13 / 38
十三章
しおりを挟む
1・あれから俺たちは無事に魔界にある城に帰ってきている。ここしばらく、エネミーについての世界会議やらなんやらで、俺たちはとにかくバタバタしていた。エネミーを先導していたのがヒト族であるエリザ様だったという事実に、世界中が大騒ぎになった。そりゃあそうだよな。挙げ句の果てには、第三者機関によるエネミー対策班という組織が立ち上げられて、エリザ様の屋敷や、その周辺が捜索されたらしい。そこから、色々な物的証拠が出てきたようだ。シャオはエネミーとして活動していた魔族に関して、改めて謝罪をした。その姿には沢山の反応があった。ほとんどが称賛であり、残りのほとんどはこちらも悪かったというものだった。シャオがそれにホッとしていたのは言うまでもない。
「チョコレート♪チョコレート♪」
シャオがご機嫌に歌いながらチョコレートを食べる分だけ割っている。こういうとこ、本当に幼女。あまりに可愛くて、俺が色々堪えていると、シャオがぎゅるっと振り返った。怖い。
「ましろもチョコレート欲しいか?」
「それはシャオの分でしょ」
俺がそう言うと、むううと膨れた。可愛いな、本当に。そう思ってシャオを見ているとチョコレートを差し出してくる。
「ましろにならやる!お前は特別だからな!」
「ありがと。じゃあ一口もらうね」
「!!」
シャオの緑色の瞳がキラキラしている。喜んでくれているようだな。もらったチョコレートも美味しいし。一口っていうサイズじゃない。
「姫ー、ちょっと見てもらいたいものが…」
睡蓮がなにかの書類の束を持って現れた。なんだろう?シャオの新しいお仕事かな?でも俺に見てもらいたいって言ってるし、なんだ?
「王、また甘いものを食べてるんですか?」
「だって美味いからな!お前にもやろう」
シャオが睡蓮にもチョコレートを渡している。
「ありがとうございます。休憩もいいですが、なるべく早くお仕事してくださいね。そうじゃないと日が暮れるまでに終わりませんよ。締め切りもありますし」
「睡蓮が厳しい」
シャオがしょぼーんとしながら書類に向き合い始める。シャオが集中し始めたのを確認して、睡蓮が俺に手招きをした。どうやら場所を変えるようだな。その方がシャオの邪魔にならないし、睡蓮の持ってきたものも気になる。俺は睡蓮に付いて部屋を出た。廊下を歩きながら、睡蓮が言う。
「あのね、式に着る姫のタキシードのデザインなんだけど」
「ん?」
「あれ?もしかして聞いてなかった?」
「うん」
「王ってばすっかり忘れちゃってるし。俺に任せておけって言ったじゃん」
はあああと睡蓮がため息をついている。シャオの「任せておけ」のどや顔が容易に想像できるな。さすが幼女。本日も可愛らしい。
「ま、いいや。とにかく来月に姫と王の結婚式があるの」
「はあ」
結婚式って言うとなんだか大事になって来た気がする。
俺、本当にシャオの番になるんだ。
嬉しいな。でもちょっと不安でドキドキするのはマリッジブルーってやつなのかな?俺って意外と繊細なのか?ヒト族はこうゆう時、専用の雑誌を買って結婚の準備をする。俺も買いに行った方がいいのかな。
睡蓮に連れてこられたのは城の廊下にある休憩スペースだった。ゆったりしたソファに二人で腰かける。そこでタキシードのデザインを睡蓮が何パターンか見せてくれた。さっき持っていた書類ってこれか。タキシードとはいっても全て可愛らしい雰囲気だ。ちょっとドレスっぽい感じかな。ピンク色が基調なのもまた可愛い。
「ねえ、ずっと思っていたんだけど、俺ってこういうイメージなの?」
「え?姫、気が付いてなかったの?そんなに可愛いのに?」
「や…えーと」
