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一章
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1・冷たい風が体に突き刺さるような勢いで強く吹いてくる。俺はたった一人で、ゴツゴツした岩山の上を、歩いていた。
とりあえず、この冷たい風を避けられる場所に行かないといけない。もう体力的にも限界が来ている。俺はゆっくり岩壁を伝って下におりた。しばらく下ると、ぽかっと中に入れそうな穴がある。俺はホッとしてそこに入った。
冷たい風が体に当たらないだけでも随分違う。やっと休憩ができる。俺は背負っていたナップサックを下ろして中身を確認した。
「わぁ参ったな、もう食料がないし、傷薬もないぞ」
今日、俺はパーティから追放された。はじめはみんな、優しくて俺を頼りにしてくれた。パーティのリーダーで、勇者であるカケルとも上手くいっていた。でも、旅を続けていく内に、俺のレベルの上がり方が、みんなよりものすごく遅い事が分かった。
はじめはみんな、『気にするな』と言ってくれたけど、だんだんみんなの態度は厳しく冷たくなっていった。
俺なりに色々調べたり、個人的に修行をしてみたけれど、やっぱりレベルが上がりにくいことに変わりなかった。
「なんで俺ばっかり…くそっ」
岩壁に拳を打ち付ける。じん、と拳に痛みが走る。しっかりしろ。こんなところで死んでたまるか。
「んだよ。さっきから、がちゃがちゃうるせえな」
「え…」
俺は驚いて岩穴の奥の方を見た。緑色の瞳がこちらを見ている。その威圧感に、俺は怯んで後ろにずり下がった。なんだ、この人。分からないけれど、とにかく普通じゃない。早く逃げないと、そう思ったのに体は動かなかった。
「へえ、人間か。若いし柔らかそうだな」
「ひ!」
いつの間にか俺はその人に組み敷かれていた。なんで。体が思うように動かない。
「やだ!やだ!!食べないで!」
「そうやって啼くのか。なかなかいいじゃねえか」
その人は面白いものを見つけた子供のように笑った。やばい。絶対に殺される。俺は泣きながら抵抗した。でもそれは無意味に近い。それでも俺は叫ばずにはいられなかった。
「やだ!お願いだから、殺さないで!」
「それはお前次第だな」
「え?」
気が付くと俺はその人と宙を飛んでいた。その人の背中から黒い禍々しい翼が生えている。
「お前、名前は?」
低い甘い声が耳元でして、びっくりしてしまった。なんだかドキドキしてしまう。この人、よく見るとすごくかっこいい。顔立ちが整っているなんていうレベルじゃない。
「お、俺はましろ。白魔導士」
「へえ。お前、鍵付きか」
「か…?」
何を言われたのかさっぱり分からない。鍵付きって言っていた?なんだろう?
「まあそんな細かいことはいいな。しっかり掴まってろ」
何か知っているなら教えて欲しい。でもそれを言えるほどのゆとりはなかった。更に彼の飛ぶスピードが増したからだ。
俺はこれからどこに連れて行かれるんだ?結局そこでゆっくり食べられるんじゃ。怖いけど、今は掴まっていることしか出来なさそうだ。俺の命は今、彼に委ねられているのだから。
2・「ましろ、もうすぐだぞ」
ギュッと彼にしがみついていたらそんな言葉が落ちてきた。
恐る恐る振り向いたら、高度がだいぶ下がってきているようだ、陸にある建物やなんかが見える。ふと視線をずらすと、真っ黒な城が目に入った。あれってまさか。
「ま、魔王城?」
「あー、あれ俺の家だわ」
あまりの衝撃に俺の頭は真っ白になった。そこから意識がない。
✣✣✣
「ん…」
気が付くとふかふかしたベッドに寝かされていた。すごく温かい。
でもなんで…。つい心の声が出てしまう。
「俺、なんで裸なんだ?」
あまりにも心許なくて、泣きそうになりながらあたりを探ったけれど、服は見当たらなかった。大きなベッドだ。多分、キングサイズってやつだろう。俺はベッドから降りようとした。
「ましろ…」
「っ!!」
後ろからあの人の声がする。俺をここまで連れてきた人。俺は振り返った。
「お前、なんつう顔してんだ?」
その人は俺を見るなり噴き出した。勝手に人の服を脱がせておいて、笑うなんてずるい。ムカムカしたけどさすがに言えなかった。だって…。だってこの人、多分魔王だし。俺なんて小さな虫けらを殺すのくらい容易いことだ。俺はまだ死にたくない。なんとか生きてここから逃げ出すしかない。
「俺の服…」
ポツッと言ったら、魔王があぁ、と頷いた。なんともわざとらしいな。魔王がまた面白そうに笑う。
「お前は裸の方が可愛いんじゃないか?」
「そんなわけないでしょう!!」
あ、いけね。つい本音が出てしまった。俺は、魔王相手になにやってるんだ。ちらっと魔王を伺ったら気分を害した様子もない。その上、彼は顎に手を当てて、なにやら考え始めてしまった。
「お前に似合う服か…」
なんかぶつぶつ言っている。俺はドキドキしながらその様子を見守った。魔王はしばらく考えて、なにか思いついたらしい。俺に向かって指を鳴らした。
ぽん、と軽い音がして裾の長いシャツが現れる。俺は慌ててそれを受け止めた。
「とりあえずそれ着とけ」
「はい…」
せめて下着くらい欲しかったけど今は仕方がない。俺は渋々素肌にそのシャツを着た。一番下までボタンを留めれば体も見えないしな。でもなんだかスースーして落ち着かないな。
「ましろ、おいで」
魔王に呼ばれて、怖かったけど俺は言われるがまま近付いた。魔王ってもっと粗野なイメージを抱いていたけれど、この人は違うようだ。腕を優しく掴まれて抱き寄せられる。どういうつもりなのかは分からないけれど、今は様子見だ。魔王の手がするり、と俺の背中を撫でる。その触り方に俺はビクっとなってしまった。
なんだ、今の変な感じ。
「顔上げろ」
言われるがまま顔を上げると、そのままキスされていた。なんでこんなことになった。
「ん……っつ、ふ」
ちゅ、ちゅ、と角度を変えながら何度もキスされる。なんでかは分からない、でも気持ちいい。この人は俺に何を求めてるんだろう。
されるがまま、キスされていたらぎゅう、と急に抱きしめられた。
「お前、やっぱり可愛いな」
耳元で囁かれて、ゾクッとした。可愛い?俺が?
「ましろ、俺と番にならないか?」
「つ…番って…俺、男ですよ?」
慌てて言ったら、魔王に笑われる。
「俺はお前が気に入ったんだ。いいだろ?」
「よ、よくないですよ!」
「はは、お前面白いな」
なんだか知らないけれど、魔王に気に入られてしまった。
これからどうしたらいいんだ?
殺される可能性は低くなったけど、まだゼロではないし、なんとかここから脱出しないと。
「ましろ、腹減ったろ?」
「え…」
情けないことに、キュルルルルと腹の虫が鳴いたのだった。
3・「わ、すごいご馳走!」
長い巨大なテーブルにずらっと料理が並んでいる。なんともいい匂いだ。こんなの生まれて初めてかもしれない。俺の生まれた家は貧乏だったもんな。それをなんとかしようって俺は15の時に家を飛び出してきたんだ。そろそろ仕送りを送らないと母さんたち、困るよな。早くここから脱出しないと。
「沢山食べろ、美味いぞ」
魔王がそう言って、グラスを傾けている。俺の目の前にも同じグラスが置いてある。中身は赤い液体がなみなみと注がれていた。
まさかこれ、何かの血液とかじゃないよな?
恐る恐る匂いを嗅いだら、トマトだった。魔王、トマトジュース飲むんだ。意外。
「それ美味いぞ。甘い」
「いただきます」
そろっと手を合わせて俺はトマトジュースに口をつけた。
すっきりした甘みが口いっぱいに広がる。久しぶりの食べ物だ。嬉しい。
「美味い…」
「そりゃあよかった。他のも」
「おにいちゃま?」
「おかえりなさいー」
「…」
よちよち歩きで小さな子がやってくる。しかも三人も。みんな、可愛いな。背中から小さな黒い翼が生えている。この子たちが魔族なのは間違いない。
「お前たち、外で遊んでたんじゃなかったのか?」
「申し訳ありません!若様!!お止めしたのですが!」
あ、やっぱりお城には執事さんがいるんだ。この人も魔族なのかな?頭から角が生えているし、そうなんだろうな。魔王に向かってペコペコしている。
「おにいちゃま、一緒に遊んでー!」
「あー、仕方ないな。先に飯食ってからだ。俺と遊びたいならお前たちも飯にしろ」
「はーい」
魔王が一人一人抱えて、椅子に座らせてやっている。もしかしてこの人、すごく優しかったりする?
料理が次から次に運ばれてくる。
料理を運んでくるのは黒い影みたいななにかだ。見慣れないものばかりでさっきから驚いてばかりだな。子供たちがスプーンでごはんをかきこんでいる。そんなちょっとした仕草が家の小さい弟たちを思い出して微笑ましい。
「おにいちゃま、このひと、おきゃくさま?」
魔王が笑った。
「こいつはましろだよ。ましろ、このチビたちは俺の弟だ。エー、スー、リーっていう」
「ましろおにいちゃま!」
「ましろ、僕と遊んでー!」
「…」
「あ…よろしく」
なんだか魔王を見る目が一気に変わってしまった。こんなに小さい子たちと一緒に暮らしてるなんて。魔王は執事さんとなにやら話している。
「若様、ましろ様のお召し物ですが…」
「あぁ、なんか適当に頼む」
あ、やっぱりこの格好じゃさすがにまずいよね。久しぶりにお腹いっぱいごはんを食べたら、なんだかホッとしてしまった。俺達は今、城の裏庭にいる。
とにかく庭が広い。植物たちがどれもこんもり茂っている。ちゃんと手入れをされている証拠だ。エー、スー、リーが砂場で遊んでいるのを俺は魔王と見ていた。執事さんが新しい服を用意してくれて、ようやく落ち着いたのも大きい。魔王に肩を抱き寄せられる。それにドキドキしてしまうのはどうしてなんだろう。
「ましろ、お前に兄弟はいるか?」
ポツッと魔王から尋ねられて、俺は頷いた。
「小さいのが6人います。俺が一番上で」
「へえ。じゃあさぞかし金がかかるだろう」
「あの…」
俺は魔王を見上げた。魔王の緑の目を見ると、圧倒的な力の差に怖気づきそうになる。でも大事なことだ。言わなきゃいけない。俺は魔王の目を見つめた。魔王が首を傾げる。
「ましろ?」
「お金を家に入れたいんです。毎月家に振り込んでいて…それで、少しだけ郵便局に行かせてくれませんか?絶対にここに帰ってきます」
「なるほど、もう月も半ばか」
魔王がすとん、と地面に胡座をかいた。そして顎に手を当てて考え始める。それから少しして、俺を見上げてにぱっと笑って見せた。
「それならデートしよう。もちろん郵便局も行く」
「え?」
魔王はどうやら本気のようだ。一応魔族を統べる王様がそんなに軽くていいのか?でも断る理由もない。俺はだんだん魔王が好きになってきている。俺が鍵付きっていうのもちゃんと聞きたいし、もっとこの人を知りたくなっている。
「ましろ、どうだ?」
そんな風に無邪気に言われたら拒否なんてできない。俺は頷いていた。
「よし、それなら支度をしよう」
魔王は颯爽と立ち上がった。
***
俺たちの暮らす世界には多様な種族が存在する。俺みたいなヒト族に始まり、魔王のような魔族、エルフなんかの妖精族や、勇ましい獣人族までいる。
この世界で一番強いのが 魔族だ。
魔族の中にはその力を悪用して、悪さを働く奴らがいる。
それがエネミーだ。俺はてっきり、エネミーが魔王の指示で動いているとばかり思っていた。
でもそれは違うという確信に変わった。今頃、カケルたちはどうしているだろう。多分エネミーの拠点を潰すために必死に戦っている。
俺はあの時、ほとんどなにも出来なかった。パーティー追放も仕方のないことだ。
「ましろ、何してるんだ?」
夜、上半身裸の魔王がいきなりやってきて、ドキッとした。あ、お風呂に入ってたのか。彼が俺の隣にどかっと座る。距離近いな。
「お金数えてました」
嘘を言う必要なんてない。毎月実家には500ゴールドずつ仕送りしている。これだけあればたっぷり食事が摂れる。俺はそう、魔王に説明した。
「ましろの分は?」
「俺の分はないですよ。あ、そうだ。城で働かせてくれませんか?なんでもします」
「やだ」
ぷい、と魔王がそっぽを向く。
「な、なんでですか?
俺、割りと器用だしなんでもします!」
「ましろは俺のだ。誰にもやらない」
すごい独占欲きたなあ。
ぎし、とベッドが軋む。魔王が俺に向かって身を乗り出してきたからだ。
「ましろ、膝枕してくれ」
「いいですよ」
魔王が俺の膝に頭を乗せてくる。
女の子みたいに体が柔らかい訳じゃないけどいいのかな。
「ましろ、金の心配ならするな。ダンジョンなら俺もよく行くしな」
「そういう訳には」
「ましろは俺のそばにいればいい」
それってなんだかプロポーズみたいだな。魔王が楽しそうに笑う。
「ましろ、顔が赤いぞ」
「だって…あ…あの」
俺はずっと聞きそびれていたことを彼に聞いた。
「あなたのことはなんて呼べばいいですか?」
「シャオだ」
シャオが俺の頬を手で撫でる。シャオの手は大きいな。
「ましろ。急に連れてきちまってごめんな」
シャオが急にしおらしくなったので俺は笑ってしまった。彼の手を上から撫でる。
「俺は死ぬ瀬戸際にいましたから」
「なんであんなところに一人で?」
シャオの疑問は当然だ。俺はパーティから追放されたことを話した。今日が色々有りすぎて、随分前の出来事に感じるな。
あんなに辛かったのに、シャオのお陰で楽になった。
「俺が役立たずだったから」
「ましろはもう戦う必要ない。
お前は俺の番だ」
「まだいいなんて言ってません!」
俺たちはニ人で笑いあった。
4·鳥のさえずる声がする。目を開けて一番に目に入ったのがシャオの寝顔だった。魔王がこんなに無防備に寝ていていいのかな?まぁシャオの力からして簡単にはやられないだろうけど。
「シャオ、起きて。朝だよ」
シャオのほっぺを指でふにふにしたら、彼は目を開けた。
「ましろ…」
「わあ!」
急にシャオに飛び掛かられる。どうしたんだろう?そのままキスされたから困った。俺はシャオの顔をぐい、と押しやった。
「シャオ、これから出掛けるんでしょ?」
「ましろが手を繋いでくれるなら行く」
なんだ?その条件。
「繋ぐよ?」
そう言ったらまたキスされた。シャオってキス魔なの?
