1 / 4
1
しおりを挟む
「ヴァルドさまー!持ってきたよー!」
「ヴァルド様!いますかー?」
ローゼは庭から聞こえたこの声に目を覚ました。朝がかなり苦手なローゼである。しばらく起き上がれず、布団の中でうつらうつらしていた。
「ありがとう、エマ、トーマス」
ヴァルドの声にローゼはようやく目を開けることが出来た。だが、まだ眠たい。しかし、楽しげに話しているヴァルドたちのことも気になる。むくり、となんとか起き上がりベッドを這い出た。ローゼは今、薄紫のネグリジェを着ている。もちろんローゼのために特別に仕立てたものだ。ローゼはふらふらしながら階段を降り、庭先に繋がる窓から外を窺った。
ヴァルドのそばに見知らぬ幼い子供が二人いる。兄妹だろうか、とローゼは当たりをつけた。
「あ、ローゼ。起きたんだ。おはよう」
ローゼの存在にヴァルドはすぐ気が付いたらしい。こちらに向かって手を振ってくる。ローゼはどうしたものか迷って、手を小さく振り返した。
「このお屋敷にはお姫様がいるの?」
エマと呼ばれた女の子が不思議そうに首を傾げながらヴァルドに尋ねている。
「うん、そうだよ。俺の大好きな人なんだ」
きゃーとエマが叫ぶ。
「エマ、まだ朝早いんだし静かにしろよ。ヴァルド様、採れたベリーを置いていくね。ジャムも楽しみにしてる。エマ、行くぞ!」
「はぁーい。バイバイ。ヴァルドさま」
2人は走って行ってしまった。ローゼはそっと様子を窺って庭に出る。
「あの子たちは?」
「うん、近くに住んでる子たち。ここらへん子供が多くてね。ああやって時々うちに遊びに来るんだ」
「へぇ…そうだったのか。ベリージャムは僕も食べたいな」
「もちろん。もうすぐこのあたりで秋のお祭りをやるし、紅葉を見に来る観光客で賑やかになってくるから楽しいよ」
「お祭りか…それは僕も参加出来るのかい?」
「うん。ローゼが来てくれたら皆喜ぶよ。さ、ベリージャムを早速作ろうかな」
「僕も手伝うよ」
「ローゼはまず朝ご飯ね」
「あ…」
ローゼが顔を赤くしているとヴァルドが笑う。
「ほら、涼しいし中に入ろう」
ヴァルドの大きな手で手を優しく掴まれた。食卓に着くとカリカリに焼かれたチーズトーストにオムレツ、サラダ、熱々のスープが並べられている。
「いただきます」
ローゼはオムレツから食べ始めた。
「ん…おいふぃ」
「良かった。俺は今日お祭りの打ち合わせがあるから昼過ぎには出掛けるね」
「ん…分かったよ」
ヴァルドがキッチンに向かったのを見送って、ローゼはゆっくり朝食を楽しんだ。ようやく食べ終えてごちそうさまをする。キッチンに食べ終えたばかりの食器を運ぶとヴァルドは鍋を見つめていた。ローゼも隣に並ぶ。
「ジャムってそうやって作るんだね」
「うん、こうしてコトコト煮込むんだ。それだけなのにすごく美味しくなるよね」
ローゼもしばらく鍋を見つめていた。
「よし、こんなものか」
ヴァルドが鍋を火から下ろす。紫色のそれからは甘い香りが漂っている。
「完成かい?」
「ううん、まだ。熱を取らなくちゃ」
「意外と手間がかかるんだね」
「ふふ。手間がかかった方が食べる時、美味しいからね」
ヴァルドは言いながら沢山の瓶が入った箱を棚から取り出した。
「それに詰めるのかい?」
「うん、まず入れる前に煮沸消毒しなくちゃ」
ヴァルドがてきぱき作業しているのをローゼは見守った。
「ローゼ、お手伝いしてくれる?」
「あぁ。やっと僕の出番だね」
「うん、そう。えっと、瓶にジャムを注いで欲しいんだ。このスプーンでね」
ヴァルドが手渡してきたのは普段使うものより、すこし大きめのものだ。
「構わないよ。秤は使わないのかい?」
「うん、目分量で大丈夫」
「承知した」
ローゼはスプーンを使い、次々にジャムを瓶に詰めていった。その数50。ローゼの周りは瓶だらけだ。
「1つはうちのだから置いておいて。後は売り物なんだ」
「秋祭りに売るのかい?」
「うん。ローゼにもお店を手伝って欲しいな」
「あぁ」
ヴァルドの作るジャムが美味しいことはローゼもよく知っている。きっと忙しくなるのだろう。
「そうそう、ローゼ。お祭り用の服を着てみない?」
ヴァルドがそう言って差し出してきたのは、茶に近い黄色の厚手のワンピースだった。ところどころにフリルがあしらわれている可愛らしいものだ。
「僕がこれを?」
「嫌?」
「そんなわけないだろう。でも、僕は騒がしい祭りの類は嫌いでね、今まで参加したことがなかったんだ。だけど君もいるし、今回は挑戦してみるつもりだよ」
「ローゼ…頑張るんだね!」
「君が教えてくれたんだ、新しい世界を」
「ローゼ」
ヴァルドが嬉しそうに微笑んでいる。ローゼにはそれが嬉しい。
「あ!もうこんな時間。ローゼ、打ち合わせ行ってくるね!瓶はそのまま置いておいて!」
「行ってらっしゃい」
ヴァルドがバタバタと走っていくのをローゼは見送った。
「さて、お祭りの準備に僕が出来ることは何かないのかな」
そうだ、とローゼは閃いた。
*
「ここをこうして」
ローゼは画用紙を切り、値札を作っている。値札にはモミジの絵を描いた。庭に落ちていた葉を持ってきて写生したのだ。初めてながらなかなかうまく出来た。値段はこれから入れるつもりである。そんなことをしていたらヴァルドが帰ってきた。
「ただいま、ローゼ。何作ってるの?」
「おかえり。ジャムの値札さ」
「可愛い。すごいね」
「ジャムはいくらで売るんだい?」
「100zかな」
「安いんだね!」
「材料費は砂糖と水くらいしかかかってないからね」
レモン果汁も入れたが数滴である。ローゼはなるほどと納得した。
「夕飯を作るね、お腹空いたでしょう?」
「あぁ。今日は何を作るんだい?」
「うん、キノコを沢山もらったからパスタかな」
「この時期ならではだね」
「パスタも貰い物なんだ。多く作りすぎたからって」
そう言ってヴァルドが食材を革の袋から取り出し始めた。
「こんなに?」
ローゼがぽかん、とするとヴァルドが笑う。
「うん、有難いよね。俺も明日、玉子を持ってくって言ったんだよ」
「それがいいね。でね、ヴァルド。僕は肝心なことを君に聞き忘れていたよ」
「なあに?」
「祭りはいつからなんだい?」
「うん、明後日からなんだ。明日は町の飾り付けをする予定」
「道理で君が忙しいはずだよ」
ヴァルドはいつも忙しいがそれに輪をかけて忙しそうだった。ローゼはむむ、と膨れた。
「僕にもっと早く知らせてくれてもよかったんじゃないかい?」
「ごめんね、ローゼが知ったら無理するかなって」
「僕は男なのだから多少のことではへこたれたりしないよ」
ローゼがとん、と胸を叩く。ヴァルドは再び謝罪をしてきた。ローゼも手伝い、夕飯の支度を済ませる。2人は対面に座りいただきますをした。
「む…パスタがモチモチしているね」
「うん、美味しいね。ねえ、ローゼ。明日やってほしいことがあるんだけど」
「構わないよ。高所の飾り付けかい?」
「うーんと、飾り付けは他の人の係なんだ。ローゼにはお祭りのポスターを町の掲示板に貼ってきて欲しいの」
「分かったよ。僕に任せてくれ」
「ありがとう、助かるよ」
*
そして次の日になっている。ローゼは作業着を着ていた。長い栗色の髪の毛は後ろで1つにまとめている。
「ローゼのその格好、板に付いてきたって感じ」
ヴァルドにそう言われてローゼも悪い気はしない。ふふん、と胸を仰け反らせた。
「僕にかかれば朝飯前さ」
「さすがローゼ」
ヴァルドは褒め上手だ。ローゼがより気を良くしていると、子供たちが数人駆け寄ってきた。
「ヴァルドさまー!お手伝いにきましたー!」
「ありがとう、皆。ローゼに町の掲示板の場所を教えてあげてくれる?」
「本当にお姫様だ。キレー」
「ローゼさま、掲示板はこっちだよ!」
ローゼが戸惑っていると、ヴァルドに優しく肩を叩かれた。
「ローゼ、お願いね」
ヴァルドにこう言われたら今更引き返すことは出来ない。ローゼは子供たちと歩き出した。
「ローゼさまって神様なの?」
「うん!うちの父さんも言ってたよ。女神様だって」
ローゼはしばらくぽかん、としていたが最終的には吹き出していた。
「僕は人間さ。ヴァルドが僕をここに呼んでくれてね」
「ヴァルドさまってやっぱりすげー!」
「な!」
「あ!ローゼさま、掲示板は町中に5カ所あるんだよ。まずはあそこからね」
子供たちに示された先には確かに掲示板が置かれていた。
「分かった。すまないが僕はあまり体力がなくてね。ゆっくり歩いて欲しい」
「分かった!!」
「ローゼさまからお花のにおいがするの!」
「本当だ!」
わいわい言われながらローゼは掲示板にポスターを貼り付けようとした。
「ローゼさま、ちょっと右かも」
「こうかい?」
「もうちょっと。あ!そのまま!」
画鋲でポスターを貼り付ける。ローゼはホッとした。
「ローゼさまは、雨の日なにをしているの?」
「晴れてる日は動物の世話をしているよね」
ローゼはすっかりタジタジである。子供はよく見ているなとローゼは改めて感心していた。
「雨の日なら僕は塗り絵をしているよ。ただ、美的センスが壊滅的になくてね、ヴァルドに聞きながら塗ってるんだ。もちろんヴァルドとお喋りをするのも楽しいよ」
「ヴァルドさまとラブラブなんだね!」
「お前の父ちゃんたちもラブラブだよな!」
「よせやい!照れるだろ!」
こんな調子でローゼと子供たちは最後の掲示板に辿り着いていた。
「ここが最後だよ!」
「あぁ。皆、ありがとう。ん?」
ローゼはふと掲示板の下を見た。茂みに何かが置かれているのが見える。ローゼはしゃがんでそれを引きずり出した。何かと思えば段ボールの箱だ。
「ローゼさま?これ…」
子供たちが青ざめている。
「皆、ポスターを貼っておいてくれるかい?」
「でも…」
泣きそうな子供もいる。
「大丈夫。まだ間に合うはずさ」
ローゼは段ボール箱を抱えて、ある場所に走った。
*
「ローゼ!!」
ローゼはうとうとしていたがヴァルドの声にようやく薄目を開けられた。
「あ、ヴァルド。お帰り」
「ただいま…じゃなくて!大変だったでしょう!」
ローゼが見つけたのは生まれたての乳児だった。ローゼは全力疾走で病院に駆け込み、受付に詰め寄った。緊急で医師に診てもらった所、随分衰弱しており点滴をすることになった。その間、ローゼは眠っていたのだ。
「あぁ…実を言うと僕はずっと眠っていてね」
「疲れてたんだね」
ぎゅっとヴァルドに抱き締められ、ローゼは自身の体の冷たさにようやく気が付いた。
「寒かったし怖かったよね」
「いや、僕より怖かったのは本人さ。泣くことも満足に出来なかったのだからね」
看護師がやって来る。
「お二人とも、診察室にどうぞ」
二人は医師の待つ診察室に入った。
*
医師の話によれば、乳児はまだ生まれるには早い段階だったとのことだった。そのため、もう少し大きくなるまで入院を勧められた。ローゼが連れてきていなければとっくに亡くなっていたと医師は渋い顔で言った。
「ローゼ、俺たちが里親を引き受けるって言っちゃったけど大丈夫かな?」
ヴァルドとローゼは屋敷に戻ってきている。
「子猫の世話より大変だろうね。あの子はよく泣きそうだ」
「ローゼ、楽しそう」
「命が助かったからね。僕は嬉しい」
「そうだね」
ヴァルドに抱き寄せられ二人はキスをしていた。
「ローゼ、知っていたけれど君は勇敢なんだね」
「僕にはそれくらいしか取り柄がないのさ」
二人は再び口づけを交わしていた。
「ヴァルド様!いますかー?」
ローゼは庭から聞こえたこの声に目を覚ました。朝がかなり苦手なローゼである。しばらく起き上がれず、布団の中でうつらうつらしていた。
「ありがとう、エマ、トーマス」
ヴァルドの声にローゼはようやく目を開けることが出来た。だが、まだ眠たい。しかし、楽しげに話しているヴァルドたちのことも気になる。むくり、となんとか起き上がりベッドを這い出た。ローゼは今、薄紫のネグリジェを着ている。もちろんローゼのために特別に仕立てたものだ。ローゼはふらふらしながら階段を降り、庭先に繋がる窓から外を窺った。
ヴァルドのそばに見知らぬ幼い子供が二人いる。兄妹だろうか、とローゼは当たりをつけた。
「あ、ローゼ。起きたんだ。おはよう」
ローゼの存在にヴァルドはすぐ気が付いたらしい。こちらに向かって手を振ってくる。ローゼはどうしたものか迷って、手を小さく振り返した。
「このお屋敷にはお姫様がいるの?」
エマと呼ばれた女の子が不思議そうに首を傾げながらヴァルドに尋ねている。
「うん、そうだよ。俺の大好きな人なんだ」
きゃーとエマが叫ぶ。
「エマ、まだ朝早いんだし静かにしろよ。ヴァルド様、採れたベリーを置いていくね。ジャムも楽しみにしてる。エマ、行くぞ!」
「はぁーい。バイバイ。ヴァルドさま」
2人は走って行ってしまった。ローゼはそっと様子を窺って庭に出る。
「あの子たちは?」
「うん、近くに住んでる子たち。ここらへん子供が多くてね。ああやって時々うちに遊びに来るんだ」
「へぇ…そうだったのか。ベリージャムは僕も食べたいな」
「もちろん。もうすぐこのあたりで秋のお祭りをやるし、紅葉を見に来る観光客で賑やかになってくるから楽しいよ」
「お祭りか…それは僕も参加出来るのかい?」
「うん。ローゼが来てくれたら皆喜ぶよ。さ、ベリージャムを早速作ろうかな」
「僕も手伝うよ」
「ローゼはまず朝ご飯ね」
「あ…」
ローゼが顔を赤くしているとヴァルドが笑う。
「ほら、涼しいし中に入ろう」
ヴァルドの大きな手で手を優しく掴まれた。食卓に着くとカリカリに焼かれたチーズトーストにオムレツ、サラダ、熱々のスープが並べられている。
「いただきます」
ローゼはオムレツから食べ始めた。
「ん…おいふぃ」
「良かった。俺は今日お祭りの打ち合わせがあるから昼過ぎには出掛けるね」
「ん…分かったよ」
ヴァルドがキッチンに向かったのを見送って、ローゼはゆっくり朝食を楽しんだ。ようやく食べ終えてごちそうさまをする。キッチンに食べ終えたばかりの食器を運ぶとヴァルドは鍋を見つめていた。ローゼも隣に並ぶ。
「ジャムってそうやって作るんだね」
「うん、こうしてコトコト煮込むんだ。それだけなのにすごく美味しくなるよね」
ローゼもしばらく鍋を見つめていた。
「よし、こんなものか」
ヴァルドが鍋を火から下ろす。紫色のそれからは甘い香りが漂っている。
「完成かい?」
「ううん、まだ。熱を取らなくちゃ」
「意外と手間がかかるんだね」
「ふふ。手間がかかった方が食べる時、美味しいからね」
ヴァルドは言いながら沢山の瓶が入った箱を棚から取り出した。
「それに詰めるのかい?」
「うん、まず入れる前に煮沸消毒しなくちゃ」
ヴァルドがてきぱき作業しているのをローゼは見守った。
「ローゼ、お手伝いしてくれる?」
「あぁ。やっと僕の出番だね」
「うん、そう。えっと、瓶にジャムを注いで欲しいんだ。このスプーンでね」
ヴァルドが手渡してきたのは普段使うものより、すこし大きめのものだ。
「構わないよ。秤は使わないのかい?」
「うん、目分量で大丈夫」
「承知した」
ローゼはスプーンを使い、次々にジャムを瓶に詰めていった。その数50。ローゼの周りは瓶だらけだ。
「1つはうちのだから置いておいて。後は売り物なんだ」
「秋祭りに売るのかい?」
「うん。ローゼにもお店を手伝って欲しいな」
「あぁ」
ヴァルドの作るジャムが美味しいことはローゼもよく知っている。きっと忙しくなるのだろう。
「そうそう、ローゼ。お祭り用の服を着てみない?」
ヴァルドがそう言って差し出してきたのは、茶に近い黄色の厚手のワンピースだった。ところどころにフリルがあしらわれている可愛らしいものだ。
「僕がこれを?」
「嫌?」
「そんなわけないだろう。でも、僕は騒がしい祭りの類は嫌いでね、今まで参加したことがなかったんだ。だけど君もいるし、今回は挑戦してみるつもりだよ」
「ローゼ…頑張るんだね!」
「君が教えてくれたんだ、新しい世界を」
「ローゼ」
ヴァルドが嬉しそうに微笑んでいる。ローゼにはそれが嬉しい。
「あ!もうこんな時間。ローゼ、打ち合わせ行ってくるね!瓶はそのまま置いておいて!」
「行ってらっしゃい」
ヴァルドがバタバタと走っていくのをローゼは見送った。
「さて、お祭りの準備に僕が出来ることは何かないのかな」
そうだ、とローゼは閃いた。
*
「ここをこうして」
ローゼは画用紙を切り、値札を作っている。値札にはモミジの絵を描いた。庭に落ちていた葉を持ってきて写生したのだ。初めてながらなかなかうまく出来た。値段はこれから入れるつもりである。そんなことをしていたらヴァルドが帰ってきた。
「ただいま、ローゼ。何作ってるの?」
「おかえり。ジャムの値札さ」
「可愛い。すごいね」
「ジャムはいくらで売るんだい?」
「100zかな」
「安いんだね!」
「材料費は砂糖と水くらいしかかかってないからね」
レモン果汁も入れたが数滴である。ローゼはなるほどと納得した。
「夕飯を作るね、お腹空いたでしょう?」
「あぁ。今日は何を作るんだい?」
「うん、キノコを沢山もらったからパスタかな」
「この時期ならではだね」
「パスタも貰い物なんだ。多く作りすぎたからって」
そう言ってヴァルドが食材を革の袋から取り出し始めた。
「こんなに?」
ローゼがぽかん、とするとヴァルドが笑う。
「うん、有難いよね。俺も明日、玉子を持ってくって言ったんだよ」
「それがいいね。でね、ヴァルド。僕は肝心なことを君に聞き忘れていたよ」
「なあに?」
「祭りはいつからなんだい?」
「うん、明後日からなんだ。明日は町の飾り付けをする予定」
「道理で君が忙しいはずだよ」
ヴァルドはいつも忙しいがそれに輪をかけて忙しそうだった。ローゼはむむ、と膨れた。
「僕にもっと早く知らせてくれてもよかったんじゃないかい?」
「ごめんね、ローゼが知ったら無理するかなって」
「僕は男なのだから多少のことではへこたれたりしないよ」
ローゼがとん、と胸を叩く。ヴァルドは再び謝罪をしてきた。ローゼも手伝い、夕飯の支度を済ませる。2人は対面に座りいただきますをした。
「む…パスタがモチモチしているね」
「うん、美味しいね。ねえ、ローゼ。明日やってほしいことがあるんだけど」
「構わないよ。高所の飾り付けかい?」
「うーんと、飾り付けは他の人の係なんだ。ローゼにはお祭りのポスターを町の掲示板に貼ってきて欲しいの」
「分かったよ。僕に任せてくれ」
「ありがとう、助かるよ」
*
そして次の日になっている。ローゼは作業着を着ていた。長い栗色の髪の毛は後ろで1つにまとめている。
「ローゼのその格好、板に付いてきたって感じ」
ヴァルドにそう言われてローゼも悪い気はしない。ふふん、と胸を仰け反らせた。
「僕にかかれば朝飯前さ」
「さすがローゼ」
ヴァルドは褒め上手だ。ローゼがより気を良くしていると、子供たちが数人駆け寄ってきた。
「ヴァルドさまー!お手伝いにきましたー!」
「ありがとう、皆。ローゼに町の掲示板の場所を教えてあげてくれる?」
「本当にお姫様だ。キレー」
「ローゼさま、掲示板はこっちだよ!」
ローゼが戸惑っていると、ヴァルドに優しく肩を叩かれた。
「ローゼ、お願いね」
ヴァルドにこう言われたら今更引き返すことは出来ない。ローゼは子供たちと歩き出した。
「ローゼさまって神様なの?」
「うん!うちの父さんも言ってたよ。女神様だって」
ローゼはしばらくぽかん、としていたが最終的には吹き出していた。
「僕は人間さ。ヴァルドが僕をここに呼んでくれてね」
「ヴァルドさまってやっぱりすげー!」
「な!」
「あ!ローゼさま、掲示板は町中に5カ所あるんだよ。まずはあそこからね」
子供たちに示された先には確かに掲示板が置かれていた。
「分かった。すまないが僕はあまり体力がなくてね。ゆっくり歩いて欲しい」
「分かった!!」
「ローゼさまからお花のにおいがするの!」
「本当だ!」
わいわい言われながらローゼは掲示板にポスターを貼り付けようとした。
「ローゼさま、ちょっと右かも」
「こうかい?」
「もうちょっと。あ!そのまま!」
画鋲でポスターを貼り付ける。ローゼはホッとした。
「ローゼさまは、雨の日なにをしているの?」
「晴れてる日は動物の世話をしているよね」
ローゼはすっかりタジタジである。子供はよく見ているなとローゼは改めて感心していた。
「雨の日なら僕は塗り絵をしているよ。ただ、美的センスが壊滅的になくてね、ヴァルドに聞きながら塗ってるんだ。もちろんヴァルドとお喋りをするのも楽しいよ」
「ヴァルドさまとラブラブなんだね!」
「お前の父ちゃんたちもラブラブだよな!」
「よせやい!照れるだろ!」
こんな調子でローゼと子供たちは最後の掲示板に辿り着いていた。
「ここが最後だよ!」
「あぁ。皆、ありがとう。ん?」
ローゼはふと掲示板の下を見た。茂みに何かが置かれているのが見える。ローゼはしゃがんでそれを引きずり出した。何かと思えば段ボールの箱だ。
「ローゼさま?これ…」
子供たちが青ざめている。
「皆、ポスターを貼っておいてくれるかい?」
「でも…」
泣きそうな子供もいる。
「大丈夫。まだ間に合うはずさ」
ローゼは段ボール箱を抱えて、ある場所に走った。
*
「ローゼ!!」
ローゼはうとうとしていたがヴァルドの声にようやく薄目を開けられた。
「あ、ヴァルド。お帰り」
「ただいま…じゃなくて!大変だったでしょう!」
ローゼが見つけたのは生まれたての乳児だった。ローゼは全力疾走で病院に駆け込み、受付に詰め寄った。緊急で医師に診てもらった所、随分衰弱しており点滴をすることになった。その間、ローゼは眠っていたのだ。
「あぁ…実を言うと僕はずっと眠っていてね」
「疲れてたんだね」
ぎゅっとヴァルドに抱き締められ、ローゼは自身の体の冷たさにようやく気が付いた。
「寒かったし怖かったよね」
「いや、僕より怖かったのは本人さ。泣くことも満足に出来なかったのだからね」
看護師がやって来る。
「お二人とも、診察室にどうぞ」
二人は医師の待つ診察室に入った。
*
医師の話によれば、乳児はまだ生まれるには早い段階だったとのことだった。そのため、もう少し大きくなるまで入院を勧められた。ローゼが連れてきていなければとっくに亡くなっていたと医師は渋い顔で言った。
「ローゼ、俺たちが里親を引き受けるって言っちゃったけど大丈夫かな?」
ヴァルドとローゼは屋敷に戻ってきている。
「子猫の世話より大変だろうね。あの子はよく泣きそうだ」
「ローゼ、楽しそう」
「命が助かったからね。僕は嬉しい」
「そうだね」
ヴァルドに抱き寄せられ二人はキスをしていた。
「ローゼ、知っていたけれど君は勇敢なんだね」
「僕にはそれくらいしか取り柄がないのさ」
二人は再び口づけを交わしていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】竜討伐の褒賞は、鹿角の王子様。(志願)
N2O
BL
執着王子 × 異世界転生魔法使い
魔法使いが逃げられなくなる話。
『上』『中』『下』の全三話、三連休中に完結します。
二万字以下なので、ショートショート𖤣𖥧𖥣
Special thanks
illustration by okiagsa様(X:@okigasa_tate)
MBM様(X:@MBMpaper)
※独自設定、ご都合主義。あしからず。
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
【「麗しの眠り姫」シリーズ】溺愛系義兄は愛しい姫に愛を囁く
黒木 鳴
BL
「麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る」でセレナードを溺愛する義兄・ギルバートサイドのお話。大切で可愛い弟だと……そう思っていたはずだった。それが兄弟愛ではなく、もっと特別な愛だと気づくまでの葛藤や嫉妬を幼き日のセレナたんエピソードを添えて!惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバートのほのぼのBL第二弾!!
【連載版あり】「頭をなでてほしい」と、部下に要求された騎士団長の苦悩
ゆらり
BL
「頭をなでてほしい」と、人外レベルに強い無表情な新人騎士に要求されて、断り切れずに頭を撫で回したあげくに、深淵にはまり込んでしまう騎士団長のお話。リハビリ自家発電小説。一話完結です。
※加筆修正が加えられています。投稿初日とは誤差があります。ご了承ください。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった
ゆう
BL
俺ウェスは幼少期に魔王様に拾われた下級悪魔だ。
生まれてすぐ人との戦いに巻き込まれ、死を待つばかりだった自分を魔王様ーーディニス様が助けてくれた。
本当なら魔王様と話すことも叶わなかった卑しい俺を、ディニス様はとても可愛がってくれた。
だがそんなディニス様も俺が成長するにつれて距離を取り冷たくなっていく。自分の醜悪な見た目が原因か、あるいは知能の低さゆえか…
どうにかしてディニス様の愛情を取り戻そうとするが上手くいかず、周りの魔族たちからも蔑まれる日々。
大好きなディニス様に冷たくされることが耐えきれず、せめて最後にもう一度微笑みかけてほしい…そう思った俺は彼のために勇者一行に挑むが…
短編版【けもみみ番外編】卒業の朝〜政略結婚するつもりで別れを告げた宰相子息ユリウスは黒豹エドワードの策略に嵌る〜
降魔 鬼灯
BL
銀の髪が美しい銀狼獣人ユリウスは宰相家の一人息子だ。
留学中、同室になった黒豹獣人のエドワードと深い仲になる。
子供の頃からエドワードに想いを寄せていたが、自国では同性の婚姻は認められていない。しかも、文官トップの宰相家と武官トップの騎士団長家の仲は険悪だ。
エドワードとは身体だけの関係。そう言い聞かせて、一人息子のユリウスは、帰国を期にエドワードと別れ政略結婚をする決心をする。
一方、エドワードは……。
けもみみ番外編
クロードとアンドレアに振り回される学友2人のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる