あいれん!

はやしかわともえ

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潜入2

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愛の提案は驚くべきものだった。
本当に僕を入院させてしまったのだから。
入院といっても、検査入院だ。
検査のために病院内を歩いていておかしくないという愛の考えによるものだった。

「僕一人でなんて大丈夫かなあ」

正直なところ、普通の中学生の僕には荷が重すぎる。
夜になったら愛、恋と合流することになっているとはいえ。
僕は看護師さんから案内を受けた通りに、検査室に向かっていた。

なんの検査かというと、尿に淡白がでた、という理由からである。
実際はそんなことない。
でもそれは皇さんの技術でなんとかなってしまった。

僕は検査室前の椅子に腰かけて順番を待つことにした。
どうやらここで血液検査をするらしい。

「はぁ、痛いのかな」

「兄さん、注射怖いの?」

頭上から降ってきたからかうような声に僕はその人をみた。

「愛!なんで?」

愛はにやり、と笑いながらこちらをみている。
予定と全然違うじゃないか!!
僕が口をぱくぱくさせていると、愛はウインクをする。

「どうやら、私たちが思っていたより大がかりになりそうだから、恋を待機させたわ」

確かに恋はこの場にいない。
彼女の獣になった姿もみたことないし。
それが関係してるのかな?


「恋一人で大丈夫なの?」

愛はあぁ、と呟いてこう言った。

「燦も一緒にいるから大丈夫よ。
あの子意外としっかりしてるし」

「そ、そうなんだ」

「柊さん、検査室にお入りください」

呼ばれた。僕は立ち上がる。

「兄さん、検査が終わったら行くわよ」

「わかった!」

僕が検査室に入ると何人かの人たちが検査をしていた。
そこに見覚えのある人を見つける。
蜜音だ。
彼女は僕に笑いかけてきた。

「あらぁ、お兄さん、ご病気?
まだ若いのに」

「ま、まぁね」

僕はなんとかごまかそうとしたが無駄なようだった。

「狼がいるのね、匂うわあ」

スンスンと蜜音は鼻を動かす。
くそっ、どうすれば!

「蜜音と来てくれなきゃ、ね?」

ささやかれて引っ張られる。
先程の入り口とは逆方向だ。
愛!!
僕は蜜音に逆らえないまま、病院の地下にやって来た。

あちらこちらに実験器具が置いてあって、不気味だ。

「お兄さん、どうしてきたのぉ?」

薄暗いなか、蜜音が笑いながら聞いてくる。

「き、君たちを連れ戻しに来たんだ!」

「へぇー」

「も、もともとは愛や恋と姉妹なんだろ?
仲良くしなきゃ!」

「私が狼に負けたら考えてあげる。
それに、恋とかいうガキの話はしないでくれる?
あの子半獣なのに獣になれない役立たずよ」

え?
僕は耳を疑った。
恋は半獣だ、なのに獣になれない?

「あーら?知らなかったの?お兄さん?
あのこ、グズだし、私大嫌いなんだから」

「そ、そんな言い方しなくても!」

「そうだぞ、蜜音」

誰かがいる。
真っ白な髪の毛を束ねた筋肉質な女性。
この人って?

「楓、といったな?
私が鯨(くじら)の白だ」

白、さん?

「私の妹たちが君に無礼を働いているようで、すまないな。
だが、世界は変わってきている。
私たちのやろうとしていることは無駄じゃないはずだ」

「せ、世界を乗っ取ることがですか!!」

思わず声が裏返ってしまう。
白さんは豪快に笑って僕を見た。

「世界は二の次さ。
私たちは新しい人類になるんだ」

半獣が新しい人間??

「じゃ、じゃあ、普通の人はどうなるんですか?」

「さあね、半獣になればいいんじゃないか?
私たち半獣は普通の人間より上等だからな。」

そんな!!
僕はとても悔しくなった。
半獣が上等?
普通の人間が劣っていると?

「バカらしい理屈ね、白」

いつのまにか愛が僕のそばに狼の姿でいた。
気配がまるでなかった。

「おや、愛。なんだ、私と戦うのかい?」

「撤回しなさい、さっきのこと。
人間は人間のままでも誇り高い生き物よ」

「はは、どうだかね!」

白さんは笑っているのに、なんだかさっきから違和感を感じる。
僕だけだろうか?

「兄さん、私に乗りなさい。
戦闘になる」

僕は言われた通りに彼女にしがみついた。

「やるか!蜜音!」

「静いくわよ!」

空からコウモリが降下してくる。
静ちゃんだ。
静ちゃんは蜜音を持ち上げる。
愛が走り出した。
四肢からバチバチと電気が流れる音がする。
愛から聞いて知ったことだが、愛は筋肉の運動を電気を流すことで、極限に上げているようだ。
だからあんなに早く走れる。

静と蜜音の姿はもう見えない。
まだ蜜音がなんの動物になれるのか、僕は知らない。

「カメレオンよ」

「え?」

僕は訳がわからず黙っていると、愛はこう言った。

「蜜音のステルスの能力はカメレオンからきているの。
他の景色に同化できるのよ」

だからいつも姿を消してるのか!!

「愛!私はこっちだよ!」

大きな白い鯨が地面を波立たせながら泳いでくる。

「わぁぁぁ!!」

大きな波が僕らを襲う。
なんで水があるんだ!!



「白の能力なの。
手強いわね」


愛は水を避けてジャンプする。

「苦戦してるようね?狼」

この声は?!
僕は思わず振り返ってしまった。
燦だ。
沢山の犬が彼女を取り囲んでいる。
今日は人間の姿だった。

「静、蜜音をあぶり出しなさい」

犬たちは一斉に吠えて唸りだす。
これが燦の能力?
白に威嚇している犬もいる。

愛はぐるぐる回っている。
なにかを狙ってのことなんだろうか?
だんだん回る範囲がちいさくなっていっている?

「恋、役立たずなんて言われて黙ってられないわよね!」

え?恋?

天井に影が映りこむ。
龍だ。
あれが、恋?

「れん、練習したもん。
負けないよ!」

バチバチ、と音がする。

白と蜜音たちはおそらく水のたまった部屋の真ん中にいる。
これって?

「いくわよー!」

「いっけー!」

愛と恋が同時に叫ぶ。
白い光が部屋を包んだ。

つづく。
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