いちゃらぶSS

はやしかわともえ

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気になるあのこは宇宙人!?SS

夏はどこにいく?!

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「あーつーいー」

「お前、毎日それ言ってないか?」

世間はもうすぐ夏休みというある日の夜、カナタは寝転びながら扇風機を「強」にした。
今時の扇風機は操作もリモコンで出来るのだと知って、便利さに喜んだ。
エアコンを使うのは、まだ負けなような気がして、ギリギリで粘っている。
千尋といえば涼しい顔をしてパソコンでなにやら作業していた。

「千尋、暑くないの?」

「暑いに決まってるだろ」

何を言ってるんだ、と千尋に言われてしまう。
カナタはとりあえず扇風機の風が自分にだけ当たるように調整する。
本当に暑い。それでも千尋は何も言わない。

「なあ、カナタ?」

そんなことをしばらくしていたら、千尋がふと口を開いた。

「なに?」

風が来ないことの文句かと思いきや、千尋は全く違うことを言い出す。

「お前、盆はどうするんだよ?」

「えっと、普通に休みだけど」

カナタが答えると、千尋は頷いた。

「じゃあ、オレと海行くか?」

「う、み?」

一瞬何を言われたのか分からず、カナタは瞬きをした。
ようやくデートに誘われていることに気が付く。

「うん、いく!海!」

「決まりだな」

「どうやって行くの?」

ふと疑問に思って聞いてみる。千尋は不敵に笑ってこう言った。

「車に決まってるだろ」

「えー、千尋、免許持ってるの?」

「当たり前だろ」

そんなことは初耳だったカナタはむくれる。

「そんなの聞いてないよ。ずるいー!」

「お前は受験勉強してたじゃねえか」

カナタはぐ、と言葉に詰まる。

「花柳と一緒に行ったんだよ、確か」

ますます羨ましくてカナタはソファのクッションに顔を埋めた。

「カナタ、そんな怒るなよ」

「千尋」

カナタが顔を上げると千尋がすまなそうな顔で立っていた。

「僕、楽しくなくちゃ許さないからね!!」

「わかったよ」

(僕、ワガママだったかな)

ふとカナタは不安になったが、言ってしまった手前、取り消すのも癪だ。
こうなったら楽しいデートにしよう、そうカナタは決意した。



デートに行くまでにカナタの試験があったり、千尋の出張があったりと二人は忙しく過ごしていた。

『準備しておけよ』

千尋からこんなメッセージがスマホに届く。
カナタはリュックサックを物置から引っ張り出した。
家から一人、飛び出してきたときに使ったものだ。ふとある気持ちが過る。

(お母さんに一回電話したほうがいい、よね?)

カナタは迷っていた。
千尋の家に転がり込んだ時、一緒に住んでいた母親にろくに説明もしなかったのだ。
父親に至っては家にいないので、全く知らないだろう。
ただ、母親には千尋の家に行くとだけ伝えてある。
早く連絡をしなくては、と思ってはいたのだが、後回しになってしまっていた。

カナタはスマホの連絡帳を見る。
何度か母からメールも来ていたが、返信はたまにしかしていない。
今であれば自宅にいるだろう、とカナタは電話をかけた。

コールが数回鳴る。

「もしもし」

久しぶりに母親の声を聞いて、カナタはホッとした。

「もしもし、カナタだけど」

「あんた、連絡もしないで!
千尋くんからいろいろ聞いてたんだからね!」

どうやら千尋がこまめに連絡をしていてくれていたらしい。
どちらにも申し訳ない。

「ごめんなさい」

カナタが謝ると母はため息をついた。

「ねえカナ?
よく考えて。千尋くんとずっと暮らせる?」

母の心配は最もだ。
それでもカナタはもう心に決めていた。

「僕、本当に千尋が好きなんだ。
だからそれを信じてる」

「そう。でもいつでも帰ってきていいんだからね」

「お母さん、ありがとう。
ごめんなさい」

電話を切ると何故だか涙が溢れた。母はずっと自分を案じてくれていた。
千尋はカナタの家に挨拶にも来てくれている。
カナタが欲しい、そうはっきり言ってくれた。

(嬉しかった)

あんなに人に欲してもらうのは初めてだった。
自分は千尋と共に生きていくのだと、今はっきり決めた。

(僕、頑張らなきゃな)

千尋のお荷物にならない程度には。
カナタは準備を始めた。




「ただいま」

千尋は家が静かなことに気が付いた。テレビもついていないらしい。
カナタはテレビを見るのが好きだ。
珍しいな、なんて思いながら居間に入る。カナタはソファで眠っていた。
そばにはリュックサックが置いてある。

「カナタ、ただいま。
ベッドいくか?」

「んん、おきる」

カナタは薄目を開ける。
まだ眠そうだ。

「無理に起きなくていいって。
寝てろよ」

「やだ」

カナタがこう言った時は絶対に譲らない。千尋はそっとカナタを助け起こしてやる。

「ん、千尋、お帰り」

「ただいま。準備できたのか?」

カナタは頷く。

「千尋、ぎゅってしてよ」

腕を差し伸べられる。
千尋は抱きしめてやった。
カナタから抱きしめて欲しいと言われる回数は少ない。

「どうしたんだよ」

「お母さんに電話した」

「そっか」

リュックサックを見て千尋も分かった。
カナタが突然転がり込んできたのは驚いたが、もう手放すつもりなんてなかった。カナタはずっと自分のものだ、そう強く思った。
カナタの髪の毛を手で梳いてやる。


「ん、お母さん、心配してた。でも千尋が連絡してくれてたんだね?」

「一応な。挨拶くらいだよ」

「ありがとう」

じ、と見上げられて言われると可愛いと思う。そのまま唇を落とすとカナタはくすぐったそうに笑った。

「千尋は準備するの?」

「あぁ、これからやる」




そして、当日になった。

車をレンタルして目的地に向かう。
混雑も予想して早めに出発した。


「わー、千尋!楽しいね!」

助手席でカナタが弾んだ声を上げる。

「当たり前だろ」

千尋がそう返すと、カナタは元気よく頷いた。
ナビを見ると少し先に渋滞の表示が出ている。

「カナタ、もうすぐ渋滞みたいだ」

「本当だ。ナビに出てるね」

「ま、すぐ抜けられるよ。
先にサービスエリア行こうぜ」

「うん!」

駐車も千尋は手慣れたもので、す、と車を停める。

「ねえ、千尋」

「ん?」

「千尋って、なんでも上手で羨ましいんだけど」

むむむ、とカナタに睨まれる。
千尋はぽふぽふとカナタの頭を叩いた。

「そんなことねーから」

「もういーよ、だ!」


なんだかカナタを怒らせてしまったようだな、と千尋は困った。
どうすればいいかわからないが、カナタのことだ。すぐに許してくれるだろう、とも思う。
トイレを済ませて戻ると、カナタが待っていた。

「わりぃ、待ったか?」

「ううん。飲む物買ってく」

「あぁ、そうだな」

「ねぇ、千尋?」

「ん?」

「なんでもない」

それだけ言ってカナタは黙ってしまった。

「カナタ、どうした?」

目線を合わせようとすると反らされてしまう。

「ここじゃ、やだ」

ぽつ、と言われる。


「わかった、後でな」

カナタの頭を撫でる。
彼の腕を引いて車に戻ると、中はものすごい暑さだった。
慌てて冷房をつける。

カナタは先程買ったお茶を飲んでいる。

「カナタ、行くぞ」

「うん」

千尋は車を走らせ始めた。

「なんかあったか?」

千尋はそれとなく聞いてみることにした。カナタは黙っている。
あまり言いたくないようだ。
言いたくなければ別にいいか、と千尋も意識を前方に移す。
そろそろ渋滞だ。車が詰まってきている。千尋もスピードを緩めた。

「僕ね」

「ん?」

ぽそり、とカナタは呟く。

「千尋のこと、ずっと羨ましくて、さっき自分で言って気が付いた。ううん、最初からわかってたんだけど」

カナタはそう言って笑う。
千尋も笑った。

「そっか」

「でも僕は僕だし、今はそんなに思わないから大丈夫」

何故かキメ顔で言われて余計笑ってしまう。

「千尋、僕こんなだけど、これからもよろしくね!」

「当たり前だろ」

そうして、渋滞は抜け、目的地に到着した。
眼の前に広がる海。
思ったほど人は少ないようだ。すぐ駐車場に停めることができる。

「わー!千尋、海だよ!」

「だな!」

パラソルを借りてシートを敷いた。
二人でそこに座る。
二人共水着は持ってきていなかった。

「泳がなくてよかったのか?」

千尋がこう尋ねると、カナタはむう、と頬を膨らませる。

「僕がろくに泳げないの知ってるくせに!」

「そうだったな」

もー!とカナタに軽く肩を叩かれて、千尋は笑った。
二人で海を見つめる。
波は穏やかだ。風もある。

「気持ちいいな、暑いけど」

「うん」

二人でこうしてゆっくり過ごすのは久しぶりだった。

「なぁ、カナタ?」

「なに?」

「今度指輪、買うか?」

「へ?」

「いや、あったほうが安心かなって。オレがだけど」

カナタも意味を理解して赤くなる。

「うん、僕もそのほうが安心だよ」

千尋はかっこいいもんね、とカナタは付け足す。
二人の目が合う。
自然とキスしていた。

ホテルに着くと空調が効いていて涼しい。
ツインの部屋を頼んでいた。
ビジネスホテルのため、割と安めに泊まれた。

「カナタ、夜何食べる?」

「んー、焼き肉!」

「そうするか」

カナタが千尋の胸に飛び込んできたので、千尋は慌てて抱きかかえた。

「おい、カナタ」

カナタは千尋の胸に顔を埋めている。

「僕、千尋としたい」

ごにょごにょ言われる。
そんなカナタが可愛くて、千尋は彼をベッドに組み敷いた。

「手加減出来ないからな」

「ん」

カナタの首筋に唇を落とすと、びく、と身をよじられた。
これに気を良くして、千尋はそれを続ける。

カナタは甘い声をあげた。


次の日の朝、ホテルの朝食バイキングで二人はたっぷり食べた。

「千尋、腰痛いんだけど!」

「残念、オレもだ」

二人でお互いを肘で突付きあう。
ぷっと二人で吹き出して、帰る準備をすることにした。

「楽しかったね!」

「あぁ、よかったよな」

帰り道も途中渋滞に入ったが概ね順調に進むことができた。

「また行こう、千尋」

「だな。今度は指輪もな」

「うん!」

夏は海デートで決まり。

おわり。

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