本日、訳あり軍人の彼と結婚します~ド貧乏な軍人伯爵さまと結婚したら、何故か甘く愛されています~

扇 レンナ

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本編 第2章

第14話

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 ◇

(なんだか……すごく、不思議な感覚……)

 律哉と手をつないで百貨店を歩いていると、真白はどういう表情をすればいいかがわからなかった。

 絡めた指に力がこもっている。それはまるで、真白を逃がさないという意思がこもっているかのようにも、感じられてしまう。

「真白。この百貨店には食事処もたくさんあるんだ」

 ふと、律哉がそう声をかけてくる。真白がきょとんとして彼を見つめれば、彼はこほんと一度だけ咳ばらいをした。

「よければ、なにか食べて行かないか?」
「……ですが」

 しかし、やはり桐ケ谷家の財政が気になってしまう。

 そう思う真白に、律哉はふわりと笑いかけてくれた。

「食事が無理ならば、甘いものでも食べて帰ろう。……あなたに、ご馳走したい」
「……律哉、さん」

 そこまで言われたら、断ることは逆に失礼にあたるだろう。

 真白はそう判断して、こくんと首を縦に振る。律哉がほっと息を吐いたのがわかった。

 彼が真白の手を引いて、歩く。彼の歩くスピードはゆったりとしたもので、真白に気を遣ってくれているのがわかる。

 ……心臓がとくとくと早足になる。なんだか、胸がむずむずとする。

(律哉さんは、とてもお優しいわ)

 真白のことを尊重してくれて、真白のことを大切にしてくれている。

 言動も優しくて、態度も優しい。

 でも、だからこそ。彼の境遇を不遇だと思ってしまう。

(もちろん、私にそう思われるのは不本意でしょう。……私も、そこまでいい境遇とはいえないのだから)

 優秀な姉たちと比べられてきた。そんな真白も、はたから見たら不遇な娘なのだろう。

 ……その所為で、彼に同情するような言葉を発することが出来ない。

 彼の背中をぼうっと見つめる。

 一体、彼はどれほど苦労してきたのか。自分のものではない借金を返しつつ、質素な日々を送っていた。

(せめて、私はあなたさまの味方でありたい。……好きでもない女と結婚せざる終えなかったあなたの、負担にはならない)

 妻として見てもらえなくてもいい。せめて、絶対的な味方として側においておいてくれたら……。

 唇をぎゅっと引き結んで、真白は心の奥底からそう思う。……律哉が、そっとこちらに視線を向けた。

「っつ」

 そして、甘く微笑まれる。

 その笑みがあまりにも美しくて、真白の心臓がぎゅうっと締め付けられる。

 彼は美しい。その顔立ちも、心も……。

「甘いもの、なにが食べたいだろうか? パフェなどでもいいし、甘味処もあるぞ」

 律哉がそう声をかけてくる。

 無性に恥ずかしくて、俯く。少しの間視線を彷徨わせて、意を決して彼を見つめた。

「……律哉さんは、どちらがいいですか?」
「……俺は、別に」
「その、夫婦なのですから……」

 少しのことも、相談したいのだ。

 真白のその気持ちは彼にしっかりと伝わったらしい、彼は少し驚いたような表情をしつつ、「そうだな……」と考えてくれる。

「どちらかが先に口にしてしまえば、そちらにつられてしまうだろう。……ここはせーので口にするか」
「……そうですね」

 彼の提案はもっともだ。

 それがわかるからこそ、真白は大きく頷いた。

 二人で顔を見合わせて、小さく「せーの」と口にする。

 二人の唇が紡いだのは、全く同じ言葉だった――。
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