「よし、準備しよう」
よかった、ようやくシャオのスイッチが入ったみたいだ。
朝ごはんを食べて支度を整える。
シャオの着ているシャツは金糸で刺繍が施された高そうなものだった。俺の服も当然のように用意されていた。えんじ色のトップスとハーフパンツ。下に白いシャツを着るらしい。そして羽根飾りの付いたエンジ色の帽子を被る。
「ましろはなに着ても可愛いな」
着替えたらシャオにそう褒められて困った。外見を褒められるってなんだかムズムズする。そんなことあまりなかったから余計だ。
「若様、ましろ様、行ってらっしゃいませ」
「行ってきます」
いつの間にかシャオに手を取られてぎゅっと握られていた。
城下町は賑やかで、沢山の魔族が元気よく働いている。
「こんなに歩くのは久しぶりだな」
「シャオは空を飛べるもんね。羨ましいよ」
「いや、怖がられるからどこでも飛べる訳じゃないんだ」
シャオが困ったように言う。確かにシャオが飛んでいるのを見かけたら怖いかもしれないな。普段のシャオは羽をしまっているらしい。不思議だな。
「あ、郵便局あった」
しばらく町中を歩くと郵便局があった。郵便局はどこの国でも建物が統一されているらしい。木で出来たドアを開けると、窓口におばあさんが座っていた。もちろん彼女も魔族だ。
シャオが手を離してくれそうにないので、俺はそのまま窓口に近寄った。
「あの、お金を口座に振り込みたいんですけど」
「じゃあ先に書類を書いて頂戴ね」
「はい」
ペンを借りて、書類を書いた。お金が入った袋を取り出す。来月もちゃんと振り込めるといいんだけど。
「じゃあ手続きするわね。ちょっと待っていて頂戴」
「はい、お願いします」
シャオを引っ張って長椅子に腰掛けた。
「ましろ、これが終わったら休憩する」
「疲れた?」
シャオが遠慮なく俺に寄り掛かってくる。昨日から思っていたけれど、シャオって時々、小さい子供みたいだな。
「なに笑ってるんだよ」
「なんでもないよ」
手続きも無事に終わった。今度は俺がシャオに引っ張られている。
どうやらシャオ行きつけのカフェがあるらしい。ずんずん歩くから俺はほとんど小走りだった。
「ましろは甘いもの好きか?」
「うん」
「そりゃあいいな」
カフェに入ると、天井が高い。猫がゆったりカウンターに寝そべっている。
「チョコバナナパフェ2つ」
「シャオ、可愛い子を連れてるんだな」
「俺のものだ」
「違います!」
慌ててシャオの言葉を否定したら店主さんが笑っている。
「シャオ、せいぜい頑張れよ」
「うるせえ」
舌打ちしながらも、パフェが来たら黙々と食べていた。俺も甘いものは好きだから嬉しい。
「ましろ、ほっぺにクリーム付いてる」
「あ…」
シャオにそっと頬についたクリームを指で拭われる。そのまま指をペロッとなめる仕草がセクシーでドキドキしてしまった。なんかシャオにずっと翻弄されまくっている気がする。まあ仕方ないよな、イケメンだし。
「あ…あの…聞きたいことがあるんだけど」
「鍵付きのことか?俺もちょっと耳にした程度だからなぁ。気配で分かったけど」
シャオがはむ、とパフェを頬張る。
「ちょっとでもいい。知っていること教えて」
「鍵付きの特徴としてはジョブに関わらず魔力量が異常に少ない、そしてレベルが一定から上がらない」
「やっぱり俺、鍵付きか」
俺がしょんぼりしていると、シャオに頭を撫でられる。
「ましろ、この後、チビたちに土産を買いたいから付き合ってくれ」
「うん、分かった」
やっぱりシャオは、優しいお兄さんなんだな。でも彼と番になれるかって聞かれると困る。それっていわゆる結婚だもんね。シャオとは、まだ出会ったばかりだし、これからどうなるかも分からない。カフェを出た俺たちはお菓子屋に寄った。シャオが買ったのは箱にぎっしり詰まったチョコレートだった。
シャオはチョコレートが大好きらしい。エーくんたちも大好きなんだと嬉しそうに話してくれた。
「ましろ、帰るか」
「うん」
帰ると、エーくんたちがお土産を喜んでくれて良かった。シャオも早速食べていたから、俺も一粒貰ってみた。甘くて美味しかったなぁ
シャオのことを俺はどんどん知っていく。そしてシャオも俺を知ってくれる。嬉しいな。
4・俺が城に来て、既に一週間が経過している。すっかりここの暮らしにも慣れてきたなぁ。寝る前に城内の図書室で借りてきた冒険物語を読むのも恒例になりつつある。
「はぁぁぁぁ」
なんかさっきからすごい呻き声?をあげているヒトがいるな。今まで敢えて無視していたけど、そろそろ聞いてあげなきゃ可哀想か。
「シャオ、どうしたの?」
「働きたくない。明後日から一週間出張だ。やだー!」
シャオはなんだかんだ王として仕事をしている。町を巡って視察したり、新しい施設を作る許可を出したり、とにかく忙しそうだ。空いた時間に時々、マッサージをしてあげると呻いて急に気絶するから怖い。後から聞くと気持ち良すぎたってシャオは言うけれど、気絶は多分良くないから気を付けてあげようと思う。
「俺も行こうか?シャオのマッサージと荷物持ちくらいしかできないけれど」
「ましろ!!」
ぎゅうっとシャオにしがみつかれる。シャオは大きいし、力もあるから正直苦しい。俺も出来る限りの抵抗はする。
「付いていって、シャオの邪魔にならない?」
「お前がいれば頑張れる。給料も払おう」
「助かるよ」
これで来月も家に仕送りが出来そうだ。
「ましろ」
名前を呼ばれて、じっとシャオに見つめられる。最近気が付いたけど、シャオの目を見ても、怖いってあまり思わなくなってきているな。俺は、シャオのことをもっと知りたい。これはわがままなのかな。俺は自分の気持ちすら素直に言えないのに。
「シャオ」
シャオに向かって腕を広げたら抱き締められて噛みつくようにキスをされた。シャオが俺を欲しいって言ってくれて嬉しくない訳じゃない。でも俺はまた期待を裏切るんじゃないかと思ってしまう。もうそんな怖い思いはしたくない。
「ましろ、好きだ」
「うん」
本当は俺もシャオに好きだよって返してあげたい。でも怖がりな俺はそれを言えないでいる。シャオはそれさえも分かってくれている。優しいヒトだな。
「シャオ、先に出張の準備しよ。宿はどこなの?」
「え…宿?えーと…」
一応聞いてみたらシャオが青くなっている。シャオは基本ズボラだもんなぁ。もらった資料はだいたい机に起きっぱなしだし。
「机の上に資料まとめておいたよ。確か中央地区だっけ?そこって色々な種族がいるんだよね?」
「そうだ。ましろ、ありがとうな」
「どういたしまして」
シャオが机の上の資料を集中して読み始めた。シャオのすごいところは、一度資料をしっかり読めば、ほぼ内容を把握できてしまうことだろうか。だから今まで問題なく仕事がこなせたんだろう。
でも最近はエネミーに関することでシャオが呼び出されるようになってきている。夜中にシャオが部屋を出ていくのも何度か確認している。国王って大変だなって俺も改めて認識していた。朝方疲れて帰ってきたシャオを出迎えるとすごくホッとした顔をされるのがたまらない。シャオは周りの国から完全に標的にされている。そんなシャオを護りたい。でも、俺にそんな力はない。悔しいな。
「シャオ、出張中俺は、シャオの秘書だからね?こきつかってくれていいから」
「ましろをこきつかうなんて」
いやいやいや、シャオさん?
最初の俺様キャラどこいったんですか?あんなにライオンみたいだったのに、いつの間にか猫ちゃんみたいになってますよ。
俺が心の中で盛大に突っ込んでいたら、シャオがハッとなった。今度はなんだろう?
「毎晩チューしていい権利か!そうだろう?ましろ!」
「…いいけど」
「いいのか?」
俺はこくんと頷いて見せた。好きだと言えない代わりだ。シャオにだったらもっと…いやさすがに無理か。
自分の妄想に顔を熱くしていたら、シャオに抱き締められていた。いつもより優しく探るように触られて、なんだか変な感じだ。でもそれを悟られたくない。だって恥ずかしい。
「ましろ、キスしていいか?」
「うん」
顎を掴まれて唇を奪われる。シャオとキスをすると、なんでこんなに幸せを感じるんだろう。それはシャオが好きだからなんだよな。
5・執事さんの名前はパルカスさん、というらしかった。今朝も深々とお辞儀をして見送ってくれた。俺たちは今、汽車に乗って中央地区を目指している。明日から世界の有識者が集まって会議が行われる。シャオは嫌がっていたけれど、行かないわけにはいかない。隣に座ったシャオを見るとすでに眠っていた。疲れているんだろう。このまま寝かせておこう。
俺は読みかけの小説を開いた。
「ん…ましろ?」
「シャオ、起きた?もうすぐ中央地区だよ」
「もう着くのか。よく寝ちまったな」
ぐぐ、とシャオが体を伸ばす。そういえばパルカスさんがお弁当を持たせてくれたんだった。宿で食べよう。
目的の駅に着いて俺たちは中央地区を歩いていた。商店街になっていて賑やかだ。
「ましろ…なんで?」
「え?」
聞き慣れた声に振り返ると、カケルたちだった。うわ、気まずい。まさかこんなところで鉢合わせるなんて。
「カケルちゃん、皆さん、なにしてらっしゃるの?」
「あ、すみません。女王陛下」
その人を見て俺は驚いた。ヒト族を統べる女王陛下エリザ様だ。雲の向こうのヒトなんて呼ばれている。
「俺たち、エリザ様の護衛をしてるんだ。じゃなっ!」
カケルたちがそれだけ言って走っていく。女王陛下の護衛?そんな名誉なことはない。俺の中を悔しいという気持ちが過らなかったわけじゃない。
「なんだ?あいつら」
シャオがむすっとしながらそう言ってくれたからちょっと溜飲が下がった。俺は彼に笑ってみせた。
「シャオは気にしなくていいんだよ」
「だって、なんかムカつくじゃねーか」
「シャオは優しいね」
シャオがぷい、と顔を反らす。
どうやら照れているみたいだ。そんなシャオが可愛い。
「シャオ、早く宿に行こう。今日はよく休まなくちゃ、明日からの会議に耐えられないよ」
「そうだな」
俺たちは慌てて宿に向かった。
***
「沁みるー」
今日泊まる宿には温泉があった。
長時間の移動で凝り固まった体に熱い湯が沁みる。効能は肩こり、腰痛、疲労回復か。今のシャオにぴったりだな。
改めて温泉っていいなぁ。みんなで旅行に行けたらきっと楽しいんだろうな。さぞかしお金もかかるんだろう。うーん、でも実現したい。
「シャオ、背中流してあげる」
「ましろの裸、もっと見たい」
「なんだよ、それ」
思わず突っ込んでしまった。シャオって時々変なこと言うから笑ってしまう。本人は大真面目だから余計だ。シャオがそばにやって来て、俺を後ろから抱える。
シャオ…もしかして勃ってる?びっくりしたけれど、俺はシャオの好きなようにさせてみることにした。シャオはただ俺の体を見ている。なんだか恥ずかしいな。
「触らないの?」
聞いたらシャオは頷いた。
「ましろ、会議とか色々なゴタゴタが済んだら触らせて欲しい。俺は目の前に人参がないと走れないから」
「俺がご褒美でいいの?」
「俺はましろが好きだからな」
シャオの言葉が嬉しくて、俺は目頭が熱くなった。その後二人で背中を流しあって、その日は眠った。
6・宿は素泊まりだから、基本的に食事が出ない。俺たちは宿の人が教えてくれた食堂に来ている。
中央地区には海があるから、魚が美味しいとおすすめされた。この辺りでは生魚を食べる習慣があるらしい。新鮮でなくちゃそんなことできない。
食堂に入ると既にお酒を飲んでいる人がいて驚いた。港のそばだし、漁師さんかな。
「おっ、兄ちゃんたちかっこいいね!これから仕事?」
帽子を被った作業着姿のおじさんが話しかけてきた。どうやらすっかり出来上がってご機嫌らしい。俺たちは二人ともスーツを着ていたからそう思うのも無理はないか。
「おっさん、あんた港の人か?」
シャオがおじさんの向かいの席に座る。シャオってこう見えて、意外と社交的だよね。
「おお、そうだよ」
「ここの魚美味いんだろ?帰りに土産を買いたいから見繕ってくれ。連絡先はこれだ」
「分かった。おじちゃんに任せておきな!」
おじさんにおすすめのメニューを教えてもらって、俺たちは朝ごはんを済ませた。さあ、今日のメインイベントの会議だ。
いざ会議の行われる会場に向かうと、広くて驚いた。すごいな。
「ましろ」
シャオに手を握られる。
「俺からはぐれないようにしろよ」
「うん」
「おや?誰かと思えば、魔族の王子様じゃありませんか」
「!」
高飛車な物言いだな。絡んできたのは、どうやらエルフらしい。エルフが生き物の中で一番至高と謳うエルフが中にはいると聞いたことがある。確かにエルフは魔力保有量も多いし、肉体も強い。しかも種族の中には白い翼を所有する者もいて、それを特別に「天使種」と呼ぶらしい。
絡んできたエルフは正に「天使種」だった。シャオがエルフの言葉を鼻で笑う。
「エルフのじーさんは情報が遅くて参るな。俺はもう王子様じゃねーんだよ。分かったか?あぁ?」
「なっ!失礼な!」
エルフの顔がみるみる赤く染まる。
「じゃあな、じーさん。俺たちは忙しいんだ。行くぞ、ましろ」
「こ、この父親殺しめが!」
ぴくっとシャオがそれに反応する。でも彼は振り返らずに俺の手を握って歩きだした。
「シャオ、大丈夫?」
席に着くとシャオがため息をついた。明らかに顔色が悪い。父親殺しなんて、いくらなんでもひどすぎる。シャオのお父さんか、また様子を見て聞いてみよう。
「シャオ、お水。飲んで」
俺は机に置いてあったピッチャーから水をグラスに注いでシャオに渡した。
「ありがとう」
シャオが無理して笑っているのが分かる。俺はシャオの背中をさすった。時間が来て会議が始まる。シャオ、大丈夫かな。隣で見ている限りさっきよりは大丈夫そうだ。それでも俺に出来ることはなんでもしよう。
会議の議題は当然のようにエネミーのことだった。シャオはもちろん魔族を統べる王だから攻撃される。シャオは冷静に自分や魔族の有志を募ってエネミーの拠点を一つ残らず潰すと宣言した。
「議長!」
エリザ女王が手を上げる。
「エリザ女王」
議長にあてられた彼女がゆったりと立ち上がる。
「シャオ王、そちらの方はヒト族では?」
視線が一斉に俺に集まる。シャオも立ち上がった。
「…はい」
「魔族はヒト族より上だ、ということでしょうか?」
このヒト、なんてことを言うんだ。俺は思わず立ち上がりそうになった。シャオに手で制される。
「俺とこのヒトは番です。上下関係ではありません」
ざわざわと会議室がどよめく。シャオはこんな悔しい思いでいつも対応しているのか。議題は次に進む。会議の大変さがよく分かった。ようやく最後のまとめだ。
「シャオ王、エネミー殲滅のため、具体的な案を明日までに作成してくるように」
「はい」
議長が会の終わりを告げる。シャオは疲れたのかため息をついた。
「シャオ、お疲れ様」
「ああ」
お昼を跨いで、すでに午後になってしまっている。
「シャオ、昼ご飯どうする?」
「…ああ」
シャオ、疲れてるな。俺の言葉が届いていない。俺は彼の手を握って静かに呟いた。
「癒しよ」
これは白魔導士なら一番最初に覚える簡単な回復魔法だ。魔力の少ない俺がなんとか使える魔法の一つ。
シャオの体力が少し回復したのを俺は感じた。シャオがハッと俺を見つめる。
「ましろ、一体何したんだ?」
「シャオの体力を回復したんだよ。俺は秘書だけど、白魔導士でもあるからね」
