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第1章
④
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王宮に戻った翌日。仕事に入ると、すぐ呼び出しを受けた。
呼び出し人はリリアンの上司であるセレスタンという大臣だ。リリアンの業務はセレスタンの補佐であり、ゆえになにかがあると呼び出される。女官の合同執務室を出て、セレスタンの執務室に向かう。王宮の廊下では下働きのメイドたちが忙しなく動いていた。
彼女たちはリリアンを見て頭を下げる。リリアンも軽く頭を下げて返事とした。
「ねぇ、あの人って――」
「唯一の庶民出身の女官さまじゃない?」
メイドたちがこそこそ話をしているのがわかる。
こういうのはどれだけ経っても慣れないものだ。
「優秀なのに、出自が出自だからって――王女殿下付きになることが許されなかった人よね」
自然と歩くペースが速くなった。
普通、優秀な女官は王妃や側妃、王女に付くものだ。しかし、リリアンは出自ゆえに王族に付くことができなかった。
王妃や二人の王女は構わないと言っていた。特に第二王女はリリアンが良いとまで言ってくれた。だが、伝統を重んじる古参貴族たちによって却下されてしまった。
曰く、庶民にそんな重大な役目を任せることなどできない――と。
(そんなに生まれって大切かしら?)
確かに身元がはっきりしないのなら、その待遇は間違いじゃない。
でも、リリアンは身元だってはっきりしているし、適正だってあるとされた。なのに、古参貴族たちの言葉一つで――出世の道を阻まれてしまった。
そんなリリアンを見かね、自身の補佐に指名したのが――防衛大臣のセレスタンだ。
セレスタンの執務室にたどり着き、扉をノックする。返事が聞こえ、リリアンは扉を開けた。
「失礼いたします」
深々と一礼をする。セレスタンの隣には彼の部下である文官がいる。明るい好青年の彼は、リリアンにも気さくに接してくれる珍しい人だ。
「あぁ、リリアン。来てくれたか」
奥の執務机の前にセレスタンは座っていた。
元騎士というだけはあり、貫禄のある男だ。彼は鋭い目で文官に目配せをした。
「悪いんだが、届け物をしてほしい」
文官がリリアンに封筒を差し出す。受け取ると、どうやらこれは予算会議に出すもののようだった。
「今から私はコイツと騎士団の視察に行かねばならなくてな。時間がないんだ」
「承知いたしました。こちらは財務大臣のほうにお届けすればよろしいでしょうか?」
「あぁ、頼むよ」
深く頷いたセレスタンを見て、リリアンは頭を下げる。
「それと、カンディードのやつには書類は明日受け取りに行くと言っておいてくれ。私は今日一日戻らないからね」
「承知いたしました」
カンディードとは、現在の財務大臣の名前である。齢二十七にして大臣の立場を持つ、見た目麗しい男――というのが周囲の評価だ。
リリアンはもう一度頭を下げ、セレスタンの執務室を出て行こうとした。
だが、出て行く寸前で呼び止められる。
「リリアンに言うのもなんだが、最近王宮はきな臭い。気をつけなさい」
それは一体どういう意味だろうか……?
「私は庶民ですよ?」
「だからといって警戒しないというのはやめたほうがいい。特にリリアンは警戒心が薄いのだから」
まぁ、それは真実なので反論できない。
「この状況もいつまで続くものだろうな。内部のごちゃごちゃほど面倒なことはない」
セレスタンが大きなため息をつく。彼の言葉にリリアンは全面同意だ。
(このまま内部崩壊――にならなかったら、いいけど)
リリアンにはそう祈ることしかできないのだ。
呼び出し人はリリアンの上司であるセレスタンという大臣だ。リリアンの業務はセレスタンの補佐であり、ゆえになにかがあると呼び出される。女官の合同執務室を出て、セレスタンの執務室に向かう。王宮の廊下では下働きのメイドたちが忙しなく動いていた。
彼女たちはリリアンを見て頭を下げる。リリアンも軽く頭を下げて返事とした。
「ねぇ、あの人って――」
「唯一の庶民出身の女官さまじゃない?」
メイドたちがこそこそ話をしているのがわかる。
こういうのはどれだけ経っても慣れないものだ。
「優秀なのに、出自が出自だからって――王女殿下付きになることが許されなかった人よね」
自然と歩くペースが速くなった。
普通、優秀な女官は王妃や側妃、王女に付くものだ。しかし、リリアンは出自ゆえに王族に付くことができなかった。
王妃や二人の王女は構わないと言っていた。特に第二王女はリリアンが良いとまで言ってくれた。だが、伝統を重んじる古参貴族たちによって却下されてしまった。
曰く、庶民にそんな重大な役目を任せることなどできない――と。
(そんなに生まれって大切かしら?)
確かに身元がはっきりしないのなら、その待遇は間違いじゃない。
でも、リリアンは身元だってはっきりしているし、適正だってあるとされた。なのに、古参貴族たちの言葉一つで――出世の道を阻まれてしまった。
そんなリリアンを見かね、自身の補佐に指名したのが――防衛大臣のセレスタンだ。
セレスタンの執務室にたどり着き、扉をノックする。返事が聞こえ、リリアンは扉を開けた。
「失礼いたします」
深々と一礼をする。セレスタンの隣には彼の部下である文官がいる。明るい好青年の彼は、リリアンにも気さくに接してくれる珍しい人だ。
「あぁ、リリアン。来てくれたか」
奥の執務机の前にセレスタンは座っていた。
元騎士というだけはあり、貫禄のある男だ。彼は鋭い目で文官に目配せをした。
「悪いんだが、届け物をしてほしい」
文官がリリアンに封筒を差し出す。受け取ると、どうやらこれは予算会議に出すもののようだった。
「今から私はコイツと騎士団の視察に行かねばならなくてな。時間がないんだ」
「承知いたしました。こちらは財務大臣のほうにお届けすればよろしいでしょうか?」
「あぁ、頼むよ」
深く頷いたセレスタンを見て、リリアンは頭を下げる。
「それと、カンディードのやつには書類は明日受け取りに行くと言っておいてくれ。私は今日一日戻らないからね」
「承知いたしました」
カンディードとは、現在の財務大臣の名前である。齢二十七にして大臣の立場を持つ、見た目麗しい男――というのが周囲の評価だ。
リリアンはもう一度頭を下げ、セレスタンの執務室を出て行こうとした。
だが、出て行く寸前で呼び止められる。
「リリアンに言うのもなんだが、最近王宮はきな臭い。気をつけなさい」
それは一体どういう意味だろうか……?
「私は庶民ですよ?」
「だからといって警戒しないというのはやめたほうがいい。特にリリアンは警戒心が薄いのだから」
まぁ、それは真実なので反論できない。
「この状況もいつまで続くものだろうな。内部のごちゃごちゃほど面倒なことはない」
セレスタンが大きなため息をつく。彼の言葉にリリアンは全面同意だ。
(このまま内部崩壊――にならなかったら、いいけど)
リリアンにはそう祈ることしかできないのだ。
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