最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ

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七章

1・「捕縛だ!捕縛しろ!!」

スカーさんが走りながら叫んでいる。俺たちは拠点を完全に潰すべく行動している。ルシファー騎士団は本当に強い。一人一人の力がとてつもなく強力だから、相手の人数が多くても、これだけ戦えている。それでも三か所の拠点にいる兵士が連携しているのが、またやりにくい。ぞろぞろと相手の兵士が次から次に出て来る。
でも、もうすぐ拠点を潰せるはずだ。俺はもう一度マップを空間に展開した。拠点の奥には大聖堂がある。そこに沢山のヒトが何故か集まっていることがマップで分かった。もう一度呪文でエネミーたちを眠らせよう。この距離なら確実に眠らせることが出来るはずだ。一日に二回、この魔法を打つのは初めてだ。でも眠らせるのが一番犠牲が少ないことが先ほどの結果から分かった。さっきは拠点が広くてエネミー全員を完全に眠らせることが出来なかった。今度はもう、失敗しない。

「ましろ、奴らを眠らせるつもりなのか?」

「うん」

「お前を信じていないわけじゃない。ただ、なんだか嫌な予感がする」

シャオがそう言うのだからきっとなにかあるんだろう。

「とにかく相手を眠らせる。そしたら安全にエネミーを捕縛できるから」

「ああ」

俺は呪文の詠唱を始めた。詠唱の間、魔力がガンガン消費されていく。
この間もルシファー騎士団によるエネミーの捕縛は続いている。スカーさんとモウカ、イサールさんがずっと走り回ってくれている。フギさん、睡蓮、白蓮はランスロットさんに守られながらみんなを援護していた。
長い詠唱が終わって、俺は疲れて座り込んだ。息が切れて、もうぜいぜい言っている。情けないなぁ。

「よし、これから奥の大聖堂に向かう。ましろ、乗れ」

シャオが俺をおぶってくれた。最近やたら何かに乗って移動してるな。やっぱり魔族のヒトは力強い。俺の体がヒトより小さいとはいえ、軽々と抱えてくれる。
足音を潜ませて大聖堂にそっと近付く。俺はシャオの背中から降りている。
シャオが大聖堂の中の気配を窺う。やっぱり何かがおかしいとシャオは感じているようだ。
更に扉を詳しくシャオが探っている。彼はその場から少し離れた。

「シャオ?どうしたの?」

「ああ、なんだか分からねえが危ない気がする。扉を魔法で一気にぶち抜くつもりだ。お前は離れていろ」

その何かが分からないから怖い。俺は少し大聖堂から距離を取った。これくらい離れれば大丈夫かな。
シャオが魔力を指に集中させる。シャオの魔法は強くて鋭い。普段、彼は自慢の魔力じゃなくて、相手を選ぶ気まぐれな魔剣と体術だけで戦っている。シャオが本気を出したらきっとすごいことになるんだろうな。さすが最強の魔王なだけある。シャオが本気を出したら、もしかして世界が滅びるくらいなのかな。そうなったら怖いから気を付けよう。

シャオが詠唱もなしに雷の魔法を放つ。すると扉がものすごい勢いで爆発した。シャオが瞬時に防御壁を張って上手く爆風を抑えてくれたから建物に被害はない。シャオが舌打ちして大聖堂の中に入る。俺もそれに続いた。

「よう、他人を巻き込んで自決するってそんなに楽しいか?」

シャオが話しかけているのはもちろん、中にいるエネミーたちだ。さっきの爆風の音で、みんな起きちゃったんだな。

「く、魔王め。我々と共に散るがいい!」

おじいさんが鋭いナイフを持ってシャオに向かってくる。シャオはそれを簡単によけて彼を気絶させた。
ここにいるヒトたちは幼い子供やその母親だろうか。老人もいる。みんな、シャオの出現に驚いている。
俺は彼らを観察した。大丈夫、爆弾を持っている様子はない。
というか、さっきの扉から周りの壁に仕掛けてある爆弾へ誘爆させてこの大聖堂自体を破壊するつもりだったんだろう。
普通に扉を開けていたら間違いなく俺たちは爆発に巻き込まれて死んでいた。
助かったのはシャオの勘が働いたおかげだ。なんて恐ろしいことを考えるんだ。自らの命をなんとも思っていないのか?