シャオは回復魔法を受けたのが初めてだったらしい。ずっと一人で戦っていたんだもんな。知らなくても無理はない。
「ましろ、昼飯食いに行こう。お前のお陰で随分楽になった」
シャオの瞳に気力が満ちている。
俺の魔法も案外捨てたもんじゃないのかもしれない。
俺は差し出されたシャオの手を握り返した。
***
「んああ…」
シャオがうつ伏せで呻いている。
今は宿で絶賛マッサージ中だ。宿に帰ってきてからシャオはずっと仕事をしていたから、体がごりごりに凝っている。マッサージはただ力を入れればいいわけじゃない。
大事なのは的確な部位を程良い力で解すことだ。こんな時、白魔導士というジョブを選んで良かったって思う。しっかり回復するためには体の造りや状態を的確に把握する必要がある。だから自然とどこに疲れが溜まりやすいか流れが見えるようになる。それは個人差もあるけれど、大体共通している。
「ましろ…そこ…」
「痛い?」
「いい!」
こうしてマッサージしてると、ちょっと変な気持ちになるのはなんなんだろう。相手がシャオだから余計かもしれない。気にしないことにしてマッサージを続行した。
「うう、体が大分解れた。ありがとう、ましろ」
「どういたしまして。ねえ、エネミーの拠点潰すの、俺も手伝いたい。俺、パーティにいた時にエネミーの集落を潰しに行ってたし、結構役に立つよ?偵察もする」
「ダメだ」
「なんで?俺が鍵付きで弱いから?」
「違う。俺は、ましろを戦わせたくないだけだ」
「シャオ…」
「ましろ、そんな悲しい顔をしないでくれ」
「シャオのせいだろ!大体有志を募るって…俺だってちゃんと出来るのに」
一人でプリプリしていたら、シャオに抱き締められていた。急だったから身構える隙もなかった。シャオに至近距離で見つめられてつい顔が熱くなる。シャオはやっぱりかっこいい。
「ましろ、怒らないで欲しい」
「お、怒ってないよ。でもエネミーの拠点を魔族だけで全部潰すなんて。他の種族だってエネミーのやつら、いるじゃないか」
「落ち着いてくれ、ましろ。魔界には強力な騎士団がいる。滅多に表には出てこないけどな。今こそ
あいつらの力を借りる」
どうやら災害時や大きな事故なんかが起きた時に駆けつけてくれる頼もしいヒトたちらしい。有志というのはそのヒトたちの事だったようだ。シャオもものすごく強いからエネミーの鎮圧も難しくはないかもしれない。でもなんだか納得がいかない。
「まさか、エリザ様があんなことを言うなんて」
俺はずっと彼女の言葉が引っ掛かっていた。種族の違う者同士が一緒にいちゃいけないんだろうか。俺はなんだか悲しかった。シャオのそばにいたから分かった。俺たちは同じ心を持っているんだ。種族は違うかもしれないけど、共通している部分も多い。
「きっと女王はましろのことが心配だったんだ」
「…」
シャオは大人だなってこういう時に思う。
「お茶でも飲もうか」
気持ちを切り替えよう。俺がそう言うとシャオが頷いてくれた。
7・間に休みを挟んで、会議の全行程が無事に終了した。
会議の間も当然、エネミーによる施設襲撃事件が起きた。シャオはもちろんそれにもしっかり対応した。
「兄ちゃんたち、お疲れ様だったね!」
帰り際、食堂に寄るとおじさんが声を掛けてきた。昨日電話が来ていい魚が手に入ったとのことだった。会議の様子が一部報道されたらしい。おじさんはそれを見ていてくれていたそうだ。
「魔族みんなが悪いみたいにみんな言うけれど、おじちゃんはそうは思ってないよ。エネミーが悪さするのと魔族は関係ないからね」
「ありがとう」
おじさんの優しい言葉が染み渡る。魚は干物になって冷凍されているらしい。パルカスさんが美味しく焼いてくれるだろう。
おじさんに手を振って、俺たちは汽車に乗り込んだ。さあ帰ろう。
****
汽車に乗って景色を眺めているとだんだん速度が落ちてきた。駅に停車するのだろうと思ったら、グラッと一瞬、汽車が揺れた。なんだ?
「来たな」
シャオが呟く。何が『来た』んだろう?
「若…参りました」
「あぁ」
音もなく人影が現れて、俺は驚いた。シャオは慣れているのか平然としている。現れたその人は全身黒ずくめだ。顔も隠している。こんなに近くにいるのに、全然気配を感じない。
「若、現在、世界中のエネミーの拠点を探り出しています。もうしばしお待ちを」
「俺も出る。速やかに頼む」
「は…」
人影はまた一瞬で消えてしまった。シャオがくあ、と欠伸をしている。これだけ見ると何もなかったのかと錯覚してしまうな。
「シャオ?今の人、俺の夢じゃないよね?」
一応尋ねたら、シャオが笑った。
「あいつは騎士団の一人だ。
身軽だから斥候をしてくれている。連絡がまめな奴だから助かってる」
「シャオ、俺も行くからね!ダメって言われたって勝手についていくんだから」
「ましろ…」
シャオが困ってるけど、そんなの知るもんか。俺だってシャオの役に立てる。お荷物はもう嫌なんだ。それに今までの経験から、鍵付きについても何か分かるのではないかという期待もある。
「分かったよ、ましろ。絶対に俺から離れるなよ」
「うん」
シャオがまたうとうとし始めた。この出張期間中もシャオは昼夜問わず、エネミーの対応をしていたし、今後もそうなんだろう。早く落ち着いて生活できるようにさせてあげたい。
***
「お帰りなさいませ、若様、ましろ様。お仕事、お疲れ様でございました」
「パルカス、城は変わりなかったか?」
「は。一昨日リー様が公園で転んでしまわれて」
「そうか」
「お帰りなさい!おにいちゃま!」
「ましろー!」
「…」
「いい子にしていたか?」
シャオが抱えたのはリーくんだった。リーくんは基本的に無口で、あまり表情を変えない子だ。でも、時折見せる笑顔が可愛らしい。そして優しいいい子だ。将来、絶対にモテるんだろうな。
「リー、元気…いい子」
リーくんがぽつっと言ってにっこり笑う。可愛い。悶死って本当にあるのかもしれない。実際今そうなりそうだし。
「そうか」
シャオも可愛くてたまらないっていう顔をしている。その気持ち、よく分かるな。
「パルカス、俺たちは魔界騎士団と共にエネミー全ての殲滅をする。そのための準備をこれからするぞ」
「かしこまりました」
パルカスさんがお辞儀をして部屋を出ていった。
***
あれから、既に約数時間が経過している。ここは城内の執務室だ。机の上には巨大なフィールドマップが広げられている。シャオは金色の刺繍が施された白い服を着ている。雰囲気がすごく王様って感じだ。俺は黒に銀色の刺繍がされた服を身に付けていた。シャオの服と対のデザインになっているらしい。両腿部分から大胆にスリットが入っている。下にちゃんとハーフパンツを履いているから下着は見えない仕様だ。安心して欲しい。
「シャオ王よ、いつの間にこんなに可愛らしい奥方を迎え入れたのですかな?」
がっはっはっと黒い肌のおじさんが豪快に笑う。奥方ってもしかして俺のこと?シャオも彼に向かって、悪戯っぽく笑った。
「なかなか可愛いだろ?早速尻に敷かれているよ」
「夫婦円満なんてそうゆうものですよ。
ましろ姫、ワシはランスロットと申します。一番槍は任せてください」
すっかりシャオの奥様扱いだな。でも、悪くない…かな?ちょっと照れ臭い。
「ランスロットさん、宜しくお願いします」
「おいおい、ランス。俺っちたちを忘れてもらっちゃあ困る!」
ぞろぞろと、体の大きな男の人たちがやってきた。あまりに大きくて、シャオが小さく感じてしまうレベルだ。
「シャオ王!魔界ルシファー騎士団、全員揃ったぜ!」
このヒト、すごく元気なヒトだな。
「テンゲ、姫が驚いていますよ」
眼鏡を押し上げながらそのヒトが言う。
「フギ軍師!すまない!ましろ姫もごめんな!」
テンゲと呼ばれたヒトが焦ったように謝ってくる。軍師さんがそれに、やれやれと首を横に振っている。
「私はフギ。この団の軍師です。姫、これを」
フギ軍師さんが俺に手渡してきたもの。それは茶色い小瓶だった。
「これは劇薬です。本日の夜、斥候のスカーと共にエネミーの集落へ侵入、やつらの使う井戸に入れてきてください。そこで貴方の力を示して欲しいのです」
「わかりました。俺、やります」
騎士団と一緒に行動したいならそれだけの覚悟がいるってことか。
エネミーはそれだけ世界に脅威を与えているってことなんだよな。
シャオたちがエネミー殲滅に向けて動き出したことは大々的に報道されている。エネミー側もそれがどういうことか、よく分かっているはずだ。
「いくら試験とはいえ、ましろを敵の集落に行かせるなんて」
シャオがおろおろし始めたので、 みんなで大丈夫だと説得した。あの斥候さんと行動するのか、邪魔にならないようにしないと。
「お兄様たち、後衛は僕たちにお任せくださいな」
「任せろ…」
大きなヒトたちの後ろからヒョコっと現れたのはそっくりな外見をした二人だった。どうやら双子らしい。二人がシンクロしたように同じ動きで俺の前に跪いた。
「ましろ姫、僕は睡蓮っていいます。どうかお見知りおきを」
「私は白蓮。貴方に忠義を誓おう」
俺は二人の言葉にすっかり慌てた。今更だけど、ルシファー騎士団ってイケメンしかいないの?いくらなんでも顔面偏差値高すぎない?シャオに慣れていなかったら多分逃げ出していた。
「ましろ、こいつらは俺が信頼する仲間たちだ。必ずエネミーには公平な裁きを受けさせる」
シャオがぐ、と胸の前で拳を握る。これから始まるのは血なまぐさい戦争だ。
俺も一人の白魔道士として、出来ることはしよう。
それからは本格的な軍事会議が始まった。フィールドマップにエネミーの拠点が記されている。全部スカーさんたち斥候部隊が確認してきたらしい。すごいスピードだな。
俺たちは南下しながらエネミーの拠点を潰していくことになった。魔界は北に位置しているから分かりやすい。そこにスカーさんが音もなく現れる。
「ましろ姫、準備はよろしいか?」
いよいよか。俺は小瓶をぎゅっと握り締めた。スカーさんが俺に大きな背中を向けて屈む。もしかして。
「姫君は拙者が運ぶ。安心されよ」
「ましろ、スカーは速いからな。しっかり掴まっておけよ」
シャオも真面目な顔で言う。俺は彼の背中に体を預けた。スカーさんが俺ごと立ち上がる。うわ、視点が高いな。
「シャオ王。ましろ姫は必ずお守り致す」
「頼んだぞ」
スカーさんが走り出す。俺を担いでいるとは思えない程、軽快だ。
「ましろ姫、速度を上げます」
まだ全力じゃなかったんだ。俺はさすがに怖くなって、彼の背中にぎゅっとしがみついた。スカーさんの走るスピードが明らかに上がる。景色がみるみる後ろに流れ去る。しばらくスカーさんの背中に俺はしがみついていた。
「集落までもうまもなく」
俺はフィールドマップを思い出していた。魔界に一番近いと思われる集落群まで城からだいたい150キロは離れていたはずだ。それをたった2時間で走りきってしまうスカーさん、凄すぎる。スカーさんと俺は木陰に身を潜めた。エネミーたちはほとんどが眠っているのか、明かりがまばらだ。つまり油断している。この集落の周辺が何もないせいもあるだろう。見張りの少ない今がチャンスだけど、そんなにうまく行くかな?どうしたものか考えていると、スカーさんがなにかを取り出す。黒い球形のものだ。だんだん空も明るくなってきている。スカーさんが玉を指で示した。
「これは煙玉。いざというときにやつらの目眩ましに使います。姫、チャンスは一度きりです。頑張りましょう」
うう、すごいプレッシャーだ。でもやるしかない。ここで怖じ気づいたらみんなの信頼を裏切ることになる。俺も、騎士団に入団したい。
「やりましょう、スカーさん!」
「拙者の後を付いてきてください」
「はい!」
スカーさんと俺はなるべく静かに集落に近付いた。
矢倉にエネミーが見張りに立っているようだけど、今のところ見つかっていない。
なるべく物陰に潜みながら井戸に近付く。
俺は小瓶の蓋を開けてスタンバイした。これ、劇薬ってフギさん言ってたな。これを飲むと、どうなるんだろう。怖いけどやるしかない。俺は静かに井戸に近付いた。
中に薬を入れる。これでいいはずだ。スカーさんの元に静かに戻る。撤退だ。俺たちは静かに集落を離れた。フギさんが言うにはこれでこの辺り一帯の集落を潰せるとのことだ。フギさんの作戦、それは集落の間にある連携を分断するというものだった。
数で押し負けているからどうしてもそうなる。
そして、この作戦が今回しか使えないこともある。
俺たちは集落の様子を遠目から見守った。エネミーたちが俺たちと何ら変わりなく生活をしていることが分かる。井戸から水を汲み上げて生活用水として使う。昼頃を過ぎた頃だろうか、エネミーたちが一人、また一人と倒れていく。
「死んでるの?」
さすがに恐ろしくなってスカーさんに尋ねたら彼は首を振った。
「大丈夫。深い眠りについているだけです。さあ、奴らを捕らえましょう」
何処にいたのか斥候部隊のヒトが数人現れた。全員総出で、倒れているエネミーたちを太い鎖で縛り上げる。鎖もフギさんが作った特別製らしい。この鎖に巻かれたヒトが抵抗すればする程、鎖は重くなり、体をより締め上げる。スカーさんの淡々とした説明を聞いて、俺は恐怖で震え上がった。フギさんは絶対に敵に回したくない。これから気を付けて接しよう。
「フギ軍師殿の作った結界も強力ゆえ」
スカーさんが魔方陣の描かれた紙を上空に投げる。どうなるのかと眺めていたら、空に魔方陣が花火のように浮かび上がる。これで俺たち以外のヒトは集落に入れなくなった。作戦成功だ。
「スカー様、シャオ陛下から伝令です」
しゅた、とスカーさんのそばに斥候部隊のヒトが現れる。声からして、少年のようだ。俺より年下か同じくらいだろう。スカーさんは黙って話の先を促した。
「陛下は無事、ルシファー騎士団と城をご出立されたようです。ここより南東にあるエネミーの集落前で待機せよとのことです」
「了解した。下がれ」
「は」
スカーさんが俺に向き直る。顔をほとんど隠しているから表情は見えないけれど、彼から真剣な気持ちが伝わってきた。
「姫、ここから更に過酷な旅が始まります。覚悟はよろしいか?」
「大丈夫です」
ここまでやっておいて俺だけ逃げるなんて、もう許されないだろう。もちろん怖くない訳じゃない。でも俺にも全力で守りたいヒトがいる。
シャオの顔や家族のことを俺は思い返していた。みんな俺にとって大事なヒトたちだ。もちろん、こうして一緒に戦ってくれているルシファー騎士団のヒトたちのことも。
「俺も戦いたいんです、みんなと一緒に。もう役立たずなのは嫌だから」
「王から聞いていましたが、姫は太陽のような方ですね」
シャオがそんなことを?スカーさんも恥ずかしくなったのか、ぷいと顔を背けた。なんだ、この状況。後でシャオは取り調べだな。
「とりあえず何か食べましょう。王たちは飛龍で移動しています。拙者たちもそろそろ行かねば」
「はい」
スカーさんが真っ黒な服の袖から茶色い包みを二つ取り出す。それを開くと大きな握り飯が三つ現れた。真っ白でツヤツヤしたお米が美味しそうだ。ごくり、と生唾を飲む。
「拙者が自分で握ったから不格好で申し訳ない」
スカーさんはそう、申し訳なさそうに言ったけど、ここでご飯が食べられるなんて嬉しい。
「スカーさん、さんかくに握るの上手なんですね」
スカーさんがまたふいと顔を背ける。俺、なんか変なこと言ったかな?
俺たちは貪るように握り飯を食べ始めた。食べながら、すごくお腹が空いていたんだってようやく気が付く。スカーさんが小さな竹の筒を二つ取り出した。
「ただの水ですが…」
「ありがとう、スカーさん」
彼に向かって笑ったらスカーさんが急に竹筒をグイっと呷った。さっきからスカーさんはどうしたんだろう?
俺も竹筒から水を飲む。わ、この水美味い。うまく使えば売れるかも。とりあえず今はエネミー殲滅か。平和大事。
「姫、そろそろ移動せねば」
「俺、重たくないですか?」
「なんともない。姫は拙者が守るゆえ」
さすがスカーさんだな。鍛え方が違うよ。シャオも普通に俺を抱えてたし、それはそれで、男としてちょっと切ないものがあるな。
でも今はそんなこと言ってられない。シャオたちと早く合流しないと。俺は再び、スカーさんの背中に乗った。スカーさんがとにかく速い。南東にあるエネミーの集落はなかなか大きいらしい。敵にも味方にもかなり犠牲が出るのではと軍事会議でフギさんが言っていた。エネミーだってただ死ぬのは嫌なはずだ。何らかの対策を講じてくると考えるのが普通だろう。
戦わずに済むならそれが一番だ。でももうその段階じゃない。
「姫、眠れるなら眠った方がいい。あまり揺すらないよう気を付ける」
確かに、クタクタだった。これからのために寝ておいた方がいいかもしれないな。
「スカーさん、すみません」
俺は目を閉じた。
8・気が付くと、俺はベッドに寝かされていた。普通に熟睡してしまった。我ながら図太い。ここはどこだろう?
「ましろ、起きたか?」
「シャオ!!」
俺はすごくホッとした。シャオに頭を撫でられる。
「ましろ、よく無事で」
「スカーさんのお陰だよ。スカーさんは?」
「あぁ、休んでるよ」
「そっか、よかった」
シャオにここが、ルシファー騎士団の秘密のアジトの一つだと聞いて、なんだかドキドキしてしまった。アジトって男のロマンだ。エネミーの集落はこのすぐ近くにあるようだ。この基地を設計したのがフギさんで、作ったのがテンゲさんの率いる部隊らしい。部隊とは言ってもルシファー騎士団は基本的に、少数精鋭だ。こんなに短時間にどうやって作ったのかとか色々気になったけど、今はそれどころじゃないようだ。シャオたちは既にエネミーと一戦交えたらしい。やっぱり向こうの数の方が圧倒的に多いようだ。でもシャオたちも負けていない。一部の拠点を制圧したらしい。そこにいたエネミーたちはほぼ捕縛、収容所に連行されたそうだ。
「ましろ、動けそうか?俺たちは残りのエネミーを捕縛する」
「うん、俺も一緒に行く」
俺はベッドから出て身支度を整えた。よく寝たから体力満タンだ。
なんだか強くなった気さえする。
部屋を出て気が付いたけど、アジトは地下にあった。ますますどうやって作ったのか謎だ。
「姫、目覚められましたか」
フギさんが杖を片手にやってくる。そして俺に向かって、恭しく頭を下げた。それに俺は驚いてしまった。フギさんが頭を上げて俺をまっすぐ見つめてくる。
「姫、貴方は力を示された。私も改めて貴方に忠義を誓いましょう。貴方が鍵付きであることも王から聞きました。書物に残された数行のセンテンスが示すのは鍵付きの可能性です」
「可能性…」
「はい。貴方のその鍵が外れた時、貴方の可能性が姿を現すでしょう。非常に興味深いことです」
フギさんが楽しそうに笑う。俺の鍵が外れたら俺はどうなるんだろう。少し怖い。俺の戸惑いを感じたのか、フギさんが優しく笑った。
「私なりに改めて鍵付きについて情報を探ってみましょう」
「お願いします」
フギさんの表情が変わる。なんだか地上が騒がしい。エネミーだろうか。
「さて、お片付けに参りましょうか」
フギさんの声音に俺はゾッとしてしまったのだった。
***
アジトの出入口は言われなかったら分からない所にあった。周りにある自然で上手くカモフラージュされている。さすが秘密のアジト。ちゃんと考えて作られてるんだな。エネミーたちの様子を窺う。声がするから近付いて来ているのは間違いない。ルシファー騎士団は二手に分かれてエネミーを前方と後方から追い詰める作戦をとることになった。チームとしては、テンゲさん、フギさん、睡蓮さん、スカーさんのA部隊。そして、シャオ、ランスさん、白蓮さん、俺のB部隊だ。
「ましろ姫、私と共に後方へ」
「はい」
装備を見たところ、白蓮さんは弓使いのようだ。でもただの弓じゃない。魔力を矢本体に込めて矢に特殊な効果を付与するらしい。魔力と体力のさじ加減が上手くないと、とてもじゃないけど戦えないだろう。弓を扱うにはかなりの体力と腕力が必要なのだ。白蓮さんは男性にしては細身だ。相当厳しい訓練をしているに違いない。
「白蓮、ましろを頼んだぞ」
「は」
みんな、身構える。向こう側からエネミーの集団が襲いかかってきた。俺がみんなの足を引っ張らないようにしないと。
***
剣同士がぶつかり合う音が響く。俺は白蓮さんと共に、後ろから妨害魔法の呪文を相手に向かって唱えながら、戦いの様子を見守っていた。先陣を切ったランスロットさんをはじめ、シャオが一人、また一人とエネミーを切り捨てていく。多分シャオはまだ本気を出していない。シャオの得意分野は魔力を駆使した攻撃のはず。シャオがまた一人切り倒す。ランスロットさんが雄叫びを上げながら盾ごと相手に突っ込んでいく。あれ、俺だったらとても耐えられそうにないな。白蓮さんが弓で足や腕を狙う。この戦いは相手を捕縛するのが目的だ。エネミーたちに罪を償わせる為にこの戦いがある。
「オイオイ、結構やられてんじゃねーの。使えねーなー」
なんか強そうなのが上から降ってきた。他のエネミーとは纏うオーラが違いすぎる。シャオがすかさず切りかかるけど、それを軽々受け止めてしまった。赤毛のイケメン。またか。
「へぇ、ようやくまともなのが来たな?面白いじゃねーか」
シャオ、何で挑発してんの?相手も楽しそうに笑う。
「誰かと思えば魔王様か。俺はモウカ。なあ俺と手合わせしてくれよ。ちょうど退屈していたとこだ」
つばぜり合いが激しい。お互い引く気は一切ないらしい。ギリリと金属が擦れ合う音が響く。俺はハッとなった。今も戦いは続いている。集中しないと。まだまだエネミーの勢いはやまない。
「うおおおおおおお!!!」
急にモウカと名乗った男が咆哮をあげる。ビリビリと空気が震えた。エネミーたちが怯んで動きを止める。もちろん俺たちもだ。モウカが低く剣を構える。珍しい構え方だな。
「魔王!本気で来やがれ!!」
モウカが勢い良くシャオに向かっていく。二人が切りあいを始めた。ランスロットさんと白蓮さんが鎖でエネミーたちを捕縛している。俺も二人を手伝わないと。
「ましろ姫。シャオ王を見守るといい」
「ワシらは先に行きます。我らが王のこと、安心しなさい」
俺は二人に向かって頷いた。
シャオには勝ってもらわないと。
でもモウカもなかなかやるみたいだな。シャオが剣に触れる。その途端、冷たい風が吹いてきた。モウカがバックステップで距離を取る。
「おい、それ魔剣かよ。参ったな」
「お前も魔剣だろうが。参ったなんて演技要らねーよ」
シャオが口を尖らせる。モウカが笑い出した。
「あんた、本気で面白いな!なら
本気出すか!!」
モウカの体から赤いオーラが見える。それが全て剣に注ぎ込まれていく。剣の形状が大きく鋭く変わっていく。一方でシャオの剣に変化は見られない。
「あんたの魔剣、本気出す気もないってか」
モウカが笑う。そうだ、明らかにシャオの方が強い。モウカは魔剣を放り出した。
「参った。あんたには勝てない。お縄でもなんでも繋いでくれ」
シャオが剣を鞘に戻す。
「モウカ、俺と来ないか?」
「へ?」
俺もその言葉には驚いた。
「エネミーとしての罪を償わないかって言っている」
「いいのか?」
「ましろ、こっちにおいで」
急に名前を呼ばれたから俺はまた驚いた。シャオ、俺がいたことに気が付いていたんだ。俺はシャオのそばに駆け寄った。モウカもたくましいヒトだな。
「ましろ、お前はどう思う?」
「モウカは強いし、シャオが気に入る理由も分かるよ。でも、最後はモウカ次第だよね。だってエネミーを裏切るわけだしさ」
モウカが俺を見つめて固まっている。どうしたんだろう?
「俺のましろだ。どうだ、羨ましいだろ?」
シャオ、初めて会うヒトに毎回それ言うわけ?そのどや顔、いい加減腹立つんだけど。
「ひ…ヒトヅマー!!」
モウカはそう叫んで気絶した。
「だ、大丈夫かな?」
「大丈夫、こいつは飛龍に拾わせる。さ、俺たちも先に行くぞ。作戦続行だ」
「うん!」
***
「はははは。雑魚がゾロゾロと。お前たち、やってしまえ!エネミーに歯向かうから悪いのだ」
うーん。なんと言ったら良いものか。
俺たちルシファー騎士団は、狸みたいなお腹のおじさんが率いている部隊を取り囲んでいる。おじさんの部隊は約3000。こちらは多く見積もっても100。本来なら多勢に無勢のはずだ。
「あー、馬鹿らしくなった。スカー、後は任せた」
「任されよ」
シャオが戦線を早々に離脱。これだけ聞いたら負けたって普通のヒトなら思うんだろう。でも実際に目の前で繰り広げられたのは、スカーさんの容赦ない乱舞だった。
うわぁ、めちゃくちゃスカッとした。こんな感じで、エネミーとの勝負は快勝に終わった。今のところはだけど。俺たちは怪我の手当ての為に、一旦秘密のアジトに戻ってきている。モウカの様子も知りたい。モウカはすやすや眠っていた。先の戦いで大分暴れていたから疲労が溜まっていたんだろう。
パチリ、とモウカが目を覚ます。そして俺を見て小さく悲鳴を上げた。
「モウカ、落ち着いて?」
モウカが首を大きく横に振る。
「姉御が可愛すぎて落ち着くなんて無理だ!しかもヒトヅマ。エロすぎる!」
何を言ってるんだ?この子は。
「俺のましろだぞ。モウカ?」
シャオが拳を握りながら言う。怖い。
「あ、兄貴!分かってるってー!」
まだまだ戦いは続く。
二章へ
とりあえず、この冷たい風を避けられる場所に行かないといけない。もう体力的にも限界が来ている。俺はゆっくり岩壁を伝って下におりた。しばらく下ると、ぽかっと中に入れそうな穴がある。俺はホッとしてそこに入った。
冷たい風が体に当たらないだけでも随分違う。やっと休憩ができる。俺は背負っていたナップサックを下ろして中身を確認した。
「わぁ参ったな、もう食料がないし、傷薬もないぞ」
今日、俺はパーティから追放された。はじめはみんな、優しくて俺を頼りにしてくれた。パーティのリーダーで、勇者であるカケルとも上手くいっていた。でも、旅を続けていく内に、俺のレベルの上がり方が、みんなよりものすごく遅い事が分かった。
はじめはみんな、『気にするな』と言ってくれたけど、だんだんみんなの態度は厳しく冷たくなっていった。
俺なりに色々調べたり、個人的に修行をしてみたけれど、やっぱりレベルが上がりにくいことに変わりなかった。
「なんで俺ばっかり…くそっ」
岩壁に拳を打ち付ける。じん、と拳に痛みが走る。しっかりしろ。こんなところで死んでたまるか。
「んだよ。さっきから、がちゃがちゃうるせえな」
「え…」
俺は驚いて岩穴の奥の方を見た。緑色の瞳がこちらを見ている。その威圧感に、俺は怯んで後ろにずり下がった。なんだ、この人。分からないけれど、とにかく普通じゃない。早く逃げないと、そう思ったのに体は動かなかった。
「へえ、人間か。若いし柔らかそうだな」
「ひ!」
いつの間にか俺はその人に組み敷かれていた。なんで。体が思うように動かない。
「やだ!やだ!!食べないで!」
「そうやって啼くのか。なかなかいいじゃねえか」
その人は面白いものを見つけた子供のように笑った。やばい。絶対に殺される。俺は泣きながら抵抗した。でもそれは無意味に近い。それでも俺は叫ばずにはいられなかった。
「やだ!お願いだから、殺さないで!」
「それはお前次第だな」
「え?」
気が付くと俺はその人と宙を飛んでいた。その人の背中から黒い禍々しい翼が生えている。
「お前、名前は?」
低い甘い声が耳元でして、びっくりしてしまった。なんだかドキドキしてしまう。この人、よく見るとすごくかっこいい。顔立ちが整っているなんていうレベルじゃない。
「お、俺はましろ。白魔導士」
「へえ。お前、鍵付きか」
「か…?」
何を言われたのかさっぱり分からない。鍵付きって言っていた?なんだろう?
「まあそんな細かいことはいいな。しっかり掴まってろ」
何か知っているなら教えて欲しい。でもそれを言えるほどのゆとりはなかった。更に彼の飛ぶスピードが増したからだ。
俺はこれからどこに連れて行かれるんだ?結局そこでゆっくり食べられるんじゃ。怖いけど、今は掴まっていることしか出来なさそうだ。俺の命は今、彼に委ねられているのだから。
2・「ましろ、もうすぐだぞ」
ギュッと彼にしがみついていたらそんな言葉が落ちてきた。
恐る恐る振り向いたら、高度がだいぶ下がってきているようだ、陸にある建物やなんかが見える。ふと視線をずらすと、真っ黒な城が目に入った。あれってまさか。
「ま、魔王城?」
「あー、あれ俺の家だわ」
あまりの衝撃に俺の頭は真っ白になった。そこから意識がない。
✣✣✣
「ん…」
気が付くとふかふかしたベッドに寝かされていた。すごく温かい。
でもなんで…。つい心の声が出てしまう。
「俺、なんで裸なんだ?」
あまりにも心許なくて、泣きそうになりながらあたりを探ったけれど、服は見当たらなかった。大きなベッドだ。多分、キングサイズってやつだろう。俺はベッドから降りようとした。
「ましろ…」
「っ!!」
後ろからあの人の声がする。俺をここまで連れてきた人。俺は振り返った。
「お前、なんつう顔してんだ?」
その人は俺を見るなり噴き出した。勝手に人の服を脱がせておいて、笑うなんてずるい。ムカムカしたけどさすがに言えなかった。だって…。だってこの人、多分魔王だし。俺なんて小さな虫けらを殺すのくらい容易いことだ。俺はまだ死にたくない。なんとか生きてここから逃げ出すしかない。
「俺の服…」
ポツッと言ったら、魔王があぁ、と頷いた。なんともわざとらしいな。魔王がまた面白そうに笑う。
「お前は裸の方が可愛いんじゃないか?」
「そんなわけないでしょう!!」
あ、いけね。つい本音が出てしまった。俺は、魔王相手になにやってるんだ。ちらっと魔王を伺ったら気分を害した様子もない。その上、彼は顎に手を当てて、なにやら考え始めてしまった。
「お前に似合う服か…」
なんかぶつぶつ言っている。俺はドキドキしながらその様子を見守った。魔王はしばらく考えて、なにか思いついたらしい。俺に向かって指を鳴らした。
ぽん、と軽い音がして裾の長いシャツが現れる。俺は慌ててそれを受け止めた。
「とりあえずそれ着とけ」
「はい…」
せめて下着くらい欲しかったけど今は仕方がない。俺は渋々素肌にそのシャツを着た。一番下までボタンを留めれば体も見えないしな。でもなんだかスースーして落ち着かないな。
「ましろ、おいで」
魔王に呼ばれて、怖かったけど俺は言われるがまま近付いた。魔王ってもっと粗野なイメージを抱いていたけれど、この人は違うようだ。腕を優しく掴まれて抱き寄せられる。どういうつもりなのかは分からないけれど、今は様子見だ。魔王の手がするり、と俺の背中を撫でる。その触り方に俺はビクっとなってしまった。
なんだ、今の変な感じ。
「顔上げろ」
言われるがまま顔を上げると、そのままキスされていた。なんでこんなことになった。
「ん……っつ、ふ」
ちゅ、ちゅ、と角度を変えながら何度もキスされる。なんでかは分からない、でも気持ちいい。この人は俺に何を求めてるんだろう。
されるがまま、キスされていたらぎゅう、と急に抱きしめられた。
「お前、やっぱり可愛いな」
耳元で囁かれて、ゾクッとした。可愛い?俺が?
「ましろ、俺と番にならないか?」
「つ…番って…俺、男ですよ?」
慌てて言ったら、魔王に笑われる。
「俺はお前が気に入ったんだ。いいだろ?」
「よ、よくないですよ!」
「はは、お前面白いな」
なんだか知らないけれど、魔王に気に入られてしまった。
これからどうしたらいいんだ?
殺される可能性は低くなったけど、まだゼロではないし、なんとかここから脱出しないと。
「ましろ、腹減ったろ?」
「え…」
情けないことに、キュルルルルと腹の虫が鳴いたのだった。
3・「わ、すごいご馳走!」
長い巨大なテーブルにずらっと料理が並んでいる。なんともいい匂いだ。こんなの生まれて初めてかもしれない。俺の生まれた家は貧乏だったもんな。それをなんとかしようって俺は15の時に家を飛び出してきたんだ。そろそろ仕送りを送らないと母さんたち、困るよな。早くここから脱出しないと。
「沢山食べろ、美味いぞ」
魔王がそう言って、グラスを傾けている。俺の目の前にも同じグラスが置いてある。中身は赤い液体がなみなみと注がれていた。
まさかこれ、何かの血液とかじゃないよな?
恐る恐る匂いを嗅いだら、トマトだった。魔王、トマトジュース飲むんだ。意外。
「それ美味いぞ。甘い」
「いただきます」
そろっと手を合わせて俺はトマトジュースに口をつけた。
すっきりした甘みが口いっぱいに広がる。久しぶりの食べ物だ。嬉しい。
「美味い…」
「そりゃあよかった。他のも」
「おにいちゃま?」
「おかえりなさいー」
「…」
よちよち歩きで小さな子がやってくる。しかも三人も。みんな、可愛いな。背中から小さな黒い翼が生えている。この子たちが魔族なのは間違いない。
「お前たち、外で遊んでたんじゃなかったのか?」
「申し訳ありません!若様!!お止めしたのですが!」
あ、やっぱりお城には執事さんがいるんだ。この人も魔族なのかな?頭から角が生えているし、そうなんだろうな。魔王に向かってペコペコしている。
「おにいちゃま、一緒に遊んでー!」
「あー、仕方ないな。先に飯食ってからだ。俺と遊びたいならお前たちも飯にしろ」
「はーい」
魔王が一人一人抱えて、椅子に座らせてやっている。もしかしてこの人、すごく優しかったりする?
料理が次から次に運ばれてくる。
料理を運んでくるのは黒い影みたいななにかだ。見慣れないものばかりでさっきから驚いてばかりだな。子供たちがスプーンでごはんをかきこんでいる。そんなちょっとした仕草が家の小さい弟たちを思い出して微笑ましい。
「おにいちゃま、このひと、おきゃくさま?」
魔王が笑った。
「こいつはましろだよ。ましろ、このチビたちは俺の弟だ。エー、スー、リーっていう」
「ましろおにいちゃま!」
「ましろ、僕と遊んでー!」
「…」
「あ…よろしく」
なんだか魔王を見る目が一気に変わってしまった。こんなに小さい子たちと一緒に暮らしてるなんて。魔王は執事さんとなにやら話している。
「若様、ましろ様のお召し物ですが…」
「あぁ、なんか適当に頼む」
あ、やっぱりこの格好じゃさすがにまずいよね。久しぶりにお腹いっぱいごはんを食べたら、なんだかホッとしてしまった。俺達は今、城の裏庭にいる。
とにかく庭が広い。植物たちがどれもこんもり茂っている。ちゃんと手入れをされている証拠だ。エー、スー、リーが砂場で遊んでいるのを俺は魔王と見ていた。執事さんが新しい服を用意してくれて、ようやく落ち着いたのも大きい。魔王に肩を抱き寄せられる。それにドキドキしてしまうのはどうしてなんだろう。
「ましろ、お前に兄弟はいるか?」
ポツッと魔王から尋ねられて、俺は頷いた。
「小さいのが6人います。俺が一番上で」
「へえ。じゃあさぞかし金がかかるだろう」
「あの…」
俺は魔王を見上げた。魔王の緑の目を見ると、圧倒的な力の差に怖気づきそうになる。でも大事なことだ。言わなきゃいけない。俺は魔王の目を見つめた。魔王が首を傾げる。
「ましろ?」
「お金を家に入れたいんです。毎月家に振り込んでいて…それで、少しだけ郵便局に行かせてくれませんか?絶対にここに帰ってきます」
「なるほど、もう月も半ばか」
魔王がすとん、と地面に胡座をかいた。そして顎に手を当てて考え始める。それから少しして、俺を見上げてにぱっと笑って見せた。
「それならデートしよう。もちろん郵便局も行く」
「え?」
魔王はどうやら本気のようだ。一応魔族を統べる王様がそんなに軽くていいのか?でも断る理由もない。俺はだんだん魔王が好きになってきている。俺が鍵付きっていうのもちゃんと聞きたいし、もっとこの人を知りたくなっている。
「ましろ、どうだ?」
そんな風に無邪気に言われたら拒否なんてできない。俺は頷いていた。
「よし、それなら支度をしよう」
魔王は颯爽と立ち上がった。
***
俺たちの暮らす世界には多様な種族が存在する。俺みたいなヒト族に始まり、魔王のような魔族、エルフなんかの妖精族や、勇ましい獣人族までいる。
この世界で一番強いのが 魔族だ。
魔族の中にはその力を悪用して、悪さを働く奴らがいる。
それがエネミーだ。俺はてっきり、エネミーが魔王の指示で動いているとばかり思っていた。
でもそれは違うという確信に変わった。今頃、カケルたちはどうしているだろう。多分エネミーの拠点を潰すために必死に戦っている。
俺はあの時、ほとんどなにも出来なかった。パーティー追放も仕方のないことだ。
「ましろ、何してるんだ?」
夜、上半身裸の魔王がいきなりやってきて、ドキッとした。あ、お風呂に入ってたのか。彼が俺の隣にどかっと座る。距離近いな。
「お金数えてました」
嘘を言う必要なんてない。毎月実家には500ゴールドずつ仕送りしている。これだけあればたっぷり食事が摂れる。俺はそう、魔王に説明した。
「ましろの分は?」
「俺の分はないですよ。あ、そうだ。城で働かせてくれませんか?なんでもします」
「やだ」
ぷい、と魔王がそっぽを向く。
「な、なんでですか?
俺、割りと器用だしなんでもします!」
「ましろは俺のだ。誰にもやらない」
すごい独占欲きたなあ。
ぎし、とベッドが軋む。魔王が俺に向かって身を乗り出してきたからだ。
「ましろ、膝枕してくれ」
「いいですよ」
魔王が俺の膝に頭を乗せてくる。
女の子みたいに体が柔らかい訳じゃないけどいいのかな。
「ましろ、金の心配ならするな。ダンジョンなら俺もよく行くしな」
「そういう訳には」
「ましろは俺のそばにいればいい」
それってなんだかプロポーズみたいだな。魔王が楽しそうに笑う。
「ましろ、顔が赤いぞ」
「だって…あ…あの」
俺はずっと聞きそびれていたことを彼に聞いた。
「あなたのことはなんて呼べばいいですか?」
「シャオだ」
シャオが俺の頬を手で撫でる。シャオの手は大きいな。
「ましろ。急に連れてきちまってごめんな」
シャオが急にしおらしくなったので俺は笑ってしまった。彼の手を上から撫でる。
「俺は死ぬ瀬戸際にいましたから」
「なんであんなところに一人で?」
シャオの疑問は当然だ。俺はパーティから追放されたことを話した。今日が色々有りすぎて、随分前の出来事に感じるな。
あんなに辛かったのに、シャオのお陰で楽になった。
「俺が役立たずだったから」
「ましろはもう戦う必要ない。
お前は俺の番だ」
「まだいいなんて言ってません!」
俺たちはニ人で笑いあった。
4·鳥のさえずる声がする。目を開けて一番に目に入ったのがシャオの寝顔だった。魔王がこんなに無防備に寝ていていいのかな?まぁシャオの力からして簡単にはやられないだろうけど。
「シャオ、起きて。朝だよ」
シャオのほっぺを指でふにふにしたら、彼は目を開けた。
「ましろ…」
「わあ!」
急にシャオに飛び掛かられる。どうしたんだろう?そのままキスされたから困った。俺はシャオの顔をぐい、と押しやった。
「シャオ、これから出掛けるんでしょ?」
「ましろが手を繋いでくれるなら行く」
なんだ?その条件。
「繋ぐよ?」
そう言ったらまたキスされた。シャオってキス魔なの?
「よし、準備しよう」
よかった、ようやくシャオのスイッチが入ったみたいだ。
朝ごはんを食べて支度を整える。
シャオの着ているシャツは金糸で刺繍が施された高そうなものだった。俺の服も当然のように用意されていた。えんじ色のトップスとハーフパンツ。下に白いシャツを着るらしい。そして羽根飾りの付いたエンジ色の帽子を被る。
「ましろはなに着ても可愛いな」
着替えたらシャオにそう褒められて困った。外見を褒められるってなんだかムズムズする。そんなことあまりなかったから余計だ。
「若様、ましろ様、行ってらっしゃいませ」
「行ってきます」
いつの間にかシャオに手を取られてぎゅっと握られていた。
城下町は賑やかで、沢山の魔族が元気よく働いている。
「こんなに歩くのは久しぶりだな」
「シャオは空を飛べるもんね。羨ましいよ」
「いや、怖がられるからどこでも飛べる訳じゃないんだ」
シャオが困ったように言う。確かにシャオが飛んでいるのを見かけたら怖いかもしれないな。普段のシャオは羽をしまっているらしい。不思議だな。
「あ、郵便局あった」
しばらく町中を歩くと郵便局があった。郵便局はどこの国でも建物が統一されているらしい。木で出来たドアを開けると、窓口におばあさんが座っていた。もちろん彼女も魔族だ。
シャオが手を離してくれそうにないので、俺はそのまま窓口に近寄った。
「あの、お金を口座に振り込みたいんですけど」
「じゃあ先に書類を書いて頂戴ね」
「はい」
ペンを借りて、書類を書いた。お金が入った袋を取り出す。来月もちゃんと振り込めるといいんだけど。
「じゃあ手続きするわね。ちょっと待っていて頂戴」
「はい、お願いします」
シャオを引っ張って長椅子に腰掛けた。
「ましろ、これが終わったら休憩する」
「疲れた?」
シャオが遠慮なく俺に寄り掛かってくる。昨日から思っていたけれど、シャオって時々、小さい子供みたいだな。
「なに笑ってるんだよ」
「なんでもないよ」
手続きも無事に終わった。今度は俺がシャオに引っ張られている。
どうやらシャオ行きつけのカフェがあるらしい。ずんずん歩くから俺はほとんど小走りだった。
「ましろは甘いもの好きか?」
「うん」
「そりゃあいいな」
カフェに入ると、天井が高い。猫がゆったりカウンターに寝そべっている。
「チョコバナナパフェ2つ」
「シャオ、可愛い子を連れてるんだな」
「俺のものだ」
「違います!」
慌ててシャオの言葉を否定したら店主さんが笑っている。
「シャオ、せいぜい頑張れよ」
「うるせえ」
舌打ちしながらも、パフェが来たら黙々と食べていた。俺も甘いものは好きだから嬉しい。
「ましろ、ほっぺにクリーム付いてる」
「あ…」
シャオにそっと頬についたクリームを指で拭われる。そのまま指をペロッとなめる仕草がセクシーでドキドキしてしまった。なんかシャオにずっと翻弄されまくっている気がする。まあ仕方ないよな、イケメンだし。
「あ…あの…聞きたいことがあるんだけど」
「鍵付きのことか?俺もちょっと耳にした程度だからなぁ。気配で分かったけど」
シャオがはむ、とパフェを頬張る。
「ちょっとでもいい。知っていること教えて」
「鍵付きの特徴としてはジョブに関わらず魔力量が異常に少ない、そしてレベルが一定から上がらない」
「やっぱり俺、鍵付きか」
俺がしょんぼりしていると、シャオに頭を撫でられる。
「ましろ、この後、チビたちに土産を買いたいから付き合ってくれ」
「うん、分かった」
やっぱりシャオは、優しいお兄さんなんだな。でも彼と番になれるかって聞かれると困る。それっていわゆる結婚だもんね。シャオとは、まだ出会ったばかりだし、これからどうなるかも分からない。カフェを出た俺たちはお菓子屋に寄った。シャオが買ったのは箱にぎっしり詰まったチョコレートだった。
シャオはチョコレートが大好きらしい。エーくんたちも大好きなんだと嬉しそうに話してくれた。
「ましろ、帰るか」
「うん」
帰ると、エーくんたちがお土産を喜んでくれて良かった。シャオも早速食べていたから、俺も一粒貰ってみた。甘くて美味しかったなぁ
シャオのことを俺はどんどん知っていく。そしてシャオも俺を知ってくれる。嬉しいな。
4・俺が城に来て、既に一週間が経過している。すっかりここの暮らしにも慣れてきたなぁ。寝る前に城内の図書室で借りてきた冒険物語を読むのも恒例になりつつある。
「はぁぁぁぁ」
なんかさっきからすごい呻き声?をあげているヒトがいるな。今まで敢えて無視していたけど、そろそろ聞いてあげなきゃ可哀想か。
「シャオ、どうしたの?」
「働きたくない。明後日から一週間出張だ。やだー!」
シャオはなんだかんだ王として仕事をしている。町を巡って視察したり、新しい施設を作る許可を出したり、とにかく忙しそうだ。空いた時間に時々、マッサージをしてあげると呻いて急に気絶するから怖い。後から聞くと気持ち良すぎたってシャオは言うけれど、気絶は多分良くないから気を付けてあげようと思う。
「俺も行こうか?シャオのマッサージと荷物持ちくらいしかできないけれど」
「ましろ!!」
ぎゅうっとシャオにしがみつかれる。シャオは大きいし、力もあるから正直苦しい。俺も出来る限りの抵抗はする。
「付いていって、シャオの邪魔にならない?」
「お前がいれば頑張れる。給料も払おう」
「助かるよ」
これで来月も家に仕送りが出来そうだ。
「ましろ」
名前を呼ばれて、じっとシャオに見つめられる。最近気が付いたけど、シャオの目を見ても、怖いってあまり思わなくなってきているな。俺は、シャオのことをもっと知りたい。これはわがままなのかな。俺は自分の気持ちすら素直に言えないのに。
「シャオ」
シャオに向かって腕を広げたら抱き締められて噛みつくようにキスをされた。シャオが俺を欲しいって言ってくれて嬉しくない訳じゃない。でも俺はまた期待を裏切るんじゃないかと思ってしまう。もうそんな怖い思いはしたくない。
「ましろ、好きだ」
「うん」
本当は俺もシャオに好きだよって返してあげたい。でも怖がりな俺はそれを言えないでいる。シャオはそれさえも分かってくれている。優しいヒトだな。
「シャオ、先に出張の準備しよ。宿はどこなの?」
「え…宿?えーと…」
一応聞いてみたらシャオが青くなっている。シャオは基本ズボラだもんなぁ。もらった資料はだいたい机に起きっぱなしだし。
「机の上に資料まとめておいたよ。確か中央地区だっけ?そこって色々な種族がいるんだよね?」
「そうだ。ましろ、ありがとうな」
「どういたしまして」
シャオが机の上の資料を集中して読み始めた。シャオのすごいところは、一度資料をしっかり読めば、ほぼ内容を把握できてしまうことだろうか。だから今まで問題なく仕事がこなせたんだろう。
でも最近はエネミーに関することでシャオが呼び出されるようになってきている。夜中にシャオが部屋を出ていくのも何度か確認している。国王って大変だなって俺も改めて認識していた。朝方疲れて帰ってきたシャオを出迎えるとすごくホッとした顔をされるのがたまらない。シャオは周りの国から完全に標的にされている。そんなシャオを護りたい。でも、俺にそんな力はない。悔しいな。
「シャオ、出張中俺は、シャオの秘書だからね?こきつかってくれていいから」
「ましろをこきつかうなんて」
いやいやいや、シャオさん?
最初の俺様キャラどこいったんですか?あんなにライオンみたいだったのに、いつの間にか猫ちゃんみたいになってますよ。
俺が心の中で盛大に突っ込んでいたら、シャオがハッとなった。今度はなんだろう?
「毎晩チューしていい権利か!そうだろう?ましろ!」
「…いいけど」
「いいのか?」
俺はこくんと頷いて見せた。好きだと言えない代わりだ。シャオにだったらもっと…いやさすがに無理か。
自分の妄想に顔を熱くしていたら、シャオに抱き締められていた。いつもより優しく探るように触られて、なんだか変な感じだ。でもそれを悟られたくない。だって恥ずかしい。
「ましろ、キスしていいか?」
「うん」
顎を掴まれて唇を奪われる。シャオとキスをすると、なんでこんなに幸せを感じるんだろう。それはシャオが好きだからなんだよな。
5・執事さんの名前はパルカスさん、というらしかった。今朝も深々とお辞儀をして見送ってくれた。俺たちは今、汽車に乗って中央地区を目指している。明日から世界の有識者が集まって会議が行われる。シャオは嫌がっていたけれど、行かないわけにはいかない。隣に座ったシャオを見るとすでに眠っていた。疲れているんだろう。このまま寝かせておこう。
俺は読みかけの小説を開いた。
「ん…ましろ?」
「シャオ、起きた?もうすぐ中央地区だよ」
「もう着くのか。よく寝ちまったな」
ぐぐ、とシャオが体を伸ばす。そういえばパルカスさんがお弁当を持たせてくれたんだった。宿で食べよう。
目的の駅に着いて俺たちは中央地区を歩いていた。商店街になっていて賑やかだ。
「ましろ…なんで?」
「え?」
聞き慣れた声に振り返ると、カケルたちだった。うわ、気まずい。まさかこんなところで鉢合わせるなんて。
「カケルちゃん、皆さん、なにしてらっしゃるの?」
「あ、すみません。女王陛下」
その人を見て俺は驚いた。ヒト族を統べる女王陛下エリザ様だ。雲の向こうのヒトなんて呼ばれている。
「俺たち、エリザ様の護衛をしてるんだ。じゃなっ!」
カケルたちがそれだけ言って走っていく。女王陛下の護衛?そんな名誉なことはない。俺の中を悔しいという気持ちが過らなかったわけじゃない。
「なんだ?あいつら」
シャオがむすっとしながらそう言ってくれたからちょっと溜飲が下がった。俺は彼に笑ってみせた。
「シャオは気にしなくていいんだよ」
「だって、なんかムカつくじゃねーか」
「シャオは優しいね」
シャオがぷい、と顔を反らす。
どうやら照れているみたいだ。そんなシャオが可愛い。
「シャオ、早く宿に行こう。今日はよく休まなくちゃ、明日からの会議に耐えられないよ」
「そうだな」
俺たちは慌てて宿に向かった。
***
「沁みるー」
今日泊まる宿には温泉があった。
長時間の移動で凝り固まった体に熱い湯が沁みる。効能は肩こり、腰痛、疲労回復か。今のシャオにぴったりだな。
改めて温泉っていいなぁ。みんなで旅行に行けたらきっと楽しいんだろうな。さぞかしお金もかかるんだろう。うーん、でも実現したい。
「シャオ、背中流してあげる」
「ましろの裸、もっと見たい」
「なんだよ、それ」
思わず突っ込んでしまった。シャオって時々変なこと言うから笑ってしまう。本人は大真面目だから余計だ。シャオがそばにやって来て、俺を後ろから抱える。
シャオ…もしかして勃ってる?びっくりしたけれど、俺はシャオの好きなようにさせてみることにした。シャオはただ俺の体を見ている。なんだか恥ずかしいな。
「触らないの?」
聞いたらシャオは頷いた。
「ましろ、会議とか色々なゴタゴタが済んだら触らせて欲しい。俺は目の前に人参がないと走れないから」
「俺がご褒美でいいの?」
「俺はましろが好きだからな」
シャオの言葉が嬉しくて、俺は目頭が熱くなった。その後二人で背中を流しあって、その日は眠った。
6・宿は素泊まりだから、基本的に食事が出ない。俺たちは宿の人が教えてくれた食堂に来ている。
中央地区には海があるから、魚が美味しいとおすすめされた。この辺りでは生魚を食べる習慣があるらしい。新鮮でなくちゃそんなことできない。
食堂に入ると既にお酒を飲んでいる人がいて驚いた。港のそばだし、漁師さんかな。
「おっ、兄ちゃんたちかっこいいね!これから仕事?」
帽子を被った作業着姿のおじさんが話しかけてきた。どうやらすっかり出来上がってご機嫌らしい。俺たちは二人ともスーツを着ていたからそう思うのも無理はないか。
「おっさん、あんた港の人か?」
シャオがおじさんの向かいの席に座る。シャオってこう見えて、意外と社交的だよね。
「おお、そうだよ」
「ここの魚美味いんだろ?帰りに土産を買いたいから見繕ってくれ。連絡先はこれだ」
「分かった。おじちゃんに任せておきな!」
おじさんにおすすめのメニューを教えてもらって、俺たちは朝ごはんを済ませた。さあ、今日のメインイベントの会議だ。
いざ会議の行われる会場に向かうと、広くて驚いた。すごいな。
「ましろ」
シャオに手を握られる。
「俺からはぐれないようにしろよ」
「うん」
「おや?誰かと思えば、魔族の王子様じゃありませんか」
「!」
高飛車な物言いだな。絡んできたのは、どうやらエルフらしい。エルフが生き物の中で一番至高と謳うエルフが中にはいると聞いたことがある。確かにエルフは魔力保有量も多いし、肉体も強い。しかも種族の中には白い翼を所有する者もいて、それを特別に「天使種」と呼ぶらしい。
絡んできたエルフは正に「天使種」だった。シャオがエルフの言葉を鼻で笑う。
「エルフのじーさんは情報が遅くて参るな。俺はもう王子様じゃねーんだよ。分かったか?あぁ?」
「なっ!失礼な!」
エルフの顔がみるみる赤く染まる。
「じゃあな、じーさん。俺たちは忙しいんだ。行くぞ、ましろ」
「こ、この父親殺しめが!」
ぴくっとシャオがそれに反応する。でも彼は振り返らずに俺の手を握って歩きだした。
「シャオ、大丈夫?」
席に着くとシャオがため息をついた。明らかに顔色が悪い。父親殺しなんて、いくらなんでもひどすぎる。シャオのお父さんか、また様子を見て聞いてみよう。
「シャオ、お水。飲んで」
俺は机に置いてあったピッチャーから水をグラスに注いでシャオに渡した。
「ありがとう」
シャオが無理して笑っているのが分かる。俺はシャオの背中をさすった。時間が来て会議が始まる。シャオ、大丈夫かな。隣で見ている限りさっきよりは大丈夫そうだ。それでも俺に出来ることはなんでもしよう。
会議の議題は当然のようにエネミーのことだった。シャオはもちろん魔族を統べる王だから攻撃される。シャオは冷静に自分や魔族の有志を募ってエネミーの拠点を一つ残らず潰すと宣言した。
「議長!」
エリザ女王が手を上げる。
「エリザ女王」
議長にあてられた彼女がゆったりと立ち上がる。
「シャオ王、そちらの方はヒト族では?」
視線が一斉に俺に集まる。シャオも立ち上がった。
「…はい」
「魔族はヒト族より上だ、ということでしょうか?」
このヒト、なんてことを言うんだ。俺は思わず立ち上がりそうになった。シャオに手で制される。
「俺とこのヒトは番です。上下関係ではありません」
ざわざわと会議室がどよめく。シャオはこんな悔しい思いでいつも対応しているのか。議題は次に進む。会議の大変さがよく分かった。ようやく最後のまとめだ。
「シャオ王、エネミー殲滅のため、具体的な案を明日までに作成してくるように」
「はい」
議長が会の終わりを告げる。シャオは疲れたのかため息をついた。
「シャオ、お疲れ様」
「ああ」
お昼を跨いで、すでに午後になってしまっている。
「シャオ、昼ご飯どうする?」
「…ああ」
シャオ、疲れてるな。俺の言葉が届いていない。俺は彼の手を握って静かに呟いた。
「癒しよ」
これは白魔導士なら一番最初に覚える簡単な回復魔法だ。魔力の少ない俺がなんとか使える魔法の一つ。
シャオの体力が少し回復したのを俺は感じた。シャオがハッと俺を見つめる。
「ましろ、一体何したんだ?」
「シャオの体力を回復したんだよ。俺は秘書だけど、白魔導士でもあるからね」
