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林田

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4月になり数日が経過している。
新しい職員が入り、職場がバタバタしているが、真司はもう慣れたものだ。
昼休みはゆっくり缶コーヒーを飲みながら外の景色を眺めるゆとりがある。

「山下くん」

ふと、後ろから声を掛けられて真司は振り返った。

「どうかしましたか?」

声の主は分かっていた。林田である。
彼女は戸惑っているようだ。珍しいな、と真司は密かに思っていた。

「斉藤くんのこと…なんだけど」

林田が自分の缶コーヒーを買いながら話し始める。

「千晶が何か?」

「山下くん、何したの?あんなにハツラツした子だった?」

「さぁ。俺は何も」

千晶は一体彼女に何を言ったのか、ちょっと怖くなった真司である。

「とぼけないで。山下くんがあの子に構ってるの、こっちはちゃんと見てるのよ?」

林田が腕を組みながら見上げてくる。そんな彼女はなかなか迫力があった。

「ま、まあちょっと一緒にケーキ食べに行ったりとかはしてますけど」

さすがに付き合っていることは言えない、そう思い真司は言葉を濁した。

「それよ、それ。斉藤くんがスイーツ好きなこと黙ってるなんて」

「いや…えーと」

なんだか話がずれてきた気がする真司である。だが、それはある意味好機とも言えた。
真司は続ける。

「ち、千晶はスイーツ好きな男子っていうアイデンティティに自信がなかったらしくて」

「いいじゃないの、スイーツ男子!
私も課長と一緒に行けたら」

ほう、とため息をつく林田である。
どうやら田中が言っていたことは正しかったらしい。

「林田さんは課長が好きなんですか?」  

田中から聞いたとはさすがに言えず、真司は改めて本人から聞いた。
林田は顔を赤くする。

「やっぱり分かる?」

今ので十分分かったので真司は頷いた。

「課長、優しいしかっこいいじゃない。
でも私みたいなオバサンじゃ…」

「林田さん、美人だし喜ぶと思いますよ」

「やぁだ!山下くんったら」

肩を軽く叩かれる。

「ねえ山下くん…」

彼女に静かに見上げられる。
真司は彼女に向き合った。

「その指輪、斉藤くんのと同じよね?」

やはり年上の女性には敵わない。
真司は思わず頷いてしまっていた。

「ま、いいや。二人が仲良しなのは皆知ってるし」

んー、と彼女が伸びをしている。

「さ、午後も頑張りましょう!」 

「はい」

オフィスに戻ると、千晶が真司に駆け寄ってきた。

「真司さん、これ資料のまとめです。目を通しておいてくださいね」

真司はそっと千晶の細い腕を掴んだ。ぐい、と引き寄せる。

「ちゃんと休んだか?」

千晶は先程まで新入社員に作業の手解きをしていた。彼の様子からして疲れていそうだ。

「りんごジュース買って一息入れてこい」

「でも…」

「ほら、カード」

千晶に有無を言わせず交通系ICカードを渡す。

「ありがとうございます」

千晶は微笑んでオフィスを出て行った。
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