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本編 第2章
第1話
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瞼を開ける。ぼうっとする意識のまま、何度か瞬き。
そして、見慣れない天井に驚いて、勢いよく身体を起こした。
「いたっ」
瞬間、ずきんとした鈍い頭の痛みに襲われて、私はよろよろとまた上半身を寝台の上に倒した。
寝台はふかふかで、かけてある毛布も上等なもの。だからなのか、勢いよく倒れてもちっとも痛くない。
(えぇっと……ここ、何処だっけ……?)
眠る前の記憶を思い出そうとする。……でも、ちっとも思い出せない。
しばらく寝台の上でゴロゴロとしていると、部屋の扉がノックされた。驚いて返事をすれば、「メリーナさん」と私の名前が呼ばれた。……この声、男の人のものだ。
慌てて自分の格好を見て、問題ないと判断。これは普段着だし、多分眠る前に身に着けていたものだろう。
「どうぞ……」
控えめに声を上げれば、部屋の扉が開く。そこから顔を出したのは……目元まで伸びた前髪が特徴的な男。
(あぁ、そうだ。……私、めちゃくちゃ酔って……)
記憶が鮮明になってきた。
この人はヴィリバルトさん。面倒な酔っ払いの私に根気強く付き合ってくれた人。
(っていうことは、ここはヴィリバルトさんのお屋敷……?)
ぐるりと室内を見渡す。室内はとてもきれいに片付いていて、生活感がない。その割には掃除が行き届いていて、さらには置いてある家具は上等なものに見える。デザインにしろ、素材にしろ。とても高級なものだと思う。
「よかった。何度か来たんですけど、返事がなかったんで……」
ヴィリバルトさんが肩をすくめてそう呟く。なので、私は曖昧に笑った。
「今、起きたところなのです……」
誤魔化すように苦笑を浮かべれば、彼は大きく頷く。それから、私のほうに近づいてきた。
「体調どうですか? 昨日酔いつぶれてましたけど……」
やっぱり。眠る前の記憶がないのは、酔いつぶれたからなんだ……。
(見知らぬ人の前で酔いつぶれるって、貴族令嬢としてそれはどうなの……?)
危機感がないどころの騒ぎじゃないだろう。
と思ったものの。私はもうすでに貴族令嬢じゃない。だから、誰かに口うるさく注意される意味もない。
ただ唯一。思いきり迷惑をかけてしまったヴィリバルトさんにだけは、謝らないとならない。
「その、ご迷惑をおかけして、すみませんでした……」
頭を下げてそう言えば、ヴィリバルトさんは「いえいえ」と言って手をぶんぶんと横に振る。
「俺のほうこそ、すみません。勝手に屋敷に運んでしまって……」
「い、いえ! どうせ行く当てなんてなかったので!」
自慢できることじゃないけど。
そう付け足しつつ、私もぶんぶんと手を横に振る。
二人そろって手を横に振っていると、なんだかおかしくなって。私たちは、どちらともなく笑ってしまった。
「……なんだか、面白いですね」
ふと、彼の口からそんな言葉が零れた。驚いて顔を上げれば、彼はプイっと顔を背けてしまう。
「変な意味じゃないですよ。……なんていうか、あなたとこうして話しをしているのが、楽しいっていうか」
「……楽しい、でしょうか?」
私と話していて楽しいなんて言われたこと、今まで一度もない。
その所為でちょっと戸惑う。でも、ヴィリバルトさんは口元を緩めていた。
「えぇ、とっても楽しいです。俺は、ですけど」
なんだかちょっと自嘲気味な言葉だった。そのため、私は「私も、楽しいですよ」と言っていた。
「ヴィリバルトさんって、なんか不思議なお人ですし。……なんか、話していて気が楽っていうか」
変に気を遣わなくてもいいっていうか……。
あ、もちろん悪い意味じゃない。
「なんだか、新鮮です……」
小さくそう言葉を零す。思えば、異性とこんな風に話したことも過ごしたこともなかった。
……だから、なんだか。無性に楽しく思ってしまう。
そして、見慣れない天井に驚いて、勢いよく身体を起こした。
「いたっ」
瞬間、ずきんとした鈍い頭の痛みに襲われて、私はよろよろとまた上半身を寝台の上に倒した。
寝台はふかふかで、かけてある毛布も上等なもの。だからなのか、勢いよく倒れてもちっとも痛くない。
(えぇっと……ここ、何処だっけ……?)
眠る前の記憶を思い出そうとする。……でも、ちっとも思い出せない。
しばらく寝台の上でゴロゴロとしていると、部屋の扉がノックされた。驚いて返事をすれば、「メリーナさん」と私の名前が呼ばれた。……この声、男の人のものだ。
慌てて自分の格好を見て、問題ないと判断。これは普段着だし、多分眠る前に身に着けていたものだろう。
「どうぞ……」
控えめに声を上げれば、部屋の扉が開く。そこから顔を出したのは……目元まで伸びた前髪が特徴的な男。
(あぁ、そうだ。……私、めちゃくちゃ酔って……)
記憶が鮮明になってきた。
この人はヴィリバルトさん。面倒な酔っ払いの私に根気強く付き合ってくれた人。
(っていうことは、ここはヴィリバルトさんのお屋敷……?)
ぐるりと室内を見渡す。室内はとてもきれいに片付いていて、生活感がない。その割には掃除が行き届いていて、さらには置いてある家具は上等なものに見える。デザインにしろ、素材にしろ。とても高級なものだと思う。
「よかった。何度か来たんですけど、返事がなかったんで……」
ヴィリバルトさんが肩をすくめてそう呟く。なので、私は曖昧に笑った。
「今、起きたところなのです……」
誤魔化すように苦笑を浮かべれば、彼は大きく頷く。それから、私のほうに近づいてきた。
「体調どうですか? 昨日酔いつぶれてましたけど……」
やっぱり。眠る前の記憶がないのは、酔いつぶれたからなんだ……。
(見知らぬ人の前で酔いつぶれるって、貴族令嬢としてそれはどうなの……?)
危機感がないどころの騒ぎじゃないだろう。
と思ったものの。私はもうすでに貴族令嬢じゃない。だから、誰かに口うるさく注意される意味もない。
ただ唯一。思いきり迷惑をかけてしまったヴィリバルトさんにだけは、謝らないとならない。
「その、ご迷惑をおかけして、すみませんでした……」
頭を下げてそう言えば、ヴィリバルトさんは「いえいえ」と言って手をぶんぶんと横に振る。
「俺のほうこそ、すみません。勝手に屋敷に運んでしまって……」
「い、いえ! どうせ行く当てなんてなかったので!」
自慢できることじゃないけど。
そう付け足しつつ、私もぶんぶんと手を横に振る。
二人そろって手を横に振っていると、なんだかおかしくなって。私たちは、どちらともなく笑ってしまった。
「……なんだか、面白いですね」
ふと、彼の口からそんな言葉が零れた。驚いて顔を上げれば、彼はプイっと顔を背けてしまう。
「変な意味じゃないですよ。……なんていうか、あなたとこうして話しをしているのが、楽しいっていうか」
「……楽しい、でしょうか?」
私と話していて楽しいなんて言われたこと、今まで一度もない。
その所為でちょっと戸惑う。でも、ヴィリバルトさんは口元を緩めていた。
「えぇ、とっても楽しいです。俺は、ですけど」
なんだかちょっと自嘲気味な言葉だった。そのため、私は「私も、楽しいですよ」と言っていた。
「ヴィリバルトさんって、なんか不思議なお人ですし。……なんか、話していて気が楽っていうか」
変に気を遣わなくてもいいっていうか……。
あ、もちろん悪い意味じゃない。
「なんだか、新鮮です……」
小さくそう言葉を零す。思えば、異性とこんな風に話したことも過ごしたこともなかった。
……だから、なんだか。無性に楽しく思ってしまう。
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