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本編 第2章
第13話
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「私は……そう、ですね。こういうのが、好きかもしれないです」
律哉の悩みにも気が付かずに、真白が一つの陶器を手に取った。白色のそれは、見るからに美しいものだった。
「これは、値段もちょうどいいくらいだと思うのです」
真白が置いてあった場所の値札を指さして、そう告げる。
確かに、そこに書いてある値段は特別高くもなければ、安くもない。
(……多分、あなたは宝探しが得意なんだろうな)
そこに乱雑に並べられている陶器の中から、きれいな白いものを探し出した。
その手腕は、素晴らしいと思う。だから、律哉もそちらに近づいて、ほとんどお揃いに近い白い陶器を手に取る。
「じゃあ、もう一つはこれでいいだろう」
真白の手にある陶器には、朱色の線らしきものが引かれていた。対するこちらには、緑色の線が引かれている。
これならば、目印もあるし、一目でどちらのものかわかりやすそうだ。
「そうですね! これなら、お揃いに見えますね!」
ニコニコと笑った真白が、そう言う。……だから、自然と視線を逸らした。
彼女と出逢ってまだ全然時間は経っていない。それなのに、彼女の無垢で明るい性格に、引っ張られてしまいそうだった。
(俺も、いつまでも陰険になっていては、ならないな)
自分自身に、そう厳しく言いつける。彼女は望まぬ結婚の中でも、したたかにたくましく、生きようとしている。
ならば、自分もそれに倣うべきだ。律哉は確かにそう思って――真白に、手を伸ばす。
彼女の髪の毛を一房手に取ってみる。真白は、きょとんとした表情を浮かべてこちらを見つめていた。
「……せっかくだし、髪飾りでも見よう。あまり高価なものは買えないが、やはりあなたになにかを贈りたい」
結婚の記念になるようなものを。
(どうか、受け取ってくれないだろうか)
一抹の不安を抱きながら、真白を見つめる。彼女は少し迷ったようなそぶりを見せつつも、こくんと首を縦に振った。
「……はい。あ、でも、無駄遣いは……ダメ、ですから」
困ったようにそう言ってくる真白が、とてもいじらしく思えた。
だから、ふっと口元を緩めて、真白の手から陶器を取り上げる。
「では、買ってこよう。……あぁ、そうだ」
「……律哉、さん?」
「よければ、手をつないでくれないだろうか? ……普通の夫婦のように、なりたい」
自分の口がついた言葉に、律哉自身が驚いてしまった。
でも、それ以上に真白が目をぱちぱちと瞬かせて驚いているから。なんだか、冷静になってしまう。
「……夫婦が嫌ならば、恋人でもいい」
言っておいてなんだが、全く妥協にはなっていないだろう。
心の中だけでそう思いつつ、真白の回答を待つ。彼女は、曖昧に笑って頷いていた。
「律哉さんが……嫌では、なければ」
嫌なわけが、なかった。だって、そもそも自分から「手をつなぎたい」と言ったのだ。
「嫌なわけがあるか。……行こう」
近くの店員に陶器を預けて、律哉は真白の手を取った。
指を絡めてみて、恋人同士のようにしてみる。……真白が、少しだけ震えたのがわかった。
けれど、それには気が付かないふりをして、ぎゅっと握ってみる。しばらくして、弱々しい力で握り返された。
(……あなたにとっても、俺にとっても。これは、望まぬ結婚かもしれない)
それは、嫌というほどに理解している。
(贅沢なんてさせてやれないし、家のために我慢して嫁いで来ただろう。……それでも、俺は精一杯あなたを大切にする)
きっと、それがせめてもの償いなのだろう。
こんな訳あり華族の妻にされてしまった、真白に対しての。
律哉はそう、思っていた。
律哉の悩みにも気が付かずに、真白が一つの陶器を手に取った。白色のそれは、見るからに美しいものだった。
「これは、値段もちょうどいいくらいだと思うのです」
真白が置いてあった場所の値札を指さして、そう告げる。
確かに、そこに書いてある値段は特別高くもなければ、安くもない。
(……多分、あなたは宝探しが得意なんだろうな)
そこに乱雑に並べられている陶器の中から、きれいな白いものを探し出した。
その手腕は、素晴らしいと思う。だから、律哉もそちらに近づいて、ほとんどお揃いに近い白い陶器を手に取る。
「じゃあ、もう一つはこれでいいだろう」
真白の手にある陶器には、朱色の線らしきものが引かれていた。対するこちらには、緑色の線が引かれている。
これならば、目印もあるし、一目でどちらのものかわかりやすそうだ。
「そうですね! これなら、お揃いに見えますね!」
ニコニコと笑った真白が、そう言う。……だから、自然と視線を逸らした。
彼女と出逢ってまだ全然時間は経っていない。それなのに、彼女の無垢で明るい性格に、引っ張られてしまいそうだった。
(俺も、いつまでも陰険になっていては、ならないな)
自分自身に、そう厳しく言いつける。彼女は望まぬ結婚の中でも、したたかにたくましく、生きようとしている。
ならば、自分もそれに倣うべきだ。律哉は確かにそう思って――真白に、手を伸ばす。
彼女の髪の毛を一房手に取ってみる。真白は、きょとんとした表情を浮かべてこちらを見つめていた。
「……せっかくだし、髪飾りでも見よう。あまり高価なものは買えないが、やはりあなたになにかを贈りたい」
結婚の記念になるようなものを。
(どうか、受け取ってくれないだろうか)
一抹の不安を抱きながら、真白を見つめる。彼女は少し迷ったようなそぶりを見せつつも、こくんと首を縦に振った。
「……はい。あ、でも、無駄遣いは……ダメ、ですから」
困ったようにそう言ってくる真白が、とてもいじらしく思えた。
だから、ふっと口元を緩めて、真白の手から陶器を取り上げる。
「では、買ってこよう。……あぁ、そうだ」
「……律哉、さん?」
「よければ、手をつないでくれないだろうか? ……普通の夫婦のように、なりたい」
自分の口がついた言葉に、律哉自身が驚いてしまった。
でも、それ以上に真白が目をぱちぱちと瞬かせて驚いているから。なんだか、冷静になってしまう。
「……夫婦が嫌ならば、恋人でもいい」
言っておいてなんだが、全く妥協にはなっていないだろう。
心の中だけでそう思いつつ、真白の回答を待つ。彼女は、曖昧に笑って頷いていた。
「律哉さんが……嫌では、なければ」
嫌なわけが、なかった。だって、そもそも自分から「手をつなぎたい」と言ったのだ。
「嫌なわけがあるか。……行こう」
近くの店員に陶器を預けて、律哉は真白の手を取った。
指を絡めてみて、恋人同士のようにしてみる。……真白が、少しだけ震えたのがわかった。
けれど、それには気が付かないふりをして、ぎゅっと握ってみる。しばらくして、弱々しい力で握り返された。
(……あなたにとっても、俺にとっても。これは、望まぬ結婚かもしれない)
それは、嫌というほどに理解している。
(贅沢なんてさせてやれないし、家のために我慢して嫁いで来ただろう。……それでも、俺は精一杯あなたを大切にする)
きっと、それがせめてもの償いなのだろう。
こんな訳あり華族の妻にされてしまった、真白に対しての。
律哉はそう、思っていた。
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