2 / 12
第一章 初めての北海道
初めての青函連絡船
しおりを挟む
翌朝私たちは青森に向かった。青函連絡船で函館に渡るためだ。乗船の手続きを済ませて順番を待った。さすがに大きい!何台の車が船倉に飲み込まれたいったことか。
ようやく船が青森港を離れた。両側には遠く陸地が見えている。津軽半島と下北半島であろう。始めのうちは、珍しかったので二人で様々に移り変わる景色を眺めていたが、津軽海峡に出るとただ青い海だけが続いたため、飽きてしまって客室に戻った。そこでも特にやることもないので、二人で肩を寄せ合ってしばらく眠った。そのうち誰かが「北海道だ!」と叫ぶのが聞こえた。私たちもデッキに出た。すると遠くにこんもりとした山が見えた。あれが函館山なのか。「紫野、あれが函館山だよ。」というと「函館に山があるんですか?」と聞く。
少し年齢のいった大人であれば、函館山と聴けばすぐに「夜景」を思い浮かべるものだが、まだ若い紫野では無理からぬこと。「北海道の玄関といっていいかな!」津軽海峡を渡って来る人々をあの山が最初に出迎えてくれるんだよ。」「そんなに高い山ではないんですね!」「そう、標高は334mで東京タワーのてっぺんより1m高いだけの山だよ。」
この日の夜、生まれて初めてといえるほどの感動を、この函館山で味わうことを、この時の紫野は知らない。
「これでも立派な成層火山らしいよ。それに日本が戦争をしていた頃はこの山は砲台などの軍事施設がたくさん作られていて、秘密にするために地図から消えていた時もあるんだって。」「へー、先生あの山に登れますか?」「もちろん、今夜行く予定だよ。」「今夜?心霊スポットもあるんですか?怖いです。」「私はお化けは嫌いだ。しかも歩いて登るのも嫌だ。」「先生、年だからね!」「じゃあ、紫野だけ歩いて登りな。私はロープウェイで登って待ってるから。」「先生、ずるい!私もロープウェイで行きます!」
こんな会話をしているうちに函館山がすぐ目の前に見えるようになり、船は函館港に近づいた。下船の準備を促すアナウンスが流れ、私たちも車に戻って船が港に着くのを待った。
船が着くと次々と車がフェリーから吐き出されていった。「先生、これからどこに行くんですか?」と紫野が聞いてきた。」「函館といえば何?」と聞き返すと「函館山?」と答えた。「残念!五稜郭でした。」「五稜郭?」ここでも説明が必要なようだ。まあ、教えることを仕事にしていた私には、返ってその方が嬉しい。
「五稜郭はね、こんな形をしたお城なんだよ。江戸幕府が蝦夷地を治めるためにここに函館奉行を置いた。そしてペリーに開港を迫られて、日本は下田と函館を開港した。その時の対応を函館奉行がしていたんだ。当時は貿易ということはせず、アメリカの船が不足した物資だけを買い付けるというだけだったらしいよ。」
「それだけのためにペリーは日本に来たんですか?」「アメリカの当初の目的ははるばる太平洋を渡ってくると船員の食料も水も枯渇してしまうので、必要物資の補給地が欲しかったんだよ。」「日本に興味は無かったの?」「無くはなかったと思うけど、当時のアメリカは近代国家に成長していたがらちょんまげを頭に載せた人類に余り期待しなかったのかな。でも、函館からは昆布などはたくさん輸出されていたようだよ。」「昆布?」「そう、北海道の昆布は質が良くて有名でしょ。」「利尻昆布?」「そう良く知ってるじゃない!」「お母さんが使ってました。」
車を五稜郭の駐車場に入れて中を見学しようと車から降りると、ここが北海道なのかと疑うくらいの暑さ。これで歩き回るのはどうかと思ったが、二度と来れないかも知れないので中に入ることにした。五稜郭の中はかなり広く涼しい季節にはいいかも知れないが、この季節は最悪だった。
しかも、見たかった函館奉行所は見学ができず、入った意味がなかった。
結局、外に出て五稜郭タワーに登って高いところから五稜郭を見ることにした。高い所が嫌いな紫野はかなり抵抗したが、ここは譲らなかった。
タワーの上から五稜郭を見て「先生、かなり大きいですね。あれを全部歩いていたら熱中症で倒れていましたね。」と紫野が言ったので本当に暑いことを改めて知った。