シャオは回復魔法を受けたのが初めてだったらしい。ずっと一人で戦っていたんだもんな。知らなくても無理はない。
「ましろ、昼飯食いに行こう。お前のお陰で随分楽になった」
シャオの瞳に気力が満ちている。
俺の魔法も案外捨てたもんじゃないのかもしれない。
俺は差し出されたシャオの手を握り返した。
***
「んああ…」
シャオがうつ伏せで呻いている。
今は宿で絶賛マッサージ中だ。宿に帰ってきてからシャオはずっと仕事をしていたから、体がごりごりに凝っている。マッサージはただ力を入れればいいわけじゃない。
大事なのは的確な部位を程良い力で解すことだ。こんな時、白魔導士というジョブを選んで良かったって思う。しっかり回復するためには体の造りや状態を的確に把握する必要がある。だから自然とどこに疲れが溜まりやすいか流れが見えるようになる。それは個人差もあるけれど、大体共通している。
「ましろ…そこ…」
「痛い?」
「いい!」
こうしてマッサージしてると、ちょっと変な気持ちになるのはなんなんだろう。相手がシャオだから余計かもしれない。気にしないことにしてマッサージを続行した。
「うう、体が大分解れた。ありがとう、ましろ」
「どういたしまして。ねえ、エネミーの拠点潰すの、俺も手伝いたい。俺、パーティにいた時にエネミーの集落を潰しに行ってたし、結構役に立つよ?偵察もする」
「ダメだ」
「なんで?俺が鍵付きで弱いから?」
「違う。俺は、ましろを戦わせたくないだけだ」
「シャオ…」
「ましろ、そんな悲しい顔をしないでくれ」
「シャオのせいだろ!大体有志を募るって…俺だってちゃんと出来るのに」
一人でプリプリしていたら、シャオに抱き締められていた。急だったから身構える隙もなかった。シャオに至近距離で見つめられてつい顔が熱くなる。シャオはやっぱりかっこいい。
「ましろ、怒らないで欲しい」
「お、怒ってないよ。でもエネミーの拠点を魔族だけで全部潰すなんて。他の種族だってエネミーのやつら、いるじゃないか」
「落ち着いてくれ、ましろ。魔界には強力な騎士団がいる。滅多に表には出てこないけどな。今こそ
あいつらの力を借りる」
どうやら災害時や大きな事故なんかが起きた時に駆けつけてくれる頼もしいヒトたちらしい。有志というのはそのヒトたちの事だったようだ。シャオもものすごく強いからエネミーの鎮圧も難しくはないかもしれない。でもなんだか納得がいかない。
「まさか、エリザ様があんなことを言うなんて」
俺はずっと彼女の言葉が引っ掛かっていた。種族の違う者同士が一緒にいちゃいけないんだろうか。俺はなんだか悲しかった。シャオのそばにいたから分かった。俺たちは同じ心を持っているんだ。種族は違うかもしれないけど、共通している部分も多い。
「きっと女王はましろのことが心配だったんだ」
「…」
シャオは大人だなってこういう時に思う。
「お茶でも飲もうか」
気持ちを切り替えよう。俺がそう言うとシャオが頷いてくれた。
7・間に休みを挟んで、会議の全行程が無事に終了した。
会議の間も当然、エネミーによる施設襲撃事件が起きた。シャオはもちろんそれにもしっかり対応した。
「兄ちゃんたち、お疲れ様だったね!」
帰り際、食堂に寄るとおじさんが声を掛けてきた。昨日電話が来ていい魚が手に入ったとのことだった。会議の様子が一部報道されたらしい。おじさんはそれを見ていてくれていたそうだ。
「魔族みんなが悪いみたいにみんな言うけれど、おじちゃんはそうは思ってないよ。エネミーが悪さするのと魔族は関係ないからね」
「ありがとう」
おじさんの優しい言葉が染み渡る。魚は干物になって冷凍されているらしい。パルカスさんが美味しく焼いてくれるだろう。
おじさんに手を振って、俺たちは汽車に乗り込んだ。さあ帰ろう。
****
汽車に乗って景色を眺めているとだんだん速度が落ちてきた。駅に停車するのだろうと思ったら、グラッと一瞬、汽車が揺れた。なんだ?
「来たな」
シャオが呟く。何が『来た』んだろう?
「若…参りました」
「あぁ」
音もなく人影が現れて、俺は驚いた。シャオは慣れているのか平然としている。現れたその人は全身黒ずくめだ。顔も隠している。こんなに近くにいるのに、全然気配を感じない。
「若、現在、世界中のエネミーの拠点を探り出しています。もうしばしお待ちを」
「俺も出る。速やかに頼む」
「は…」
人影はまた一瞬で消えてしまった。シャオがくあ、と欠伸をしている。これだけ見ると何もなかったのかと錯覚してしまうな。
「シャオ?今の人、俺の夢じゃないよね?」
一応尋ねたら、シャオが笑った。
「あいつは騎士団の一人だ。
身軽だから斥候をしてくれている。連絡がまめな奴だから助かってる」
「シャオ、俺も行くからね!ダメって言われたって勝手についていくんだから」
「ましろ…」
シャオが困ってるけど、そんなの知るもんか。俺だってシャオの役に立てる。お荷物はもう嫌なんだ。それに今までの経験から、鍵付きについても何か分かるのではないかという期待もある。
「分かったよ、ましろ。絶対に俺から離れるなよ」
「うん」
シャオがまたうとうとし始めた。この出張期間中もシャオは昼夜問わず、エネミーの対応をしていたし、今後もそうなんだろう。早く落ち着いて生活できるようにさせてあげたい。
***
「お帰りなさいませ、若様、ましろ様。お仕事、お疲れ様でございました」
「パルカス、城は変わりなかったか?」
「は。一昨日リー様が公園で転んでしまわれて」
「そうか」
「お帰りなさい!おにいちゃま!」
「ましろー!」
「…」
「いい子にしていたか?」
シャオが抱えたのはリーくんだった。リーくんは基本的に無口で、あまり表情を変えない子だ。でも、時折見せる笑顔が可愛らしい。そして優しいいい子だ。将来、絶対にモテるんだろうな。
「リー、元気…いい子」
リーくんがぽつっと言ってにっこり笑う。可愛い。悶死って本当にあるのかもしれない。実際今そうなりそうだし。
「そうか」
シャオも可愛くてたまらないっていう顔をしている。その気持ち、よく分かるな。
「パルカス、俺たちは魔界騎士団と共にエネミー全ての殲滅をする。そのための準備をこれからするぞ」
「かしこまりました」
パルカスさんがお辞儀をして部屋を出ていった。
***
あれから、既に約数時間が経過している。ここは城内の執務室だ。机の上には巨大なフィールドマップが広げられている。シャオは金色の刺繍が施された白い服を着ている。雰囲気がすごく王様って感じだ。俺は黒に銀色の刺繍がされた服を身に付けていた。シャオの服と対のデザインになっているらしい。両腿部分から大胆にスリットが入っている。下にちゃんとハーフパンツを履いているから下着は見えない仕様だ。安心して欲しい。
「シャオ王よ、いつの間にこんなに可愛らしい奥方を迎え入れたのですかな?」
がっはっはっと黒い肌のおじさんが豪快に笑う。奥方ってもしかして俺のこと?シャオも彼に向かって、悪戯っぽく笑った。
「なかなか可愛いだろ?早速尻に敷かれているよ」
「夫婦円満なんてそうゆうものですよ。
ましろ姫、ワシはランスロットと申します。一番槍は任せてください」
すっかりシャオの奥様扱いだな。でも、悪くない…かな?ちょっと照れ臭い。
「ランスロットさん、宜しくお願いします」
「おいおい、ランス。俺っちたちを忘れてもらっちゃあ困る!」
ぞろぞろと、体の大きな男の人たちがやってきた。あまりに大きくて、シャオが小さく感じてしまうレベルだ。
「シャオ王!魔界ルシファー騎士団、全員揃ったぜ!」
このヒト、すごく元気なヒトだな。
「テンゲ、姫が驚いていますよ」
眼鏡を押し上げながらそのヒトが言う。
「フギ軍師!すまない!ましろ姫もごめんな!」
テンゲと呼ばれたヒトが焦ったように謝ってくる。軍師さんがそれに、やれやれと首を横に振っている。
「私はフギ。この団の軍師です。姫、これを」
フギ軍師さんが俺に手渡してきたもの。それは茶色い小瓶だった。
「これは劇薬です。本日の夜、斥候のスカーと共にエネミーの集落へ侵入、やつらの使う井戸に入れてきてください。そこで貴方の力を示して欲しいのです」
「わかりました。俺、やります」
騎士団と一緒に行動したいならそれだけの覚悟がいるってことか。
エネミーはそれだけ世界に脅威を与えているってことなんだよな。
シャオたちがエネミー殲滅に向けて動き出したことは大々的に報道されている。エネミー側もそれがどういうことか、よく分かっているはずだ。
「いくら試験とはいえ、ましろを敵の集落に行かせるなんて」
シャオがおろおろし始めたので、 みんなで大丈夫だと説得した。あの斥候さんと行動するのか、邪魔にならないようにしないと。
「お兄様たち、後衛は僕たちにお任せくださいな」
「任せろ…」
大きなヒトたちの後ろからヒョコっと現れたのはそっくりな外見をした二人だった。どうやら双子らしい。二人がシンクロしたように同じ動きで俺の前に跪いた。
「ましろ姫、僕は睡蓮っていいます。どうかお見知りおきを」
「私は白蓮。貴方に忠義を誓おう」
俺は二人の言葉にすっかり慌てた。今更だけど、ルシファー騎士団ってイケメンしかいないの?いくらなんでも顔面偏差値高すぎない?シャオに慣れていなかったら多分逃げ出していた。
「ましろ、こいつらは俺が信頼する仲間たちだ。必ずエネミーには公平な裁きを受けさせる」
シャオがぐ、と胸の前で拳を握る。これから始まるのは血なまぐさい戦争だ。
俺も一人の白魔道士として、出来ることはしよう。
それからは本格的な軍事会議が始まった。フィールドマップにエネミーの拠点が記されている。全部スカーさんたち斥候部隊が確認してきたらしい。すごいスピードだな。
俺たちは南下しながらエネミーの拠点を潰していくことになった。魔界は北に位置しているから分かりやすい。そこにスカーさんが音もなく現れる。
「ましろ姫、準備はよろしいか?」
いよいよか。俺は小瓶をぎゅっと握り締めた。スカーさんが俺に大きな背中を向けて屈む。もしかして。
「姫君は拙者が運ぶ。安心されよ」
「ましろ、スカーは速いからな。しっかり掴まっておけよ」
シャオも真面目な顔で言う。俺は彼の背中に体を預けた。スカーさんが俺ごと立ち上がる。うわ、視点が高いな。
「シャオ王。ましろ姫は必ずお守り致す」
「頼んだぞ」
スカーさんが走り出す。俺を担いでいるとは思えない程、軽快だ。
「ましろ姫、速度を上げます」
まだ全力じゃなかったんだ。俺はさすがに怖くなって、彼の背中にぎゅっとしがみついた。スカーさんの走るスピードが明らかに上がる。景色がみるみる後ろに流れ去る。しばらくスカーさんの背中に俺はしがみついていた。
「集落までもうまもなく」
俺はフィールドマップを思い出していた。魔界に一番近いと思われる集落群まで城からだいたい150キロは離れていたはずだ。それをたった2時間で走りきってしまうスカーさん、凄すぎる。スカーさんと俺は木陰に身を潜めた。エネミーたちはほとんどが眠っているのか、明かりがまばらだ。つまり油断している。この集落の周辺が何もないせいもあるだろう。見張りの少ない今がチャンスだけど、そんなにうまく行くかな?どうしたものか考えていると、スカーさんがなにかを取り出す。黒い球形のものだ。だんだん空も明るくなってきている。スカーさんが玉を指で示した。
「これは煙玉。いざというときにやつらの目眩ましに使います。姫、チャンスは一度きりです。頑張りましょう」
うう、すごいプレッシャーだ。でもやるしかない。ここで怖じ気づいたらみんなの信頼を裏切ることになる。俺も、騎士団に入団したい。
「やりましょう、スカーさん!」
「拙者の後を付いてきてください」
「はい!」
スカーさんと俺はなるべく静かに集落に近付いた。
矢倉にエネミーが見張りに立っているようだけど、今のところ見つかっていない。
なるべく物陰に潜みながら井戸に近付く。
俺は小瓶の蓋を開けてスタンバイした。これ、劇薬ってフギさん言ってたな。これを飲むと、どうなるんだろう。怖いけどやるしかない。俺は静かに井戸に近付いた。
中に薬を入れる。これでいいはずだ。スカーさんの元に静かに戻る。撤退だ。俺たちは静かに集落を離れた。フギさんが言うにはこれでこの辺り一帯の集落を潰せるとのことだ。フギさんの作戦、それは集落の間にある連携を分断するというものだった。
数で押し負けているからどうしてもそうなる。
そして、この作戦が今回しか使えないこともある。
俺たちは集落の様子を遠目から見守った。エネミーたちが俺たちと何ら変わりなく生活をしていることが分かる。井戸から水を汲み上げて生活用水として使う。昼頃を過ぎた頃だろうか、エネミーたちが一人、また一人と倒れていく。
「死んでるの?」
さすがに恐ろしくなってスカーさんに尋ねたら彼は首を振った。
「大丈夫。深い眠りについているだけです。さあ、奴らを捕らえましょう」
何処にいたのか斥候部隊のヒトが数人現れた。全員総出で、倒れているエネミーたちを太い鎖で縛り上げる。鎖もフギさんが作った特別製らしい。この鎖に巻かれたヒトが抵抗すればする程、鎖は重くなり、体をより締め上げる。スカーさんの淡々とした説明を聞いて、俺は恐怖で震え上がった。フギさんは絶対に敵に回したくない。これから気を付けて接しよう。
「フギ軍師殿の作った結界も強力ゆえ」
スカーさんが魔方陣の描かれた紙を上空に投げる。どうなるのかと眺めていたら、空に魔方陣が花火のように浮かび上がる。これで俺たち以外のヒトは集落に入れなくなった。作戦成功だ。
「スカー様、シャオ陛下から伝令です」
しゅた、とスカーさんのそばに斥候部隊のヒトが現れる。声からして、少年のようだ。俺より年下か同じくらいだろう。スカーさんは黙って話の先を促した。
「陛下は無事、ルシファー騎士団と城をご出立されたようです。ここより南東にあるエネミーの集落前で待機せよとのことです」
「了解した。下がれ」
「は」
スカーさんが俺に向き直る。顔をほとんど隠しているから表情は見えないけれど、彼から真剣な気持ちが伝わってきた。
「姫、ここから更に過酷な旅が始まります。覚悟はよろしいか?」
「大丈夫です」
ここまでやっておいて俺だけ逃げるなんて、もう許されないだろう。もちろん怖くない訳じゃない。でも俺にも全力で守りたいヒトがいる。
シャオの顔や家族のことを俺は思い返していた。みんな俺にとって大事なヒトたちだ。もちろん、こうして一緒に戦ってくれているルシファー騎士団のヒトたちのことも。
「俺も戦いたいんです、みんなと一緒に。もう役立たずなのは嫌だから」
「王から聞いていましたが、姫は太陽のような方ですね」
シャオがそんなことを?スカーさんも恥ずかしくなったのか、ぷいと顔を背けた。なんだ、この状況。後でシャオは取り調べだな。
「とりあえず何か食べましょう。王たちは飛龍で移動しています。拙者たちもそろそろ行かねば」
「はい」
スカーさんが真っ黒な服の袖から茶色い包みを二つ取り出す。それを開くと大きな握り飯が三つ現れた。真っ白でツヤツヤしたお米が美味しそうだ。ごくり、と生唾を飲む。
「拙者が自分で握ったから不格好で申し訳ない」
スカーさんはそう、申し訳なさそうに言ったけど、ここでご飯が食べられるなんて嬉しい。
「スカーさん、さんかくに握るの上手なんですね」
スカーさんがまたふいと顔を背ける。俺、なんか変なこと言ったかな?
俺たちは貪るように握り飯を食べ始めた。食べながら、すごくお腹が空いていたんだってようやく気が付く。スカーさんが小さな竹の筒を二つ取り出した。
「ただの水ですが…」
「ありがとう、スカーさん」
彼に向かって笑ったらスカーさんが急に竹筒をグイっと呷った。さっきからスカーさんはどうしたんだろう?
俺も竹筒から水を飲む。わ、この水美味い。うまく使えば売れるかも。とりあえず今はエネミー殲滅か。平和大事。
「姫、そろそろ移動せねば」
「俺、重たくないですか?」
「なんともない。姫は拙者が守るゆえ」
さすがスカーさんだな。鍛え方が違うよ。シャオも普通に俺を抱えてたし、それはそれで、男としてちょっと切ないものがあるな。
でも今はそんなこと言ってられない。シャオたちと早く合流しないと。俺は再び、スカーさんの背中に乗った。スカーさんがとにかく速い。南東にあるエネミーの集落はなかなか大きいらしい。敵にも味方にもかなり犠牲が出るのではと軍事会議でフギさんが言っていた。エネミーだってただ死ぬのは嫌なはずだ。何らかの対策を講じてくると考えるのが普通だろう。
戦わずに済むならそれが一番だ。でももうその段階じゃない。
「姫、眠れるなら眠った方がいい。あまり揺すらないよう気を付ける」
確かに、クタクタだった。これからのために寝ておいた方がいいかもしれないな。
「スカーさん、すみません」
俺は目を閉じた。
8・気が付くと、俺はベッドに寝かされていた。普通に熟睡してしまった。我ながら図太い。ここはどこだろう?
「ましろ、起きたか?」
「シャオ!!」
俺はすごくホッとした。シャオに頭を撫でられる。
「ましろ、よく無事で」
「スカーさんのお陰だよ。スカーさんは?」
「あぁ、休んでるよ」
「そっか、よかった」
シャオにここが、ルシファー騎士団の秘密のアジトの一つだと聞いて、なんだかドキドキしてしまった。アジトって男のロマンだ。エネミーの集落はこのすぐ近くにあるようだ。この基地を設計したのがフギさんで、作ったのがテンゲさんの率いる部隊らしい。部隊とは言ってもルシファー騎士団は基本的に、少数精鋭だ。こんなに短時間にどうやって作ったのかとか色々気になったけど、今はそれどころじゃないようだ。シャオたちは既にエネミーと一戦交えたらしい。やっぱり向こうの数の方が圧倒的に多いようだ。でもシャオたちも負けていない。一部の拠点を制圧したらしい。そこにいたエネミーたちはほぼ捕縛、収容所に連行されたそうだ。
「ましろ、動けそうか?俺たちは残りのエネミーを捕縛する」
「うん、俺も一緒に行く」
俺はベッドから出て身支度を整えた。よく寝たから体力満タンだ。
なんだか強くなった気さえする。
部屋を出て気が付いたけど、アジトは地下にあった。ますますどうやって作ったのか謎だ。
「姫、目覚められましたか」
フギさんが杖を片手にやってくる。そして俺に向かって、恭しく頭を下げた。それに俺は驚いてしまった。フギさんが頭を上げて俺をまっすぐ見つめてくる。
「姫、貴方は力を示された。私も改めて貴方に忠義を誓いましょう。貴方が鍵付きであることも王から聞きました。書物に残された数行のセンテンスが示すのは鍵付きの可能性です」
「可能性…」
「はい。貴方のその鍵が外れた時、貴方の可能性が姿を現すでしょう。非常に興味深いことです」
フギさんが楽しそうに笑う。俺の鍵が外れたら俺はどうなるんだろう。少し怖い。俺の戸惑いを感じたのか、フギさんが優しく笑った。
「私なりに改めて鍵付きについて情報を探ってみましょう」
「お願いします」
フギさんの表情が変わる。なんだか地上が騒がしい。エネミーだろうか。
「さて、お片付けに参りましょうか」
フギさんの声音に俺はゾッとしてしまったのだった。
***
アジトの出入口は言われなかったら分からない所にあった。周りにある自然で上手くカモフラージュされている。さすが秘密のアジト。ちゃんと考えて作られてるんだな。エネミーたちの様子を窺う。声がするから近付いて来ているのは間違いない。ルシファー騎士団は二手に分かれてエネミーを前方と後方から追い詰める作戦をとることになった。チームとしては、テンゲさん、フギさん、睡蓮さん、スカーさんのA部隊。そして、シャオ、ランスさん、白蓮さん、俺のB部隊だ。
「ましろ姫、私と共に後方へ」
「はい」
装備を見たところ、白蓮さんは弓使いのようだ。でもただの弓じゃない。魔力を矢本体に込めて矢に特殊な効果を付与するらしい。魔力と体力のさじ加減が上手くないと、とてもじゃないけど戦えないだろう。弓を扱うにはかなりの体力と腕力が必要なのだ。白蓮さんは男性にしては細身だ。相当厳しい訓練をしているに違いない。
「白蓮、ましろを頼んだぞ」
「は」
みんな、身構える。向こう側からエネミーの集団が襲いかかってきた。俺がみんなの足を引っ張らないようにしないと。
***
剣同士がぶつかり合う音が響く。俺は白蓮さんと共に、後ろから妨害魔法の呪文を相手に向かって唱えながら、戦いの様子を見守っていた。先陣を切ったランスロットさんをはじめ、シャオが一人、また一人とエネミーを切り捨てていく。多分シャオはまだ本気を出していない。シャオの得意分野は魔力を駆使した攻撃のはず。シャオがまた一人切り倒す。ランスロットさんが雄叫びを上げながら盾ごと相手に突っ込んでいく。あれ、俺だったらとても耐えられそうにないな。白蓮さんが弓で足や腕を狙う。この戦いは相手を捕縛するのが目的だ。エネミーたちに罪を償わせる為にこの戦いがある。
「オイオイ、結構やられてんじゃねーの。使えねーなー」
なんか強そうなのが上から降ってきた。他のエネミーとは纏うオーラが違いすぎる。シャオがすかさず切りかかるけど、それを軽々受け止めてしまった。赤毛のイケメン。またか。
「へぇ、ようやくまともなのが来たな?面白いじゃねーか」
シャオ、何で挑発してんの?相手も楽しそうに笑う。
「誰かと思えば魔王様か。俺はモウカ。なあ俺と手合わせしてくれよ。ちょうど退屈していたとこだ」
つばぜり合いが激しい。お互い引く気は一切ないらしい。ギリリと金属が擦れ合う音が響く。俺はハッとなった。今も戦いは続いている。集中しないと。まだまだエネミーの勢いはやまない。
「うおおおおおおお!!!」
急にモウカと名乗った男が咆哮をあげる。ビリビリと空気が震えた。エネミーたちが怯んで動きを止める。もちろん俺たちもだ。モウカが低く剣を構える。珍しい構え方だな。
「魔王!本気で来やがれ!!」
モウカが勢い良くシャオに向かっていく。二人が切りあいを始めた。ランスロットさんと白蓮さんが鎖でエネミーたちを捕縛している。俺も二人を手伝わないと。
「ましろ姫。シャオ王を見守るといい」
「ワシらは先に行きます。我らが王のこと、安心しなさい」
俺は二人に向かって頷いた。
シャオには勝ってもらわないと。
でもモウカもなかなかやるみたいだな。シャオが剣に触れる。その途端、冷たい風が吹いてきた。モウカがバックステップで距離を取る。
「おい、それ魔剣かよ。参ったな」
「お前も魔剣だろうが。参ったなんて演技要らねーよ」
シャオが口を尖らせる。モウカが笑い出した。
「あんた、本気で面白いな!なら
本気出すか!!」
モウカの体から赤いオーラが見える。それが全て剣に注ぎ込まれていく。剣の形状が大きく鋭く変わっていく。一方でシャオの剣に変化は見られない。
「あんたの魔剣、本気出す気もないってか」
モウカが笑う。そうだ、明らかにシャオの方が強い。モウカは魔剣を放り出した。
「参った。あんたには勝てない。お縄でもなんでも繋いでくれ」
シャオが剣を鞘に戻す。
「モウカ、俺と来ないか?」
「へ?」
俺もその言葉には驚いた。
「エネミーとしての罪を償わないかって言っている」
「いいのか?」
「ましろ、こっちにおいで」
急に名前を呼ばれたから俺はまた驚いた。シャオ、俺がいたことに気が付いていたんだ。俺はシャオのそばに駆け寄った。モウカもたくましいヒトだな。
「ましろ、お前はどう思う?」
「モウカは強いし、シャオが気に入る理由も分かるよ。でも、最後はモウカ次第だよね。だってエネミーを裏切るわけだしさ」
モウカが俺を見つめて固まっている。どうしたんだろう?
「俺のましろだ。どうだ、羨ましいだろ?」
シャオ、初めて会うヒトに毎回それ言うわけ?そのどや顔、いい加減腹立つんだけど。
「ひ…ヒトヅマー!!」
モウカはそう叫んで気絶した。
「だ、大丈夫かな?」
「大丈夫、こいつは飛龍に拾わせる。さ、俺たちも先に行くぞ。作戦続行だ」
「うん!」
***
「はははは。雑魚がゾロゾロと。お前たち、やってしまえ!エネミーに歯向かうから悪いのだ」
うーん。なんと言ったら良いものか。
俺たちルシファー騎士団は、狸みたいなお腹のおじさんが率いている部隊を取り囲んでいる。おじさんの部隊は約3000。こちらは多く見積もっても100。本来なら多勢に無勢のはずだ。
「あー、馬鹿らしくなった。スカー、後は任せた」
「任されよ」
シャオが戦線を早々に離脱。これだけ聞いたら負けたって普通のヒトなら思うんだろう。でも実際に目の前で繰り広げられたのは、スカーさんの容赦ない乱舞だった。
うわぁ、めちゃくちゃスカッとした。こんな感じで、エネミーとの勝負は快勝に終わった。今のところはだけど。俺たちは怪我の手当ての為に、一旦秘密のアジトに戻ってきている。モウカの様子も知りたい。モウカはすやすや眠っていた。先の戦いで大分暴れていたから疲労が溜まっていたんだろう。
パチリ、とモウカが目を覚ます。そして俺を見て小さく悲鳴を上げた。
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モウカが首を大きく横に振る。
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何を言ってるんだ?この子は。
「俺のましろだぞ。モウカ?」
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