僕の死亡日記

はやしかわともえ

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二十一話・あの子

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僕はまた夢を見ているんだろうか。また知らない場所にいる。僕の目の前で田植えが行われていた。もちろん機械でじゃない。全て手作業だ。農業は大変だよな。僕は自分の体が自由に動かせることに気が付いた。

「主人、ここは俺の前の主人、じっちゃんがいた場所だ。鵺と戦って一度倒した。主人は確かにじっちゃんによく似ている。でも主人はじっちゃんの写し身なんかじゃないぞ」

獅子王がそう言うのだからそうなんだろう。僕は田んぼに近付いた。作業をしていた人が僕に気が付く。もちろんその人が僕のひいひいひいおじいちゃんなんだ。僕と年齢は同じくらいだろうか。色白で華奢な体を必死に動かしている。

「あの、お手伝いさせてください」

「金が欲しいのか?」

「違います。話を聞かせてください。鵺について」

鵺、というワードに彼は眉を顰めた。僕は気にせず続けることにする。

「あなたは獅子王という刀剣を持ってますよね?鵺と戦うために」

「…まあな。お前は何者だ?」

「僕は詩史っていいます。鵺と戦いました」

「詩史…だって?」

おじいちゃんが目を見開く。何かあったのかな。

「お前は鵺をどうした?」

「切り刻んで海に流しました」

「なるほどな。奴らしい最期だ。詩史、この苗を植えてくれ」

どうやら信じてもらえたらしい。僕は裸足になって、田んぼに足を踏み入れた。泥の感触になかなか慣れない。そして思っていたより冷たい。
苗を均等になるように気を付けながら植えた。
日差しは雲に覆われていたからそこまでじゃなかったけど、大変だったのは間違いない。片手に苗の入った箱を抱いての作業は辛かった。

「詩史、ありがとうな。助かったよ」

タオルを借りて、汗を拭う。足は井戸の水で洗った。ものすごく冷たい。でも気持ちいい。縁側に座っていろと言われて、座っていたらおにぎりとスイカが出てきた。僕のお腹が急に鳴り出す。
おじいちゃんはそれに噴き出した。

「詩史、沢山食べろ。よく鵺を退治してくれたな」

「うん、頂きます」

僕は大きなおにぎりを掴んで齧り付いた。塩むすびだ、美味しい。

「おじいちゃんが死亡日記を作ったの?」

僕の最初の疑問はそれだった。

「あぁ。獅子王にもらった。記述を残したほうが後に困らないからと。タイトルはいつ死んでもいいようにだ。俺は体が小さい。軽いはずの獅子王すら重たかった」

確かに彼は僕より小柄だ。戦うのは大変だったはずだ。

「鵺に沢山奪われたよね?獅子王に会わなかったらおじいちゃんは…」

彼は頷く。

「自殺も考えたよ。でも獅子王がそれを止めてくれた。未来のために日記に書いておいたほうがいいと勧めてくれた。やはり、鵺を殺しきれてなかったか」

おじいちゃんが悲しそうに目を細める。

「大丈夫。獅子王が力を貸してくれたよ!」

おじいちゃんがボロボロ涙を零す。急なことに僕は驚いていた。

「獅子王は眠ってしまった。あいつに会いたい。あの笑顔をもう一度見たい」

獅子王が眠った?僕は寒気を感じた。今の時代の獅子王はどうなってしまうんだろう。

「僕、戻らなきゃ」

「詩史、俺は遺言を残すつもりだ。男の子が生まれた時、ししと名付けてくれとな」

「え…?」

それが僕だったんだ。おじいちゃんが手を振っている。僕は彼に手を振り返した。
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