上 下
14 / 18
第三話「トウマの想い〜イヴの過去」

レイラの家

しおりを挟む
「お兄ちゃん達、お帰りなさい」

真夜中になって、レイラたちはようやく南の地方、サヤトに到着していた。
ここは、レイラの故郷である。
暗い中、家に入るとサチが出迎えてくれた。
サチの夫のルリは普段通り、中央で城に仕えているらしく,滅多に家に帰ってこないらしい。
そのため、サチは実家であるサヤトで暮らしているのだ。
彼女はずっと待って居てくれたらしい。
レイラの母親やカヤも奥からやってくる。

「おう、来たな」

「ただいま、兄さん、サチ。母さんも。父さんは?」

「親父なら疲れて寝てる。今日はレイラが帰ってくるから待ってるって言ってたんだけどな」

「そっかあ」

「俺なら起きてるぞ・・ひっく」

ゆらりとレイラの父親が赤い顔をしてやってくる。
イヴはそれに悲鳴を上げてレイラの後ろに隠れた。

「おじちゃん、怖い・・・」

イヴが小さい声で言う。

「イヴちゃん、おじちゃんお酒飲んじゃったの。何もしないから大丈夫だからね」

レイラの母親が笑いながら言う。

「うん」

改めてレイラは自分の家族の温かさを感じていた。


「いきなり大人数で押しかけてしまい申し訳ありません」

ラウがそう言って頭を下げるとレイラの母親は手を振る。

「いいんですよ、部屋はいっぱいありますからね」

「おい、母さん。酒だ。ラウ伯爵に出せるように買っておいただろう」

「今日はもういいでしょう。明日もみんないるんだから」

こんな両親のやりとりも久しぶりに見る。

「いつも賑やかですね、レイラさんのお家は」

そっとラウに言われてレイラは頷いた。
レイラは自分の部屋にイヴを連れて入った。
トウマとラウが客間に通されている。

「れいらのお部屋綺麗だねえ」

「ああ。母さんが掃除をしてくれているんだろうな」

「お母さんかあ」

イヴが呟く。彼女は大分眠そうだった。もう真夜中だ、無理もない。

「イヴ。もう寝ろ。俺の家はみんな早起きだから朝ごはんも早いぞ」

「うん」

イヴをベッドに寝かせて、レイラもその隣に横になった。

「ねえれいら、あたしどうしたらいいんだろう」

昨日からなんだか、イヴは寝つきが良くない。きっと泉のことも関係しているに違いなかった。

「大丈夫。それは明日考えればいい」

「そうだね」

レイラが彼女の頭を撫でてやると、ようやくイヴは眠った。
レイラも目を閉じる。正直へとへとだった。
ラウやトウマも眠れているだろうか。そんなことを思いながらレイラは眠った。



翌日。レイラが目を覚ますとイヴがレイラにしがみついて寝ていた。
そんな彼女の頭を撫でるともぞりとイヴが動く。大きな目が半分開く。

「れいらー、おはよう」

「ああ。イヴおはよう」

「お腹空いた」

「今日はいっぱい食べられるぞ。母さんの作るご飯は本当に美味いからな」

「わあ、楽しみ」

「お兄ちゃん、起きてる?」

こんこんと部屋のドアをノックされてレイラは応えた。

「ご飯できたって。イヴちゃんも行こう」

「サチ、ありがとう」

ラウやトウマもよく眠れたらしい。
レイラ達みんな、すごくお腹が空いていた。昨日の移動で相当消耗したらしい。

今日の朝食は麺料理だった。
芋でできた太い麺の上にたっぷりの野菜が乗っている。
温かいスープが少し辛いのも食欲が増す。
他に、煮物や卵料理も並んでいる。

「美味しい」

イヴが早速食べて歓声を上げる。
レイラもこの料理を食べたのは久しぶりだった。
実家にいた時は当たり前の味だったが改めて食べてみると美味しい。

「みんな、おかわりいっぱいあるからね」

レイラの母親がニコニコしながら言う。
早速イヴがぺろりと平らげて、お代わりをもらっていた。

「美味しい、辛い」

トウマはどうやら辛い物が苦手らしい。
何度もお茶を飲みながら食べていた。

「レイラさんがお料理上手なのは、お母さまがお料理上手だからなんですね」

「まあラウ様ったら、お口も上手なんですね」

ラウはお世辞を言えるような器用な人ではないというのはレイラはよく知っている。彼の本心からの言葉だろう。
それに母親も満更ではないらしい、というかすごく嬉しそうだ。

「ラウ様、お代わりはいかがですか?」

「ぜひ」

こうして和やかな時間は過ぎていった。

「で?どこにあるんだ?その泉ってのは」

早速、カヤが地図を広げている。
妖精の泉はセナ家の領地に含まれている。
だが今までそんな報告はないらしい。

「イヴちゃん、俺には教えてくれないのか?」

カヤが困ったように言う。
イヴが毅然と言う。

「あそこはもう消す」

その言葉にレイラは驚いた。
普段のイヴらしからぬ言葉遣いだ。

「イヴ?どうしたんだ?」

「あたしはもうあそこには戻らない。泉で暮らしていたアメリアも独り立ちをした。
だからあそこを残す理由はもうない」

「イヴちゃん・・・そっか。わかった」

カヤがそう言って笑った。
イヴの頭を撫でている。
イヴの雰囲気が今までと変わったのは確かである。おそらく彼女の妖精としての部分なのだろう。
ラウをそっと見つめると彼も頷く。

「イヴ、俺達に最後に泉を見せてくれないか?」

レイラがそう尋ねるとイヴは頷いた。

「わかった。れいらのお願いだものね」

こうしてカヤも加わり、一行は泉を目指した。
しおりを挟む

処理中です...