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第1章
⑤
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セレスタンの執務室を出て、リリアンはカンディードの執務室を目指した。
防衛大臣の執務室と財務大臣の執務室は少々遠い。リリアンは書類を持って王宮の廊下を歩いた。
中庭に面した廊下を通ったとき、中庭に貴族令嬢が数人いることに気づく。
派手なドレスを身にまとった彼女たちは、こそこそ話をしていた。
(……王子殿下の婚約者の座でも欲しいのかしら?)
二人の王子に娘を売り込む貴族は多い。さらに、娘自身にも王子に会うように命じる貴族もいるそうだ。
毎日のように王宮に来ている貴族もいるため、リリアンはある意味心配になる。
(王子殿下のお妃さまになりたいにしても、そこまですることかしら?)
きっと、ここが庶民と貴族の考えの違いだろう。
などと思いつつ、廊下を歩いていく。
五分ほど歩くと、財務大臣の執務室が見えた。扉をノックすると、中から男の声がする。
「失礼いたします。防衛大臣セレスタンの遣いです」
「入っていいぞ」
入室の許可を得て、リリアンは重厚な木製の扉に手をかけた。
(相変わらず、とてもきれいなお部屋ね)
執務室は整理整頓が行き届いていた。
片付けが苦手なため、散らかっているセレスタンの執務室とは大違いだ。
一礼をして、リリアンは足を踏み入れる。
「こちら、財務大臣殿に……ということでございます」
預かった封筒を手前の応接テーブルに置いた。
奥の執務机には機密書類などが置いてある場合があるので、直属の部下以外は近づかないことがマナーとなっている。
なので、基本届け物は手前の応接テーブルに置くのだ。
「あぁ、確かに受け取った」
「また、書類に関してはセレスタン本人が明日受け取りに来ると」
「そうか」
リリアンは財務大臣と何度か話したことはある。だが、それだけの関係だ。
特別親しいわけではない。
「では、失礼いたします」
頭を下げて執務室を出ていこうとすると、こちらに背中を向けていた男が振り返った。
さらりとした青い髪がなびく。
男――カンディードの双眸は鋭く、リリアンを見つめていた。
「少し待ちたまえ」
声をかけられ、リリアンは動揺した。
今まで、リリアンがカンディードに声をかけられたことは一度もないためだ。
「キミにいくつか質問がしたい」
「はい。どういう――」
「個人的なことだ。今日の終業後、ここに来てほしい」
抑揚のない声だった。リリアンは怪訝に思うが、顔には出さない。
「私は構いません。ですが、個人的なこととはどういうことでしょうか?」
「言葉のままだ。キミ個人に質問、および話がある」
青の双眸が細まる。まるでこちらを吟味しているようで、居心地が悪い。
「とにかく、キミは約束通りここに来てくれたらいい。話は終業後だ」
勝手に引き留めたかと思うと、彼は一方的に話を打ち切った。
(この人、結構身勝手ね)
と思っても、逆らうことはできない。こちらはただの女官だ。大臣クラスに逆らうと職を奪われかねない。
「承知いたしました。私の仕事は六時に終わりますので、諸々の要件を済ませ六時半にこちらに来ます」
「わかった」
自分も伝えたいことだけは伝え、リリアンは財務大臣の執務室を出て行った。
廊下に出ると、自分の心臓が大きく音を鳴らしていることに気づく。
(一体どういう風の吹き回しかしら? あの『冷徹大臣』が私を呼び出すなんて――)
リリアンは眉をひそめた。しかし、どれだけ考えたところで、今の段階で答えは出そうにないのだった。
防衛大臣の執務室と財務大臣の執務室は少々遠い。リリアンは書類を持って王宮の廊下を歩いた。
中庭に面した廊下を通ったとき、中庭に貴族令嬢が数人いることに気づく。
派手なドレスを身にまとった彼女たちは、こそこそ話をしていた。
(……王子殿下の婚約者の座でも欲しいのかしら?)
二人の王子に娘を売り込む貴族は多い。さらに、娘自身にも王子に会うように命じる貴族もいるそうだ。
毎日のように王宮に来ている貴族もいるため、リリアンはある意味心配になる。
(王子殿下のお妃さまになりたいにしても、そこまですることかしら?)
きっと、ここが庶民と貴族の考えの違いだろう。
などと思いつつ、廊下を歩いていく。
五分ほど歩くと、財務大臣の執務室が見えた。扉をノックすると、中から男の声がする。
「失礼いたします。防衛大臣セレスタンの遣いです」
「入っていいぞ」
入室の許可を得て、リリアンは重厚な木製の扉に手をかけた。
(相変わらず、とてもきれいなお部屋ね)
執務室は整理整頓が行き届いていた。
片付けが苦手なため、散らかっているセレスタンの執務室とは大違いだ。
一礼をして、リリアンは足を踏み入れる。
「こちら、財務大臣殿に……ということでございます」
預かった封筒を手前の応接テーブルに置いた。
奥の執務机には機密書類などが置いてある場合があるので、直属の部下以外は近づかないことがマナーとなっている。
なので、基本届け物は手前の応接テーブルに置くのだ。
「あぁ、確かに受け取った」
「また、書類に関してはセレスタン本人が明日受け取りに来ると」
「そうか」
リリアンは財務大臣と何度か話したことはある。だが、それだけの関係だ。
特別親しいわけではない。
「では、失礼いたします」
頭を下げて執務室を出ていこうとすると、こちらに背中を向けていた男が振り返った。
さらりとした青い髪がなびく。
男――カンディードの双眸は鋭く、リリアンを見つめていた。
「少し待ちたまえ」
声をかけられ、リリアンは動揺した。
今まで、リリアンがカンディードに声をかけられたことは一度もないためだ。
「キミにいくつか質問がしたい」
「はい。どういう――」
「個人的なことだ。今日の終業後、ここに来てほしい」
抑揚のない声だった。リリアンは怪訝に思うが、顔には出さない。
「私は構いません。ですが、個人的なこととはどういうことでしょうか?」
「言葉のままだ。キミ個人に質問、および話がある」
青の双眸が細まる。まるでこちらを吟味しているようで、居心地が悪い。
「とにかく、キミは約束通りここに来てくれたらいい。話は終業後だ」
勝手に引き留めたかと思うと、彼は一方的に話を打ち切った。
(この人、結構身勝手ね)
と思っても、逆らうことはできない。こちらはただの女官だ。大臣クラスに逆らうと職を奪われかねない。
「承知いたしました。私の仕事は六時に終わりますので、諸々の要件を済ませ六時半にこちらに来ます」
「わかった」
自分も伝えたいことだけは伝え、リリアンは財務大臣の執務室を出て行った。
廊下に出ると、自分の心臓が大きく音を鳴らしていることに気づく。
(一体どういう風の吹き回しかしら? あの『冷徹大臣』が私を呼び出すなんて――)
リリアンは眉をひそめた。しかし、どれだけ考えたところで、今の段階で答えは出そうにないのだった。
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