どうか、幸せになれますように

はやしかわともえ

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二歳の加那太

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僕は特別、大人しい子供だったみたいだ。
とにかくお母さんにべったりで、お母さんから離れるのを嫌がったらしい。

近くの市民会館にある児童コーナーで遊ぶときも、ずっとお母さんから離れなかったそうだ。

でもお母さんは焦らなかった。
それが僕らしさなんだと認めてくれた。
それは今なら分かるけどすごいことだと思う。

お母さんは僕が安心できるように、いつもそばにいてくれた。
喫茶店の厨房で料理をしている時もだ。
僕が安全なように囲いに入れて話しかけてくれていたらしい。
安心した僕はそのままそこで眠っていたそうだ。

ある日のことだった。
朝からおじいちゃんとおばあちゃんが家にやって来たのだ。
二人共、怖い顔をしていたからよく覚えている。
僕は子供ながらに「何かあったんだ」って悟って、すぐに毛布に隠れた。
僕としては上手に隠れたつもりだった。

「加那、起きて」

お母さんが優しい声で、僕を呼んでくれたから、僕は毛布を被ったまま起き上がった。
もしかしたら何もなかったのかもしれない、なんて小さい僕は思ったんだよね。

「加那、お母さん。これから病院に行かなきゃいけないの。だからおじいちゃんとおばあちゃんと一緒にいて?いっぱい遊んでくれるって」

僕は悲しくなって泣き出してしまった。
お母さんが僕を置いていくなんて初めてのことだった。

「加那、お母さんに姉さんがいるのは知ってるわよね?」

「知ってる」

僕はズビズビ鼻水を啜りながら答えた。お母さんが顔を優しく拭ってくれた。

「姉さん、赤ちゃんが生まれるんだって。
だからお母さん、お手伝いしたいの」

お母さんにぎゅっと抱き締められて、僕は渋々頷いていた。

「じゃあね、加那。
夜は加那の大好きなご飯にするからね。
お父さん、お母さん、あとは頼みます」

お母さんは慌ただしく家を出て行った。
僕はただそれをぽかん、と見ていた。

「加那ちゃん、朝ご飯食べようか」

おばあちゃんにそう声を掛けられて、僕は素直に言うことを聞いた。
おじいちゃんとおばあちゃんのことは大好きだったから、一緒に居られるのは嬉しかった。

「加那ちゃん、これからおもちゃ屋に行こうか?」

おじいちゃんがニコニコしながら言ってくれて僕は嬉しくなった。
僕は小さい頃、パズルが大好きだったから、よくお母さんにねだっては買ってもらっていた。
でも僕は心配だった。

「お母さんはいつ帰ってくるの?」

思わずそう聞いてしまって、おじいちゃんとおばあちゃんが顔を曇らせたことに気が付いた。

「加那ちゃん、赤ちゃんが生まれるのは大変なことなの」

おばあちゃんに頭を撫でられて僕は分からないなりに頷いた。赤ちゃんは市民会館にも沢山いたからよく知っていた。でもご機嫌な赤ちゃんが多かったから、「生まれるのが大変」というワードに結びつかなかったんだ。

その後、おじいちゃんとおばあちゃんに大きなおもちゃ屋に連れて行ってもらった。
そこで色々なパズルを沢山買ってもらった。

夜、お母さんが帰って来て僕を抱き締めてくれた。僕は嬉しかった。

「加那、よく頑張ったね!偉かったね!
いい子にしてたって聞いたよ!」

「赤ちゃんは?」

「大丈夫だった。元気な赤ちゃんだったよ」

お母さんがすごく嬉しそうだったから、僕も嬉しかった。
僕はその後、お母さんからなかなか離れられなかった。
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