備間に合うかなぁ?
「分かりました、よろしくお願い致します」
お姉ちゃん、引き受けちゃうの?
大丈夫かな?
「楽しみにしているよ」
社長さんが笑う。お姉ちゃんはどんなメニューをキッチンカーで作るつもりなんだろう?
2·またあの高そうな車に乗せられて、あたしたちは店に戻ってきた。
「さ、サリアちゃん、たかしくん。これから明日の準備をするわ。手伝って頂戴」
「はーい」
お姉ちゃんに指示されたのはお遣いだった。そう、キッチンカーで必要なのは使い捨ての皿やスプーンたちだ。環境問題がとか言われているけれど、もうなくてはならない必需品になりつつある。今はほとんど紙で作られているみたいだけど、やっぱり少し値が張る。
たかしと行ったのは、日用品を専門に扱うお店だ。
ウインディルムの開拓はまだまだこれからも進んでいくんだろうな。楽しみ。でももちろん自然も大事。
店内に入ると目的の物はすぐ見つかった。
「これかな?」
「そうだね。紙コップもいるよね?」
たかしとあれこれ言い合いながら商品をカゴに入れていく。料理を出せても、100が限界とお姉ちゃんに言われたので、余分に150個ずつ買った。
明日の出店に関しては湖社が急遽宣伝してくれることになった。ドキドキする。
でもやることはいつもと変わらないよね。
店に戻ると、お姉ちゃんが明日必要な食材を確認していた。
「お姉ちゃん、明日は何を作るつもりなの?」
お姉ちゃんがふんわり笑う。
「明日はエッグバーグマフィンよ。お肉をこれからミンチにしてハンバーグの形に成形するの」
「あたしもやる」
「俺も手伝うよ」
「助かるわ、二人共」
お姉ちゃんがモンスターから獲った生肉を包丁でどんどん細かくする。粗めのひき肉って美味しいからね。それを秤で量りながらハンバーグの形に成形。よし、まずは一個目。たかしはこういうの得意だからな。あたしより綺麗に成形してる。負けてられない。
なんとか100個出来た。
「お姉ちゃん、後は?」
「マフィンは多めに仕入れたから明日の朝届くわ。あとは卵ね」
「あの小麦粉をくれた人から買ってこようか?」
「助かるわ。お願いね」
お姉ちゃんからお財布を預かる。たかしも一緒に行ってくれることになった。心強いって思ってしまう。
たかしはあたしの中でかなり大きな存在になってきてしまっている。記憶が戻ったらサヨナラなのかな?そんなの絶対に嫌だ。でもたかしの気持ちを尊重してあげなきゃいけないのも分かっている。あたしはどうやって気持ちに折り合いをつければいい?たかしを見たら優しく笑われた。そういうところよ。
麦畑に到着した。
やっぱりキラキラしてる。風が吹いていて気持ちいい。ざあっと麦たちが擦れ合う音がたまらない。
「サリアちゃん、卵は何個くらい買うの?」
「そうね、これも150ぐらいでいいと思うけど」
大きなお家の呼び鈴を鳴らすと、あのエルフさんが出てきてくれた。あたしは言う。
「あの、明日卵が必要で、買いたいんですけど」
「いくつ欲しいの?」
「150ほど」
「分かった。明日の朝届くように送るから住所教えて」
前にも思ったけど、このエルフさん、結構ぶっきらぼうだな。でも悪い人ではなさそうだ。
「結局あの小麦粉は何に使ったの?」
「パンケーキにしました」
あたしが答えるとエルフさんが笑う。
「今度食べに行くよ。聞いたけど、開店前に明日キッチンカー出すんでしょ。いい宣伝になるといいね」
や、優しいー。このエルフさん、ギャップ萌えじゃん。しかも既にキッチンカーの宣伝をしていることも知っていてくれた。いいビジネスパートナーになれそうかも。
卵はキッチンカーに直接持ってきてもらえるようにお願いした。
「お金は届いた時に引き換えでいいよ」
「あ、ありがとうございます!」
これで卵もオッケーかな。
そうだ、とエルフさんが笑う。
「ちょっと見てかない?」
なにを見るんだろう?とあたしは思った。エルフさんに手招きされてついていく。ぐるりと回りこみ牛舎に彼は入っていった。こんな所にあったんだ。あたしたちも後ろをついていく。わ、牛獣がいっぱいいるー。
「ほら」
「わ、赤ちゃんですか?」
牛獣の赤ちゃんがこてん、と体を横にしている。可愛い!
