血を吸うかぐや姫

小原ききょう(TOブックス大賞受賞)

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狂気

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◆狂気

「あら、お邪魔虫の登場? 和也くん、一人ではなかったのね」小山蘭子は煙たそうに言った。
「僕の友達だ!」
 この場所に来るまでに僕は、保険をかけていた。
 先ほどのファミレスで、君島さんに神城、そして、佐々木が言っていた。
「その景子さんっていう人の家には、母親の小山蘭子さんという人がいるんでしょ?」と君島さんが言って、
 神城が、「すごく危険よね」と言った。
 そして、更に佐々木奈々が、
「屑木くんに、加勢が必要ですね」と言った。

 その三人の女性に僕は強く言った。
 三人の女性が僕の顔を見た。
「これから、僕は小山家を訪れる。もちろん、景子さんに会うためだ。景子さんに会っていろいろと確認したいことがある。けれど、君島さんの言う通り、家には景子さんの母親である小山蘭子がいる。彼女こそが、この吸血鬼騒動の元凶と思われる」
 場所がファミレスであるにも関わらず、僕は大きく言った。
 そして、皆が頷く。
「神城の言う通り、危険がつきまとう」と僕は言った。
 だから、
「力を貸して欲しい」
「本当は三人共、みんなに来て欲しい」
 けれど、
「今回は、佐々木だけに来て欲しい」僕はそう言った。佐々木奈々は僕と同等の吸血鬼だ。
「私は行きますよぉ」佐々木が軽快に手を上げた。
「イヤよ。私も行くわよ」君島さんが名乗り上げた。
 君島さんは、そう言うだろうと思った。君島さんの中にはまだ「あれ」が入っていない。何かしらの危険があるかもしれない。だが、人数は少しでも多い方がいい気がした。
 それに君島さんは「来るな!」と言っても来るだろう。
 そして、神城に言った。
「悪いが、神城は来てはいけない。この中で神城は、血を吸われたことのない人間だ」
 神城は普通の人間だ。巻き込むわけにはいかない。
 神城は納得していない様子だったが、渋々承諾した。

 そして、僕は夕刻の5時を指定した。
 僕は景子さんを誘って、この公園に来る。彼女達にそう言った。
「公園に僕は景子さんと一緒にいる。景子さんがいない。もしくは誘い出せなかったら、その時は連絡する。けれど、連絡がなかったら来て欲しい」
 僕は三人に向かってそう言って、
「その時、僕と一緒にいる女性が景子さんだったら、そのまま帰ってくれてもいい。だが、それが違う人だったりしたら、その時は・・」と言いかけると、
 君島さんが、
「違う人だった場合、屑木くんを助ければいい・・そういうことよね」と力強く言った。
 これが僕の保険だった。

「屑木くん、その人の顔をよおく見てください!」
 佐々木奈々が強く言った。佐々木奈々は幼い頃に会っている。
 そして、景子さんに会ったことのある君島さんが、
「その人、ファミレスにいた女の人じゃないわよ」と指摘した。
 更に、もう一人の少女、神城が、
「その人が小山蘭子さんよ」
 結局、神城も来くることになった。危険だから「来るな」と言ったのに、「私一人だけを仲間外れにしないでよ」と言われた。
 僕は三人の少女に、
「ああ、今は見えるよ。彼女は景子さんじゃない」
 皆の登場で、一気に目覚めるように催眠がとけた。
 空洞は見えないが、彼女は景子さんの母親である小山蘭子そのものだった。

 小山蘭子は、僕らを見て、「ふっ」と冷笑すると、
「あなたたちのような子たちが集まって、一体何が出来るって言うの?」と言った。
 
 すると佐々木奈々が、
「そうですね。私は吸血鬼の出来損ないですし、君島さんは、まだ完全な吸血鬼じゃありません。屑木くんも私と同じようなタイプです。みんな不完全です」と前置きし、次にこう言った。
「でもですね・・私たちは、あなたのように死者を甦らせるなんてこと、考えていませんよ」と強く言った。
 小山蘭子は、自分の娘である景子さんを使って、死者蘇生を施そうとしている。
「そうよ。死者を生き返らすなんて、気持ち悪い」君島さんが吐き捨てるように言った。

