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第1章
取り返しのつかない嘘のきっかけ 3
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「大体、こんな男勝りで色気ゼロな私を娶りたいっていう物好き、簡単には現れないわ」
肩をすくめながらそう言えば、リリーは「ふぅん」と適当に相槌を打った。
でも、しばらくしてぐっと顔を近づけてくる。その水色の目が、きらきらと輝いていた。
「けど、少しくらいは婚活したほうがいいわよ?」
「……話、聞いてた?」
リリーの言葉に呆れたように言葉を返す。
そんな私を見て、リリーは「いい?」と人差し指を立ててその指でびしりと私を指す。
「婚活して結婚できないのならば、まだいいわ。問題は、あなたに婚活する気がちっともないことよ」
「……う」
確かに、それは間違いない。
それがわかるからこそ、私は視線を彷徨わせる。リリーはここぞとばかりに畳みかけてくる。
「今度、ハーティング伯爵家でパーティーがあるの。伝手を使って招待状をあなたの分も手に入れたから、一緒に行くわよ」
「……え、い、いやよ!」
どうして、よりにもよってハーティング伯爵家なのだろうか。
そう思って頬を引きつらせる私に、リリーは「ふふん」と言って胸を張った。
その態度がなんだか無性に気に障って、私は「絶対に嫌!」と意地になったように拒否する。
「大体、ハーティング伯爵家って、私の先輩騎士の実家よ?」
「知っているわよ」
「そんなところにドレスを着て行ったら、私は笑いものよ!」
バンっとテーブルをたたいて、はっきりとそう告げる。
だって、そうじゃないか。先輩騎士の実家ということは、その先輩騎士と親しい騎士もやってくるということだ。
……そんなの、冗談じゃない!
「けど、その先輩騎士はあなたによくしてくれているのでしょう?」
「だからといって、ほかの先輩騎士の全員がよくしてくれているわけじゃないのよ!」
リリーの言うことは間違いない。ハーティング伯爵家の次男である私の先輩騎士、ライナー先輩は頼りになる人。ちょっと厳しいけれど、それは後輩たちを思ってのことだと私たちは知っている。
なので、ライナー先輩のことを後輩たちはみんな頼りにしていた。
(かといって、ライナー先輩のほかは……うん)
ライナー先輩の同期は、ほとんどが男尊女卑の考えを持つ人ばかり。その所為なのか、女騎士には当たりがとにかくきつい。
しかも、私は可愛げのない生意気な性格からか、目をつけられている。
(そんな人たちにドレス姿なんて見られたら、たまったもんじゃないわ。……似合わないってからかわれるのは間違いないもの)
考えるだけで腹立たしいけれど、実際私にフリフリのドレスは似合わない。デビュタントのときにドレスを着たときなんて、同年代の男の子たちからどれだけ腹立たしい視線を向けられたことか……。
「もう! うじうじ言っていないで! さっさと覚悟を決めなさい!」
私の言葉にしびれを切らしたのか、リリーは私に対抗するみたいにバンっとテーブルをたたいた。
からんと音を立ててぶつかるティーセット。側に控えるリリーの専属侍女が、姉妹喧嘩を見てため息をついていた。
「そんなこと言っていても、なにも解決しないのよ!」
「……そ、れは」
「あなたは婿を迎えてこの家を継ぐ! それは、ずっと昔からの決定事項よ!」
……なにも、返せない。
だって、この家には子供が私とリリーしかいない。そして、基本的に男児がいない場合は長女が婿を取って家を継ぐというのが習わしだ。
つまり、私はなにがなんでも婿を取る必要があって……。
「わ、私とリリーは双子よ? どっちでもいいじゃない!」
「生憎だけれど、私の婚約者は嫡男なの!」
……忘れてた。そうだ。そうだった。
(リリーは嫁入りするんだったぁ……!)
逃げ道がない。これが、異国の言葉でいう四面楚歌状態なのだろう。
「アルスくらいしっかりとしていたら、同年代か年下がいいと思うわ。尻に敷かれてくれるくらいの人が、いいと思うのよ」
「……そんな人、いるの?」
リリーの言葉に素直な疑問を抱く。
だって、妻の尻に敷かれるってかなり屈辱的なことじゃないの?
「そんなもの、あなたがべた惚れにしてしまえばいいのよ」
「……普通に考えて、無理だわ」
べた惚れにして骨抜きになんて出来るわけがない。だって、この私よ?
