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第1章
『色気ゼロ』の女騎士です 1
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リリーに説得され、ハーティング伯爵家で開かれるパーティーに参加することになって、早くも一週間。
パーティーへの日付をカウントしては、私は不安に駆られる日々を過ごしていた。
「アルス嬢、なにをそんな恐れているんだよ」
「……あ、ライナー先輩」
訓練の休憩時間。私が水分補給をしていれば、ほかでもないライナー先輩に声をかけられた。
彼は何処か呆れたような視線を私に向けてくる。なので、私は「……いえ」と小さく言葉を返すことしか出来なかった。
ただし、私の視線は露骨に逸らされている。……なにかがあるのはバレバレだ。
「隣、失礼するぞ」
そんな私を見て、ライナー先輩は私の隣に腰を下ろす。
彼のその態度を怪訝に思っていれば、ライナー先輩は私の頭をガシガシと撫でた。
「ちょ、やめてください!」
ひとまとめにした桃色の髪が崩れるのを気にして、ライナー先輩に抗議する。けれど、彼は気にも留めていなかった。
「あのなぁ、アルス嬢。……別に、パーティーに参加するくらいでそんなに不安に駆られてちゃ、今後貴族令嬢としてやってけないぞ?」
「……そ、れは」
確かにその言葉は間違いない。
だから、私は視線を下げる。ライナー先輩は、私の顔を覗き込んでくる。
「小規模なパーティーだしな」
「……伯爵家の小規模と、男爵家の小規模だとレベルが違いますよ……」
「そりゃそうか」
けらけらと笑いつつ、ライナー先輩が大きく伸びをした。その姿に、ほんの少し落ち着きを取り戻した。
かといって、冷静になったかと問われれば答えは否だ。
「そもそも、私って色気ゼロじゃないですか」
「……うん?」
「だから、その……なんていうか。ドレス姿、似合わないんですよ」
そこまで言って、私はため息をつく。
せめて、リリーの愛らしさの三分の一くらいでもあればいいのにな……と思って、また落ち込む。
「そんなことないと思うけどなぁ」
対する先輩は、のんきにそんなことを口にしていた。
……そんなことないって言われても。具体性がなさ過ぎて、励ましにならない。
「そもそもな、アルス嬢。人には似合う似合わないがあるのは当然だ」
「……はい」
「だから、絶対に自分に似合うドレスはある」
どうして、ライナー先輩はそこまで言ってくれるのだろうか。
きょとんとしつつそう思っていれば、彼は笑っていた。
「それに、色気ゼロっていう言葉なんて気にするな。……俺は、アルス嬢のこと魅力的だって思ってるからさ」
「……うぅ」
お世辞だとしても、今のライナー先輩の言葉は胸に感動を芽生えさせてしまう。
なんだか無性に恥ずかしくて、両手で顔を覆った。
「なに? 照れてるの?」
「照れてませんっ!」
そのままぶんぶんと首を横に振って、先輩の言葉を否定する。……説得力、なさそうだけれど。
「まぁ、そういうことだから。別にパーティーに参加したところで、取って食われるわけじゃないんだから」
「……はい」
「命ありゃあ、なんとでもなるさ」
でも、そのたとえはどうなんだろうか。
そんなことを思って、私は少し笑ってしまった。
「お、その調子その調子。アルス嬢は笑ったらめちゃくちゃ可愛いんだから。……な?」
手をどけた私の顔を覗き込んでくる先輩の表情は、とてもいい笑顔だった。
……柄にもなく、顔に熱が溜まるのがわかった。
「わ、たし、少し……ほんの少しだけ、頑張ってみようかな……って」
「うん」
とても単純だと思う。
けど、やっぱりこういう風に言われると無性に嬉しいっていうか、なんていうか……。
「ライナー先輩、ありがとうございました」
やっぱりライナー先輩はめちゃくちゃ頼りになる。
その一心でぺこりと頭を下げれば、先輩は「いいっていいって」と言いながら手をぶんぶんと横に振った。
「それにさ。……俺としても、アルス嬢が変に落ち込んでいるの、見たくないし」
「……先輩」
「あ、この後パトロールの当番だったわ。……じゃ、また後で」
「はい」
私の頭を数回ポンポンとたたいて、先輩がこの場を立ち去る。
少し乱れた髪の毛さえ、心地いいって思ってしまう。それほどまでに、私の気持ちは少しだけ楽になっていた。
「……それに、まずは形だけの参加でいいものね」
あの後もう一度お母様とリリーと、お父様を交えて話し合った。
結果的に、とりあえずは社交の場に慣れてみたらいいということになったのだ。
つまり、いきなり婚活……というわけではなくなった。それだけでも、少し気が楽だ。
「よし、が、がんば……ろう」
かといって、すぐに気持ちが切り替えられるわけでもなくて。私の決意を表した言葉は、しりすぼみになっていた。
「私が結婚して、バルハウス男爵家を存続させなくちゃ……だものね」
誰にも聞こえないほどの声量でそう呟いたとき。ふと、視線のようなものを感じた気がした。
なので、顔を上げる。そのまま周囲を見渡す。……特に、誰もいないと思うんだけれど。
「気のせい……?」
きょとんとしつつそう声を上げれば、後ろからいきなり肩をたたかれた。
「ひゃぁあっ!」
その所為で、大きく悲鳴を上げてしまった。
周囲の騎士たちが何事かとこちらを見ている。……いたたまれなくて、頭をぺこぺこと下げていく。
