健気な騎士たちはわがまま姫に忠誠を誓う

はやしかわともえ

文字の大きさ
1 / 10

一話·わがまま姫と健気騎士

しおりを挟む
「嫌、絶対に嫌」

「ですが、姫…」

ここはオーテスカ国内にある城だ。左右対称の尖塔が特徴の立派な城である。両側にいる兵士が守る門をくぐり、広い前庭を抜けると、ようやく城に繋がる大きな橋に到達できる。周りには堀がある。その橋を無事に渡るといよいよ城だ。城内に入るとパーティが行われる広間がある。そこを更に奥に進むと中庭に繋がる廊下に出る。
この国、オーテスカの姫君、ジュアと彼女の護衛をしている騎士のクモリはそこで話していた。
ジュアは今年で18になる。クモリより一つ年上だ。そんな彼女の元に公務を務めるようにと王よりお達しがあった。普段から外に出たくないとわがままを言って城にこもっているジュアである。クモリにやっぱり行きたくないと訴えてきたのだ。

「私、絵画を見る目なんてないもの」

ジュアは大の人見知りだった。彼女は周りの人を引き付けるような華のある見た目をしている。
茶色がかった金髪に金色の瞳を持つ彼女はとても美しい。だがジュアにその自覚はない。自分が周りの人間になにかしてしまったのかとオロオロしながらクモリの陰に隠れていることもよくある。クモリは彼女を元気づけようと笑った。

「その国アーモはお菓子が美味しいと聞いています。姫が甘いものを好きなことも先方はご存知のはず。きっと沢山お菓子が食べられますよ」

「お菓子…」

ジュアは呟いて、首を横に振った。

「で、でもやっぱり無理よ。私、普段から城にいるし、他の方とお話なんて」

ジュアの意志は固いらしい。クモリはしょうがないなぁと思いながらこう言った。

「確かアーモに向かうまでに経由するカシューで姫の好きなチョコレートの祭典が…」

「行く…」

クモリは心の中でガッツポーズを決めたのだった。

✢✢✢

「よく説得できたわね、あの娘は頑固だから」

クモリと同じくジュアの護衛をしているメアだ。彼女は腕を組んでため息をついている。ここは姫の部屋のそばにある控え室になる。クモリは日頃からここで寝泊まりしていた。ジュアを守るためである。刺客はどこから襲ってくるか分からない。

「よくやったな。クモリ」

「兄ちゃん、もっと褒めて!」

クモリの兄、ハレがクモリの頭をポムポム撫でている。ハレもまたジュアの護衛をしている。大きな剣を背中に背負った彼をクモリはいつも尊敬と憧れの眼差しで見ている。

「じゃあとりあえず姫の様子を見てくるか」

ハレが剣を背負い直す。

「そうね。いくら行きたい祭典があるからって公務への不安は消えていないだろうし」

メアも立ち上がって手袋をはめ直す。二人共経験豊富な先輩騎士だ。クモリは日々彼らから技術を盗んで自分の物にできるようにしないといけない、と二人から言われている。なかなかのプレッシャーだが、それをジュアが聞いてくれるのでなんとか上手くいっている。

ジュアの部屋をノックするが返事がない。ハレはそれに慌ててドアを開けた。ベッドの上に膨らみがあるが、なんだか不自然だ。毛布を捲ると巨大なくまのぬいぐるみだった。

「くそ、やられた」

「ハレ、私は西側を探す。あんたは逆側を!」

「分かった」

バタバタと二人が走っていく。クモリはその場にしゃがんだ。何かおかしいなと思ったのだ。引きこもりのジュアが自ら城の外に出るのは考えにくい。だとしたら。クモリはいつものように話しかけた。

「姫、出ておいでよ。いるんでしょ?」

クモリの問いかけに誰も答えない。クモリは最終手段を使うことにした。ひとりごとを装う。もちろん聞き耳を立てている相手には聞こえるボリュームだ。

「あ、そういえば兄ちゃんが姫にチョコレートの差し入れを用意してたなあ」

ガタリ、と収納から音がする。クモリはトドメの一声を放った。

「姫がいないなら仕方ないから三人で食べようかな」

「…べる!!」

ガタガタと音がしてジュアが収納の中から涙目で出てきた。

「私も食べる!!!」

「あぁ、姫。ほこりまみれじゃん。先にお風呂だね。兄ちゃんやメアも姫を心配してるよ。そんなに公務不安?俺たちも一緒にいるよ?」

「だって…アーモ国の王子殿下は私なんかにすごく優しくしてくださるからつい勘違いしそうで」

クモリは内心首を振った。彼はジュアが大好きである。この国にパーティで呼ばれる度、必ずプレゼントを持って現れる。正直なところ、もういつでも嫁げるような状態らしい。
それをしないのは王子の優しさからだ。ジュアが怖がらないようにとずっと待っていてくれている。

「勘違いかどうか行って確認したら?」

「そうね、そうする」

よし、とジュアは両手を握った。姫の背中を押すのも一苦労である。だが姫を守りたいと思うので苦にならない。

「兄ちゃん、メア!姫いたよー!」

クモリが二人に声をかけた。

「姫!!お願いですから心配をかけないでください!!」

さっとジュアはクモリの背中に隠れた。よくある光景である。彼女が小声で言う。

「クモリ、隠れていたこと…」

「大丈夫、言わないよ」

ハレとメアが慌てた様子で駆け寄ってきた。

「よかった、姫様」

メアが涙目でジュアを抱きしめる。メアはジュアを妹のように可愛がっている。

「ごめんなさい、メア、ハレ」

「お怪我はありませんか?」

ハレも究極にジュアに甘い。彼女の手を握ってどこかケガをしていないかと観察している。
クモリは空を窓から見上げた。雲で日が隠れている。
アーモに行く日はどうだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日7時•19時に更新予定です。

【完結】ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私はドラゴンだってサイコーです。

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
 やってもいない罪を被せられ、公爵令嬢だったルナティアは断罪される。  王太子であった婚約者も親友であったサーシャに盗られ、家族からも見捨てられてしまった。  教会に生涯幽閉となる手前で、幼馴染である宰相の手腕により獣人の王であるドラゴンの元へ嫁がされることに。  惨めだとあざ笑うサーシャたちを無視し、悲嘆にくれるように見えたルナティアだが、実は大の爬虫類好きだった。  簡単に裏切る人になんてもう未練はない。  むしろ自分の好きなモノたちに囲まれている方が幸せデス。

望まない相手と一緒にいたくありませんので

毬禾
恋愛
どのような理由を付けられようとも私の心は変わらない。 一緒にいようが私の気持ちを変えることはできない。 私が一緒にいたいのはあなたではないのだから。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

侯爵様の懺悔

宇野 肇
恋愛
 女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。  そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。  侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。  その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。  おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。  ――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

処理中です...