(髪の毛は手入れなんて最低限だし、肌は日に焼けてる。令嬢らしいことはなに一つとして得意じゃないのよ……)
対するリリーは、髪の毛は手入れが行き届いていてつやつや。緩くウェーブのかかった桃色の髪は、愛らしさを醸し出している。色白で、肌はきめ細やか。
……本当、双子なのが嘘みたいな違いだ。
(いや、これは私が手入れを怠ったのが悪いのか)
うん、納得。ここばかりは、仕方がない。
「いい? あなたはこの家の存続を一身に担っているの。……それがわかったら、大人しくパーティーに参加しなさい」
「……はい」
もう、本当になにも返せなかった。
だって、リリーは正論を言っているのだもの。
(それをあぁだこうだって言っているのは、私。……この場合、リリーが正しいわ)
この妹は、はっきりと正論をぶつけてくる。その所為なのか、私は彼女に口で勝てたためしがない。
「じゃあ、そういうことだから。……パーティー自体は二週間後。けど、その前日にはこっちに戻ってくるのよ」
「……はい」
これじゃあどっちが姉なのかわからないじゃないか。
そう思ったけれど、リリーのほうが私よりもずっとしっかりとしているから、仕方がない。
それくらい、ずっと昔から知っているのだ。
肩をすくめながらそう言えば、リリーは「ふぅん」と適当に相槌を打った。
でも、しばらくしてぐっと顔を近づけてくる。その水色の目が、きらきらと輝いていた。
「けど、少しくらいは婚活したほうがいいわよ?」
「……話、聞いてた?」
リリーの言葉に呆れたように言葉を返す。
そんな私を見て、リリーは「いい?」と人差し指を立ててその指でびしりと私を指す。
「婚活して結婚できないのならば、まだいいわ。問題は、あなたに婚活する気がちっともないことよ」
「……う」
確かに、それは間違いない。
それがわかるからこそ、私は視線を彷徨わせる。リリーはここぞとばかりに畳みかけてくる。
「今度、ハーティング伯爵家でパーティーがあるの。伝手を使って招待状をあなたの分も手に入れたから、一緒に行くわよ」
「……え、い、いやよ!」
どうして、よりにもよってハーティング伯爵家なのだろうか。
そう思って頬を引きつらせる私に、リリーは「ふふん」と言って胸を張った。
その態度がなんだか無性に気に障って、私は「絶対に嫌!」と意地になったように拒否する。
「大体、ハーティング伯爵家って、私の先輩騎士の実家よ?」
「知っているわよ」
「そんなところにドレスを着て行ったら、私は笑いものよ!」
バンっとテーブルをたたいて、はっきりとそう告げる。
だって、そうじゃないか。先輩騎士の実家ということは、その先輩騎士と親しい騎士もやってくるということだ。
……そんなの、冗談じゃない!
「けど、その先輩騎士はあなたによくしてくれているのでしょう?」
「だからといって、ほかの先輩騎士の全員がよくしてくれているわけじゃないのよ!」
リリーの言うことは間違いない。ハーティング伯爵家の次男である私の先輩騎士、ライナー先輩は頼りになる人。ちょっと厳しいけれど、それは後輩たちを思ってのことだと私たちは知っている。
なので、ライナー先輩のことを後輩たちはみんな頼りにしていた。
(かといって、ライナー先輩のほかは……うん)
ライナー先輩の同期は、ほとんどが男尊女卑の考えを持つ人ばかり。その所為なのか、女騎士には当たりがとにかくきつい。
しかも、私は可愛げのない生意気な性格からか、目をつけられている。
(そんな人たちにドレス姿なんて見られたら、たまったもんじゃないわ。……似合わないってからかわれるのは間違いないもの)
考えるだけで腹立たしいけれど、実際私にフリフリのドレスは似合わない。デビュタントのときにドレスを着たときなんて、同年代の男の子たちからどれだけ腹立たしい視線を向けられたことか……。
「もう! うじうじ言っていないで! さっさと覚悟を決めなさい!」
私の言葉にしびれを切らしたのか、リリーは私に対抗するみたいにバンっとテーブルをたたいた。
からんと音を立ててぶつかるティーセット。側に控えるリリーの専属侍女が、姉妹喧嘩を見てため息をついていた。
「そんなこと言っていても、なにも解決しないのよ!」
「……そ、れは」
「あなたは婿を迎えてこの家を継ぐ! それは、ずっと昔からの決定事項よ!」
……なにも、返せない。
だって、この家には子供が私とリリーしかいない。そして、基本的に男児がいない場合は長女が婿を取って家を継ぐというのが習わしだ。
つまり、私はなにがなんでも婿を取る必要があって……。
「わ、私とリリーは双子よ? どっちでもいいじゃない!」
「生憎だけれど、私の婚約者は嫡男なの!」
……忘れてた。そうだ。そうだった。
(リリーは嫁入りするんだったぁ……!)
逃げ道がない。これが、異国の言葉でいう四面楚歌状態なのだろう。
「アルスくらいしっかりとしていたら、同年代か年下がいいと思うわ。尻に敷かれてくれるくらいの人が、いいと思うのよ」
「……そんな人、いるの?」
リリーの言葉に素直な疑問を抱く。
だって、妻の尻に敷かれるってかなり屈辱的なことじゃないの?
「そんなもの、あなたがべた惚れにしてしまえばいいのよ」
「……普通に考えて、無理だわ」
べた惚れにして骨抜きになんて出来るわけがない。だって、この私よ?
(髪の毛は手入れなんて最低限だし、肌は日に焼けてる。令嬢らしいことはなに一つとして得意じゃないのよ……)
対するリリーは、髪の毛は手入れが行き届いていてつやつや。緩くウェーブのかかった桃色の髪は、愛らしさを醸し出している。色白で、肌はきめ細やか。
……本当、双子なのが嘘みたいな違いだ。
(いや、これは私が手入れを怠ったのが悪いのか)
うん、納得。ここばかりは、仕方がない。
「いい? あなたはこの家の存続を一身に担っているの。……それがわかったら、大人しくパーティーに参加しなさい」
「……はい」
もう、本当になにも返せなかった。
だって、リリーは正論を言っているのだもの。
(それをあぁだこうだって言っているのは、私。……この場合、リリーが正しいわ)
この妹は、はっきりと正論をぶつけてくる。その所為なのか、私は彼女に口で勝てたためしがない。
「じゃあ、そういうことだから。……パーティー自体は二週間後。けど、その前日にはこっちに戻ってくるのよ」
「……はい」
これじゃあどっちが姉なのかわからないじゃないか。
そう思ったけれど、リリーのほうが私よりもずっとしっかりとしているから、仕方がない。
それくらい、ずっと昔から知っているのだ。
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