三千子② ~ another(アナザー)~ 悪夢再び【全方位型グロホラー続編】

小原ききょう(TOブックス大賞受賞)

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自宅①

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◆自宅

 家に帰るのはいつも憂鬱だ。
 早く帰っても憂鬱だし、残業や飲み会で遅くなっても気が重い。
 それは、義父がいるからだ。
 早く帰れば、母と三人で夕食に向き合うが、義父の視線が気になって仕方ないし、お風呂に入る時もいつ義父に覗かれるかと思うと気が気でない。
 私の部屋は鍵をかけられるようにしているので入っては来られないが、それでも不安だ。
 最悪なのは、義父がどこかで飲んで帰ってきた場合だ。
 そんな時は、私を見かけると急に抱きついてきたりする。
 私が振り解くと「お母さんと間違えてしまった」と言い訳にもならないことを言ったりする。
 母に言っても、「あの人はそういう人なのよ」とか「さゆりと仲良くしようとしているだけなんじゃないの?」と言って全く取り合ってくれない。

 だから私はできるだけ義父には顔を合わせないようにしている。
 早い時間に帰宅すると、義父は大抵何かをしてくる。
 だから、私はお気に入りのカフェで時間を潰したり、本屋さんに立ち寄って帰宅時間をずらしている。
 だが今日は早めに帰宅することにした。会社での出来事で少し疲れていたからだ。
 駅から10分ほど歩くと二階建ての簡素な家が見える。四つ角に位置しているので少し目立つ。子供の頃、友だちがよく遊びに来たものだ。
 家に入ると、いつも母が出迎えてくれる。
 だが今日は、その母がいなかった。
 玄関が暗い。いつもなら明々と灯りが点いているいるはずなのに・・
 悪い予感しかしなかった。
「お母さん?」と声をかけても返事がない。
 母の声の代わりに奥から義父が出てきた。
「さゆり、お帰り」薄暗がりの中、義父の顔がポッと浮き出た。
「お母さんは?」私が訊ねると、
「お母さんが言ってなかったかな? お母さんは同窓会で遅くなるらしいぞ。夕飯は用意してある」と義父が言った。その顔はニヤニヤ顔だ。
 お母さん、そんなこと言ってたかしら?
 見ると、キッチンのテーブルには二人分の食事があった。後は電子レンジで温めるだけでいいようにしている。メモ書きがあり、「お父さんと仲良く食べなさい」と書かれてあった。
 それがどれだけ残酷な言葉なのか、母は分かっていない。

「先に食べてください」私は義父に言って、その返事も聞かずに着替えに二階の部屋に上がった。
 義父が食べ終わるのを見計らって階下に降りて食べるつもりだ。
 私の部屋は、長い廊下の手前にある。その奥が夫婦の寝室だ。一番奥にはトイレがある。
 階下は暗かったが、廊下は明るい。筒状のお洒落な室内灯が闇を照らしている。
 ガラスの筒に飾りが付いたシャンデリア風の室内灯だ。
 私は部屋に入ると、音楽を聴いたり、本を読んだりして時間をやり過ごした。当然、お風呂は母が帰ってから入るようにする。
 それにしても母は何時頃帰るつもりなのだろう。メールをしてみたが返事がない。
 時計を見ると、9時だ。いくら何でも義父は食事を終えているだろう。
 私は洗い物も兼ねて階下に降りようと思って腰を上げた。
 その時、コンコンとドアがノックされた。義父だ。
「さゆり、まだ食べないのか?」
「うん。お腹が空かないから」
 私が無愛想に答えると、とんでもない返事が返ってきた。
「わしは腹が空いてしょうがないんだがな」
 ええっ、まだ食べていないの?
「私、言ったよね。先に食べてって」
 私は部屋の中から大きく言った。
 部屋の前にいられるだけでも気持ち悪いのに、下で顔を突き合わせて食事するなんて耐えられない。
 ああ、今夜は食事抜きにしようかなあ・・でもお腹が空いたなあ。

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