「ミルクをあげてみない?」
「え!いいんですか?」
「いいよ」
あたしたちはミルクをあげてみた。ゴクゴクとすごく飲んでいる。どうやら女の子みたいだ。この子も大きくなったらミルクを出してくれるようになる。
「すごいね、たかし」
「お母さんになったみたいだよね」
確かにその通りだ。あたしもいつかお母さんになれるのかな?って、待って。まだお相手すらいないんだから気が早すぎるっての!たかしが空になった哺乳瓶を赤ちゃんから離そうとすると咥えたまま離さない。もしかしてお腹いっぱいになってない?
「この子、すごく食いしん坊さんだから」
そんなところも可愛い。エルフさんが赤ちゃんの頭を撫でて哺乳瓶を口から離していた。
「でね」
あれ、まだ何かあるの?あたしたちはエルフさんを見つめた。
「ここの手伝いをしてくれたら素材代も安くできるよ。基本的にこの村の人だけでここをやってるから手伝ってもらうと、すごく助かるんだよね」
「やらせてください!」
あたしは飛び付くように言っていた。だって新鮮な食材を安く調達できるなんて素晴らしいことだ。
「俺もやります」
たかしもそう申し出てくれた。
「ありがとう。君たちみたいな人になら安心して任せられる」
エルフさんがそう言ってくれてよかった。よし、まずはキッチンカーだ。
2·次の日、早朝になっている。いざキッチンカーとは言ってもやっぱり車は車だ。中は狭い。居られても二人が限界だ。たかしには外で注文の品をお客様に届ける作業をしてもらうことにした。あたしはお姉ちゃんのサポートと飲み物を担当することになった。お姉ちゃんはひたすら調理と盛り付けだ。店を出せるのは夕方4時まで。競馬をしに来るお客様がここを利用する。他のお店も当然ある。お酒はうちの店にはないから少し不利かもしれないな。どこに行ってもビアの文字が書かれているし。
材料も無事に届いている。良かった。たまごも丈夫な入れ物に入って届けられた。よかった。
「サリアちゃん、たかしくん、今日は頑張りましょうね」
「うん、頑張ろう」
たかしが手を差し伸べた。お姉ちゃんがその手の上に手を重ねる。
「目標は完売よ。頑張るわ」
あたしも二人の手の上に自分の手を重ねた。
「えいえいおー!」
なんだかチームみたいで楽しい。さあ、始まるわよ。
昼前になってようやくお客様がぱらぱら現れるようになった。どうやら1レース目が今、終わったみたいだ。喉も乾いたしというところだろうか。
「お、コーヒーもあるんだ」
お客様の一人がウチの看板を見て声を上げた。
「火山地域の特産の豆を使用しています。いかがでしょうか」
すかさず声を掛けたらお客様が近づいてメニューを見に来てくれた。今日のメニューもシンプルにエッグバーグマフィンとアイスコーヒーとカフェオレだ。
「エッグマフィンいいね。二つ貰おうかな。あとアイスコーヒーもブラックで」
「かしこまりました」
お客様来たー!!レジでお金の精算をする。アイスコーヒーはキンキンに冷えている。
「コーヒーになります」
たかしがコーヒーを運んでくれた。エッグバーグマフィンは注文を受けてから作るからどうしても時間がかかるのよね。でもさすがお姉ちゃん。凄まじいスピードでマフィンを作ってしまった。
「お待たせいたしました」
「うわあ、うめえ」
一口噛り付いたお客様が思わずといった様子で声を上げる。もちろん周りのお客様にもこれが聞こえているわけだ。
さくらみたいだけどこういうの大事だよね。ぱらぱらと店を利用し始めるお客様が増えている。3レース目が終わってお昼を食べようというお客様が多くなってきた。いつの間にかあらゆる店に行列が出来ている。あたしたちも当然忙しい。
「たかしくん、次でマフィンが切れるわ」
