大好きだから

夏目すず子

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う…うん…何か苦しい…
「お、おい!零!何でここで寝てんの?!」
「おはよう…もう起きたのか?早いな」
「早いなじゃない!何で僕のベッドで寝てんだよ!それと僕は抱き枕じゃないんだけど!て言うか幽霊って夜寝るの?主な活動時間じゃないのかよ!」
「もうちょっと寝ようよ…真尋」
どうなってんだ、この幽霊…幽霊って寝るのかよ、くっつき過ぎだし…
「もうちょっとじゃなくて!朝ごはん食べなきゃだし、離せって!」
「今日学校休みなんだろ?ゆっくり寝てれば良いのに…」
「駄目なの!朝は決まった時間に朝食食べるんだよ、いつも母さんが作ってくれてるから!」
「母さんね…分かったよ、じゃあ行ってきな、ここで待ってるから」
「本当にここに居てよ!降りてこないように!」
「はいはい」
本当に零って分かんない幽霊だなー、距離感おかしいし、いくら寂しいからって普通男を抱き枕にしないだろ…
「父さん、母さんおはよう」
「おはよう真尋、今日ね父さんと母さん親戚の集まりで出掛けるのよ、夜ご飯はカレー作ってあるから食べといてくれるかしら?今日は泊まりになるから…」
「うん、分かった、気をつけて行ってらっしゃい」
「戸締りはしっかりね、それと火使ったら消すの忘れないように!」
「分かってるよ、心配性だよね母さんは」
父さんと母さんはとても心配性だ、僕が6歳
の時この家に来てから何かと僕の心配をする。きっと両親をあんな形で亡くした僕の事を色々と気遣ってくれているのだろう。

真尋はもう立ち直ってるんだな…真尋やっぱり俺の事覚えてなかったな…そりゃそうか俺が真尋に会ったのはあの子がまだ4歳の頃だったし

俺は刑事をしていた時真尋の本当の父である恭二さんの部下だった。恭二さんは部下思いは勿論、家族思いでよく真尋の4歳の頃の写真を見せては息子の自慢話をしていた。何度か家にも呼ばれて奥さんの手料理を食べさせてもらったのだ。その時に真尋とも何度か会っていた。凄く可愛くて、2人に愛されて育っているのは傍目から見てもよく分かった。奥さんは真尋について少し気になる事も言っていた。黙ってずっと1点を見つめていると思うと急に抱きついて泣き出すのだと…今思えばそれが幽霊を見ていたって事だよな、だから俺の事も見えて声も聞くことが出来たって事だし。恭二さんがもうすぐ真尋が小学校に入学するんだと言って嬉しそうにランドセルを選んでいたのを今でも覚えている。真尋が6歳の誕生日を迎えた日、俺も家に呼ばれ一緒に祝ってやってくれないか?真尋がお前に懐いてるようだと聞かされた。俺は正直に言うと子供はあまり得意な方では無い。でも真尋は他の子供とは違う何かを持っている、人を惹きつけると言った方が良いのか、そんな魅力を秘めた子供だった。そしてあの日…
俺が恭二さんの家に着くと家の中は真っ暗でご馳走を作っている最中だったのか、鍋の火が着きっぱなしになっていた。電気を付けようとしたがスイッチを入れてもつかない。何か変な匂いがするのに気がついた、事件現場でよく嗅ぐ匂いだ血の匂い…
俺はいつも持ち歩いている小さい懐中電灯をポケットから出し灯りをつけてみた。そして辺りを見回した。恭二さんの姿はそこには無く奥さんの変わり果てた姿だけを懐中電灯の光が照らしていた。俺は唖然としたがすぐに恭二さんを探し始めた何度も名前を呼ぶが返事は無く家じゅうのドアを開けてまわったのだ。そしてようやく恭二さんの書斎で見つける事が出来た。恭二さんは書斎机に座って俯いたまま動かない。恭二さんと声をかけ肩を掴むと恭二さんの体は椅子から崩れ落ちその場に倒れ込んだ。恭二さんの喉は切られ出血で服が血まみれになっている。既に息絶え死後何時間も立ち血は固まり始めていた。俺は足の力が抜け放心状態になっていた。
そしてふと真尋の事が頭をよぎったのだ
真尋は何処だ!あの子は無事なのか!俺は気を取り直し子供部屋に向かった。ドアを開け子供部屋のベッドに懐中電灯を向けるとそこには真尋が布団をかけられ寝かされているようだった。息をしているか確認するとスースーと真尋の寝息が聞こえ俺は安堵した。じゃあ一体誰が恭二さんと奥さんを…?そう思った瞬間背中に酷い激痛が走った。俺は薄くなっていく意識の中で何を思ったのかよく覚えていない…ただ真尋の寝顔だけが脳裏に焼き付いた。気がつくと
俺はベッドに寝かされている自分を見ていた。これはどういう事だ?俺は…死んだのか?でも息をしているようだった。どういう事だ夢なのか?寝ている俺を2人の医者が見ている、何か話しているようだった。生きていたのが奇跡だと言っているようだ。でも依然として意識が戻らないらしい。脳死でも無いようだ、傷も深かったが心臓も他の内蔵も無事だったのだそうだ。じゃあ何で意識を取り戻さないのかが問題らしい。俺は思い切ってこの医者達とコンタクトを取ろうと試みた。まずこの魂みたいな状態の俺がどうやって伝えるべきか、何度声を出して呼んでみても気づいても貰えない。そして俺は物を掴む練習をしてみた。これは意外に上手く出来た。体が無いのに掴めるんだ…
そして掴むことが出来るようになった手で医者のペンを取った。手紙を書こうと思ったのだ
ここからは事がスムーズに運んだ、それもそのはず、医者の見ている前でメモ用紙に俺はここに居ると伝えたのだ、今までの経緯を全て。それから俺と医師とは筆記で会話が出来るようになったのだ。俺は真尋の安否と犯人を捕まえたいという事を伝えた。体は意識を戻さないままだが幽体となって動き回る事が出来る事を理由に、医師には俺の体の状態を保ってくれるように頼んだ。真尋には怪しまれないよう自分は長くさ迷っている幽霊だと言うことにしておこう。幽霊の見える真尋にはそう思って貰う方が都合が良いかもしれない。毎日必ず病院に戻り報告する事を約束して。そして今に至るだ。
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