五稜郭を出ていよいよ函館山に向かった。ロープウェイには乗らず、車で御殿山の展望台まで上がってくびれた函館市内の全貌を見ることができた。紫野が「先生、函館って何であんなにくびれているんですか?」と聞いた。さすがいいところに気づく子だと思った。「いいところに目をつけたね!あれだけきれいにくびれる土地は限られた条件のもとでないとできないよね!」「特別な条件ですか?」「そだね」「うーん何だろう?」「ヒント!」「以前京都の宮津に寄ったことがあったよね。あの時二人で松林を歩いたの覚えてる?」「松林ですか?」・・・「はい、思い出しました。あの日もとても暑かったのを良く覚えています。」「そのあとリフトに乗って高いところから、歩いてきたところを見たよね?」「はい、しかも頭を下げて足の間から見ました。私はあの時死ぬかと思いました。」「そうだったね、あれ『又覗き』って言ったね。あの時に見た地形に似てない?」「こっちの方が太いけど、似てるといえば似てる気がします。」「そう、これも砂州なんだよ。函館山は、実は海底火山だったんだ。それが噴火を繰り返すうちに海面から頭を出して島どなった。陸に近い島だったので、波の働きで島と陸地の間に砂が集まって地続きになった訳。」「つまり函館は砂州の上にできた街なんですね!」「そういうことさ」ということであまりに暑いので、宿に戻って涼むことにした。午後6時に早々と夕食を済ませて、紫野を再び外に誘った。「先生、どこに行くんですか?」「まあ、任せてよ。」「もちろんいいですけど、ちょっと知りたいと思ったから。」
車は坂道を登り始めた。「あ、もしかして函館山ですか?」「正解!」昼間来た場所に再びやって来た。しかし、目の前に広がる光景はまるで別物。「先生、綺麗!」昼に見たときよりも、くびれかはっきりとわかります。函館に来てこの夜景を見ないなんてあり得ない。」
紫野が怖さを忘れて函館の夜景に見入っていた。
「先生、ところでくびれの左側ではたくさんの船が行ったり来たりしてるけど、右側には明るい電気を点けた船がたくさん止まっているんだけど、あれなんですか?」「あれは、漁り火っていうやつだね!」「漁り火?」「きっとイカを釣っているんだと思う。海面で明るい光を灯すと、それにたくさんのイカが集まって来るらしい。それを利用してイカを採るみたいだよ。」
「初めて見ました。凄く明るいランプを点けるんですね!」「そうだね、きっと海の深いところまで届くようにあえて明るくしてるんだろうね。」昼はあんなに暑かったのに、この時間になると風が冷たく感じてきたので、私たちも宿に戻って休むことにした。
ようやく船が青森港を離れた。両側には遠く陸地が見えている。津軽半島と下北半島であろう。始めのうちは、珍しかったので二人で様々に移り変わる景色を眺めていたが、津軽海峡に出るとただ青い海だけが続いたため、飽きてしまって客室に戻った。そこでも特にやることもないので、二人で肩を寄せ合ってしばらく眠った。そのうち誰かが「北海道だ!」と叫ぶのが聞こえた。私たちもデッキに出た。すると遠くにこんもりとした山が見えた。あれが函館山なのか。「紫野、あれが函館山だよ。」というと「函館に山があるんですか?」と聞く。
少し年齢のいった大人であれば、函館山と聴けばすぐに「夜景」を思い浮かべるものだが、まだ若い紫野では無理からぬこと。「北海道の玄関といっていいかな!」津軽海峡を渡って来る人々をあの山が最初に出迎えてくれるんだよ。」「そんなに高い山ではないんですね!」「そう、標高は334mで東京タワーのてっぺんより1m高いだけの山だよ。」
この日の夜、生まれて初めてといえるほどの感動を、この函館山で味わうことを、この時の紫野は知らない。
「これでも立派な成層火山らしいよ。それに日本が戦争をしていた頃はこの山は砲台などの軍事施設がたくさん作られていて、秘密にするために地図から消えていた時もあるんだって。」「へー、先生あの山に登れますか?」「もちろん、今夜行く予定だよ。」「今夜?心霊スポットもあるんですか?怖いです。」「私はお化けは嫌いだ。しかも歩いて登るのも嫌だ。」「先生、年だからね!」「じゃあ、紫野だけ歩いて登りな。私はロープウェイで登って待ってるから。」「先生、ずるい!私もロープウェイで行きます!」
こんな会話をしているうちに函館山がすぐ目の前に見えるようになり、船は函館港に近づいた。下船の準備を促すアナウンスが流れ、私たちも車に戻って船が港に着くのを待った。
船が着くと次々と車がフェリーから吐き出されていった。「先生、これからどこに行くんですか?」と紫野が聞いてきた。」「函館といえば何?」と聞き返すと「函館山?」と答えた。「残念!五稜郭でした。」「五稜郭?」ここでも説明が必要なようだ。まあ、教えることを仕事にしていた私には、返ってその方が嬉しい。