お姉ちゃんがふうと息を吐きながら言う。気が付いたらもう午後だった。ここまで早かったなあ。
こうしてキッチンカーの出店は無事終わることが出来たのだった。
「今日の売り上げはー」
夜、家に帰ってお姉ちゃんが早速お金を数えている。
「42000ダラーでした」
「やったあ」
お店のチラシも大分配れたし、今回の出店は大成功って思っていいのかな。お店の開店の日もお客様が集まってくれれば嬉しいけれど。
キッチンカーを出した翌日、あたしたちは再び湖社にいる。もちろんお土産を持ってだ。
熱魔法のかかったエッグバーグマフィンとブラックのキンキンに冷えたアイスコーヒーである。
「おお、嬉しいねえ」
社長さんと秘書さんも食べ始めてくれた。
「うーん、やっぱり美味いなあ」
「美味しいです」
「今回は本当にお世話に・・」
お姉ちゃんの言葉を社長さんが手で制す。
「また出来る時は店を出してほしい。君たちの店はかなり評判が良かったよ」
そう言って貰えて嬉しい。お姉ちゃんも頬を緩ませている。
「開店日にはまた行かせてもらう。楽しみにしているよ」
「ありがとうございます」
こうして合間に畑のお世話をしたり、エルフさんのお手伝いをしたり、お姉ちゃんのメニュー試食会をしたり、採集クエストを受注したりしているうちに開店初日になっている。ここまであっという間だった。
今日の為にあたしたちはかなり頑張った。今日だって頑張るぞ!
「お姉ちゃん、そろそろ開店時間だよ」
「ちょっと待って。お砂糖がなくなりそう」
な、なんだって?
「お姉ちゃん!どうするの?」
「大丈夫よ、交易で取り寄せてもらってるし」
そういえばそうだった。
「俺が取りに行くよ」
たかしがエプロンを外しながら言う。
「待って、あたしも行く」
「サリアちゃん、開店まで5分しかないからここにいてあげて?」
たかしに諭されるように言われてあたしは頷くことしか出来なかった。たかし、帰ってくるよね?あたしは不安だった。このままたかしがいなくなったらあたしはすごく傷付くと思う。たかしがあたしを見て屈んだ。頭を撫でられる。
「サリアちゃん、心配要らないよ」
「あ、あたしだってあんたを信頼してるんだからね!」
「ありがとう。アリアちゃん、すぐ戻るからね」
「気を付けていってらっしゃーい」
たかしの大きな背中が小さくなるのを見守っていたら、お姉ちゃんにも頭を撫でられた。
「さ、開店よ!」
そうだ、今日は大事な開店初日だ。あたしは店の外に出てみた。すごい。行列が出来ている。あまりお待たせさせないように上手くさばかないとね。
「お待ちのお客様、ご案内致します」
あたしは順番にお客様を店内に誘導した。
オーダーを取って、お姉ちゃんに伝える。コーヒーとカフェオレを合間に淹れてテーブルに運んだ。
「ただいま」
たかしが裏口から入ってくる。彼の表情が固い。どうしたんだろう?
「なんかすごい量もらった…」
たしかにその通りだ。この間の袋の2倍はある。
「あらまあ。リンカさん張り切ってくれたのね。私もこれから注文のパンケーキを焼くわ。二人共頑張りましょう」
お姉ちゃんに励まされると、すごく頑張ろうって思えるな。
「たかし、外でお客様の誘導頼める?あたしは店内でさばくから」
「了解」
たかしがいてくれて本当によかったな。あたしとお姉ちゃんだけだったら多分、ここまで来れてない。
今日の最後のお客様は社長さんだった。本当に来てくれたんだ!嬉しい!エルフさんも様子を見に来てくれた。
「今日のおすすめは?」
社長さんに尋ねられてあたしは考えた。お姉ちゃんの作るものは何でも美味しい。
「社長さんには特別メニュー出しちゃう」
お姉ちゃんがそう言って笑う。特別メニュー?ってなんだろう?