「アルス嬢。……そんな、驚かなくても」
「で、ですけど……」
振り返ってそちらに視線を向ける。……そこには、桁違いに美しい男性がいた。
パーティーへの日付をカウントしては、私は不安に駆られる日々を過ごしていた。
「アルス嬢、なにをそんな恐れているんだよ」
「……あ、ライナー先輩」
訓練の休憩時間。私が水分補給をしていれば、ほかでもないライナー先輩に声をかけられた。
彼は何処か呆れたような視線を私に向けてくる。なので、私は「……いえ」と小さく言葉を返すことしか出来なかった。
ただし、私の視線は露骨に逸らされている。……なにかがあるのはバレバレだ。
「隣、失礼するぞ」
そんな私を見て、ライナー先輩は私の隣に腰を下ろす。
彼のその態度を怪訝に思っていれば、ライナー先輩は私の頭をガシガシと撫でた。
「ちょ、やめてください!」
ひとまとめにした桃色の髪が崩れるのを気にして、ライナー先輩に抗議する。けれど、彼は気にも留めていなかった。
「あのなぁ、アルス嬢。……別に、パーティーに参加するくらいでそんなに不安に駆られてちゃ、今後貴族令嬢としてやってけないぞ?」
「……そ、れは」
確かにその言葉は間違いない。
だから、私は視線を下げる。ライナー先輩は、私の顔を覗き込んでくる。
「小規模なパーティーだしな」
「……伯爵家の小規模と、男爵家の小規模だとレベルが違いますよ……」
「そりゃそうか」
けらけらと笑いつつ、ライナー先輩が大きく伸びをした。その姿に、ほんの少し落ち着きを取り戻した。
かといって、冷静になったかと問われれば答えは否だ。
「そもそも、私って色気ゼロじゃないですか」
「……うん?」
「だから、その……なんていうか。ドレス姿、似合わないんですよ」
そこまで言って、私はため息をつく。
せめて、リリーの愛らしさの三分の一くらいでもあればいいのにな……と思って、また落ち込む。
「そんなことないと思うけどなぁ」
対する先輩は、のんきにそんなことを口にしていた。
……そんなことないって言われても。具体性がなさ過ぎて、励ましにならない。
「そもそもな、アルス嬢。人には似合う似合わないがあるのは当然だ」
「……はい」
「だから、絶対に自分に似合うドレスはある」
どうして、ライナー先輩はそこまで言ってくれるのだろうか。
きょとんとしつつそう思っていれば、彼は笑っていた。
「それに、色気ゼロっていう言葉なんて気にするな。……俺は、アルス嬢のこと魅力的だって思ってるからさ」
「……うぅ」
お世辞だとしても、今のライナー先輩の言葉は胸に感動を芽生えさせてしまう。
なんだか無性に恥ずかしくて、両手で顔を覆った。
「なに? 照れてるの?」
「照れてませんっ!」
そのままぶんぶんと首を横に振って、先輩の言葉を否定する。……説得力、なさそうだけれど。
「まぁ、そういうことだから。別にパーティーに参加したところで、取って食われるわけじゃないんだから」
「……はい」
「命ありゃあ、なんとでもなるさ」
でも、そのたとえはどうなんだろうか。
そんなことを思って、私は少し笑ってしまった。
「お、その調子その調子。アルス嬢は笑ったらめちゃくちゃ可愛いんだから。……な?」
手をどけた私の顔を覗き込んでくる先輩の表情は、とてもいい笑顔だった。
……柄にもなく、顔に熱が溜まるのがわかった。
「わ、たし、少し……ほんの少しだけ、頑張ってみようかな……って」
「うん」
とても単純だと思う。
けど、やっぱりこういう風に言われると無性に嬉しいっていうか、なんていうか……。
「ライナー先輩、ありがとうございました」
やっぱりライナー先輩はめちゃくちゃ頼りになる。
その一心でぺこりと頭を下げれば、先輩は「いいっていいって」と言いながら手をぶんぶんと横に振った。
「それにさ。……俺としても、アルス嬢が変に落ち込んでいるの、見たくないし」
「……先輩」
「あ、この後パトロールの当番だったわ。……じゃ、また後で」
「はい」
私の頭を数回ポンポンとたたいて、先輩がこの場を立ち去る。
少し乱れた髪の毛さえ、心地いいって思ってしまう。それほどまでに、私の気持ちは少しだけ楽になっていた。
「……それに、まずは形だけの参加でいいものね」
あの後もう一度お母様とリリーと、お父様を交えて話し合った。
結果的に、とりあえずは社交の場に慣れてみたらいいということになったのだ。
つまり、いきなり婚活……というわけではなくなった。それだけでも、少し気が楽だ。
「よし、が、がんば……ろう」
かといって、すぐに気持ちが切り替えられるわけでもなくて。私の決意を表した言葉は、しりすぼみになっていた。
「私が結婚して、バルハウス男爵家を存続させなくちゃ……だものね」
誰にも聞こえないほどの声量でそう呟いたとき。ふと、視線のようなものを感じた気がした。
なので、顔を上げる。そのまま周囲を見渡す。……特に、誰もいないと思うんだけれど。
「気のせい……?」
きょとんとしつつそう声を上げれば、後ろからいきなり肩をたたかれた。
「ひゃぁあっ!」
その所為で、大きく悲鳴を上げてしまった。
周囲の騎士たちが何事かとこちらを見ている。……いたたまれなくて、頭をぺこぺこと下げていく。
「アルス嬢。……そんな、驚かなくても」
「で、ですけど……」
振り返ってそちらに視線を向ける。……そこには、桁違いに美しい男性がいた。
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