「五稜郭はね、こんな形をしたお城なんだよ。江戸幕府が蝦夷地を治めるためにここに函館奉行を置いた。そしてペリーに開港を迫られて、日本は下田と函館を開港した。その時の対応を函館奉行がしていたんだ。当時は貿易ということはせず、アメリカの船が不足した物資だけを買い付けるというだけだったらしいよ。」
「それだけのためにペリーは日本に来たんですか?」「アメリカの当初の目的ははるばる太平洋を渡ってくると船員の食料も水も枯渇してしまうので、必要物資の補給地が欲しかったんだよ。」「日本に興味は無かったの?」「無くはなかったと思うけど、当時のアメリカは近代国家に成長していたがらちょんまげを頭に載せた人類に余り期待しなかったのかな。でも、函館からは昆布などはたくさん輸出されていたようだよ。」「昆布?」「そう、北海道の昆布は質が良くて有名でしょ。」「利尻昆布?」「そう良く知ってるじゃない!」「お母さんが使ってました。」
車を五稜郭の駐車場に入れて中を見学しようと車から降りると、ここが北海道なのかと疑うくらいの暑さ。これで歩き回るのはどうかと思ったが、二度と来れないかも知れないので中に入ることにした。五稜郭の中はかなり広く涼しい季節にはいいかも知れないが、この季節は最悪だった。
しかも、見たかった函館奉行所は見学ができず、入った意味がなかった。
結局、外に出て五稜郭タワーに登って高いところから五稜郭を見ることにした。高い所が嫌いな紫野はかなり抵抗したが、ここは譲らなかった。
タワーの上から五稜郭を見て「先生、かなり大きいですね。あれを全部歩いていたら熱中症で倒れていましたね。」と紫野が言ったので本当に暑いことを改めて知った。
五稜郭を出ていよいよ函館山に向かった。ロープウェイには乗らず、車で御殿山の展望台まで上がってくびれた函館市内の全貌を見ることができた。紫野が「先生、函館って何であんなにくびれているんですか?」と聞いた。さすがいいところに気づく子だと思った。「いいところに目をつけたね!あれだけきれいにくびれる土地は限られた条件のもとでないとできないよね!」「特別な条件ですか?」「そだね」「うーん何だろう?」「ヒント!」「以前京都の宮津に寄ったことがあったよね。あの時二人で松林を歩いたの覚えてる?」「松林ですか?」・・・「はい、思い出しました。あの日もとても暑かったのを良く覚えています。」「そのあとリフトに乗って高いところから、歩いてきたところを見たよね?」「はい、しかも頭を下げて足の間から見ました。私はあの時死ぬかと思いました。」「そうだったね、あれ『又覗き』って言ったね。あの時に見た地形に似てない?」「こっちの方が太いけど、似てるといえば似てる気がします。」「そう、これも砂州なんだよ。函館山は、実は海底火山だったんだ。それが噴火を繰り返すうちに海面から頭を出して島どなった。陸に近い島だったので、波の働きで島と陸地の間に砂が集まって地続きになった訳。」「つまり函館は砂州の上にできた街なんですね!」「そういうことさ」ということであまりに暑いので、宿に戻って涼むことにした。午後6時に早々と夕食を済ませて、紫野を再び外に誘った。「先生、どこに行くんですか?」「まあ、任せてよ。」「もちろんいいですけど、ちょっと知りたいと思ったから。」
車は坂道を登り始めた。「あ、もしかして函館山ですか?」「正解!」昼間来た場所に再びやって来た。しかし、目の前に広がる光景はまるで別物。「先生、綺麗!」昼に見たときよりも、くびれかはっきりとわかります。函館に来てこの夜景を見ないなんてあり得ない。」
紫野が怖さを忘れて函館の夜景に見入っていた。
「先生、ところでくびれの左側ではたくさんの船が行ったり来たりしてるけど、右側には明るい電気を点けた船がたくさん止まっているんだけど、あれなんですか?」「あれは、漁り火っていうやつだね!」「漁り火?」「きっとイカを釣っているんだと思う。海面で明るい光を灯すと、それにたくさんのイカが集まって来るらしい。それを利用してイカを採るみたいだよ。」
「初めて見ました。凄く明るいランプを点けるんですね!」「そうだね、きっと海の深いところまで届くようにあえて明るくしてるんだろうね。」昼はあんなに暑かったのに、この時間になると風が冷たく感じてきたので、私たちも宿に戻って休むことにした。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる