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本編 第2章
第16話
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「……とっても甘くて、美味しいです」
誤魔化すようににっこりと笑ってそう感想を口にした。
律哉は怪訝に思っているようだが、特に口を挟んでくることはない。
それにほっとしつつも、真白は律哉を観察する。彼はとても美しい男性だ。その証拠に、周囲の女性たちの視線を一身に集めている。本人にその気は一切ないのだろうが、自身の夫がそういう意味で注目されるというのはあまり気分のいいものではない。
(それに、彼にとって私は家のために娶った妻だものね)
もしかしたら本当に愛する人がいたのかもしれない。
彼は被害者だ。借金まみれの伯爵家を押し付けられ、挙句自分のような器量の悪い女性を妻にと押し付けられ……。
(せめて、しっかりと彼の役に立ちたい。私は、お荷物になんてなりたくない)
たとえ器量が悪くても、やれることはあるはずだ。ぐっと手を握って、真白は決意する。
そんな真白を、律哉は不思議そうに見つめていた。その視線には気が付かないふりをして、真白はお冷を口に運んだ。
その後、帰路につき、桐ケ谷家の邸宅に戻って来た。
外観は立派なのに、何処か汚れたような邸宅を見上げる。
(私には外観を立派にする術はないけれど、せめて内観くらいはなんとかしてみせる)
真白はお嬢様育ちではあるが、家事などはある程度こなせる。だから、掃除は苦じゃない。
そう思っていると、隣から「真白」と声をかけられた。そっとそちらに視線を向ければ、律哉が真白を見つめている。
彼の目には「愛おしい」という感情が宿っているように見えた。……所詮、錯覚だろうが。
「今日の夕飯は、どうする?」
律哉に問いかけられて、真白は少し考えてみる。
冷蔵庫などに食材は割とあった。節約するためにはやはり自炊だ。
「今後は、出来る限り私が作りたいと思います」
「……真白?」
「その、律哉さんに負担はかけませんから」
苦笑を浮かべて、正直な気持ちを吐露した。
彼は今までここに一人で暮らしていた。ということは、家事なども一通りできるということだ。
(ただでさえお仕事にお忙しい身。私にできることは、全部やりたい)
炊事も洗濯も掃除も。なんなら、ある程度の社交だって。真白は出来るのだ。
いや、たとえ出来なくても技術を取得したい。彼のためならば、なんだって出来るような気がした。
「そうか。だが、真白にばかり負担をかけるわけにはいかない。俺はある程度家事が出来るから、少しくらいは……」
「いえ、律哉さんはお忙しいので!」
引けなかった。
せめて、彼に娶ってよかったと思ってほしい。心の奥底で、そんな感情がむくむくと膨れ上がる。
(だって、こんなにもいい人なんだもの。……私はこれ以上彼に負担をかけたくない)
真白のその気持ちを悟ったのか、律哉はしばらくして折れてくれた。
「わかった。ただ、辛くなったらきちんと言ってくれ。……それが、最低限の約束だ」
「……はい」
気を遣ってくれたのだろう。それがひしひしと伝わってきて、いたたまれなくなって。
真白は邸宅に入っていく律哉を追いかけた。
(……今日は、初夜のやり直しもある……の、よね?)
昨夜は寝落ちしてしまったが、今日はある……はずだ。
むしろ、なかったら自身に魅力がないと打ちひしがれてしまいそうだった。
誤魔化すようににっこりと笑ってそう感想を口にした。
律哉は怪訝に思っているようだが、特に口を挟んでくることはない。
それにほっとしつつも、真白は律哉を観察する。彼はとても美しい男性だ。その証拠に、周囲の女性たちの視線を一身に集めている。本人にその気は一切ないのだろうが、自身の夫がそういう意味で注目されるというのはあまり気分のいいものではない。
(それに、彼にとって私は家のために娶った妻だものね)
もしかしたら本当に愛する人がいたのかもしれない。
彼は被害者だ。借金まみれの伯爵家を押し付けられ、挙句自分のような器量の悪い女性を妻にと押し付けられ……。
(せめて、しっかりと彼の役に立ちたい。私は、お荷物になんてなりたくない)
たとえ器量が悪くても、やれることはあるはずだ。ぐっと手を握って、真白は決意する。
そんな真白を、律哉は不思議そうに見つめていた。その視線には気が付かないふりをして、真白はお冷を口に運んだ。
その後、帰路につき、桐ケ谷家の邸宅に戻って来た。
外観は立派なのに、何処か汚れたような邸宅を見上げる。
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真白はお嬢様育ちではあるが、家事などはある程度こなせる。だから、掃除は苦じゃない。
そう思っていると、隣から「真白」と声をかけられた。そっとそちらに視線を向ければ、律哉が真白を見つめている。
彼の目には「愛おしい」という感情が宿っているように見えた。……所詮、錯覚だろうが。
「今日の夕飯は、どうする?」
律哉に問いかけられて、真白は少し考えてみる。
冷蔵庫などに食材は割とあった。節約するためにはやはり自炊だ。
「今後は、出来る限り私が作りたいと思います」
「……真白?」
「その、律哉さんに負担はかけませんから」
苦笑を浮かべて、正直な気持ちを吐露した。
彼は今までここに一人で暮らしていた。ということは、家事なども一通りできるということだ。
(ただでさえお仕事にお忙しい身。私にできることは、全部やりたい)
炊事も洗濯も掃除も。なんなら、ある程度の社交だって。真白は出来るのだ。
いや、たとえ出来なくても技術を取得したい。彼のためならば、なんだって出来るような気がした。
「そうか。だが、真白にばかり負担をかけるわけにはいかない。俺はある程度家事が出来るから、少しくらいは……」
「いえ、律哉さんはお忙しいので!」
引けなかった。
せめて、彼に娶ってよかったと思ってほしい。心の奥底で、そんな感情がむくむくと膨れ上がる。
(だって、こんなにもいい人なんだもの。……私はこれ以上彼に負担をかけたくない)
真白のその気持ちを悟ったのか、律哉はしばらくして折れてくれた。
「わかった。ただ、辛くなったらきちんと言ってくれ。……それが、最低限の約束だ」
「……はい」
気を遣ってくれたのだろう。それがひしひしと伝わってきて、いたたまれなくなって。
真白は邸宅に入っていく律哉を追いかけた。
(……今日は、初夜のやり直しもある……の、よね?)
昨夜は寝落ちしてしまったが、今日はある……はずだ。
むしろ、なかったら自身に魅力がないと打ちひしがれてしまいそうだった。
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