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殿下と龍姫(シャナ×とびすけ)
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「はい、やり直し」
「うぅ…」
通称とびすけ、ことトビアは、龍姫見習いの龍人である。年齢は19歳。母であり、現龍姫であるルネシアに占いの指南を受ける日々を過ごしていた。ルネシアは普段は優しい母だが、龍姫の仕事となると物凄く厳しい。トビアは泣きそうになりながら占いに使う札を切った。緊張のせいか手は震え、札がバラバラと床に散らばっていってしまった。
「トビア、もう今日はいいから」
ルネシアがため息を吐いてこう言った。トビアはもごもご謝りながらその場から逃げ出した。
「うっ…うっ」
トビアは幼い頃、よく遊んだ東屋で隠れるようにして泣いている。もう自分は大人と呼ばれるに相応しい年齢のはずなのに、幼い頃から何も変わっていないような気もしている。
一人でめそめそしていると葉が擦れる音がする。トビアは熊でも迷い込んだのかと身構えた。
「なに泣いてるんだよ、とびすけ…」
「シャナ兄様」
突然のシャナの訪問に、トビアは驚いた。シャナは王子として、モアグリア王城で暮らすようになっていた。幼い頃は毎日一緒だったのにと、トビアはいつまでもウジウジしていたが、前から決まっていたことだからと父親である翔吾に言われ、
渋々了承したのだ。
「お城は?」
急に泣き止んだトビアにシャナは困ったなと頭を掻いた。シャナは20歳になり立派な青年に成長している。
「お前、人の心配してる場合か?」
「え?」
「母さんからお前が心配だから様子見てきてくれって言われてな」
「母様が?」
「すげえ泣いてるからって聞いて、心配して来たのに」
ふふ、とシャナが笑いをこらえている。トビアはだんだん恥ずかしくなってきて、シャナの厚い胸をぽか、と軽く叩いた。
「兄様の意地悪!」
「まぁそう怒るなよ、龍姫様」
「まだ見習いだもん!!」
むむ、と膨れて見せたらシャナが笑っている。
「ほら、こっち見ろ、トビア」
「あ…」
いつの間にかシャナに抱き締められている。トビアはドキドキしながらシャナの胸にもたれかかっていた。
「お前、何がそんなに上手くいかないんだよ?」
「何って?」
「占いのことだよ。母さんに、筋はいいって言われてたじゃねーか」
確かにその通りなのだった。現龍姫であるルネシアですら、龍姫になるまで相当な時間を要している。
「そうなんだよね…。なんでかな」
トビアはなんだか眠たくなってきていた。シャナの鼓動がまるで子守唄のように聞こえてくる。思わず目を閉じるとそのまま暗闇に落ちていた。
✢
「!」
トビアはハッと目を覚ましていた。隣でシャナが欠伸をしている。どうやらずっと傍にいてくれたらしい。
「起きたか?とびすけ」
「兄様、うん、寝ちゃってごめんなさい」
「そりゃいいけど、今日はもう帰れないぞ」
「え?」
トビアは驚いた。ここは間違いなくモアグリア王城の中だったからである。トビアはどうしようかと固まった。明日も母から占いの指南を受けることになっているのだ。
「僕、どうやってここまで来たの?」
「普通に抱えてきた」
トビアはそれを聞いて赤くなった。
「僕、起きなかったんだ」
「あぁ、眠り姫もびっくりするんじゃないか?」
む、とトビアは膨れた。この兄は一言多い。
「なぁトビア?ちょっと、相談なんだが」
一転、兄からこう頼まれれば自分はすんなり聞いてしまう。
「なあに?」
「お前、アレイアをどう思う?」
アレイアというのは出来たばかりの隣国の姫君である。トビアは考えてなんだかざわりと胸が苦しくなった。兄の縁談の話かもしれないと思ったのだ。だが、自分は見習いとはいえ、龍姫である。嘘偽りを言うのは赦されない。