そう言われても困るな。俺って可愛いか?体は小さい方だけど。
「とりあえず、姫はどれがいい?全部可愛いから全部作って式の間いっぱいお色直しする?」
睡蓮、めちゃくちゃ楽しそう。俺はその中から、一番無難そうなデザインを選んだのだった。お色直しなんてしてられるか。
「シャオはどんなの着るの?」
一応尋ねたら睡蓮が楽しそうに笑う。
「カッコいいのは保証するよ。王は、素材だけはいいからね」
シャオ、部下にめちゃくちゃ言われてるよ。確かに睡蓮の気持ちも分からないことないけれど…。今頃、くしゃみしてるかもしれないな。
「来月の式、楽しみにしていて!僕、これからタキシードの件、連絡してくるー!」
俺を残して、睡蓮は風のように走っていってしまった。睡蓮も忙しいんだよな。今回のエネミーの件でもかなり頑張ってくれた。なにかお礼が出来たらいいのにな。
「おや、ましろ姫。ちょうどよかった。あなたにお願いしたいことがありまして」
「あ、フギさん、なんでしょうか?」
フギさんはくい、と眼鏡を指で押し上げる。まさにインテリっていう感じがカッコいいよね。ルシファー騎士団の中でも特にファンが多いしな。とにかく今回のことでルシファー騎士団のグッズがバカ売れらしい。魔界大繁盛。
フギさんが言う。
「エネミーの収容所のことです」
「あ、それは俺も気になっていました」
「姫に施設の視察に行っていただきたいのです。スカーが同行します。行っていただいて、構わないでしょうか?」
「わ、それ、俺が行って大丈夫なんですか?」
フギさんは笑った。
「下手に口の悪い王が行くより数億倍はいいかと」
シャオ、また部下にめちゃくちゃ言われてるよー。でもエネミーだった人たちのことは心配だし、俺でいいなら行ってみようかな。
「分かりました。いつ出発ですか?」
「はい。明朝です。今回は車を用意したので、ご安心を」
スカーさんの背中じゃなくてってことかな。俺は頷いた。
「俺、すぐ準備してきます」
「姫、あなたがここに来てくれて本当によかった」
フギさんにそう言ってもらえるなんて。ちょっと目頭が熱くなってしまった。フギさんが笑う。
「姫、これを渡しておきましょう。あなたはもう、王族なのですから」
フギさんが渡してくれたのはもはや定番になってきたセットアップだった。春らしい淡い水色のロングシャツと白のパンツ。うん、可愛い。俺のイメージがこれならもうこれでいこう。
俺はフギさんに頭を下げて部屋に戻った。
2・「やだやだあ」
次の日の朝、シャオがぐずっている。俺がエネミーの収容所に行くことを告げたら急にぐずりだした。
どうしたんだろう?幼女シャオちゃんにはちゃんと理由がある。
「シャオ?どうして嫌なの?口があるんだからちゃんと理由が言えるよね?」
そう諭したらシャオがうつむく。
「ましろがいないと仕事が楽しくない」
そう呟かれて俺はたまらなくなった。本当に可愛いな。
シャオを抱きしめる。
「可愛いシャオ、大丈夫だよ。俺は夕方には帰って来るし、シャオには睡蓮がいてくれるでしょ」
「ああ」
シャオも渋々といった様子で俺から離れた。
「じゃ、行ってきます。シャオ、お仕事頑張ろうね」
シャオが泣きそうな顔でひらひら手を振って来た。ちょっと心配だけど、頑張ってもらおう。
俺はスカーさんと一緒に車に乗ってエネミーの収容所を目指したのだった。
***
エネミーの収容所。そこは本当に広い場所にあった。フギさんの説明によれば魔族の人口の減少が影響しているらしい。
空き家を持ち主から許可を得て、取り壊したり、区画整理をしていたらぽかっと土地が空いてしまったと言っていた。フギさんは区画整理、得意そうだな。
