いちゃらぶSS

はやしかわともえ

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あなたのお姫様になりたいSS

誕生日

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ある暑い日のこと、オレは楽屋でスマホ画面を見つめていた。

『ツアー頑張ってきます!』

アオイくんからのメッセージを何度も見返す。
それは昨日したやりとりだ。
アオイくんは、今日から全国ツアーで忙しいらしい。
それはオレともしばらく会えないということだ。

(寂しすぎる)

泣きそうになりながら、またメッセージを見返す。
アオイくんは寂しいなんて全く思ってないんだろうな、なんてますます寂しいことを思ってしまう。

「うぅう」

「うるさいですよ、新」

オレは声をかけてきたそいつを見上げた。
メガネをかけて、この暑いのに長袖を着ている。
オレと同じ声優の高橋一津だ。
普段はゴスロリの男の娘のくせに、仕事のときは爽やかな好青年を演出してくる。
もうここまでくれば詐欺師だ。

「仕方ないだろう、アオイくんと会えないんだから」

やれやれと一津はため息をついた。

「アオイちゃんは、新と違って忙しいんですから」

「オレだってそれなりに忙しいんだぞ!あれ?なんでお前がここにいるんだ?」

一津はオレを無視して行ってしまう。
一応オレのほうが先輩なのに。

とりあえず暇なのでアオイくんと交わした会話をさかのぼってみる。

オレはアオイくんに誕生日を尋ねていた。その日にちを見て、ハッとなる。
アオイくんの誕生日は8/11だった。

(もうすぐじゃないか)

今日は8/2。
アオイくんの誕生日をぜひとも一緒に祝いたい。
でもアオイくんは今、ものすごく忙しい。
オレもその日は夜まで仕事だ。

オレは渋々収録に向かった。

『お疲れ様です、今リハ終わりました』

収録が終わったあとスマホを見るとアオイくんからメッセージが来ていた。
ステージの写真が添付されている。
オレはアオイくんの写真が欲しい。

さり気なく頼んでみると、アオイくんからなかなか返信が来ない。

(やっぱりだめかな)


諦めた頃スマホが鳴る。
アオイくんの自撮り画像が添付されている。嬉しい。



少し照れているアオイくんが可愛くてじっとそれに見入ってしまった。

(家宝にする)

とりあえず画像のバックアップを念入りにして、オレは返信した。

『ありがとう』

そう送ると、アオイくんから可愛いスタンプが送られてくる。
ゆるいマスコットキャラクターのアニメのスタンプだった。

(アオイくん、こうゆうとこ本当可愛い)

ますますアオイくんに会いたくなる。
でもアオイくんにとって、今は大事な時期だ。
そう思うと我慢も出来そうな気がした。

『お花ありがとうございます』

次の日、アオイくんからこんなメッセージが来た。
無事届いてよかった。

『三人の剣客面白いです♡』

続けてこんなメッセージも来る。
オレが今、出演しているアニメだ。
さすがアオイくん、チェックが抜かりない。しかもハートマークにやたらどきどきしてしまう。
初めはファンと演者というだけの関係だった。
それなのに、どんどん彼に惹かれていくオレがいた。

(人生、何が起きるかわからないな)

そうやって日は過ぎて、10日になっていた。
アオイくんが帰ってきたら一緒にプレゼントを買いに行こう、そう誓って仕事に行った。

仕事が終わったのは夜中の10時だった。今日はラジオがあった。

『新さん』

たまたま駅前でスマホを見ていたらアオイくんからメッセージが来た。

何かあったんだろうか?
オレは返信するために立ち止まった。

『オレの誕生日、覚えてますか?』

続けてこんなメッセージが届く。
忘れるわけない。
むしろずっと考えていた。

「新さん」

後ろから声をかけられて、まさか、と思う。
なんで。
振り返ると、アオイくんがいた。

「オレ、帰ってきちゃいました」

はにかみながら言うアオイくんを抱きしめる。

「新さん、オレの誕生日、一緒に祝ってくれますか?」

「当たり前だろう」

アオイくんは可愛い。
でも、時々すごくかっこいい。

「アオイくん、ここにいつまでいられるんだい?」

「明日の始発で戻ります」

あまり時間はない。
オレはそっとアオイくんの手を引っ張った。
もうこのまま連れ去ってしまいたいくらいだ。
でもそれはできない。
アオイくんはそんなこと、望んでいない。

家に向かう途中でコンビニに寄った。ケーキはなかったからいちご大福を買う。

「ツアーはどうだい?」

手を繋ぎながら話して帰る。

「楽しいです。
でもあまりアニメ見れなくて」

アオイくんは筋金入りのアニメファンだ。

「録画してもらってるんだろ?」

「はい、あーちゃんに毎日お願いしてます」

なんだか微笑ましい光景だ。

「オレね、今日、新さんに会ってからずっとメロディが流れてるんです」

嬉しすぎて返事に戸惑った。
アオイくんは歌い出す。
それはゆるやかな優しいメロディだ。

「新さん、好きです」

じ、と見上げられて言われる。
暗くて顔がよく見えないのが切ない。

「オレも大好きだよ」

アオイくんの手をぎゅ、と握る。
ますます帰したくない。
ようやく自分の家に辿り着いてホッとする。

(アオイくんが家にいる!)

アオイくんがソファにちょこ、と腰掛けているのが感動ものだ。
テレビのリモコンを渡したらザッピングを始めたのがおかしい。

「あ、やってたー!」

お茶を持っていくとアオイくんは目をキラキラさせながらアニメを観ている。やっぱりアニメが大好きなんだな。
それから二人でそのアニメを一緒に観た。

「3.2.1!」

二人で零時のカウントダウンを始める。

「アオイくん、おめでとうー!」

「ありがとうございます」

アオイくんといちご大福を食べた。

「美味しい!」

アオイくんの幸せそうな笑顔が可愛い。つい頭を撫でてしまう。
アオイくんの髪はにゃんこみたいにふわふわだ。

「アオイくん、ぎゅってしていいかい?」

そう尋ねると、アオイくんは顔を赤らめて頷いてくれた。
本当に可愛い。

ぎゅ、と抱き寄せる。
アオイくんは小さい、どうしても背伸びさせてしまう。
それでもアオイくんがしがみついてくるのが嬉しかった。

唇にキスする。
舌をアオイくんの口内に入れたらアオイくんが震えるのがわかった。

「っ、ん、んぅ」

ぽろ、とアオイくんの瞳から涙が流れ落ちてくる。
それを拭ってやる。

「アオイくん、好きだよ」

「ん、オレも」






「じゃあ、行ってきます」

始発の時間になるまであっという間だった。もっといちゃいちゃしたかった。

「気を付けていくんだよ」

「はい」


アオイくんが手を振ってくれる。
オレも振り返した。
電車が発車する。

オレは一人、それを見送った。

(大阪公演絶対行くからね)

そう心に誓って。

おわり。
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