「アレイア様は素晴らしい方だと聞いています。知識も豊富で下の者にも優しいと」
シャナが違うと言った。何が違うのかトビアには分からない。
「あの女、お前に占ってほしいって文を寄越したんだ。俺としては断りたいんだがな」
一応確認だと言われてトビアはホッとした。縁談をこの兄が素直に受けるはずがないとも確信する。
「でも僕、まだ見習いだし、母様に頼んだほうが…」
違うとシャナがまた割り込んでくる。トビアが困って首を傾げると、シャナはトビアを抱き寄せた。小柄なトビアをシャナは軽々と抱き上げる。
「いいか、トビア」
「うん?」
兄の話はよく聞くもんだと幼い頃から言われているので、トビアはシャナの顔をじっと見つめた。
「アレイアはお前に気があるんだ」
「ん?」
理解できなかったトビアである。シャナもそうだよな、と頭を掻いている。
「お前にそんな暇あるわけないよな。次期龍姫様なんだから」
なんだかその言い方にトビアは引っかかりを感じてしまう。
「兄様、僕は…」
「トビア、大丈夫だ。アレイアのことは俺に任せろ」
任せろ、と言われてトビアは頷くことしか出来なかった。
✢
「忘れてた…」
「兄様、どうしたの?」
シャナはトビアがここに来ていることを誰にも知らせていないらしい。なにか食べ物を取ってくると言って部屋から出ていった。トビアとしてはずっとベッドにいていいものかとそわそわしてしまう。まずルネシアや翔吾に知られれば叱られるのは間違いない。
トビアがシャナに問うと、シャナは青ざめたまま持っていた果物を机に置いた。
「今日アレイアがここに来る。トビア、今日丸一日誰かに見つかるわけには行かないぞ」
「そ、そんなぁ」
二人はどうしようと悩んだ末、こうすることにした。トビアを侍女に仕立て上げることにしたのだ。シャナはドレスやら化粧道具を城内からかき集めてきた。幸い、侍女はこの城に沢山いる。そしてトビアはルネシアに似て愛らしい顔立ちをしている。まずバレることはないだろうとはシャナの論である。侍女服に着替えたトビアはシャナに化粧を施してもらった。鏡を見たが少女にしか見えない。
「兄様って本当に器用だよね」
「なんだその引っ掛かる言い方は」
「兄様には言わないよ」
ぷい、とトビアが顔を背けると、シャナもいよいよ慌てだした。
「どうしたんだよ、トビア」
「僕、兄様がこんなに好きなのに、次期龍姫様とか言わないで!!!」
ぽかん、としたシャナである。そして笑った。
「悪かったよ、トビア。俺だってお前が好きだし種を宿してもらいたいって思ってる。だから俺はアレイアに言わなくちゃいけないんだ。お前は俺のだからやらねえってな」
兄はやはりかっこいいとトビアはシャナに抱き着いていた。
「兄様、僕を一番にしてくれる?」
「約束する」
そして長い1日が始まったのである。
✢
トビアはすんなり侍女の中に紛れ込めていた。
シャナからあまり離れないように上手く立ち回る。
「シャナ殿下、ご機嫌うるわしゅう」
やってきたアレイア姫は花のような美しさだった。トビアもシャナがアレイア姫に鞍替えするのではないかとハラハラしたくらいである。
だが、シャナはそんなヤワな男ではない。
「あぁ、お久しぶりです、アレイア姫」
そっけないがシャナにしては丁寧な言葉遣いで、アレイア姫に応じている。
「占いの件はどうなりましたか?」
シャナが不敵に笑う。
「トビアにあなたのことを占わないで欲しいと俺から頼みました」
「なんでですの?」
アレイアの疑問は最もで、トビアはだんだんハラハラしてきてしまう。
「トビアが俺の正室だからです」
「まぁ…」
ざわ、と使用人たちがどよめく。アレイアはこほん、と咳払いをした。
「シャナ殿下、私、確かにトビア様が好きですわ。ですけど、あなたがそう仰るのですから、お互いに思い合っているのでしょうね」