「だから、何だっていうの?」
 小山蘭子は、僕たちの言葉を握りつぶすように言って、
「伊澄瑠璃子の亡くなった姉・・伊澄レミは、死者蘇生の第一号になるのよ」と言った。
 更に、「私の創り上げた最高の吸血鬼・・伊澄瑠璃子が、姉のレミを甦らせるわ」と強く言うなり、「おほほほっ」と高笑いをした。 
 不気味な声が公園に響き渡った。

 小山蘭子は、狂っている。この場の誰もがそう思ったことだろう。
 彼女の野望のようなものをこれ以上進めてはいけない。
 悪いことはあっても良いことなど何一つとして起こらない。仮にあるとしたら、伊澄瑠璃子が自分の姉の復活を喜ぶことくらいだ。だが、それは人の倫理に反する。

 小山蘭子は「さあ、あなたたち、どうするの?」と言わんばかりだ。
 そんな彼女に対してしなければならないこと。
 それは、小山蘭子の血を吸うことだ。
 小山蘭子の血を吸えば、彼女を操ることができる。
 血を吸うためには、彼女を押さえつけなければいけない。小山蘭子は、何がしかの催眠を使うかもしれない。
 佐々木たちを呼んだもう一つの目的がそれだ。
 一つ目の目的は、小山蘭子の姿を僕に認識させること。
 二つ目は、僕が小山蘭子の血を吸っている間、彼女の体を動けないようにすることだった。
 しかし・・

 佐々木奈々が小山蘭子の背後に回った。そして、両腕の間に自分の両手を差し入れ固定した。両サイドを神城と君島さんが固めた。
「屑木くん、今ですよ!」佐々木が言った。
「私たちが彼女の両手を持っているわ。その間に彼女の血を!」
 神城と君島さんが言った。

 だが・・
 ああ、ダメだったんだ。みんな、ごめん。
 僕は小山蘭子に正面から挑みながら、謝った。
 ・・おそらく、僕は小山蘭子の血を吸うことはできない。
 その理由は、僕の頭をある言葉がよぎったからだ。
「私は、全ての根源なのよ」
 小山蘭子はそう言っていた。
 ああ、僕は何て大きな間違いをしてしまったのだろう。
 僕は推測する。
 この吸血鬼創造の発端は、小山蘭子が生じさせたことだ。
 故に、小山蘭子が最初の吸血鬼だ。
 ならば、この町の吸血鬼、伊澄瑠璃子も含めて、その頂点に君臨するのが、小山蘭子だ。
 小山蘭子は、この町の吸血鬼の世界では、女王的存在だ。
 誰も彼女の血を吸うことなんてできない。なぜなら、この町の吸血鬼の血は全て彼女が吸ったことに起因するからだ。

 催眠や体を操ったりすることも、小山蘭子は全員に対してそれができる。
 もちろん、僕に対してもそれは同じだ。
 そう思った瞬間、僕の考えを裏付けるようなことが起きた。
 三人の少女たちが動きを封じていたはずの小山蘭子の体が目の前から消えた。
 三人に催眠をかけたのか、それとも目にも止まらない速さで抜け出したのか。

「屑木くん、危ないっ」
「うしろよ!」
 皆に声をかけられた時にはもう遅かった。
「うふふっ」
 僕の耳元に熱い息がかかった。懐かしい匂いがした。
 小山蘭子は、両腕を後ろから僕の肩に回して囁くように言った。
「和也くん、可愛いわ。子供の頃と何一つ変わってないわね」
 その言葉を否定できない気がした。これも一つの催眠なのだろうか。

 間近で見る小山蘭子の顔。その瞳が赤く光っている。
 その口から牙のような歯がズズッと伸びてきた。
 その剣先のような歯から涎のような液体が糸を引き、垂れ出した。
 これが吸血鬼の完成型なのだろうか。

「和也くん。あの間抜けな顔をした三人さんを見てごらんなさい」
 少し離れた所に佐々木に君島さん、そして、神城が立ち尽くしている。皆は動けないのだ。小山蘭子の術中にはまっているせいだろう。
 小山蘭子は、何をする気だ。
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