それでも最近になって、他に空いた土地をリゾート地にするという楽しそうな案も出ているらしい。魔界は寒い、つまりその寒さを生かす遊びを探そうというものだ。雪も多いから子供たちも喜びそうだしな。他にも、新しく別荘を建てるという案もある。フギさんもこれからますます忙しくなりそうだな。
「姫、拙者から離れぬように」
スカーさんの声に俺はドキッとした。まるで敵の本拠地にいくみたいじゃないか。車を降りて、中に入ると、病院みたいな雰囲気だった。どうもこういう冷たく感じる場所は得意じゃないなぁ。
「姫様、スカー様、わざわざお越しくださり、誠にありがとうございます。どうぞこちらへ」
細身の白衣を着た男性が中を案内してくれた。中に入ると、簡単な作業をしたり、ボードゲームで遊んだり、器具で運動をしているヒトたちがいる。こんなに色々やることがあるのか。
「もっと厳しい施設なのかと思っていました」
俺の素直な感想に、案内してくれた男性が笑った。彼はどうやらここの施設長さんで、ノボルさんというらしい。思っていたより偉いヒトだった。
「エネミーはほぼ洗脳に近い形で立ち上げられた組織だと最近の聞き取りで分かってきていまして」
「洗脳?」
ノボルさんの言葉に俺は驚いた。
彼が頷く。
「当初はこの施設も厳罰という形で中で自由に出来ないように封鎖されていたんです。
でも何度もここのメンバーさんから事情を聞いているうちに、それは違うんじゃないかって」
俺は怖くなったけど、確認のために聞くことにした。
「あの…洗脳ってどういう?」
ノボルさんが悲しげな顔で説明してくれた。エネミーに入った人は、ほとんどが低所得者で、明日暮らせるかも分からない状態のヒトが多かったらしい。また、低所得でなくても、現実世界に不満を抱いていたり、孤独を感じていたヒトが多かったようだ。
エネミーはその心の闇を上手く引き付けたのだとノボルさんが説明してくれた。もしかしたら俺自身がエネミーになっていた可能性がある。ここにいるヒトが特別なんじゃない。誰もがエネミーになり得たのだから。
「これからメンバーさんとディスカッションを行います。姫様たちも是非見学していってください」
「はい、そうさせてもらいます」
***
「姫、どうでしたか?」
俺たちは再び車に乗っている。スカーさんが心配そうに声を掛けてくれた。俺はどう答えたものか困った。ディスカッションの内容はなかなかに衝撃的なものだった。
特に印象に残っているのは、子供たちのディスカッションだった。俺は思わずため息をついてしまった。いや、これじゃ答えになってない。
「ごめんね。上手く答えられなくて」
スカーさんが首を横に振る。元から口数の少ないヒトだ。それだけで俺は随分救われた。
「今日のこと、まとめてフギさんに報告するね。俺、しばらくあそこに通おうと思う」
「姫…しかし…」
スカーさんが心配してくれて嬉しい。俺は彼に笑い掛けた。
「俺は俺の出来ること、なんでもやりたい」
「…姫がそう言うのであれば」
城に帰ると、シャオはおやつタイムでご機嫌だった。
今日はシュークリームだ。
「ましろ!お帰り」
「ただいま。シャオ、お仕事はどう?」
シャオがどや顔をする。お、終わったのかな?
「夜には終わる予定だ」
シャオはやっぱりシャオだった。
3・その日の夜、俺もシャオと同じ部屋で、今日視察してきた収容所の様子の記録をまとめていた。なるべく客観的な記録になるよう気を付けたつもりだ。バイアスが…って結局なるんだけどね。
「この国には、福祉制度が全然足りてなかったよな」
シャオがぽつっと呟いた。さっき、簡単にフギさんに今日の施設の様子を報告したのを聞いていたんだろう。シャオ、落ち込んでるのかな?