「あぁ。あんたもよく分かってるじゃないか」
シャナの口調がくだけてしまっている!とトビアは慌てた。そのはずみでよろよろとシャナとアレイアの前に出てしまった。
「兄様!アレイア様に失礼だか…あ…」
「トビア様?!」
アレイアがトビアの姿を見て、目を白黒させている。他の使用人たちもざわめいている。
トビアとシャナは観念した。
✢
「トビア様、殿下、どういうつもりだ?」
小柄なピンフィーネの前でシャナとトビアは頭を俯けている。
「ごめんなさい、ピンフィーネ様」
「トビア様は今回巻き込まれた側だと話を聞いて判断出来る。だが、殿下、貴殿がしたことによっては戦争も不可避な場合にもなりかねない。今回は小さな国が相手だったから事なきを得たが…」
「…ピンフィーネ母さん、俺はトビアを愛しているんだ」
ピンフィーネはしばらく黙っていた。
「トビア様はまだ龍姫ではない、だが…」
「すみません!ピンフィーネさん!」
カチリとドアが開き現れたのは翔吾だった。その後ろからルネシアもやってくる。
「母様、父様」
「とびすけ、波導で連絡くらい寄越しなさい!」
ルネシアに優しく抱き締められて、トビアは泣きそうになってしまった。
「ごめんなさい」
「ショーゴ、龍姫様、よく来てくれた。2人に質問なんだが、シャナとトビアは婚姻出来るのだろうか?」
「え?」
ルネシアと翔吾が顔を見合わせた。
「出来るけど…種は宿せないよ?」
出来るんだ!とトビアは驚いてしまった。
ピンフィーネが決まりだなと手を叩く。
「それならば2人の婚姻を認めよう」
シャナとトビアはあまりのトントン拍子具合に驚いていた。婚姻の儀は国を挙げて行うことになった。式の日取りは半年後に決まり、国内外に広められた。
✢
「なんか、大変なことになっちまったな」
シャナの部屋のベッドにシャナとトビアはいる。もとから大きなベッドなので、2人が並んで横になっていても問題ない。
「兄様、言葉遣いに気を付けなきゃ駄目」
「悪かったよ」
シャナに口付けられて、トビアは驚いた。今までもキスをしたりペッティングをしたことはあるが、それも久しぶりだったからだ。
「ん…に、いさま…んっ」
「トビア、久しぶりだよな。触っていいか?」
「うん…して」
本番は種を宿す時と2人は決めている。既に反り上がったトビアの性器をシャナは緩く握る。
「ん…やっ、らめっ」
こすこすと上下に擦られて、トビアは悲鳴をあげた。
「トビアはすぐいくもんな。可愛いよ」
兄から可愛いと言われるのは嬉しい。達したばかりのトビアをシャナが優しく抱き寄せてくれる。
「トビア、愛してるよ」
「兄様、好き…」
2人は熱い口づけを交わしたのだった。
おわり
※おまけ
「とびすけ、占い上手になったね!」
「本当?」
シャナと婚姻の儀を交わす約束をしたあと、トビアに変化があった。占いの読みが良くなったのである。
ルネシアが驚いてこう褒めてくれる時も圧倒的に増えた。
「これなら小さな案件をお願いできるかも」
「母様、でも…」
自信がないとトビアが言うと、ルネシアが笑う。
「トビア、失敗することも大事なの。僕もそうやって龍姫の仕事をしてきたんだよ」
母の言葉の重みにトビアは頷くことしか出来ない。
「僕、やってみるよ」
「うん」
このことをシャナに報告したい、とトビアは思っていた。
だがシャナは今公務で出掛けている。確か、端末を持っているはずだ。トビアは波導を飛ばした。
「とびすけか?」
シャナの声がする。
「あのね、兄様。僕、今度龍姫の仕事を貰えるの」
「良かったじゃねーか。やっぱり筋が良かったんだな」
「ううん、兄様のお陰なの」
「え?」
「僕、兄様と結婚出来るのが嬉しくて、なんだか自分に自信が持てたの」
「そっか。お前は充分すげえやつなのに知らなかっただけなんだな」
「兄様…兄様だってすごいんだよ」
「トビア、すぐ帰る。愛してるよ」
