三千子② ~ another(アナザー)~ 悪夢再び【全方位型グロホラー続編】

小原ききょう(TOブックス大賞受賞)

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三井主任①

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◆三井主任

「それでお話というのは何でしょうか?」
 その日の退社後、私は会社の近くにある喫茶店で三井さんと向き合っていた。
 彼が私に相談したいことがある、と言ってきたので、会社の帰りに会うことにした。

「それより白井さん、今日、何かあったのか?」
 三井さんは私の顔を伺いながら訊いた。
「いえ、特には」私は何もなかったと答えた。
 本当は酷いことがあった。
 田辺部長に応接室に呼び出され、危うくキスをされそうになった。中谷さんが来なければ、それ以上の事態になっていたかもしれない。
 ただ、その事を三井さんに言う気にはなれない。セクハラは誰に言ってもいいわけではない。というのは、三井さんをまだ信用していないからだ。
 仮に私が今日の事を三井さんに言ったら、彼が部長と繋がっていた場合、先方も何かの作戦を立てるかもしれない。証拠というのは特にないが、もし証拠となるようなものがあれば、握り潰す可能性だってある。
 その代わりに中谷さんに全部ぶちまけた。
 中谷さんは、独自のルートを使ってその上の役員に言うつもりだと言っていた。
 私は中谷さんだけは信用している。

 三井さんは、コーヒーカップに手を添え「実は・・」と切り出した。
「白井さんは、坂本さんと仲がいいよね?」
 坂本・・というのは同僚の由美子のことだ。彼女が一体どうしたのだろう?
 三井さんはそう言って沈思した。
 私が「彼女とは友だちです」と答えても、中々次の言葉が出てこない。そう言えば、由美子が言っていた。
「三井主任なんて、どう? イケメンだし、現在、彼女がいないみたいよ」
 私から見ると全然タイプじゃないけれど、由美子から見るとそうなのだろう。
 なぜ、タイプじゃないかと訊かれると答えにくいけれど、一言で言うならば、
 軽そう・・ではないだろうか?
 軽いと言うと失礼だから、言い換えるなら、「人間としての深みがない」そんな感じだ。
 どう例えても同じような気もするけど・・
 由美子の言う通り、男前だし、背も高く、仕事も出来るし、将来にも希望が持てる人には違いない。
 けれど、そんな尺度で私は男の人を選びたくはない。
 だったら、どんな基準で相手を見るのか?
 それは出会ってみないと分からない。
 敢えて言うなら、私は中谷さんのような人がタイプだ。
 彼のような影がある人が好きだ。その人の人生を知りたくなるし、放っておけなくなる。
 離婚したから、由美子の言う通りチャンスと言えばチャンスなのだけれど、彼には何か事情がありそうだ。
 私にはとても入っていけない事情が中谷さんにはある。

「僕の気持ちを伝えてくれないかな?」
 考え事をしていると、唐突に三井さんはそう言った。そして、何かの照れを隠すように、コーヒーではなく水を飲んだ。
 ああ、そういうことね。
 ちょっと高校生的な恋愛みたいだけど、三井さんは由美子が好きなわけね。
 そして、彼女との仲を取り持って欲しい。そういうことだわ。
 自分でアプローチすればいいと思うのだけど、三井さんはそれができないくらいに奥手ということかしら?
 でも彼の容姿や学歴なら、私など介せずとも積極的に彼女を誘えばいいと思うのだけど。

「どういうことですか?」一応訊ねた。
 すると、
「坂本さんと友だちになりたいんだ」
 絵に描いたような言葉が返ってきた。
 まるで高校生の会話だわ。新鮮と言えば新鮮だけど、
 これが由美子のことでなかったら、関わらないでおくところだけど、彼の申し出を撥ね返すわけにもいかない。
「由美子になんて言えばいいんですか?」
「それとなく言ってくれないかな」三井さんはそう言って、「できれば、僕の友人を交えて食事とかセッティングしてくれたら助かるよ」と続けた。
「私が?」
「そう白井さんが」三井さんは強く言った。
 何で私がそんなことをしなくちゃいけないのよ。
「ということは、由美子を合コンか何かに誘いたいということですね」
「そうだよ」
「三井さんのお友だちの他に誰かいるんですか?」
 私が訊ねると、
「もちろん、白井さんもだよ」三井さんは当たり前のように言った。
「えっ、私が?」
「そう白井さんも」三井さんはそう言って、「僕の連れ・・友だちにもそう言ってあるんだ」
 何かイヤだな。そんな勝手に話を進められるのは。
 けれど、無下に断る訳にもいかないし、由美子にも聞かないといけない。
 由美子ならOKするんだろうな・・つまり、イヤなのは私だけということか。
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