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本編 第2章
第15話
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「わぁ、美味しそう……!」
真白は自然と声を上げた。
目の前にはお椀に盛られたあんみつがある。あんみつの回りには旬の果物が飾られていて、見ているだけでも楽しい一品だ。
「ふふっ、早く食べましょう!」
声がはしゃいでしまうのを止められない。
律哉の前にあるのも、同じあんみつだ。しかし、彼はあんみつではなく真白のほうを見ている。
……正直、こんなにも見つめられると食べにくいと思う気持ちはある。が、食欲には勝てなかった。
「いただきます」
スプーンで掬って、口に運ぶ。ほんのりとした甘さに心が幸せを覚える。
「んー、美味しいです!」
甘さは控えなのだろう。だが、それは正解だ。
そうすれば、果物特有の甘味を殺すことなく調和させることが出来る。
「……あなたは、本当に美味しそうに食べるな」
スプーンを手に取った律哉が、口元を緩めつつそう言ってくる。
だから、真白は頷いた。
「ご飯って、生きていくため以上に、楽しみを生み出してくれると思っていますから」
「楽しみ?」
「はい。もちろん栄養摂取という目的もあります。ただ、心も元気にしてくれるんですよ」
次から次へとスプーンで掬って、口に運んで。それを繰り返しつつ、合間合間に律哉の言葉に答えていく。
彼は興味深そうに真白を見つめていた。
「私、美味しいものを食べると幸せになれます。……周囲の雑音とか、どうでもいいやって思えるんです」
周囲の声は、真白には厳しいものだ。三人の姉に劣るがゆえに、嫌味をぶつけられることも少なくはなかった。
「……そうか」
「嫌味なんて、所詮は雑音です。……そう思っていないと、苦しいから」
目を伏せる。どうしてこんなことが口から出たのかは、わからない。ただ、律哉には知っておいて欲しいと思ったのだろう。
「……空気が、重くなってしまいましたね。とにかく、食べましょう」
でも、さすがにこの重苦しい空気はいただけない。無理に明るく言った真白を見て、なにを思ったのだろうか。
律哉はスプーンで一番上に載っていたさくらんぼを掬うと、真白のほうに差し出す。
「……これでも食べて、元気を出せ」
彼が淡々とそう言った。けれど、その言葉の裏には心配が宿っていることに気が付かない真白じゃない。
「私、元気ですよ」
「あぁ、そうだな。……ただ、あなたはもっと元気なほうが、似合うんだ」
ぽかんと開いた真白の口にスプーンを突っ込んで、律哉がそう言った。
……驚いたものの、さくらんぼに罪はないと咀嚼する。
(……甘い)
先ほど自分が食べたものと同じはずなのに、無性に甘く感じるのはどうしてなのか。
(っていうかこれ……間接的に口づけじゃない?)
彼が使っていたスプーンを真白も使ったのだ。……どうしてだろうか、恥ずかしい。
(り、律哉さんは気にしていないし、別に私もそこまで気にする必要はないんだろうけれど……!)
そう思うのに、心臓が早足になっていく。
律哉をまっすぐに見ることが出来なくて、視線を逸らした。律哉はきょとんとしているようだ。
「真白?」
「い、いえいえ、なんでもないです!」
慌てて声を上げる。……そう、意識しているのはきっと真白だけなのだ。
(律哉さんにとっては、こんなのどうってことないんだわ……)
どうしてだろうか。そう思うと、ほんの少し悲しくなってしまった。
真白は自然と声を上げた。
目の前にはお椀に盛られたあんみつがある。あんみつの回りには旬の果物が飾られていて、見ているだけでも楽しい一品だ。
「ふふっ、早く食べましょう!」
声がはしゃいでしまうのを止められない。
律哉の前にあるのも、同じあんみつだ。しかし、彼はあんみつではなく真白のほうを見ている。
……正直、こんなにも見つめられると食べにくいと思う気持ちはある。が、食欲には勝てなかった。
「いただきます」
スプーンで掬って、口に運ぶ。ほんのりとした甘さに心が幸せを覚える。
「んー、美味しいです!」
甘さは控えなのだろう。だが、それは正解だ。
そうすれば、果物特有の甘味を殺すことなく調和させることが出来る。
「……あなたは、本当に美味しそうに食べるな」
スプーンを手に取った律哉が、口元を緩めつつそう言ってくる。
だから、真白は頷いた。
「ご飯って、生きていくため以上に、楽しみを生み出してくれると思っていますから」
「楽しみ?」
「はい。もちろん栄養摂取という目的もあります。ただ、心も元気にしてくれるんですよ」
次から次へとスプーンで掬って、口に運んで。それを繰り返しつつ、合間合間に律哉の言葉に答えていく。
彼は興味深そうに真白を見つめていた。
「私、美味しいものを食べると幸せになれます。……周囲の雑音とか、どうでもいいやって思えるんです」
周囲の声は、真白には厳しいものだ。三人の姉に劣るがゆえに、嫌味をぶつけられることも少なくはなかった。
「……そうか」
「嫌味なんて、所詮は雑音です。……そう思っていないと、苦しいから」
目を伏せる。どうしてこんなことが口から出たのかは、わからない。ただ、律哉には知っておいて欲しいと思ったのだろう。
「……空気が、重くなってしまいましたね。とにかく、食べましょう」
でも、さすがにこの重苦しい空気はいただけない。無理に明るく言った真白を見て、なにを思ったのだろうか。
律哉はスプーンで一番上に載っていたさくらんぼを掬うと、真白のほうに差し出す。
「……これでも食べて、元気を出せ」
彼が淡々とそう言った。けれど、その言葉の裏には心配が宿っていることに気が付かない真白じゃない。
「私、元気ですよ」
「あぁ、そうだな。……ただ、あなたはもっと元気なほうが、似合うんだ」
ぽかんと開いた真白の口にスプーンを突っ込んで、律哉がそう言った。
……驚いたものの、さくらんぼに罪はないと咀嚼する。
(……甘い)
先ほど自分が食べたものと同じはずなのに、無性に甘く感じるのはどうしてなのか。
(っていうかこれ……間接的に口づけじゃない?)
彼が使っていたスプーンを真白も使ったのだ。……どうしてだろうか、恥ずかしい。
(り、律哉さんは気にしていないし、別に私もそこまで気にする必要はないんだろうけれど……!)
そう思うのに、心臓が早足になっていく。
律哉をまっすぐに見ることが出来なくて、視線を逸らした。律哉はきょとんとしているようだ。
「真白?」
「い、いえいえ、なんでもないです!」
慌てて声を上げる。……そう、意識しているのはきっと真白だけなのだ。
(律哉さんにとっては、こんなのどうってことないんだわ……)
どうしてだろうか。そう思うと、ほんの少し悲しくなってしまった。
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