シャナが手土産を持って龍の里にやって来たのはその数日後だった。
おわり
「うぅ…」
通称とびすけ、ことトビアは、龍姫見習いの龍人である。年齢は19歳。母であり、現龍姫であるルネシアに占いの指南を受ける日々を過ごしていた。ルネシアは普段は優しい母だが、龍姫の仕事となると物凄く厳しい。トビアは泣きそうになりながら占いに使う札を切った。緊張のせいか手は震え、札がバラバラと床に散らばっていってしまった。
「トビア、もう今日はいいから」
ルネシアがため息を吐いてこう言った。トビアはもごもご謝りながらその場から逃げ出した。
「うっ…うっ」
トビアは幼い頃、よく遊んだ東屋で隠れるようにして泣いている。もう自分は大人と呼ばれるに相応しい年齢のはずなのに、幼い頃から何も変わっていないような気もしている。
一人でめそめそしていると葉が擦れる音がする。トビアは熊でも迷い込んだのかと身構えた。
「なに泣いてるんだよ、とびすけ…」
「シャナ兄様」
突然のシャナの訪問に、トビアは驚いた。シャナは王子として、モアグリア王城で暮らすようになっていた。幼い頃は毎日一緒だったのにと、トビアはいつまでもウジウジしていたが、前から決まっていたことだからと父親である翔吾に言われ、
渋々了承したのだ。
「お城は?」
急に泣き止んだトビアにシャナは困ったなと頭を掻いた。シャナは20歳になり立派な青年に成長している。
「お前、人の心配してる場合か?」
「え?」
「母さんからお前が心配だから様子見てきてくれって言われてな」
「母様が?」
「すげえ泣いてるからって聞いて、心配して来たのに」
ふふ、とシャナが笑いをこらえている。トビアはだんだん恥ずかしくなってきて、シャナの厚い胸をぽか、と軽く叩いた。
「兄様の意地悪!」
「まぁそう怒るなよ、龍姫様」
「まだ見習いだもん!!」
むむ、と膨れて見せたらシャナが笑っている。
「ほら、こっち見ろ、トビア」
「あ…」
いつの間にかシャナに抱き締められている。トビアはドキドキしながらシャナの胸にもたれかかっていた。
「お前、何がそんなに上手くいかないんだよ?」
「何って?」
「占いのことだよ。母さんに、筋はいいって言われてたじゃねーか」
確かにその通りなのだった。現龍姫であるルネシアですら、龍姫になるまで相当な時間を要している。
「そうなんだよね…。なんでかな」
トビアはなんだか眠たくなってきていた。シャナの鼓動がまるで子守唄のように聞こえてくる。思わず目を閉じるとそのまま暗闇に落ちていた。
✢
「!」
トビアはハッと目を覚ましていた。隣でシャナが欠伸をしている。どうやらずっと傍にいてくれたらしい。
「起きたか?とびすけ」
「兄様、うん、寝ちゃってごめんなさい」
「そりゃいいけど、今日はもう帰れないぞ」
「え?」
トビアは驚いた。ここは間違いなくモアグリア王城の中だったからである。トビアはどうしようかと固まった。明日も母から占いの指南を受けることになっているのだ。
「僕、どうやってここまで来たの?」
「普通に抱えてきた」
トビアはそれを聞いて赤くなった。
「僕、起きなかったんだ」
「あぁ、眠り姫もびっくりするんじゃないか?」
む、とトビアは膨れた。この兄は一言多い。
「なぁトビア?ちょっと、相談なんだが」
一転、兄からこう頼まれれば自分はすんなり聞いてしまう。
「なあに?」
「お前、アレイアをどう思う?」
アレイアというのは出来たばかりの隣国の姫君である。トビアは考えてなんだかざわりと胸が苦しくなった。兄の縁談の話かもしれないと思ったのだ。だが、自分は見習いとはいえ、龍姫である。嘘偽りを言うのは赦されない。
「アレイア様は素晴らしい方だと聞いています。知識も豊富で下の者にも優しいと」
シャナが違うと言った。何が違うのかトビアには分からない。
「あの女、お前に占ってほしいって文を寄越したんだ。俺としては断りたいんだがな」
一応確認だと言われてトビアはホッとした。縁談をこの兄が素直に受けるはずがないとも確信する。
「でも僕、まだ見習いだし、母様に頼んだほうが…」
違うとシャナがまた割り込んでくる。トビアが困って首を傾げると、シャナはトビアを抱き寄せた。小柄なトビアをシャナは軽々と抱き上げる。
「いいか、トビア」
「うん?」
兄の話はよく聞くもんだと幼い頃から言われているので、トビアはシャナの顔をじっと見つめた。
「アレイアはお前に気があるんだ」
「ん?」
理解できなかったトビアである。シャナもそうだよな、と頭を掻いている。
「お前にそんな暇あるわけないよな。次期龍姫様なんだから」
なんだかその言い方にトビアは引っかかりを感じてしまう。
「兄様、僕は…」
「トビア、大丈夫だ。アレイアのことは俺に任せろ」
任せろ、と言われてトビアは頷くことしか出来なかった。
✢
「忘れてた…」
「兄様、どうしたの?」
シャナはトビアがここに来ていることを誰にも知らせていないらしい。なにか食べ物を取ってくると言って部屋から出ていった。トビアとしてはずっとベッドにいていいものかとそわそわしてしまう。まずルネシアや翔吾に知られれば叱られるのは間違いない。
トビアがシャナに問うと、シャナは青ざめたまま持っていた果物を机に置いた。
「今日アレイアがここに来る。トビア、今日丸一日誰かに見つかるわけには行かないぞ」
「そ、そんなぁ」
二人はどうしようと悩んだ末、こうすることにした。トビアを侍女に仕立て上げることにしたのだ。シャナはドレスやら化粧道具を城内からかき集めてきた。幸い、侍女はこの城に沢山いる。そしてトビアはルネシアに似て愛らしい顔立ちをしている。まずバレることはないだろうとはシャナの論である。侍女服に着替えたトビアはシャナに化粧を施してもらった。鏡を見たが少女にしか見えない。
「兄様って本当に器用だよね」
「なんだその引っ掛かる言い方は」
「兄様には言わないよ」
ぷい、とトビアが顔を背けると、シャナもいよいよ慌てだした。
「どうしたんだよ、トビア」
「僕、兄様がこんなに好きなのに、次期龍姫様とか言わないで!!!」
ぽかん、としたシャナである。そして笑った。
「悪かったよ、トビア。俺だってお前が好きだし種を宿してもらいたいって思ってる。だから俺はアレイアに言わなくちゃいけないんだ。お前は俺のだからやらねえってな」
兄はやはりかっこいいとトビアはシャナに抱き着いていた。
「兄様、僕を一番にしてくれる?」
「約束する」
そして長い1日が始まったのである。
✢
トビアはすんなり侍女の中に紛れ込めていた。
シャナからあまり離れないように上手く立ち回る。
「シャナ殿下、ご機嫌うるわしゅう」
やってきたアレイア姫は花のような美しさだった。トビアもシャナがアレイア姫に鞍替えするのではないかとハラハラしたくらいである。
だが、シャナはそんなヤワな男ではない。
「あぁ、お久しぶりです、アレイア姫」
そっけないがシャナにしては丁寧な言葉遣いで、アレイア姫に応じている。
「占いの件はどうなりましたか?」
シャナが不敵に笑う。
「トビアにあなたのことを占わないで欲しいと俺から頼みました」
「なんでですの?」
アレイアの疑問は最もで、トビアはだんだんハラハラしてきてしまう。
「トビアが俺の正室だからです」
「まぁ…」
ざわ、と使用人たちがどよめく。アレイアはこほん、と咳払いをした。
「シャナ殿下、私、確かにトビア様が好きですわ。ですけど、あなたがそう仰るのですから、お互いに思い合っているのでしょうね」
「あぁ。あんたもよく分かってるじゃないか」
シャナの口調がくだけてしまっている!とトビアは慌てた。そのはずみでよろよろとシャナとアレイアの前に出てしまった。
「兄様!アレイア様に失礼だか…あ…」