スカーさんがすかさず大聖堂にやってきて中にいたエネミーたちを捕縛する。そのままフギさんの移動魔法で収容所に送られる。

収容所はすごく広い施設だと前にフギさんが言っていたな。そこでは、エネミーになって重ねた罪を改めて内省する。そして、自分の正直な気持ちと向き合う場所なんだそうだ。そうやって少しずつ自分自身を振り返って前へ進む足がかりにする。それはとても厳しい世界だなって思う。そう、ヒトは常に前に向かっていけるわけじゃないから。後退したり遠回りしたり、またまた空回りしたり、それが当たり前なんだ。俺自身もそうであるように。エネミーだけじゃない。皆変わらない。罪を犯しても俺たちは償える。だから命を無駄に散らすのはやめて欲しい。

2・疲れ切った俺たちは街にあるホテルに戻ってきていた。みんなボロボロの雑巾みたいになっている。部屋のシャワーを借りて館内着を着たら、ようやく楽になった。ふかふかのベッドに潜り込む。ああ疲れた。

「ましろ、寝て起きたら出発する。スカーが言うにはお前の目指しているダンジョンが近いらしい。今度はダンジョンに俺も一緒に行くぞ」

「うん…」

俺はなんとかシャオに返事をして気絶するように眠りについていた。あぁ、また魔力を使い過ぎた。まだ反動が出るなぁ。早くレベルアップしたいよ。

***

気が付くと窓から西日が差している。良く眠ってしまった。お腹がめちゃくちゃ空いているし、喉も乾いている。

「ましろ、起きたか?」

シャオが隣のベッドに座って愛剣の手入れをしている。

「ごめん、寝すぎちゃった。時間大丈夫?」

「さすがに疲れてたんだろ。他の連中は更に南の拠点を目指した。俺たちはこのままお前の鍵を解除するダンジョンに向かう」

「うん。分かった」

そうだ、いよいよレベル上限が解放されるかもしれないんだ。やっとみんなと同じスタート地点に立てる。それがとにかく嬉しい。シャオがなにやら紙の包みを取り出して、俺に放った。受け取るとじんわりと温かい。

「肉まんじゅうだ。思いのほか美味い。テンゲがコンビニとかいう店で買ってきてくれた」

ほかほかしたそれはかなりボリュームがありそうだ。コンビニなんてワード、久しぶりに聞いたな。ヒト族の世界では定番だ。

「ありがとう。いただきます」

俺は肉まんじゅうを頬張った。じゅわりと肉汁が中から飛び出してくる。美味い。安定の美味さだ。

「美味しいよ、シャオ」

シャオももぐもぐそれを食べている。

「今度パルカスに作らせよう。気に入った」

シャオは好きなご飯だったら一生食べられるタイプのヒトらしい。一緒に旅をしてきたから分かったことだ。大きな肉まんじゅうを食べ終わって、ようやくお腹が落ち着く。美味しかった。お茶を淹れてシャオにカップを渡す。シャオはもう一つの肉まんじゅうに手を伸ばしている。なんで太らないの?

「ましろ、お前がいるだけで騎士団の士気が随分変わる。その礼だ」

シャオが俺に向かって指を振る。そうすると、俺の服が瞬時に変わった。
うさぎの耳はさすがについていなかったけれど、まるでバニーガールのような服だ。露出は低いからまだよかったけれど、ハーフパンツはしっかり受け継がれている。どうやら可愛いという理由かららしい。今回はモノトーンで決められている。それでシャオたちが満足するなら俺はいいかなって思う。俺のどこが可愛いのかは相変わらず謎だけど。

俺たちはしっかり旅の準備をしてホテルを後にした。いよいよダンジョンか。

2・俺たちはヒト族の住む街を出て、砂漠地帯を南西方向に向かっている。シャオが魔力で砂からラクダを作り出してくれた。ラクダが一歩進む度に、さらさらと砂がこぼれていくのが太ももに当たってくすぐったい。それにしても暑いな。そう思うと、エネミーの拠点はまだ過ごしやすかった。少なかったけどまだ草木も見られたし、井戸だって引かれていた。生物が暮らすなら、絶対に水は必須だ。

「ましろ、向こうから微弱だがダンジョンの魔力を感じる。急ぐぞ」

シャオがラクダの手綱を握る。俺も手綱を優しく握った。シャオの魔力で動いているこの子たちは、大人しい穏やかな性格だ。頭や耳を撫でると顔を擦り付けて甘えてくる。
可愛いけど砂漠でしか会えないのは寂しいな。
ふと向こうを見ると、誰かがダンジョンの前に立っている。
あれは。シャオがラクダたちを消す。俺たちは地面に立った。

「かける?」

他の皆もいるけれど様子がおかしかった。なんだか嫌な感じがする。かけるたちが俺たちの前に立ち塞がる。かけるが更に一歩、前に進み出た。何をするつもりなんだろう?

「魔王!今回の騒動は、全部貴様の自作自演なんだろう!!」

「あ?」

あ、シャオの不機嫌スイッチが入っちゃった。俺は慌てた。ここで二人がぶつかり合うとこの辺り一帯がただじゃ済まない。俺は慌てて二人の間に割って入った。一触即発ってこういう時に使うんだ、なんてやけに冷静な自分がいる。

「か、かける!何を言っているの?シャオは本当にエネミーを殲滅して…」

「ましろ、お前は、まだそんな寝ぼけたことを言っているのか?こいつらはお前を人質に取ってるんだぞ」

「え?」

かけるが何を言っているのかさっぱり分からない。
俺が人質?なんで?
かけるが剣先をシャオに向かって突き付けた。

「魔王よ、エルフ族は上手くたぶらかせたようだが、ヒト族はそうはいかない」

シャオは明らかに面倒そうだ。魔剣を構える気にもならないらしい。それでも隙を見せないのがさすがだ。
かけるがそんなシャオの態度に苛つき始めている。

「貴様、俺を舐めてるのか?」

「てめえと話してもなんにもならねえ。そもそも、俺がエネミーを煽動してなんの得がある?」

「世界を蹂躙する為だろう!」

シャオは大きくため息をついた。

「俺は日々穏やかに暮らせりゃなんでもいいと思っている。こんな可愛い嫁さんも出来たしな」

そう言ってシャオは俺の肩を抱き寄せた。

「く…。お前たち、引き上げるぞ。エリザ様に報告だ」

「おい」

シャオがかけるたちに声を掛ける。彼らは振り返った。

「エリザの動き、よく見ておいた方がいいぞ。こうゆうのをヒト族は灯台もと暗しって言うんだったか?」

かけるたちは何も言わずに立ち去っていった。俺はただ事の成り行きを見守ることしかできなかった。弱いってこうゆうことだ。見ていることしかできない。そんなの悔しいじゃないか。俺はシャオを見上げた。

「シャオ、ごめんね。かけるたちは何か勘違いしてるんだ。エリザ様のことだって…多分…」

「ましろは何も悪くない。とりあえずキスさせろ」

シャオに急に抱き締められたかと思ったらキスされている。

「ん…ン」

頭がボーッとしてきた。そうだ、ダンジョンに行かないと。
でもシャオが離してくれない。
シャオは俺を味わうようにキスしてきた。気持ちいい。

「ましろは美味いな」

シャオがペロリと舌舐りをする。

「…っ、ヒトを食べ物みたいに言わないでよ」

「仕方ないだろ、美味いんだから」

むすう、とシャオが膨れている。
はいはい、幼女シャオちゃんですね。このヒト、時々すごく可愛いのなんなんだろう?見た目はオラオラ俺様タイプなのに。

「ほら、ダンジョン行こ!
皆に早く追い付かなくちゃ」

「えー、もっとましろと二人でいちゃいちゃしてたい」

シャオの言葉に俺はドキッとした。俺だってそう思ってない訳じゃないからだ。シャオといると、すごく楽しくて、好きだなっていう優しい気持ちで心が満たされる。幸せって感情がこんなに心の中に溢れるんだって初めて知った。

「シャオ、俺もシャオが大好きだよ」

シャオが目を瞪る。

「本当か?」

シャオが探るように聞いてきた。
俺は笑った。ようやくシャオに、ちゃんと好きだって言えた。そんな安堵感が膨らむ。俺はシャオが好きなんだ。俺は深呼吸した。

「シャオ、ダンジョンに行く前に君に話しておくね」

***

「声が聞こえる?」

俺の説明にシャオが首を傾げている。

「うん。誰なのかは分からないけど、たまに俺に話しかけてくるんだ。その子は俺の鍵だって言っていた」

シャオが考えている。

「ダンジョンに入る前に聞いておいてよかった。
スカーの調べによれば、このダンジョンはかなり複雑な仕組みで出来ているらしいからな。
前回のヤナの時も謎解きを求められたんだろう?」

「うん」

「とりあえず、行ってみるか。その鍵、とやらも中にいるんだろうよ」

シャオが歩き出す。俺はその後を追った。ダンジョンの謎か。前回のように、うまく解けるといいけれど。そして、鍵だというあの子に会えるのかな。あの子は言った。俺が何者なのか知りたいかと。俺はヒト族のましろだ。それは違うってあの子は言いたいのか?怖いけど、今は前に進むしかない。
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