獅子王晶の恋と日常の謎(怪盗編)

はやしかわともえ

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夏の社交界と舞踏②

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僕たちはパーティーに出席している。優雅な曲に合わせて晶と規則的なステップを踏んでいた。あちこちから人の声が聞こえてくる。僕たちは踊りながら色々な人の話に耳をそばだてた。踊っていれば近くにいても何ら不思議ではない。もちろん、聞こえてきたほとんどは怪盗とは関係無い雑談だった。でも、収穫はあった。怪盗が予告状を出してきた、そう聞こえてきたのだ。それはある博物館宛だったという。僕たちは聞こえてきた情報を整理するべく会場の隅で飲み物をもらって飲んでいた。
「むむ…今度は博物館か」
「今度は何を盗むつもりなんだろう?」
晶は腕を組んだ。
「とりあえずお祖父様に相談してみよう。あの方は、博物館や美術館に顔が利くからね。捜査に関われるかもしれない」
晶のお祖父さんは一代で財を成した大物だ。晶は彼にとても可愛がってもらっている。もちろん僕もだ。本当の孫のように接してもらっている。
「怪盗を許す訳にはいかないよ。絶対に捕まえてみせる」
晶が鼻息荒く言う。
「怪盗のお話ですの?」
やって来たのは綺麗に着飾った女性だ。僕たちは彼女を知っている。彼女はある財閥のお嬢様だ。ちなみに僕と同年代である。
「エリカ、僕たちの話を聞いていたのかい?」
エリカさんは持っていた扇子で口元を隠した。どうやら恥ずかしいと思ったらしい。
「ぬ、盗み聞きをするつもりじゃ…」
「いいや、君が来てくれてよかった。知恵を貸して欲しい」
「まぁ、晶様が私にお願いなんて…」
エリカさんが嬉しそうに笑う。社交界で晶はかなり高いポジションにいる。そんな晶に頼みごとをされる、というのはすごく名誉なことらしい。
「そんな水臭い言い方はしないでおくれ。君の知恵にはいつも助けてもらっているのだから」
エリカさんはそばに控えていた従者さんから可愛らしいメモ帳と万年筆を渡されていた。エリカさんはそれにスラスラと何かを書いていく。
「晶様、こちら、例の怪盗に関する情報がまとめられたサイトのURLになります。どうかお気を付けて」
「ありがとう、エリカ」
エリカさんはそそくさと行ってしまった。
「深見…これはなにかあるようだね」
急にフランス語で話されて僕はびっくりした。そうか、誰かに聞かれている可能性があるかもしれないのか。フランス語なら僕も日常会話程度なら話せる。切り替えた。
「晶は引くつもりなんてないんでしょ?」
「当たり前だろう。僕を怒らせたこと、絶対に後悔させてやる」
優雅な雰囲気のフランス語でも怒気はしっかり伝わるんだなと僕はちょっとおかしく感じた。
「深見!笑うなんてひどいじゃないか!」
むーと晶が頬を膨らませている。
「ごめん。晶が可愛いからつい」
晶がため息をつく。
「深見には敵わないよ」
僕はスマートフォンを取り出した。
「深見?何を調べる気なんだい?」
「うん、怪盗が入る予定の博物館のこと。確か◯◯博物館って聞こえたから」
晶がまじまじと僕を見つめてくる。
「深見、知っていたけれど君って本当に有能だね?」
「急に褒めないの。照れちゃうでしょ」
僕は検索窓に文字を打ち込んで、スマートフォンの画面を軽くタップした。博物館の情報が出てくる。位置情報、アクセスの仕方、展示物に関してさまざまだ。晶も背伸びをして覗き込んでくる。可愛いけど大変そうだな。
「晶、パーティー抜けて大丈夫な感じ?」
「あぁ。一通り挨拶は済ませたからね」
僕たちはこっそりパーティー会場を後にしたのだった。
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