三千子② ~ another(アナザー)~ 悪夢再び【全方位型グロホラー続編】

小原ききょう(TOブックス大賞受賞)

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自宅②

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「どうしてまだ食べていないの?」私は部屋を出ずに言った。
 すると、義父は、「そりゃあ、親子だからだろう。親子は一緒に食べるものだよ」と言った。
 何それ? 少し笑っている声だし、本気で言っていないことは丸わかりだ。
 それに親子と言っても本当の親じゃないし、本当の親なら、お風呂を覗いたりしないし、お尻にも触ってきたりしないわよ。
「私、今日はもう食べないわ。明日の朝に食べるから、先にお風呂でも入って寝ていて」
 そう私が言うと、
「そんな訳にはいかないだろう。お母さんが心を込めて作ったご飯なんだ。ちゃんと食べなさい」と偽善ぶった言葉が返ってきた。
「だから、朝に食べるわよ」
 だんだん怒りが込み上げてきた。義父に何の意図があるのか分からないが、要するに私に何かを仕掛けようとする魂胆なのだろう。
 母の外出は滅多にない。義父にしたら、私に何かをする絶好の機会なのだ。この日を逃す手はない。そう思っているに違いない。義父の興奮が伝わってくるようでゾッとした。
「ここを開けてくれないか」
 義父は最終手段に出たようだ。
 ドアノブをガチャガチャと回す音がする。けれど鍵がかかっているから開けられることはない。義父の苛立ちが伝わってくるようだ。
「さゆり、少し話をしよう」
「私には話はありません」私はそう返した。
 義父を部屋に入れたりしたら何をされるか、火を見るよりも明らかだ。
 しばらくすると義父は諦めたのか、階段を降りる足音が聞こえた。

 半時間ほどすると、お手洗いに行きたくなった。
 トイレはさすがに部屋にはないから、二階の廊下の突き当りのトイレに行かなければならない。
 そこに行くまでは夫婦の寝室を通ることになる。普段なら何でもないけど、今は違う。義父と二人きりだ。
 義父は下に降りたはずだ。私はそろーっとドアを開けた。階段の方に目をやると、誰もいない。ホッと胸を撫で下ろした。
 だが、その瞬間、
「おお、さゆり~ 待っていたよ」
 義父の不気味な声が聞こえた。
 奥のトイレの方を見ると、義父が仁王立ちしていた。
 あまりの驚きに「ひゃっ」と変な声を上げて、そのまま尻もちをついてしまった。
 義父は寝室にいたのだ。ドアが開く音に気づき寝室から出てきたのだろう。
 一旦は下に降りたと見せかけておいて、忍び足で寝室に入って隠れていたみたいだ。何という悪賢い男だ。
 廊下の室内灯の下、ぎょろっとした目が爛々と輝いていた。
「さゆり~」
 義父の両手がすーっと伸びてきた。手の伸びた先は私の肩だ。
 逃げないといけない!
 今、捕まったら何をされるか分からない。母が帰ってくるのを待っていては遅い。
「やめてっ」私は声の限り叫んだ。

 私の声に義父の動きは一旦は止まった。
「さゆり、何を言っているんだ。父娘水入らずじゃないか。一緒に飯を食おうと思っていたのに、中々降りてこないから、こっちから出向いてやったんだぞ」
 怒っているのか笑っているのか判別できない顔で義父は言った。
「今、私の体に手を伸ばそうとしてましたよね? お父さんならそんなことはしないです」
 私がそう言うと、
「何を言っているんだ。父娘のスキンシップを図ろうとしていたんだじゃないか」と笑った。
 そっちこそ何を言っているのよ。お母さんもお母さんだわ。どうしてこんな男と再婚したのよ!

 義父がにじり寄って来た。
 今、立ち上がれば、義父と向き合ってしまう。
 だからと言って、部屋に駆け込んでも、カギを掛けるまでに部屋に入られるだろう。そうなると家の中ではどこにいても同じだ。
 義父に捕まりたくなければ、この家から出るしかないけど、この状況では絶対に追いつかれる。
 この体勢だとこのまま押し倒されてしまう。
 ああ、みちこさん・・こんな時、私はどうしたらいいの?
 私はみちこさんに助けを求めた。
 みちこさんの声は聞こえないけれど、彼女しかこの窮地を救ってくれる人はいない。

 そう願った時、
「男に向かって手を開いてみて」
 あっ、みちこさんの声だ。その声に胸が熱くなった。
 どういうことですか? 手を開くって?
「さゆりさんには私の力が付与されているのよ」
 今、「さゆりさん」って名前で呼ばれた。距離が近くなった気がした。
「さゆりさん、力を解放してみなさい」
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