厨房に向かうと、お姉ちゃんはフライパンを振るっていた。これは。
「ナポリタン?」
「お店の味を引き継ぐ約束ですもの」
お姉ちゃんは秘伝のレシピを教わったらしい。社長さんは相変わらずがつがつ食べた。
「うん、美味いね。メニューに加えないのかい?」
社長さんにお姉ちゃんが笑いかける。
「いずれ加えようかと」
「ああ、それがいいね」
ナポリタンを作るならピーマンや玉ねぎ、ソーセージも必要だ。なにより肝心なのはトマト。
ウインディルムにあるお店じゃ、なかなか新鮮な野菜は手に入らないから、ナポリタンはレアなメニューになる。お姉ちゃんはパスタの麺を小麦粉から作ったらしい。
大変だったと言っていた。今度からは手伝おう。
ついに「喫茶・モンスター」は開店したのだ。
湖の周りのほとんど全てが、湖社が所有する土地なのだそうだ。そんな広い土地で何をしているか。そう、それは競馬場だ。競馬というのは馬獣を走らせて順位を当てる大人のゲームだ。お金を賭けるという部分が面白い部分らしい。正直に言って、あたしにはその面白さがよく分からない。出迎えてくれた社長秘書さんはパンツスーツで決めた綺麗なお姉さんだった。眼鏡がより知的さをアピールしている。
「社長、お客様をお連れいたしました」
湖社の最上階に社長室はあった。こんなところ、滅多に入れない。椅子に座っていたのはこの間のおじいちゃんだった。以下、社長さんと呼ぶことにする。隣にある応接間にあたしたちは案内された。
「よく来てくれたね」
「この度はお招き頂いてありがとうございます」
お姉ちゃんが頭を下げたので、あたしたちも倣う。
秘書さんが冷たいお茶をあたしたちの前に置いてくれた。喉が乾いていたから嬉しい。あまりぐびぐび飲むのもどうかと思って、一口だけにした。スッキリして美味しい。
「君たちの店はキッチンカーでの出店を考えていないのかね?」
どうやらズバリ本題らしい。お姉ちゃんは少し考えて答えた。
「そうですね、お店もまだ開店前ですし、キッチンカーを購入する予算もなくて」
「試しに一度ここで出してみないかね?」
「え?」
本当にえ?だよね。あたしもびっくりしてしまった。社長さんが言うにはキッチンカーを貸してくれるとのことだった。しかも出店料も無料にしてくれると。
「ですが、そこまでして頂く理由が…」
あのお姉ちゃんが慌てている。社長さんが笑った。
「老人の気まぐれだと思ってくれたらいい。
シチューとコーヒー、とても美味かった」
お姉ちゃんは社長さんの胃袋をがっちり掴んだようだ。
「もし、キッチンカーを出すなら出店はいつになりますか?」
「明日だ」
ひえ、明日?準備間に合うかなぁ?
「分かりました、よろしくお願い致します」
お姉ちゃん、引き受けちゃうの?
大丈夫かな?
「楽しみにしているよ」
社長さんが笑う。お姉ちゃんはどんなメニューをキッチンカーで作るつもりなんだろう?
2·またあの高そうな車に乗せられて、あたしたちは店に戻ってきた。
「さ、サリアちゃん、たかしくん。これから明日の準備をするわ。手伝って頂戴」
「はーい」
お姉ちゃんに指示されたのはお遣いだった。そう、キッチンカーで必要なのは使い捨ての皿やスプーンたちだ。環境問題がとか言われているけれど、もうなくてはならない必需品になりつつある。今はほとんど紙で作られているみたいだけど、やっぱり少し値が張る。
たかしと行ったのは、日用品を専門に扱うお店だ。
ウインディルムの開拓はまだまだこれからも進んでいくんだろうな。楽しみ。でももちろん自然も大事。
店内に入ると目的の物はすぐ見つかった。
「これかな?」
「そうだね。紙コップもいるよね?」
たかしとあれこれ言い合いながら商品をカゴに入れていく。料理を出せても、100が限界とお姉ちゃんに言われたので、余分に150個ずつ買った。
明日の出店に関しては湖社が急遽宣伝してくれることになった。ドキドキする。
でもやることはいつもと変わらないよね。
店に戻ると、お姉ちゃんが明日必要な食材を確認していた。
「お姉ちゃん、明日は何を作るつもりなの?」
お姉ちゃんがふんわり笑う。
「明日はエッグバーグマフィンよ。お肉をこれからミンチにしてハンバーグの形に成形するの」
「あたしもやる」
「俺も手伝うよ」
「助かるわ、二人共」
お姉ちゃんがモンスターから獲った生肉を包丁でどんどん細かくする。粗めのひき肉って美味しいからね。それを秤で量りながらハンバーグの形に成形。よし、まずは一個目。たかしはこういうの得意だからな。あたしより綺麗に成形してる。負けてられない。
なんとか100個出来た。
「お姉ちゃん、後は?」
「マフィンは多めに仕入れたから明日の朝届くわ。あとは卵ね」
「あの小麦粉をくれた人から買ってこようか?」
「助かるわ。お願いね」
お姉ちゃんからお財布を預かる。たかしも一緒に行ってくれることになった。心強いって思ってしまう。
たかしはあたしの中でかなり大きな存在になってきてしまっている。記憶が戻ったらサヨナラなのかな?そんなの絶対に嫌だ。でもたかしの気持ちを尊重してあげなきゃいけないのも分かっている。あたしはどうやって気持ちに折り合いをつければいい?たかしを見たら優しく笑われた。そういうところよ。
麦畑に到着した。
やっぱりキラキラしてる。風が吹いていて気持ちいい。ざあっと麦たちが擦れ合う音がたまらない。
「サリアちゃん、卵は何個くらい買うの?」
「そうね、これも150ぐらいでいいと思うけど」
大きなお家の呼び鈴を鳴らすと、あのエルフさんが出てきてくれた。あたしは言う。
「あの、明日卵が必要で、買いたいんですけど」
「いくつ欲しいの?」
「150ほど」
「分かった。明日の朝届くように送るから住所教えて」
前にも思ったけど、このエルフさん、結構ぶっきらぼうだな。でも悪い人ではなさそうだ。
「結局あの小麦粉は何に使ったの?」
「パンケーキにしました」
あたしが答えるとエルフさんが笑う。
「今度食べに行くよ。聞いたけど、開店前に明日キッチンカー出すんでしょ。いい宣伝になるといいね」
や、優しいー。このエルフさん、ギャップ萌えじゃん。しかも既にキッチンカーの宣伝をしていることも知っていてくれた。いいビジネスパートナーになれそうかも。
卵はキッチンカーに直接持ってきてもらえるようにお願いした。
「お金は届いた時に引き換えでいいよ」
「あ、ありがとうございます!」
これで卵もオッケーかな。
そうだ、とエルフさんが笑う。
「ちょっと見てかない?」
なにを見るんだろう?とあたしは思った。エルフさんに手招きされてついていく。ぐるりと回りこみ牛舎に彼は入っていった。こんな所にあったんだ。あたしたちも後ろをついていく。わ、牛獣がいっぱいいるー。
「ほら」
「わ、赤ちゃんですか?」
牛獣の赤ちゃんがこてん、と体を横にしている。可愛い!
「ミルクをあげてみない?」
「え!いいんですか?」
「いいよ」
あたしたちはミルクをあげてみた。ゴクゴクとすごく飲んでいる。どうやら女の子みたいだ。この子も大きくなったらミルクを出してくれるようになる。
「すごいね、たかし」
「お母さんになったみたいだよね」
確かにその通りだ。あたしもいつかお母さんになれるのかな?って、待って。まだお相手すらいないんだから気が早すぎるっての!たかしが空になった哺乳瓶を赤ちゃんから離そうとすると咥えたまま離さない。もしかしてお腹いっぱいになってない?
「この子、すごく食いしん坊さんだから」
そんなところも可愛い。エルフさんが赤ちゃんの頭を撫でて哺乳瓶を口から離していた。
「でね」
あれ、まだ何かあるの?あたしたちはエルフさんを見つめた。
「ここの手伝いをしてくれたら素材代も安くできるよ。基本的にこの村の人だけでここをやってるから手伝ってもらうと、すごく助かるんだよね」
「やらせてください!」
あたしは飛び付くように言っていた。だって新鮮な食材を安く調達できるなんて素晴らしいことだ。
「俺もやります」
たかしもそう申し出てくれた。
「ありがとう。君たちみたいな人になら安心して任せられる」
エルフさんがそう言ってくれてよかった。よし、まずはキッチンカーだ。
2·次の日、早朝になっている。いざキッチンカーとは言ってもやっぱり車は車だ。中は狭い。居られても二人が限界だ。たかしには外で注文の品をお客様に届ける作業をしてもらうことにした。あたしはお姉ちゃんのサポートと飲み物を担当することになった。お姉ちゃんはひたすら調理と盛り付けだ。店を出せるのは夕方4時まで。競馬をしに来るお客様がここを利用する。他のお店も当然ある。お酒はうちの店にはないから少し不利かもしれないな。どこに行ってもビアの文字が書かれているし。
材料も無事に届いている。良かった。たまごも丈夫な入れ物に入って届けられた。よかった。
「サリアちゃん、たかしくん、今日は頑張りましょうね」
「うん、頑張ろう」
たかしが手を差し伸べた。お姉ちゃんがその手の上に手を重ねる。
「目標は完売よ。頑張るわ」
あたしも二人の手の上に自分の手を重ねた。
「えいえいおー!」
なんだかチームみたいで楽しい。さあ、始まるわよ。
昼前になってようやくお客様がぱらぱら現れるようになった。どうやら1レース目が今、終わったみたいだ。喉も乾いたしというところだろうか。
「お、コーヒーもあるんだ」
お客様の一人がウチの看板を見て声を上げた。
「火山地域の特産の豆を使用しています。いかがでしょうか」
すかさず声を掛けたらお客様が近づいてメニューを見に来てくれた。今日のメニューもシンプルにエッグバーグマフィンとアイスコーヒーとカフェオレだ。
「エッグマフィンいいね。二つ貰おうかな。あとアイスコーヒーもブラックで」
「かしこまりました」
お客様来たー!!レジでお金の精算をする。アイスコーヒーはキンキンに冷えている。
「コーヒーになります」
たかしがコーヒーを運んでくれた。エッグバーグマフィンは注文を受けてから作るからどうしても時間がかかるのよね。でもさすがお姉ちゃん。凄まじいスピードでマフィンを作ってしまった。
「お待たせいたしました」
「うわあ、うめえ」
一口噛り付いたお客様が思わずといった様子で声を上げる。もちろん周りのお客様にもこれが聞こえているわけだ。
さくらみたいだけどこういうの大事だよね。ぱらぱらと店を利用し始めるお客様が増えている。3レース目が終わってお昼を食べようというお客様が多くなってきた。いつの間にかあらゆる店に行列が出来ている。あたしたちも当然忙しい。
「たかしくん、次でマフィンが切れるわ」
お姉ちゃんがふうと息を吐きながら言う。気が付いたらもう午後だった。ここまで早かったなあ。
こうしてキッチンカーの出店は無事終わることが出来たのだった。
「今日の売り上げはー」
夜、家に帰ってお姉ちゃんが早速お金を数えている。
「42000ダラーでした」
「やったあ」
お店のチラシも大分配れたし、今回の出店は大成功って思っていいのかな。お店の開店の日もお客様が集まってくれれば嬉しいけれど。
キッチンカーを出した翌日、あたしたちは再び湖社にいる。もちろんお土産を持ってだ。
熱魔法のかかったエッグバーグマフィンとブラックのキンキンに冷えたアイスコーヒーである。
「おお、嬉しいねえ」
社長さんと秘書さんも食べ始めてくれた。
「うーん、やっぱり美味いなあ」
「美味しいです」
「今回は本当にお世話に・・」
お姉ちゃんの言葉を社長さんが手で制す。
「また出来る時は店を出してほしい。君たちの店はかなり評判が良かったよ」
そう言って貰えて嬉しい。お姉ちゃんも頬を緩ませている。
「開店日にはまた行かせてもらう。楽しみにしているよ」
「ありがとうございます」
こうして合間に畑のお世話をしたり、エルフさんのお手伝いをしたり、お姉ちゃんのメニュー試食会をしたり、採集クエストを受注したりしているうちに開店初日になっている。ここまであっという間だった。
今日の為にあたしたちはかなり頑張った。今日だって頑張るぞ!
「お姉ちゃん、そろそろ開店時間だよ」
「ちょっと待って。お砂糖がなくなりそう」
な、なんだって?
「お姉ちゃん!どうするの?」
「大丈夫よ、交易で取り寄せてもらってるし」
そういえばそうだった。
「俺が取りに行くよ」
たかしがエプロンを外しながら言う。
「待って、あたしも行く」
「サリアちゃん、開店まで5分しかないからここにいてあげて?」
たかしに諭されるように言われてあたしは頷くことしか出来なかった。たかし、帰ってくるよね?あたしは不安だった。このままたかしがいなくなったらあたしはすごく傷付くと思う。たかしがあたしを見て屈んだ。頭を撫でられる。
「サリアちゃん、心配要らないよ」
「あ、あたしだってあんたを信頼してるんだからね!」
「ありがとう。アリアちゃん、すぐ戻るからね」
「気を付けていってらっしゃーい」
たかしの大きな背中が小さくなるのを見守っていたら、お姉ちゃんにも頭を撫でられた。
「さ、開店よ!」
そうだ、今日は大事な開店初日だ。あたしは店の外に出てみた。すごい。行列が出来ている。あまりお待たせさせないように上手くさばかないとね。
「お待ちのお客様、ご案内致します」
あたしは順番にお客様を店内に誘導した。
オーダーを取って、お姉ちゃんに伝える。コーヒーとカフェオレを合間に淹れてテーブルに運んだ。
「ただいま」
たかしが裏口から入ってくる。彼の表情が固い。どうしたんだろう?
「なんかすごい量もらった…」
たしかにその通りだ。この間の袋の2倍はある。
「あらまあ。リンカさん張り切ってくれたのね。私もこれから注文のパンケーキを焼くわ。二人共頑張りましょう」
お姉ちゃんに励まされると、すごく頑張ろうって思えるな。
「たかし、外でお客様の誘導頼める?あたしは店内でさばくから」
「了解」
たかしがいてくれて本当によかったな。あたしとお姉ちゃんだけだったら多分、ここまで来れてない。
今日の最後のお客様は社長さんだった。本当に来てくれたんだ!嬉しい!エルフさんも様子を見に来てくれた。
「今日のおすすめは?」
社長さんに尋ねられてあたしは考えた。お姉ちゃんの作るものは何でも美味しい。
「社長さんには特別メニュー出しちゃう」
お姉ちゃんがそう言って笑う。特別メニュー?ってなんだろう?
厨房に向かうと、お姉ちゃんはフライパンを振るっていた。これは。
「ナポリタン?」
「お店の味を引き継ぐ約束ですもの」
お姉ちゃんは秘伝のレシピを教わったらしい。社長さんは相変わらずがつがつ食べた。
「うん、美味いね。メニューに加えないのかい?」
社長さんにお姉ちゃんが笑いかける。
「いずれ加えようかと」
「ああ、それがいいね」
ナポリタンを作るならピーマンや玉ねぎ、ソーセージも必要だ。なにより肝心なのはトマト。
ウインディルムにあるお店じゃ、なかなか新鮮な野菜は手に入らないから、ナポリタンはレアなメニューになる。お姉ちゃんはパスタの麺を小麦粉から作ったらしい。
大変だったと言っていた。今度からは手伝おう。
ついに「喫茶・モンスター」は開店したのだ。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。
あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる