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本編 第2章
第1話
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そして、真白の結婚が決まってあっという間に数ヶ月が経ち。真白は花里家所有の馬車に揺られ、桐ケ谷の邸宅に向かっていた。
結婚式や披露宴は明日行われる予定だ。だが、慌ただしくなるので嫁入り道具は今日搬入する予定になっていた。
本来、真白は桐ケ谷家に向かう予定ではなかったのだが。一度式の前にどうしても自身の夫となる人と会いたい。
そんなわがままを言って、真白は嫁入り道具を乗せた馬車に同乗していた。
(というか、お相手って本当にどんなお方なのかしら……?)
いろいろな筋から情報は手に入れたものの、やはり不安は尽きない。
夫婦としてうまくやって行けるのか。それだけじゃない。ド貧乏だというし、いろいろと大変な生活になりそうだ……。
そう思っていれば、馬車が止まって扉が開いた。
「真白お嬢様。……桐ケ谷の邸宅に到着しましたよ」
「あ、そうなのね」
御者に手を引かれて、真白は地面に足を下ろす。
足元は少し悪いかもしれない。そんなことを考えつつ顔を上げれば――そこには、荒れ地が広がっていた。
「……ねぇ、間違いじゃない?」
「いえいえ、こちらが指定された住所でございます」
確かに、奥にある邸宅には生活しているであろう痕跡はある。……が。
(これは、相当な手入れが必要ね……)
家の看板とも言える、庭園。そこは、荒れ放題だった。
草はぼうぼうと生い茂っており、木々に関しては枝も葉も伸びっぱなし。以前は花が植えてあったであろう花壇にはなんか意味の分からない野草が生えていた。
「では、私どもは嫁入り道具の搬入をさせていただきますので」
「え、えぇ、わかったわ。私は、邪魔にならないようにするわ」
御者たちがてきぱきと動き始めたのを見て、真白は桐ケ谷の敷地に入っていく。
敷地自体は、割と広そうだ。けれど、それが余計に荒れ地の雰囲気を加速させているような気もする。
目の前にある邸宅は、和洋折衷であり、数年前に流行った造りをしているらしかった。
(ふむ、数年前に流行った造りをしているということは、以前はお金があったという話は間違いないということね)
周囲を観察しつつ、真白は歩く。庭園の中には干からびた池などもあり、なんだかもったいないと思ってしまう。
「この邸宅は、磨けば光ると言うのに……」
いや、きっと。磨く余裕もないのだろう。
父から聞くに、この邸宅には当主がたった一人で暮らしているという。使用人一人、雇っていないと。
それに、当主は普段は軍人として働いている。そりゃあ、そこまで手は回らないだろう。
「任せてもらえるくらい信頼を得て、どうかこの邸宅を復活させたいわね……」
ぽつりとそう呟いていれば、邸宅の玄関にたどり着いていた。
……少しためらったのち、訪問を知らせるベルを鳴らしてみる。少しの間反応はなかったものの、しばらくして玄関の扉が開いた。
「……初めまして」
真白がきょとんとしつつ小首をかしげてそう言えば、そこにいる男性は眉間にしわを寄せた。
「キミは、誰だろうか?」
彼がそう問いかけてくる。
なので、真白は深々と頭を下げる。
「父から聞いているとは思いますが、花里の娘、真白でございます」
淡々と自己紹介をすれば、男性は「あ、あぁ……」と少し慌てふためくような声を上げた。
「すまなかった。……本日来るとは、聞いていなかったもので。嫁入り道具の搬入だけだと、聞いていたんだ」
彼が眉を下げてそう言ってくる。……まぁ、それは正しい。
「いえ、私が本日になって一度お会いしたいと思っただけでございます。……桐ケ谷さま、ですね」
彼の目をまっすぐに見つめて、そう尋ねる。そうすれば、彼の美しい目が真白を見つめた。
恐ろしいほどに、きれいな顔立ちだった。心臓がどくんと跳ねるような感覚に襲われるほどに。
「あぁ、そうだ。俺は桐ケ谷 律哉という」
少し低い声で自己紹介をされて、真白は無性にむず痒くなるような感覚だった。……自然と、息を呑む。
結婚式や披露宴は明日行われる予定だ。だが、慌ただしくなるので嫁入り道具は今日搬入する予定になっていた。
本来、真白は桐ケ谷家に向かう予定ではなかったのだが。一度式の前にどうしても自身の夫となる人と会いたい。
そんなわがままを言って、真白は嫁入り道具を乗せた馬車に同乗していた。
(というか、お相手って本当にどんなお方なのかしら……?)
いろいろな筋から情報は手に入れたものの、やはり不安は尽きない。
夫婦としてうまくやって行けるのか。それだけじゃない。ド貧乏だというし、いろいろと大変な生活になりそうだ……。
そう思っていれば、馬車が止まって扉が開いた。
「真白お嬢様。……桐ケ谷の邸宅に到着しましたよ」
「あ、そうなのね」
御者に手を引かれて、真白は地面に足を下ろす。
足元は少し悪いかもしれない。そんなことを考えつつ顔を上げれば――そこには、荒れ地が広がっていた。
「……ねぇ、間違いじゃない?」
「いえいえ、こちらが指定された住所でございます」
確かに、奥にある邸宅には生活しているであろう痕跡はある。……が。
(これは、相当な手入れが必要ね……)
家の看板とも言える、庭園。そこは、荒れ放題だった。
草はぼうぼうと生い茂っており、木々に関しては枝も葉も伸びっぱなし。以前は花が植えてあったであろう花壇にはなんか意味の分からない野草が生えていた。
「では、私どもは嫁入り道具の搬入をさせていただきますので」
「え、えぇ、わかったわ。私は、邪魔にならないようにするわ」
御者たちがてきぱきと動き始めたのを見て、真白は桐ケ谷の敷地に入っていく。
敷地自体は、割と広そうだ。けれど、それが余計に荒れ地の雰囲気を加速させているような気もする。
目の前にある邸宅は、和洋折衷であり、数年前に流行った造りをしているらしかった。
(ふむ、数年前に流行った造りをしているということは、以前はお金があったという話は間違いないということね)
周囲を観察しつつ、真白は歩く。庭園の中には干からびた池などもあり、なんだかもったいないと思ってしまう。
「この邸宅は、磨けば光ると言うのに……」
いや、きっと。磨く余裕もないのだろう。
父から聞くに、この邸宅には当主がたった一人で暮らしているという。使用人一人、雇っていないと。
それに、当主は普段は軍人として働いている。そりゃあ、そこまで手は回らないだろう。
「任せてもらえるくらい信頼を得て、どうかこの邸宅を復活させたいわね……」
ぽつりとそう呟いていれば、邸宅の玄関にたどり着いていた。
……少しためらったのち、訪問を知らせるベルを鳴らしてみる。少しの間反応はなかったものの、しばらくして玄関の扉が開いた。
「……初めまして」
真白がきょとんとしつつ小首をかしげてそう言えば、そこにいる男性は眉間にしわを寄せた。
「キミは、誰だろうか?」
彼がそう問いかけてくる。
なので、真白は深々と頭を下げる。
「父から聞いているとは思いますが、花里の娘、真白でございます」
淡々と自己紹介をすれば、男性は「あ、あぁ……」と少し慌てふためくような声を上げた。
「すまなかった。……本日来るとは、聞いていなかったもので。嫁入り道具の搬入だけだと、聞いていたんだ」
彼が眉を下げてそう言ってくる。……まぁ、それは正しい。
「いえ、私が本日になって一度お会いしたいと思っただけでございます。……桐ケ谷さま、ですね」
彼の目をまっすぐに見つめて、そう尋ねる。そうすれば、彼の美しい目が真白を見つめた。
恐ろしいほどに、きれいな顔立ちだった。心臓がどくんと跳ねるような感覚に襲われるほどに。
「あぁ、そうだ。俺は桐ケ谷 律哉という」
少し低い声で自己紹介をされて、真白は無性にむず痒くなるような感覚だった。……自然と、息を呑む。
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