「トビア様?!」
アレイアがトビアの姿を見て、目を白黒させている。他の使用人たちもざわめいている。
トビアとシャナは観念した。
✢
「トビア様、殿下、どういうつもりだ?」
小柄なピンフィーネの前でシャナとトビアは頭を俯けている。
「ごめんなさい、ピンフィーネ様」
「トビア様は今回巻き込まれた側だと話を聞いて判断出来る。だが、殿下、貴殿がしたことによっては戦争も不可避な場合にもなりかねない。今回は小さな国が相手だったから事なきを得たが…」
「…ピンフィーネ母さん、俺はトビアを愛しているんだ」
ピンフィーネはしばらく黙っていた。
「トビア様はまだ龍姫ではない、だが…」
「すみません!ピンフィーネさん!」
カチリとドアが開き現れたのは翔吾だった。その後ろからルネシアもやってくる。
「母様、父様」
「とびすけ、波導で連絡くらい寄越しなさい!」
ルネシアに優しく抱き締められて、トビアは泣きそうになってしまった。
「ごめんなさい」
「ショーゴ、龍姫様、よく来てくれた。2人に質問なんだが、シャナとトビアは婚姻出来るのだろうか?」
「え?」
ルネシアと翔吾が顔を見合わせた。
「出来るけど…種は宿せないよ?」
出来るんだ!とトビアは驚いてしまった。
ピンフィーネが決まりだなと手を叩く。
「それならば2人の婚姻を認めよう」
シャナとトビアはあまりのトントン拍子具合に驚いていた。婚姻の儀は国を挙げて行うことになった。式の日取りは半年後に決まり、国内外に広められた。
✢
「なんか、大変なことになっちまったな」
シャナの部屋のベッドにシャナとトビアはいる。もとから大きなベッドなので、2人が並んで横になっていても問題ない。
「兄様、言葉遣いに気を付けなきゃ駄目」
「悪かったよ」
シャナに口付けられて、トビアは驚いた。今までもキスをしたりペッティングをしたことはあるが、それも久しぶりだったからだ。
「ん…に、いさま…んっ」
「トビア、久しぶりだよな。触っていいか?」
「うん…して」
本番は種を宿す時と2人は決めている。既に反り上がったトビアの性器をシャナは緩く握る。
「ん…やっ、らめっ」
こすこすと上下に擦られて、トビアは悲鳴をあげた。
「トビアはすぐいくもんな。可愛いよ」
兄から可愛いと言われるのは嬉しい。達したばかりのトビアをシャナが優しく抱き寄せてくれる。
「トビア、愛してるよ」
「兄様、好き…」
2人は熱い口づけを交わしたのだった。
おわり
※おまけ
「とびすけ、占い上手になったね!」
「本当?」
シャナと婚姻の儀を交わす約束をしたあと、トビアに変化があった。占いの読みが良くなったのである。
ルネシアが驚いてこう褒めてくれる時も圧倒的に増えた。
「これなら小さな案件をお願いできるかも」
「母様、でも…」
自信がないとトビアが言うと、ルネシアが笑う。
「トビア、失敗することも大事なの。僕もそうやって龍姫の仕事をしてきたんだよ」
母の言葉の重みにトビアは頷くことしか出来ない。
「僕、やってみるよ」
「うん」
このことをシャナに報告したい、とトビアは思っていた。
だがシャナは今公務で出掛けている。確か、端末を持っているはずだ。トビアは波導を飛ばした。
「とびすけか?」
シャナの声がする。
「あのね、兄様。僕、今度龍姫の仕事を貰えるの」
「良かったじゃねーか。やっぱり筋が良かったんだな」
「ううん、兄様のお陰なの」
「え?」
「僕、兄様と結婚出来るのが嬉しくて、なんだか自分に自信が持てたの」
「そっか。お前は充分すげえやつなのに知らなかっただけなんだな」
「兄様…兄様だってすごいんだよ」
「トビア、すぐ帰る。愛してるよ」
シャナが手土産を持って龍の里にやって来たのはその数日後だった。
おわり
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