「俺は浮かれてた」
「シャオだけのせいじゃないよ。
どこの国も同じような課題を抱えてる」
「ましろ…俺はこの国をいい方に変えるぞ。一緒についてきてくれるか?」
「うん、もちろんだよ」
シャオとなら地獄だって行く。俺はそう決めている。番になるって決めたから。その覚悟を決めたんだ。
「ね、シャオ。君も収容所の視察に行くでしょ?」
「あぁ、そのつもりだけどスケジュール見たら随分先になってた。なんかあるのか?」
「まだみんなが落ち着かないみたいで」
俺は今日の収容所のヒトたちの様子をシャオに話した。俺とスカーさんが来たことで、慌てたり動揺するヒトが何人かいたのだ。
そんなところに魔王が来たら大混乱になるかもしれない。
「俺ってそんなに怖いのか?」
シャオがしょぼんとする。俺は首を横に振った。
「違うよ。シャオが優しいお兄さんなのはすぐ分かると思う。でもまだ収容所の環境がしっかり整ってないんだ」
「なるほどな」
シャオ、分かってくれたかな?シャオがふふんと不敵に笑う。
「俺は明日から、魔界の福祉制度の見直しをするつもりだ。議員のジジイどもの重い腰を粉砕してやる」
大丈夫かなー?それー?魔界揺らがないー?
フギさんなら上手にまとめてくれそうだけど、シャオの暴走が心配だなー。うわあ、聞くんじゃなかった。睡蓮とフギさんによくお願いしておこ。通信魔法でシャオにばれないように、静かに言伝てを送る。とりあえず明日も俺は収容所の視察だ。なにか俺が出来ることがあるといいんだけど。
「ましろ、仕事終わった!」
「はいはい、えらいえらい」
シャオが膨れる。どうやら魔王様はそれだけじゃ満足されなかったようで。
「ましろ、好きだ」
そっと抱き締められたから、俺もシャオをぎゅっと抱き締めた。
「俺もシャオが好きだよ」
「しばらく視察、頼むな」
「うん」
俺の旦那様、最強にかっこいいよね。
「チョコレート♪チョコレート♪」
シャオがご機嫌に歌いながらチョコレートを食べる分だけ割っている。こういうとこ、本当に幼女。あまりに可愛くて、俺が色々堪えていると、シャオがぎゅるっと振り返った。怖い。
「ましろもチョコレート欲しいか?」
「それはシャオの分でしょ」
俺がそう言うと、むううと膨れた。可愛いな、本当に。そう思ってシャオを見ているとチョコレートを差し出してくる。
「ましろにならやる!お前は特別だからな!」
「ありがと。じゃあ一口もらうね」
「!!」
シャオの緑色の瞳がキラキラしている。喜んでくれているようだな。もらったチョコレートも美味しいし。一口っていうサイズじゃない。
「姫ー、ちょっと見てもらいたいものが…」
睡蓮がなにかの書類の束を持って現れた。なんだろう?シャオの新しいお仕事かな?でも俺に見てもらいたいって言ってるし、なんだ?
「王、また甘いものを食べてるんですか?」
「だって美味いからな!お前にもやろう」
シャオが睡蓮にもチョコレートを渡している。
「ありがとうございます。休憩もいいですが、なるべく早くお仕事してくださいね。そうじゃないと日が暮れるまでに終わりませんよ。締め切りもありますし」
「睡蓮が厳しい」
シャオがしょぼーんとしながら書類に向き合い始める。シャオが集中し始めたのを確認して、睡蓮が俺に手招きをした。どうやら場所を変えるようだな。その方がシャオの邪魔にならないし、睡蓮の持ってきたものも気になる。俺は睡蓮に付いて部屋を出た。廊下を歩きながら、睡蓮が言う。
「あのね、式に着る姫のタキシードのデザインなんだけど」
「ん?」
「あれ?もしかして聞いてなかった?」
「うん」
「王ってばすっかり忘れちゃってるし。俺に任せておけって言ったじゃん」
はあああと睡蓮がため息をついている。シャオの「任せておけ」のどや顔が容易に想像できるな。さすが幼女。本日も可愛らしい。
「ま、いいや。とにかく来月に姫と王の結婚式があるの」
「はあ」
結婚式って言うとなんだか大事になって来た気がする。
俺、本当にシャオの番になるんだ。
嬉しいな。でもちょっと不安でドキドキするのはマリッジブルーってやつなのかな?俺って意外と繊細なのか?ヒト族はこうゆう時、専用の雑誌を買って結婚の準備をする。俺も買いに行った方がいいのかな。
睡蓮に連れてこられたのは城の廊下にある休憩スペースだった。ゆったりしたソファに二人で腰かける。そこでタキシードのデザインを睡蓮が何パターンか見せてくれた。さっき持っていた書類ってこれか。タキシードとはいっても全て可愛らしい雰囲気だ。ちょっとドレスっぽい感じかな。ピンク色が基調なのもまた可愛い。
「ねえ、ずっと思っていたんだけど、俺ってこういうイメージなの?」
「え?姫、気が付いてなかったの?そんなに可愛いのに?」
「や…えーと」
そう言われても困るな。俺って可愛いか?体は小さい方だけど。
「とりあえず、姫はどれがいい?全部可愛いから全部作って式の間いっぱいお色直しする?」
睡蓮、めちゃくちゃ楽しそう。俺はその中から、一番無難そうなデザインを選んだのだった。お色直しなんてしてられるか。
「シャオはどんなの着るの?」
一応尋ねたら睡蓮が楽しそうに笑う。
「カッコいいのは保証するよ。王は、素材だけはいいからね」
シャオ、部下にめちゃくちゃ言われてるよ。確かに睡蓮の気持ちも分からないことないけれど…。今頃、くしゃみしてるかもしれないな。
「来月の式、楽しみにしていて!僕、これからタキシードの件、連絡してくるー!」
俺を残して、睡蓮は風のように走っていってしまった。睡蓮も忙しいんだよな。今回のエネミーの件でもかなり頑張ってくれた。なにかお礼が出来たらいいのにな。
「おや、ましろ姫。ちょうどよかった。あなたにお願いしたいことがありまして」
「あ、フギさん、なんでしょうか?」
フギさんはくい、と眼鏡を指で押し上げる。まさにインテリっていう感じがカッコいいよね。ルシファー騎士団の中でも特にファンが多いしな。とにかく今回のことでルシファー騎士団のグッズがバカ売れらしい。魔界大繁盛。
フギさんが言う。
「エネミーの収容所のことです」
「あ、それは俺も気になっていました」
「姫に施設の視察に行っていただきたいのです。スカーが同行します。行っていただいて、構わないでしょうか?」
「わ、それ、俺が行って大丈夫なんですか?」
フギさんは笑った。
「下手に口の悪い王が行くより数億倍はいいかと」
シャオ、また部下にめちゃくちゃ言われてるよー。でもエネミーだった人たちのことは心配だし、俺でいいなら行ってみようかな。
「分かりました。いつ出発ですか?」
「はい。明朝です。今回は車を用意したので、ご安心を」
スカーさんの背中じゃなくてってことかな。俺は頷いた。
「俺、すぐ準備してきます」
「姫、あなたがここに来てくれて本当によかった」
フギさんにそう言ってもらえるなんて。ちょっと目頭が熱くなってしまった。フギさんが笑う。
「姫、これを渡しておきましょう。あなたはもう、王族なのですから」
フギさんが渡してくれたのはもはや定番になってきたセットアップだった。春らしい淡い水色のロングシャツと白のパンツ。うん、可愛い。俺のイメージがこれならもうこれでいこう。
俺はフギさんに頭を下げて部屋に戻った。
2・「やだやだあ」
次の日の朝、シャオがぐずっている。俺がエネミーの収容所に行くことを告げたら急にぐずりだした。
どうしたんだろう?幼女シャオちゃんにはちゃんと理由がある。
「シャオ?どうして嫌なの?口があるんだからちゃんと理由が言えるよね?」
そう諭したらシャオがうつむく。
「ましろがいないと仕事が楽しくない」
そう呟かれて俺はたまらなくなった。本当に可愛いな。
シャオを抱きしめる。
「可愛いシャオ、大丈夫だよ。俺は夕方には帰って来るし、シャオには睡蓮がいてくれるでしょ」
「ああ」
シャオも渋々といった様子で俺から離れた。
「じゃ、行ってきます。シャオ、お仕事頑張ろうね」
シャオが泣きそうな顔でひらひら手を振って来た。ちょっと心配だけど、頑張ってもらおう。
俺はスカーさんと一緒に車に乗ってエネミーの収容所を目指したのだった。
***
エネミーの収容所。そこは本当に広い場所にあった。フギさんの説明によれば魔族の人口の減少が影響しているらしい。
空き家を持ち主から許可を得て、取り壊したり、区画整理をしていたらぽかっと土地が空いてしまったと言っていた。フギさんは区画整理、得意そうだな。
それでも最近になって、他に空いた土地をリゾート地にするという楽しそうな案も出ているらしい。魔界は寒い、つまりその寒さを生かす遊びを探そうというものだ。雪も多いから子供たちも喜びそうだしな。他にも、新しく別荘を建てるという案もある。フギさんもこれからますます忙しくなりそうだな。
「姫、拙者から離れぬように」
スカーさんの声に俺はドキッとした。まるで敵の本拠地にいくみたいじゃないか。車を降りて、中に入ると、病院みたいな雰囲気だった。どうもこういう冷たく感じる場所は得意じゃないなぁ。
「姫様、スカー様、わざわざお越しくださり、誠にありがとうございます。どうぞこちらへ」
細身の白衣を着た男性が中を案内してくれた。中に入ると、簡単な作業をしたり、ボードゲームで遊んだり、器具で運動をしているヒトたちがいる。こんなに色々やることがあるのか。
「もっと厳しい施設なのかと思っていました」
俺の素直な感想に、案内してくれた男性が笑った。彼はどうやらここの施設長さんで、ノボルさんというらしい。思っていたより偉いヒトだった。
「エネミーはほぼ洗脳に近い形で立ち上げられた組織だと最近の聞き取りで分かってきていまして」
「洗脳?」
ノボルさんの言葉に俺は驚いた。
彼が頷く。
「当初はこの施設も厳罰という形で中で自由に出来ないように封鎖されていたんです。
でも何度もここのメンバーさんから事情を聞いているうちに、それは違うんじゃないかって」
俺は怖くなったけど、確認のために聞くことにした。
「あの…洗脳ってどういう?」
ノボルさんが悲しげな顔で説明してくれた。エネミーに入った人は、ほとんどが低所得者で、明日暮らせるかも分からない状態のヒトが多かったらしい。また、低所得でなくても、現実世界に不満を抱いていたり、孤独を感じていたヒトが多かったようだ。
エネミーはその心の闇を上手く引き付けたのだとノボルさんが説明してくれた。もしかしたら俺自身がエネミーになっていた可能性がある。ここにいるヒトが特別なんじゃない。誰もがエネミーになり得たのだから。
「これからメンバーさんとディスカッションを行います。姫様たちも是非見学していってください」
「はい、そうさせてもらいます」
***
「姫、どうでしたか?」
俺たちは再び車に乗っている。スカーさんが心配そうに声を掛けてくれた。俺はどう答えたものか困った。ディスカッションの内容はなかなかに衝撃的なものだった。
特に印象に残っているのは、子供たちのディスカッションだった。俺は思わずため息をついてしまった。いや、これじゃ答えになってない。
「ごめんね。上手く答えられなくて」
スカーさんが首を横に振る。元から口数の少ないヒトだ。それだけで俺は随分救われた。
「今日のこと、まとめてフギさんに報告するね。俺、しばらくあそこに通おうと思う」
「姫…しかし…」
スカーさんが心配してくれて嬉しい。俺は彼に笑い掛けた。
「俺は俺の出来ること、なんでもやりたい」
「…姫がそう言うのであれば」
城に帰ると、シャオはおやつタイムでご機嫌だった。
今日はシュークリームだ。
「ましろ!お帰り」
「ただいま。シャオ、お仕事はどう?」
シャオがどや顔をする。お、終わったのかな?
「夜には終わる予定だ」
シャオはやっぱりシャオだった。
3・その日の夜、俺もシャオと同じ部屋で、今日視察してきた収容所の様子の記録をまとめていた。なるべく客観的な記録になるよう気を付けたつもりだ。バイアスが…って結局なるんだけどね。
「この国には、福祉制度が全然足りてなかったよな」
シャオがぽつっと呟いた。さっき、簡単にフギさんに今日の施設の様子を報告したのを聞いていたんだろう。シャオ、落ち込んでるのかな?
「俺は浮かれてた」
「シャオだけのせいじゃないよ。
どこの国も同じような課題を抱えてる」
「ましろ…俺はこの国をいい方に変えるぞ。一緒についてきてくれるか?」
「うん、もちろんだよ」
シャオとなら地獄だって行く。俺はそう決めている。番になるって決めたから。その覚悟を決めたんだ。
「ね、シャオ。君も収容所の視察に行くでしょ?」
「あぁ、そのつもりだけどスケジュール見たら随分先になってた。なんかあるのか?」
「まだみんなが落ち着かないみたいで」
俺は今日の収容所のヒトたちの様子をシャオに話した。俺とスカーさんが来たことで、慌てたり動揺するヒトが何人かいたのだ。
そんなところに魔王が来たら大混乱になるかもしれない。
「俺ってそんなに怖いのか?」
シャオがしょぼんとする。俺は首を横に振った。
「違うよ。シャオが優しいお兄さんなのはすぐ分かると思う。でもまだ収容所の環境がしっかり整ってないんだ」
「なるほどな」
シャオ、分かってくれたかな?シャオがふふんと不敵に笑う。
「俺は明日から、魔界の福祉制度の見直しをするつもりだ。議員のジジイどもの重い腰を粉砕してやる」
大丈夫かなー?それー?魔界揺らがないー?
フギさんなら上手にまとめてくれそうだけど、シャオの暴走が心配だなー。うわあ、聞くんじゃなかった。睡蓮とフギさんによくお願いしておこ。通信魔法でシャオにばれないように、静かに言伝てを送る。とりあえず明日も俺は収容所の視察だ。なにか俺が出来ることがあるといいんだけど。
「ましろ、仕事終わった!」
「はいはい、えらいえらい」
シャオが膨れる。どうやら魔王様はそれだけじゃ満足されなかったようで。
「ましろ、好きだ」
そっと抱き締められたから、俺もシャオをぎゅっと抱き締めた。
「俺もシャオが好きだよ」
「しばらく視察、頼むな」
「うん」
俺の旦那様、最強にかっこいいよね。
91
あなたにおすすめの小説
【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった
ゆう
BL
俺ウェスは幼少期に魔王様に拾われた下級悪魔だ。
生まれてすぐ人との戦いに巻き込まれ、死を待つばかりだった自分を魔王様ーーディニス様が助けてくれた。
本当なら魔王様と話すことも叶わなかった卑しい俺を、ディニス様はとても可愛がってくれた。
だがそんなディニス様も俺が成長するにつれて距離を取り冷たくなっていく。自分の醜悪な見た目が原因か、あるいは知能の低さゆえか…
どうにかしてディニス様の愛情を取り戻そうとするが上手くいかず、周りの魔族たちからも蔑まれる日々。
大好きなディニス様に冷たくされることが耐えきれず、せめて最後にもう一度微笑みかけてほしい…そう思った俺は彼のために勇者一行に挑むが…
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
【完結】双子の兄が主人公で、困る
* ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……!
本編、両親にごあいさつ編、完結しました!
おまけのお話を、時々更新しています。
本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる